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いわゆる、マルチバースってやつ

少しタイトル名を変更しました!!!


「っは」


 瞬きの間に起こった出来事を深呼吸と共に理解すると、もうそこは先ほどまで居た場所ではなかった。


 自然は朽ち、空が灰色に満ちている場所だ。血と弾薬――『戦争』の香りがする。


『あれー可笑しいなぁ?戻した筈なのに』


『急でしたからね、座標を見誤っても仕方ないです。みこっち――」


「聞こえてるわよ。それで、何がどうなったの?」


『えーっと、尊ちゃんが危なそうだったから、異空間装置を操作して呼び戻そうとしたの。でも、座標を間違って、又、別の世界に飛ばしちゃったですです』


「なるほど、理解出来たわ。まずは、助けてくれてありがとう。しかし、さっきのは一体……」


 人違いでもなさそうだった。


 ならば可能性としては、本当に『私』が魔王であること。だがこの場合の『私』とは、ここにいる自分のことではなく――。


『まさか、あの世界にいる別の私?』


 世界には、自分とそっくりな人間が三人いると言われている。

 だがそっくりなだけでは、誰も私には慣れない。しかし異なる世界となると、話は別だ。


 無数にある世界なら、私と殆ど同じ存在が居ても可笑しくはない。


 いわゆる、マルチバーストいうやつである。


『んーその可能性は低いと思いますね。世界が違う以上、前提条件が全く異なりますからね。本当に偶々、似ている人がいただけの可能性の方が高いとは思います。それに、貴方は白翼尊ですよ?』


 そうだ。誰も私には慣れないからこそ、私は『孤独』だった。


 自分で言って悲しくなる、とほほ。


『座標の特定が済み次第、元の世界に戻すことができますが、どうしますか?』


「一応、この世界を見て回る事にする」


 皆に恐ろしい魔王と認識されてしまっている世界で彼氏を作るのは困難だろう。

 だが世界の数だけ選択肢がある。


「とはいったけど、そもそもこの世界に誰か生きている人はいるのかしら」


『近くに生物反応は皆無です』


「見れば分かるわよ」


 全ての世界が生きているとは限らない。何らかの理由で、滅亡してしまった世界は一つや二つでは済まない筈だ。


 彼氏云々の話ではなく、誰かが悲しんでいるのであれば助けてあげたい。

 別の世界にまでおせっかいを焼くなど、どれだけ英雄気取りなのかと言われるかも知れないが、私は誰かに褒められて自己顕示欲を満たすために多くを救ってきたわけではない。


 ただ、誰かが悲しむ世界より、笑っている世界の方が住みやすいから。ただそれだけだ。


「ん、これは……スマホかしら?」


 歩いて暫く。灰に埋もれている電子機器に気付く。円形ではあるが、このサイズとディスプレイはスマホに近しいものである筈だ。


『調査します』


 ドローンが変形して細い腕がでてくると、てきぱきと電子機器の分解を始めた。


『使われている素材とCPUの性能を見る限り、この世界は僕達が住む世界とそう文明レベルが変わらないと推測されます』


「変わらない、ね」


 既に文明が滅びてしまっているのだ。それは以前までの話である。


『どうやら電気回路は壊れてないみたいですね。これを、こーやって……あ、点きました!」


 スマホの画面に企業のロゴが表示され、直ぐに電源が点いた。


 9月30日、火曜日、時刻は12時30分。

 月日や曜日の数え方は同じなのか。しかし、灰色の空はまだ昼過ぎだとは到底思えない。


 いったいこの世界が何があったのだろう――と、そういった感想を飛び越えて、次に私が目を見開いたのはその壁紙だ。

 透明な青い瞳に、背中に伸びる赤い髪。相反する色を己のものとし、堂々と世界に君臨する女の姿が表示されている。


 全く知らない世界のスマホの壁紙に表示されている彼女を、私は知っていた。むしろ、知らない方が可笑しい。


「――どうして『私』なのよ」


 実際、私のことを英雄扱いして、信奉している者達は勝手にグッズ展開までしているため、壁紙に使われていても驚きはない。


 最強とは悩ましいもので、日常の至る所に『白翼尊』の影がある。名だたる動画サイトで一番再生されているのも、私関連の動画だ。


 ただ、ここは言わずもがな別の世界である。


「まさか、この世界にも私が?」


『一人ならまだしも、二人。しかもどちらも有名人と来ましたか。これはいよいよ偶然ではな――」


 いかもしれないと、そう言い掛けた陽彩だったが、


『前方、凄まじい勢いで何かが――』


「分かってる、誰か来るわ」


 転瞬、放物線を描きながら登場したのは人だった。

 それも荒廃した世界には似合わない少女の容貌だ。ただその様相は、悲惨足るものだった。

 片目を眼帯で覆って、長いコートで隠れた体は左腕が欠損している。


 何より気になったのはその身に纏っている血の匂いだ。今まで多くの悪人にであってきた私だが、ここまで死の匂いを漂わせている者にあった事はない。


「……人の気配を感じ取って来て見れば、なるほど『私』か」


「私……?」


 そこで、私は遅れて理解する。彼女の顔、それは自分と瓜二つだったのだ。


「確かに似てるわね。でも、私の友人曰く、私と同じ人間はどこの世界にも存在しないらしいのだけれど」


「だが事実、私たちはここにいる。貴様、名前は?」


「白翼尊よ」


「ハクヨクミコト……私は、アルフィア・リィライフだ」


「似ても似つかない名前ね」


「そうだな。だが貴様も既に分かっている筈だ」


 そう、こうして立ち会った時点で分かっている。私たちは、同じだ。


 今まで感じた事のない強烈な『引力』を彼女からは感じる。少なくとも自分と同等、あるいはそれ以上の力を有している『タレント』だった。


「そうね、貴方は私だわ。喋り方とか目つきとかは少し違うけど、私が私である理由――絶対的な力を持ってる」


「……力?はは、くだらない」


 少なくとも、私は自分の力に誇りを持っている。だが同じ存在である筈の彼女は、それを嘲笑った。


「この光景を見ろ」


 腕を広げ、目の入るのは灰色の空と大地だけだ。


「私がこの世界を駄目にした。何物にも負けない力を手に入れながら、守りたい者を一人として救う事が出来なかった」


 怒りでも悲しみでもない。ただ強烈な虚無を胸に、アルフィアは淡々と零す。


「一体、貴方に何があったの?」


「何もなかった。何かをしようとして、何も出来なかった。――忠告しておこう。私たちは『孤独』だ。誰にも愛されない世界の瑕疵だ。何もするな、それが『私たち』ができる最善の方法なのだから」


 空を見上げた彼女の瞳は、決して透明な青ではない。空と同じ灰色に支配されていた。


「陽彩、確かめたい事があるの。又、別の世界に飛ばす事は出来る?」

この作品では、異世界をイコールでマルチバースと捉えているのであしからず!!!

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