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ジュジュと不思議な日記帳 ひたすら階段のぼります  作者: ななこ


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火竜王の眠る部屋

 ジュジュは大きく揺れる大樹の階段を幾度も転びながら次の階へたどり着いた。


 今までで一番大きな白い扉の前に立つ。


「ここだね。ブラック行こう」


 日記帳をかざすと扉は静かに開いた。


「これは…」


 中が見れないくらいに枝が張り巡らされ花が咲き乱れていた。濃密な香りに一瞬クラっとする。とても高い魔力を感じる。魔力の少ない妖精や人なら耐えられず死に至るかもしれない。


「きゅいん」


 ブラックがひと鳴きすると枝も花も消えていく。中は部屋というより鳥の巣のようだった。真ん中に大きな白い竜が丸くなって眠っていた。


 日記帳から淡い光が漏れ小さいミウ様が姿を見せる。


「火竜王様、お目覚めの時間ですよ」

「クオー…」


 白い竜がうっすら目を開けた。大きな体がゆらっと歪んだと思ったら、人型に変わる。真っ白な髪に澄んだ青い瞳。青年となったアオイに似ている。


「ミウ、久しいな。長い間苦労をかけた」

「精霊に時間などあってないようなもの。あなた様こそゆっくり休まれてないでしょう」


 お互いを気遣う夫婦は手を取り合う。


「もうじきあの忌々ししい魔女がやってきます』

「そのようだな。…今は大樹が相手をしてやっているのか」

「ふふ。簡単にはここへたどり着けないでしょう。ミノリを傷つけられて、愛娘まで狙われたのだもの。だいぶお怒りのようね」

「大樹はずっと我慢していたのだからな」


 火竜王がジュジュを見る。


「大樹の子ジュジュ。アオイを助け、うろこを浄化し、ここまでミウを連れて来てくれありがとう。ブラックを通してだが一緒にいて楽しかったよ」


 肝が冷えそうな時もあったがねと笑ってくださった。やっぱり色々と知られている。そうだよね。ずっと傍にいてくれたのだ。


「いつも守ってくださってありがとうございました。こうしてお会いできて嬉しいです」


 ジュジュはノリカを呼んだ。ノリカも髪色は違うけど大人になったアオイだと火竜王様に言って笑われた。ノリカもまた火竜王にお礼を言われて恐縮していた。


 大樹がまた大きく揺れた。気持ちの悪い気配が近づくのを感じる。


「大樹様がうまくここへおびき出してくれているわ。それまで2人は隠れていなさい。魔女が現れたら琥珀を投げつけて。あとは私がうまく入り込むから。そんな顔しないで。大丈夫よ。私を信じて」


 ジュジュとノリカの不安そうな顔をみてミウ様は笑ってくれたが、心配だ。ここにアオイを呼んではいけないと言われた。どうしてだろう。


「待てミウ。君を危険にさらしてまで名を取り戻す必要はない。アオイをすぐに次の火の精霊王にすればいい」

「いえ。これは名だけのためだけでなく、私の姿も使わせないためのもの」


 アオイと一緒に魔女の体から出されたとき、ミウはほんの少し体液に混ざり魔女の体に紛れ込んだ。封印された名を探し続けるために。残っている限り魔女はミウの姿に変化することができる。許しがたい。


「封印を解いたら、魔女はきっと大蛇に戻る。その鋭い爪で腹を切り裂き、私を、琥珀を取り出してくださいませ」

「必ず取り出すと約束しよう。ジュジュ、その手に持つユニコーンの角は切り裂いた腹から猛毒をまき散らさないようにするためのもの。頼んだよ」


 ジュジュは「はい」と答えた。できないかもなんて考えないことにした。必ずやり遂げる。


 日記帳は光の粒となり、琥珀に中に消えていった。それを見届けた火竜王様は竜に姿を変える。ブラックが火竜王様の尾を咥えると姿を消した。尾の先に戻ったみたいだ。


 大樹の揺れが止まる。しばらくじっとしていると扉の向こうから血の匂いがした。隙間から背筋が凍るような冷たい魔力が流れてくる。ノリカと手をつなぎ扉が開くのを待った。


 ギーと扉が開かれると、冷たい目をした魔女が現れた。豪奢なドレスはところどころ引き裂かれていた。


「おや、まだ寝ているの? 今度こそお前の息の根を止めてやる。ずいぶんと手厚い歓迎を受けたわ。魔力を吸うだけで引っ搔き傷だらけにされたの。大樹はまたあとで懲らしめてやろう」


