アオイの琥珀
翌朝、穴ぐらで目覚めたジュジュはアオイに外に出たら驚くよと誘われ、一緒に地上への出口を這い出た。
「トム! ここは巨人の島だったのね」
「その声はジュジュだよね? 随分と変わって一瞬わからなかったよ」
そういえば、髪色が以前とは違うんだった。
大きな体で力持ち。心優しい巨人はジュジュや小動物を圧し潰さないよう確かめてからゆっくりと腰をおろした。
「どうしてここに家を作ったのかしら」
「窮屈そうなトムの服を見てさ。ドワーフ母さんがここで縫ってあげていたんだよ」
「そうか。トム良かったね。すごく似合うわ」
トムの好きな緑色の服にこげ茶の皮ベルト。ベルトの金具はドワーフ父さんが作った。沢山の生地を運ぶこむのが大変だったお母さんは、ここで縫った方が早いと泊まり込むための家を掘ってしまった。
「ヤッホー、ジュジューー! 今そっちに行くね」
「ノリカだわ。おーーい」
鳥の巣を覗き込んでいたノリカはトムのふわふわの髪の間から顔を出した。ピーピーと可愛い鳴き声がする。
「僕もアオイ達に会いに行きたかったんだけど、ヒナが生れるまでここを動けなくてさ」
卵が割れたら大変だ。それに他の動物たちに食べられないように守っていたという。親鳥たちは安心して餌を獲りに出かけられる。次に来た時にはトムの頭が鳥の巣だらけになってるかも。
「ドワーフ父さんと母さんのこと知らせてくれてありがとう。ずっと気になってたから会えてとても嬉しかった」
「僕も驚いたよ。小さな体でこの僕を持ち上げるんだからね。お礼は僕の方が言いたい。新しい服を作ってもらえたのはアオイ達に出会ったおかげだ」
1人なら体に合わない服も気にしないが、こうしてお客様がくるならきちんとしないとねと頭をかく。
「おや、みんなおそろいかい?」
石の国から帰ったドワーフ母さんが穴ぐらから出て来た。
「ジュジュちゃんとノリカちゃんの服も出来上がってるよ。着替えておいで」
やったーと2人はいそいそと穴へ入っていった。
「ジュジュから先に…」
「ノリカが先に出て」
似合ってるかな。おかしくない? 押し合いながら結局2人同時に穴から出て来た。
2人おそろいのチュニック。ジュジュは優しい檸檬色。ノリカはさわやかな薄荷色。下はスパッツをはいていて、飛んでも跳ねても気にならない。
「うんうん。似合ってる。丈もちょうどいいようだ。またこしらえようかね」
「ドワーフ母さん、可愛い服ありがとうございます。すごく軽くて着やすいわ」
「きれいな色に舞い上がっちゃう! 自慢しに妖精村へ行こうかな」
2人はアオイとトムにどうかな、とくるくると回って見せた。
「2人ともお姫様みたいだ。アオイも何か言ってあげなよ」
「えっと。その…それなら空飛んでも、階段上っても大丈夫だね」
「トムありがとう。…この服なら転んでも裾を気にしないで大丈夫かも」
「ジュジュ、アオイに女の子の服の感想を求めちゃダメみたいだね」
ノリカに残念だったねと肩を叩かれた。アオイにもっと褒めてもらいたかったけど、それも気恥ずかしいから、いいや。
3人はトムに今までに聞いたこと、起きたことを話すと決めた。ドワーフ母さんには内緒なのでトムの家である大きな木の洞に集まった。
「アオイが火の精霊王様の子、ジュジュが木の精霊王様の子、ノリカが風の精霊女王様の子。今日は驚くことが多いな」
いつもひとりぼっちのトムはお客さんが嬉くておもてなしに忙しい。アオイはトムから深緑色のコケをもらってムシャムシャと美味しそうに食べている。それをちらっとみたジュジュとノリカは「コケはまた今度いただくよ」とお茶だけもらった。絶対にあのコケは苦い!
