ミウの琥珀
水の国へ行くために階段に戻ることにしたが、ジュジュ1人では心配とノリカがついてきた。一緒には上れないけど、扉の前で蛇が待ち構えていたら強風で吹き飛ばしてあげる! 頼もしいことを言ってくれる。
戻るとちょこんと白い竜が座って待っていた。日記帳が浄化されて、ブラックも元の姿に戻れたんだ。 どこも怪我はしていないみたいでほっとする。お母さんの花も咲いているから、とりあえず危険は去ったってことだ。
「綺麗なうろこだね。火竜王様なんだけど…失礼します!」
火竜王様のうろこはザラザラしてたけど、ブラックはすべすべで気持ちいいらしい。ノリカがペタペタと触っても、ブラックは好きにさせている。むしろ自慢してるみたい。とかげじゃなかったんだね。
「白いけどブラックって呼んでもいいかな?」
「きゅいん!」
いいみたいだ。あの太った蛇はどうしたのだろう? 上った先に亡骸があったら嫌だな。その時は目をつぶって走り抜けよう。
「ブラックが一緒なら大丈夫だね。次の扉でまた呼んで」
ノリカは石の国へ戻って行った。
ブラックと2人になると、大樹と母に見えるように日記帳を掲げた。
「今アオイは琥珀の中に残る魔力を取り込むために石の国にいます。その間に私はノリカと水の国へ行ってミウ様の琥珀をいただいてきます。次の階で扉を開けてください」
お願いしますと頭を下げた。
「きゅいん、きゅいん」
ブラックは大樹に話しかけているようだ。壁に前脚をかけ、鼻をくっつけている。葉がざわざわと揺れる。お父さんと何を話しているのかしら。
日記帳から声がする。ミウ様だ。
『お願い。水の国へ連れていって欲しい』
ブラックは首をふる。行かせないと言ってるのだろうか。
光る実がポッポッと上に向かって点いた。ジュジュは駆け出した。お母さんが行ってと後押ししてくれてる。なぜブラックが反対なのかはわからないけど、ミウ様の願いは叶えたい。今までずっと1人で戦い、守って来た人だ。何か考えがあるに違いない。ブラックも諦めたのかついて来てくれた。
扉が見えた。踊り場に着くと、うわーーーとつま先立ちになり、ジュジュは壁に張り付いた。足元に細長い黒焦げの後があり、床に枝が突き刺さっている。これはアレだ。踏まないように扉の前に移動した。ブラックが焼いたんだよね。さすが火竜王様のしっぽ。扉が開くと急いで入った。
そこは大きな湖のほとり。湖の真ん中に白く輝くお城が浮かんでいるように見える。
ノリカを呼ぶと、ビューンと飛んで来てはくれたが、なんだかお疲れのようだ。
「どうしたの? 蜜いる?」
「ちょうだい。ドワーフ母さんにアオイはどこにいるのか聞かれて、誤魔化すの大変だったの」
「たぶん、ばれてるよね…」
「終わったら3人で謝ろう」
それしかない。隠し事してごめんなさい!
お城にはノリカが運んでくれた。お天気なのに雨に降られ、虹がかかるとノリカが急に止まってしまった。次は3人でこのきれいな水の国に来ようと約束した。
くぐり抜けても不思議と濡れない水のカーテンの先に水の精霊王様がいらした。
「初めまして。木の精霊ジュジュです」
「私は風精霊のノリカです」
「アオイの友達だね。訪ねてくれて嬉しいよ」
優しそうな方だ。訪問した理由を話して日記帳をカバンから取り出すと、表紙が水に浸したように濡れていた。大変! 拭かなきゃとハンカチを取り出す間に、表紙から小さなミウ様が姿を現した。ぴょんぴょん飛び跳ねてるブラックにも見えるように日記帳を床に置く。
「お父様とこうして再びお会いできるのは大樹様と樹妃様の子、ジュジュのおかげです」
ありがとうと微笑まれる。嬉しいけど、ミウ様がずっと頑張ってきたのに。それに私1人では何もできなかった。
「ああ、そうだな。浄化の魔力は私にも伝わってきた。ほらこれをごらん」
水の精霊王様の手の中にはミウ様の琥珀。温かな魔力が漏れでている。ミウ様の琥珀と日記帳はつながっていたんだ。
「今まで本当にありがとうございました。お父様が魔力を注いでくださらなかったら、私はもちろんアオイも守ってやれなかった」
「 大事な娘のためだ。アオイが琥珀を手にいれたなら、あとは火竜だけか…」
精霊王様がミウ様に寄り添うブラックを睨んでる。ブラックはちょっと頭を下げてる。
「私の琥珀を受け取りに参りました」
「だめだ。この琥珀に残る魔力さえも使おうというのか」
「魔女を消すために火竜王様のお力が必要なのです。たとえ琥珀から魔力を取り込んでもアオイにはまだ無理です」
「だからと言ってお前が…」
どういうことかしら。ミウ様はまだ何かしようとしているの?
