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ジュジュと不思議な日記帳 ひたすら階段のぼります  作者: ななこ


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扉の先

 閉ざされた扉は他のどの扉よりも分厚く、重い。ゆっくりとギシギシと音を立てながら左右に開かれていく。石の扉かと思えば 瞬きする間にひどく冷たい氷になる。かと思えば真っ赤に焼かれた鉄の扉。中からも外からも出入りを許さない封印が古代の精霊王たちによって施されていた。


 その先はびっしりとトゲのついたツタで覆われて、ジュジュが魔力を込めてツタに触れると膝をついて這えばどうにか通れるほどの小さな穴が開いた。


 行こうとアオイを先頭に潜った。どこまで行っても異界が見えない。迷路のようになっていた。しばらくすると、近づいてきたのか悪臭が漂ってきて、思わずえずきそうになる。後ろからジュジュがハンカチを渡してくれた。口と鼻を塞ぐ。


 やっと茨のトンネルをくぐると大きな河があった。


「お母さんがここには水場は無いって言っていたのに。こんな立派な河があるよ」

「アオイ。ここに水はない。触ってごらん」


 ウタネが悲しそうに河を見つめる。アオイが手を入れても何も触れない。砂漠にあるような蜃気楼。こんな酷い、恐ろしいところが異界なのか。喉の渇きに苦しみ、水を見つけた歓びの先の絶望。どれほどの罪を犯したとしても、もう十分に償ったはずだ。早く終わりにしてあげなければ。


 暗く淀んだ空。光はどこからも射さないのに、うっすらと見える。ここからが本当の異界の地。歩くのは危険だ。アオイが魔力を高め、姿を変えた。青いウロコを持つ火竜となった。


「ジュジュとウタネ様は僕の背に乗って」


 2人が落ちないようにドワーフ父さんに鎖を造ってもらっていた。普段はネックレス、姿を変えると鎖も一緒に大きくなる魔法がかけられている。2人がしっかり鎖を握ったのを確認して、アオイは翼を幾度か震わせ、ふわっと地上から足を離した。ブラックとノリカはアオイに寄り添うように飛ぶ。アオイの初飛行がうまくいって手を叩いてくれた。


 地上を離れると悪臭は少し和らいだが、凄惨な光景が眼下に広がる。無数にあるドロドロの黒い塊。魔物達が喰らい合っているのも見えた。地面がうごめいている。よく見るとドロドロからお湯が沸いた時のような気泡が見えた。


「見て。ドロドロから魔物が出てくるよ」


 ドロドロとしたどす黒い魔力が姿を変えていく。羽を持った魔物が現れ、火竜を見つけ飛び上がった。


「こっちに来る!」

「しっかり捕まっていて」


 アオイの口から青い炎が噴かれた。魔物はあっという間に炎に包まれ、また地上へ戻りドロドロとなった。


「―――」


 ウタネが弔いの歌を口ずさむと、ノリカが風に乗せてドロドロに届けた。ドロドロが小さくなって、やがて消えていった。


「1匹だけ浄化できたのかな」

「でもこれすごく手間がかかるし、全部の魔物には使えないよ」

「少し考えよう」


 ミウ様の髪で細く長い川をつくる。ミノリの実を投げ入れて魔物の動きを鈍らせる。ここまではすぐにできそうだ。


「わたしの魔力をアオイの炎に混ぜたらどうかな。焼かれるもの痛そうだし、浄化しながら焼かれた方がましな気がする」

「私は歌い続けよう。それをノリカの風にのせて広範囲に届けてもらいましょう」


 それでもまだ浄化しきれなければ、これを使うよ。ジュジュが先のとがった大樹の小枝をたくさん持ってきた。これに魔力を込めてドロドロに投げ込むか、直接体に刺す。たくさんと言っても、魔物の数を減らさなければ到底足りない。