4人の前に置いた日記帳もだいぶ浄化が進んで、かなり白くなっていた。あともう少しだろう。
「貸して。試しに僕の魔力も注いでみよう」
トムの魔力はお日様と地面から直接とりいれている。そしてその力は再生。自身が踏みつぶしてしまったモノしか再生したことがないが、やってみたいと言う。
トムの指先が日記帳にトンと触れる。日記帳から淡い光が漏れ出し、徐々に強い光へと変わっていく。
「すごい! 表紙が白くなっていくよ!」
「まっ…眩しい!」
目が開けていられないほどの光の洪水が収まると、日記帳の形も変わっていた。本来の形に戻ったのだろう。角に丸みのある三角形。アオイが両腕を広げたほどの大きさになり、なめらかなつやのある乳白色をしていた。よく見るとところどころ青みがかった箇所があり、石が埋まっているようにも見える。
よほど魔力を使ったのか、当分動けそうにないと言ってトムは寝ころんでしまった。ジュジュはトムの口もとによじ登り、大樹に咲く花の蜜を流し込んでいくが、トムの目も口も閉じてしまった。
「寝ちゃったよ」
「しばらくは無理だね。ヒナたちを他に移そうかな」
ノリカは巣ごとヒナを抱えて飛んで行った。
「これが、お父さんの。火竜王のうろこ…」
「あらっ?」
ジュジュの持つカップのお茶が澄んだ水に変わり、ミウの顔を映っていた。
「ミウ様だわ」
「お母さん!」
『うろこはドワーフへ。水の精霊王のもつ私の琥珀を手にいれて』
ミウの姿が消えるとカップの水はお茶に戻っていた。
「もしかしてお母さんに会えるのかな。よし水の国と石の国へ行こう」
ノリカが戻りミウの言葉を伝えた。
「どっちから先に行くの?」
「先に石の国。ドワーフ父さんの所へ行こう」
「そうだね。石の国で水の国への鍵があったらいいね。うろこは違うものに変えなさいって事かな? 何になるんだろうね」
ドワーフ母さんにはドワーフ父さんに服を見せに行くと鍵をかりた。ウソではない。
「これは…。ソウセキも見てくれ」
「火竜王のうろこか。浄化が終わったのだな」
うろこを手に取り、何かを感じとった石の精霊王創石がアオイに本当に魔女と戦う覚悟があるのか問うた。
「もうとっくに覚悟はできています」
アオイは真っ直ぐ目をそらさずに答えた。迷いはない。
「坊や。このうろこの中に坊やの琥珀が隠されていて、取り出すことはできる。だがな、琥珀の中に残している魔力はあまりにも強大だ。それを坊やが取り込むのであれば試練が待っとる」
「試練? ノリカやジュジュのように身に着けるだけでは取り込めないって事?」
「そうだ。魔女の魔力と混じりあったことで魔力がとても不安定だ。一気に取り込む必要がある」
「試練でもなんでもやり遂げる。お父さん。僕に琥珀をください」
「アオイに危険があるってことですか? もしそうなら私は反対だよ」
ジュジュが嫌だとアオイの袖をつかむ。ノリカも心配でたまらないと泣き出しそうだ。
「心配しないで。2人とも応援してよ。僕だって火竜王の子だ。やりきるよ」
「普通の火竜では体が持たないだろうが、ここにいるのは火の精霊王の子だ。耐えて見せろ」
石の精霊王がうろこをドワーフに渡しながら、「ミウ様はなんと強いお方なのか」とこぼした。
ドワーフ父さんがうろこに魔力を込める。全身から汗が吹き出し、毛が逆立つ。小さなモグラのままでは魔力が足りないのだろう。それでも息子のためにありったけの力を振り絞り、大粒の琥珀を取り出してみせた。
うろこはふたつに割れ、片方はまた日記帳に。片方は琥珀に。琥珀の中に小さな蛇と竜が閉じ込められていた。「こんなものは見たことがない」とまだ息の荒いドワーフ父さんがアオイに渡す。
「いいか。これから最短でも10日間。石で作った部屋に入り琥珀を飲み込め。体の内側から業火に焼かれるような苦しみを味わうことになるが、お前さんなら耐え抜けるだろう」
石の精霊王が大きな鍵を取り出し壁に突き立て、琥珀を手にしたアオイと共に壁の向こう側へ消えて行った。
しばらくジュジュとノリカはアオイ達の消えて行った壁を見つめていたが、アオイが耐え抜くと言ってくれた。信じて待っていよう。2人で水の精霊王を訪ねることにした。




