絶望の華
『今日は、野菜の皮を貰えた』
頑丈な鉄格子の隙間から小さな独房に投げ捨てられた野菜の皮を拾い上げ、口に入れて必要以上に咀嚼する。
直ぐに飲み込んではダメ。ゆっくりゆっくり、少しでも空腹の胃がごまかせるように。
全てを飲み込み、それでも腹の虫がもっとくれと鳴くと、それに応えるかの様に、高い位置にある吹き抜けから夕刻を告げる鐘が鳴り響いた。
雨が降ると、恵の水をもたらすあの吹き抜けも、数日続いてる晴天のおかげで今はただ、時間を知らせてくれる鐘の音を届けるだけに過ぎない。
『お水…飲みたいな』
水分を採ったのはいつだったか。今日の食料が3日ぶりだから、3日前か。その時はスープとは言えない、スープを作った鍋を洗った時に出る排水のような物だった。
微かな、昔に飲んだ事のあるスープの味が鼻腔から感じ取られるようなその液体を、木で作られた器に入れて出されたのを思い出した。
その液体を持ってきたメイドは見た事が無かったが、私を見下しながら
「なんで私がお前なんかの為にこんな所へ来なくちゃいけないのよ。スープを持ってきてやったんだから有難く飲みなさいよね。ホント汚い子供ね。犯罪者の子供を生かしておくなんて、奥様はお優しいわ」
そう言って、乱暴に器を置くので中身が半分程零れてしまったが、それ以上少なくならない様に、お礼を言って器を手に取った。
ここに来る人は、少しばかりストレスを溜めているのか、私の態度が気に入らないと、わざと中身をぶちまけたり、手の届かない鉄格子の向こう側へと置いて罵倒しながら去っていくのだ。
少しでも、食料や水分を手に入れる為に私は人形の様に感情を出さず、施しに感謝しなければいけなかった。