「渡すことはできない」
水の精霊王様は、あっという間に水となって床にしみこんでしまい、姿を隠してしまわれた。
「困ったわね」
小さいミウ様が大きなため息をこぼす。
「琥珀は何に使われるんですか?」
ジュジュの問いかけに、少し間をおいてから答えてくれた。
「火竜王様の名を取り返します。それには私の全力で立ち向かわないとならないの」
琥珀に残した最後の一滴はミウ様の最後の切り札。それをわかっていてブラックも水の精霊王様も反対したんだ。でもお母さんはミウ様の気持ちを大事にしたんだ。
「私たちに手伝えることはありますか?」
「それならばひとつ…」
「水の精霊王様! 大変です! お力を貸してください!」
「ミウ様が大変です! 今すぐにお願いします!」
ジュジュとノリカは大声で大変! 大変! と叫び続けた。
置いてあった水がめから精霊王様が出てきてくれた。
「どうした? 何があった?」
「これを見てください!」
真っ黒に変色した日記帳を見せた。
「あれからミウ様が日記帳に戻ると急に真っ黒に戻ってしまって」
「魔女にまた浸食されたのか」
貸しなさいと精霊王様が魔力を注ぐが何も変わらない。表紙からかすかにミウ様の声が聞こえる。
『琥珀を…』
仕方がないと懐から琥珀を取りだし、表紙に置くとスーと琥珀が消えていった。だが、真っ黒いまま変わらない。どうしたことかと精霊様の眉間にしわが寄る。
「精霊王様! 本当にごめんなさい! 急ぎますので失礼いたします!」
「まっ! 待ちなさい!」
精霊王様の声がしたが振り返らず、日記帳を抱えたジュジュをノリカが強風となって扉まで運んだ。
「ここまで来れば大丈夫」
「はぁー。謝る人が増えたね」
踊り場で座り込んでしまった2人にお母さんが大きな花を咲かせてくれたので、チューチューと蜜を吸う。日記帳にも蜜をおくとミウ様も飲んでくれた。
ミウからの頼まれごとは、階段に戻って黒こげになった蛇の煤を表紙に塗りたくること。表紙についた汚れならいくら水の精霊王様が魔力を注いでもきれいにはならない。
煤の中に魔女の魔力が残っていた。ブラックのようにしっぽの先を使ったのだろうとミウ様が言っていた。蛇の中に隠された魔女の気配におびえていたのだと分かったけど、恐ろしいことだ。大樹様の中に入り込んでいたなんて。
日記帳についた煤を払うと、表紙から水があふれて煤を洗い流す。最後はノリカが風で乾かしてくれた。真っ白に戻ると小さなミウ様が顔を出す。
「お父様をだますのは気が引けたけど、琥珀は手に入ったわ。ありがとう」
ミウ様は大成功ねとにっこり笑う。これが本来のミウ様なのだろう。火竜王様と同じ明るい方みたい。
「そろそろ石の洞窟へ戻りましょうか。ミノリ、アオイに蜜を分けてくれないかしら」
ポッと花が咲く。お母さんとミウ様は本当に仲良しなんだ。
ノリカは先に行ってるねと扉の中に。蜜を花びらで包み、ジュジュも階段を上った。