 魔女が部屋へ入る。ドレスの長い裾で足元は見えないが、這っているのか、靴音がしないかわりにズルズルと引きずるような音が聞こえる。大樹が相当痛めつけたらしい。


「ここにはいろいろと匂いが混じっているね。水の精霊もここに隠れているのかしら? もう逃さないよ。出てきなさい」


 突然、大樹が鋭い枝を伸ばし魔女を突き刺し、壁に縫い留めた。暴れる魔女の体を蔓が巻き付き逃さない。トゲが魔女の体深く突き刺さると、口から黒いドロドロとしたものが溢れてくる。触れた床がジューと溶けていく。


『ジュジュ、今よ!』母ミノリの声が聞こえた。ジュジュは立ち上がり魔女めがけて琥珀を思い切り投げつけた。


 琥珀は魔女の口の中に飛び込んだ。血管に入り込み心臓を探しまわる。ドロドロの黒い血が琥珀を溶かしていく。どこだ! 名を返せ! 魔女の心臓は常に動いていた。完全に溶かされる前にたどり着かなければ。どす黒い塊が見えた。あそこだ! 琥珀から強い光が放たれた。


 魔女は体中を異物が這うのを感じた。痛みはないが、恐怖が襲う。自分でもわからないくらいに奥深く封印したものが壊されていくのが分かった。魔女の口から言葉が放たれる。意思とは関係なく閉じようとしても無駄だった。


「火の精霊王、火竜白翔(ハクト)!」


 火竜王がカッと目を見開く。その目は獰猛で、口からは白い炎をちらちらと吐かれる。


創石(ソウセキ)! 千風(チカゼ)! 水音(ミナト)!」


 精霊王たちが呼ばれた。姿を戻さなければ逃げられない。魔女は大蛇へ姿を変えた。


「ミウを返してもらう!」


 ハクトが鋭い爪で腹を引き裂くとドロドロの黒い血が噴き出す。ジュージューと床が溶けていくが、コツンと音がした。きっと琥珀だ。ジュジュは無我夢中で浄化の魔力を込めユニコーンのナイフを投げつけた。ノリカが風を起こしナイフを腹に命中させる。黒い血が赤色に変わっていく。


 猛毒ではなくなったようだが、触れば何が起こるかわからない。ジュジュはノリカに宙に浮かせてもらい、床にあるはずの琥珀を探す。ない! ない! ミウ様はどこ! 血だまりの中から淡く光るものを見つけた。


「外に出なさい!」


チカゼの突風でジュジュはノリカと一緒に扉の外へ吹き飛ばされた。


 扉の中ではソウセキが石の箱を造り、ハクトごと大蛇を閉じ込める。白い業火が大蛇を包む。ミナトは大量の水で箱の周りに壁を造るが熱で蒸気に変わっていく。チカゼが蒸気を外へ吹き飛ばす。大樹は扉を2重3重にして階段に燃え広がらないようにした。


 ジュジュたちに中の様子はわからないが、これほどの魔力を感じたことがない。鳥肌が立ちっぱなしだ。でも中の様子よりも掌にあるミウの琥珀のほうが心配でたまらない。先ほどからジュジュは浄化の魔力を注ぎ込んでいる。琥珀の上にはミノリの蜜が絶え間なく滴り落ちる。


 青く透明できれいだった琥珀は赤黒く、光を失い、赤子の爪の先よりも小さくなってしまっていた。

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