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2人にズルズルと引きづられる様に連れて行かれた先は、私の部屋で、もしかして2人は私を助ける為の演技だったのかもしれない。
なんて、おめでたい考えは中からの声に打ち砕かれた。そうだ、そもそもこの2人が薬を盛ったと言っていたのだ。助けるなんて有り得ない。
「遅いじゃない!待ちくたびれたわ!!」
その声は、従姉妹のレミリアのもので私は彼女と仲がいいつもりだった。
ロッテとサリーに突き飛ばされ、レミリアの足元に倒れ込むと同時に、左頬に痛みが走り、レミリアに蹴飛ばされたのだと理解した時には倒れ込んだ私の手をグリグリと踏みながら甲高い声で笑っているレミリアを見た時だった。
「あははっ!どう?アンジェリカ!私に踏まれてどんな気分かしら?」
「顔は傷付けないようにとジェイク様からの託けです」
「あと、死なせないようにとも」
「うるさいわね!早く出ていきなさいよ!メイドの分際で!」
レミリアがそう怒鳴ると、2人はレミリアを睨み付けながら部屋から出て言った
「何あの女達は!侯爵家のクセにメイドの躾も出来て無いのね!……まぁ、良いわ。貴女が来てくれたんだもの。ねえ、アンジェリカ」
『レミリア……痛いわ、足をどけて』
「レミリア様と呼びなさいよ!アンタはもう侯爵令嬢じゃないし、私も子爵令嬢じゃないわ!もう、従姉妹なのに大違いなんて周りから言われる事もないわ!私が侯爵令嬢で、アンタは身分もない私のおもちゃなんだから!」
レミリアに髪を引っ張っられ、ハサミで髪を切り落とされ、頭から足の先まで何処が痛むのか分からない程にいたぶられ、痛みと絶望で気が付いた時には、冷たく汚れた石畳に寝かされていた。
鼻を啜る音に薄らと目を開けるとボヤけた視界に人影が映った
『……だ……れ……?』
「お嬢様!!お気付きですかっ?!こんなに…酷い…痛かったでしょう、怖かったでしょう……」
グスグスと鼻を鳴らしながら、私の指先を優しく撫でてくれるその声に聞き覚えがあった
『ま……りー……マリーな……の?』
「ええ!マリーでございます、お嬢様!私がここの鍵を見付けてお嬢様をお助けしますので、暫くお待ち下さいね!傷も傷むでしょう?早く治療もいたしませんとね」
ハッキリと見える様になると、私の専属侍女のマリーが鉄格子の向こうから必死に腕を伸ばし、やっと触れた私の指先を涙でグチャグチャになりながら撫でてくれているのが見えた
『マリー……お父様とお母様が、叔父様にね……マリー……わ、わた、私…どうしたら……』
色々思い出し唇が震える私に向かって更に一生懸命マリーが腕を伸ばしてくれる
「私がおります!お嬢様!2人で田舎で暮らしましょう!マリーがずっとお嬢様のお側におりますので。今すぐ鍵を探して参りますので、暫くおひとりにする事、許して下さいね。行ってまいります。」
『マリー……ありがとう、気をつけてね……』
マリーは無理やり笑顔を作ると、涙をゴシゴシと腕で拭き屋敷に続く階段を登っていった――
筈だった。悲鳴と共に階段から転がり落ちて来たマリーに驚きながら、マリーの名前を呼ぶとマリーの声ではない。サリーとロッテの声が聞こえてきた。