「試しに1匹浄化してみよう」

「じゃあ、魔力をアオイに流すね」


 落ちないように、ウタネがジュジュの体を支えてくれた。ジュジュが両手を鎖から離して、アオイに魔力を流し込む。アオイは体に温かい魔力を感じた。


 フーと青い炎が地上を走る魔物を包み込む。すると魔物は足を止め、炎を受け入れた。姿が消えゆく最後にありがとうと人の声が聞こえたような気がした。


「うまくいったみたいだね」

「そうだね。最後は人に戻れたのかな。ならもう魔物にはならないね」


 アオイがまっすぐに1本の道をつくるように炎を放った。うまく溝ができた。そこにノリカがミウの髪を落としていく。髪が淡く光ると水があふれ出た。細い川ができると、ジュジュとウタネがミノリの実を投げ入れる。


「お~。10,20…50どんどん魔物が寄ってくるよ。――うわっ。数えきれない!」


 ノリカがビュンと地上からずいぶん離れた所まで飛んで行った。


 地響きをならし走ってきた魔物達は川に首を突っ込み、夢中で飲んでいた。いくら飲もうが水は減らない。


「次は僕らの番だ。樹樹、魔力をお願い」

「青生、いくよ!」


 ジュジュがアオイに魔力を注ぎ込む。受け取ったアオイが大きく息を吸い込み、炎を噴き出す。青い炎は川辺に並ぶ魔物達を一斉に包み込んだ。


 メラメラと燃える青い炎の中で、黒いもやが現れ人型になった。ウタネが歌い出すと『あー…』と声が聞こえる。膝をつき天を仰ぐもの。両手を胸の前で合わすもの。地に頭を擦り付け泣いているように見えるものもいた。


「みな、安らかにお休み」


 ウタネが歌い終わると黒いもやは消えていった。


 場所を変え、幾度もそれを繰り返す。もう4人の魔力も底を尽きかけた。


「もうお母さんの実も蜜もなくなりそう」

「階段に戻るわけにはいかないんだっけ。そろそろ限界だよ~」


 ウタネも声に張りがなくなってきた。しゃべるのも辛いのか、皆の話を聞くだけになっている。


「異界の端に大樹様が枝を伸ばしているところがあるそうだよ。そこまで行って少し休もうよ」


 アオイはノリカとブラックも背に乗せて飛んだ。


 魔物以外を見るとほっとするが、見た目は枯れていても、大樹の枝は近づくものを容赦なく突き刺す。少し離れたところでアオイが降り立ち姿を人型に戻した。ジュジュが魔力を放ちながら近づくと、枝同士が絡み合い、風妖精の村で見たような、鳥の巣みたいな休憩場所を造ってくれた。中に入るとポッと花が咲くいて甘い蜜の香りがする。屋根もあるのでとても安心できた。


「生き返る~~」

「美味しい。喉にもいいみたいだ。あーあー」

「はい。アオイも飛びっぱなしで、火を噴きまくって疲れたでしょう。休んでね」


 ジュジュがアオイに蜜を渡す。


「ありがとう。元気が出てきた。まだ頑張れそうだよ」

「火竜の体力は底なしなの?」

「火竜もだけど、これはたぶんドワーフの力だね」


 ジュジュがくれたからいつの倍は回復したんじゃないかとノリカがからかう。


「ジュジュは大丈夫?」

「わたしはアオイに乗って魔力を流すだけだから」


 いつの間にか怖いのも忘れていた。1人じゃない。みんながいる。浄化されていく魔物が増えて気持ちも楽になったのかもしれない。


 4人はしばしの休息をとっていたが、ブラックが急に低いうなり声をあげた。


「どうしたの? 魔物が近くにいるの?」

「ジュジュ! ここから出よう」


 アオイがジュジュとウタネに背を向け、乗ってと魔力を高め始めた。


「アオイ! だめだ! 出口が塞がれているよ。わたしでさえ抜け出す隙間がないわ!」


 ノリカでさえ抜け出せないなんて! 一体どうしたことだろう。


『何もしやしないよ。小さい火竜。そう睨むな』


 どこから入ってきたのか。いつの間にか白く長いひげを生やした老人があぐらを組んで座っていた。声は穏やかだが、目は射貫くようにジュジュ達を眺めていた。

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