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ジュジュと不思議な日記帳 ひたすら階段のぼります  作者: ななこ


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王子の帰還

 アオイとジュジュは最初に火竜の治めていた国を訪れた。太古の森に1番近い人の住む場所。


「人が沢山いるね! 木だけじゃなく建物は石でできているの? お店って初めて見る」


 ジュジュが階段を使って訪れた場所は精霊達の住む国。人はいなかったから見るものすべてが初めて。森には商店はなく、町へ買い物に出た人が直接家まで届けてくれた。


「お金なら知ってるよ。使ったことないけど。ほら、今日は森のお父さんがお小遣いくれたの。1度買い物してみたい」

「僕もお金はよく知らない。ドワーフの家で見たことはあるけど」


 2人はお店で買い物をする人をじっと観察する。欲しいものを指さして、お店の人に言えばいいんだ。値札に書かれたお金を出す。やってみよう。


「ご主人。この焼き菓子をふたつください」


 アオイが店主らしき人に声をかける。


「はいよ。ふたつだね。白貨1枚だよ」


 ジュジュが袋から白い硬貨を1枚店主に手渡し、焼き菓子の包みを受け取る。かわいい嬢ちゃんにはおまけと割れて売り物にならないものを1枚多く入れてくれた。2人は初めての買い物に大満足だ。


 それからはぶらぶらと大通りにある店を見て回った。生地と服を売る店、野菜や果物を売る店、肉屋の前では鶏が籠に入っていた。香辛料を売る店もある。


 いい匂いにつられてのぞくとパン屋だった。人が多く出入りしている。人気店なのかな。ジュジュはどんなパンがあるのか気になったが、これから城にも行きたい。アオイが楽しみにしていたので、後でまた寄ればいいか。2人は手をつなぎ城へむかった。


 城にはまだ火竜王夫妻がいた。臣下であった人々にもう少し滞在して欲しいと頼まれ、皆が落ち着くまでと約束した。それにひとつやり残したこともある。


「ようやく王子が城に戻った。後ほど皆にも紹介しよう」


 死んだのは偽王子で、本物の王子が帰還すると城中に通達されていた。アオイたちは城の門をくぐった瞬間、人々に囲まれ困惑していた。


「火竜の青生。ただいま戻りました」


 玉座に座る父王に挨拶をする。その隣では母が優しい笑顔で迎えてくれた。


 それから父と母に城のあちこちを案内してもらった。


 火竜王夫妻の部屋は城の1番上。部屋からつながる広いテラスからはいつでも火竜となって飛び立てるようになっていた。ここから大樹を眺めていたという。


 ここで魔力を注いでいたのよ。小さなベッドにふかふかの布団が置いてあり、母は懐かしそうに話してくれた。琥珀が大事に寝かされていたそうだ。


 当時のまま残っていた部屋。テラスへの大きな扉には急いで出て行った痕跡があった。火竜の爪痕が残る。大蛇が落ちてきた時のものだという。


 アオイの部屋は本人が1度も使うことなく封鎖されていた。偽王子と偽王妃が閉じこもり、死んだとされる王子の亡骸を見たものはいない。不吉だと人は誰も部屋に入らなかった。それでもアオイは1度見てみたいという。


 扉が開くと、そこは暗く重いカーテンで日を遮られていた。


「酷い匂いだ」


 ハクトがフーと白い炎でカーテンを一瞬で焼き払い、窓ガラスが熱でドロドロに溶けた。


「ハクト様、少し力を加減してくださいな」

「加減していなかったら、今頃城はまるごと消滅しているよ」

「私の私室を焼き払ったでしょう。もうあちこち焼かないでくださいね」


 ミウの私室を魔女が使っていたと聞いたハクトはすぐさま焼いてしまった。


 仕方がないですねとミウが消火し、風妖精を呼んで空気を入れ換えた。


「ここ黒いシミのようなものがある」


 床には人型にみえる黒い跡。アオイがお願いと言えば、ジュジュがそっと浄化の魔力を込める。シミは跡形もなく消えた。


「会うことはなかったけど、もう1人の僕がここにいたんだね」


 魔女によって、アオイの魔力から引き出された分身のようなもの。操り人形のように自ら動くことはなかった。アオイがダイヤモンドを食べて力をつけるまでは歩き、ウタネに会うまでは話もしていた。名を知ってからは動けなくなり、消えてしまった偽物。1度会いたかったなとアオイはつぶやいた。


 別の部屋を用意され、アオイとジュジュは着替えさせられた。部屋から出てきたのは王子様。本当に王子様だったんだねとアオイに言えば、それならジュジュだって木の精霊王のお姫様でしょと笑われた。


 呼ばれて広間に行くと、皆に紹介しようとアオイは玉座の隣に立たされた。


「我が息子、青い火竜の青生だ。今まで名を失くしていたが、魔力を取り戻した。この国を陰ながら守護する次代の火の精霊王となる」


 青と言えばどれだけの火を操るのだろう。もう落ちてこないと言われた魔物だが、もしまたどこからか現れても心配はない。火竜達は国を離れるというが、必ず助けに来てくれるだろう。白と青の火竜に人々は親しみと畏敬の念を抱いた。


「ジュジュちゃんはこれを見たいのではなくて」


 お披露目が終わると、ミウが図書室へ連れて行ってくれた。森人の家に本は数冊しかない。壁を埋め尽くし、天井まである大きな棚にすき間なく本が並ぶ。圧巻だ。


「ここが竜のことが書いてある本棚。手に取って中をご覧なさい」


 ジュジュは手前にある本を抜き出した。子どもでも読めるような竜の出てくる話。名はもう黒く塗り潰されていない。歴代の火竜の名があった。


「でもブラックもかっこいい名だよね」

「きゅいん!」


 ハクトと違う竜になったので、ブラックは自分の意思で好きな所に行けるが、ジュジュの側がいいらしい。


「これからもよろしくね」


 ジュジュはブラックの白い体を抱きしめた。


「そういえば日記帳。ハクト様のうろこはどうなったのですか?」

「まだ私の手元にありますよ。あれは私たち家族の記憶が残されている。私にとっては宝物だわ」


 辛い記憶も苦しい記憶もすべて収めてあるという。ミウが掌に魔力を集めると日記帳が現れた。


「扉を開く時に現れた文字が読めなくなったけど、続きはあったのですか?」

「えっと。言ってもいいかしら。魔力節約もあったけど、私が読めないようにしてしまったの」


 ミウはちらっとアオイを見た。


「ジュジュ。もう直接話せるし、日記帳を読まなくていいと思うよ」

「ジュジュちゃんに見せたくないものね」

「お母さん、絶対にジュジュに読まないで!」


 顔を赤くしたアオイは、風に当たってくると外へ飛んで行ってしまった。


「どうしたのかしら? 変なアオイ」

「ふふふ。読ませなければいいのね。そうね…。ここはどうかしら。おすすめよ。聞かせてあげる」


 それはドワーフ母さんに新しく服を作ってもらった日の記憶。アオイの声が聞こえた。


『ジュジュ、かわいい。すごく似合っている。どうしよう。褒め言葉がわからない…』


 ジュジュの顔も真っ赤になった。


 それから数日。城と城下の町を行ったり来たりしながらゆっくりと過ごした。ジュジュは街中のパン屋めぐり。行く先々で王子様と声をかけられる度にアオイは照れながらも手を振る。


「次はどこに行こうか」

「アオイと飛べるところまで。1番高い所。雲の上まで行ってみたい!」

「よし! 僕にしっかり捕まって!」


 大きな翼を広げ青い火竜は飛び立った。

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