迫りくるモノ
ジュジュは次の階まで上り扉の前で2人の名を呼んだ。今度はすぐに返事が来た。お互いに話したいことがいっぱいある。
大樹の階段に座り、アオイとノリカがジュジュに間欠泉の話を聞かせると見たかったと残念そうだった。そして次は一緒にゴツゴツ石を拾いに行きたいと言ってくれた。
「見ててね」
アオイが口からポッと小さな火を出して見せた。ジュジュとノリカはパチパチと手を叩く。
「すごいよ! 本物の火竜みたい!」
「まだ、みたいか…。自由に火を出せるようになったら、パンでも何でもジュジュに焼いてあげるよ」
「ふふふ。期待して待ってる」
「私にも分けてね」
風精霊は人の食べ物の匂いは好きだよと教えてくれた。
まだアオイの琥珀は見つからない。手に入れればどれだけの力が出せるのだろう。ノリカと竜に姿を変え大空を飛べるようになったら競争しようと約束した。火が使えるようになって自信がついたアオイは以前よりも頼もしく見える。
今度はジュジュの番。
「ジュジュのくれる実にはやっぱり魔力が付与されてたんだ。美味しい上に浄化までなんて本当にすごいや」
「すごくすっきりとして体が軽くなるのは、いつの間にか溜まっている穢れを祓ってくれてたんだね」
日記帳の浄化が以前より進んでいるのも、ジュジュの魔力かもとアオイもノリカも大絶賛。
「それでね。ユニコーンの背に乗って…」
「ちょっと待ってジュジュ。それってどういうことか知ってるの?」
「知らないけど、何? 少し高くから見る森って新鮮。背伸びしなくても林檎に手が届くのよ。また乗せて欲しいな」
ノリカがアオイにライバル登場だよと背を叩く。痛いよと言うアオイの声がなぜか焦っている。
「ユニコーンが背に乗せるのは、一生その人を守護しますっていうことなの。好かれちゃったね」
「ずっと友達でいようってこと? 嬉しいな」
「ジュジュはまだお子様だった」
ノリカが今度はアオイにもっと頑張れと言っていた。
「アオイはずっと琥珀探し頑張っているよ」
「違うの! 見ていてイライラするーー」とノリカに言われてしまう。
それに大樹の葉が一瞬、ざわりと揺れた。危険を知らせてくれているようにも思えないけど。お父さんはどこか痛いのかしら。壁をそっとなぜていると、お母さんがピンクのハート型の花を咲かせてくれた。可愛いな。よし! 元気出たし上ろう!
「ジュジュまた呼んでね」
ノリカはアオイの袖を引っ張り扉の中に消える。うーーん。引っかかるな。足元でブラックはお腹をみせて転がりまわっていた。笑われてる?
次の階でドワーフ父さんを呼んでおいてもらうように頼んだ。ユニコーンの角をナイフか矢にでも加工してもらったらどうかなとアオイが提案してくれた。確かに持ちづらい。刺しなさいって言われたけど、大蛇の胴体はぬるぬるして固そう。それにナイフを持って近づけるかな? 矢を投げるのも難しそう。
そんなことを考えて上っていると、今度は危険を知らせるように大樹が枝を揺さぶり始めた。枝に止まっていた小鳥たちが一斉に飛び立つ。花も全て閉じてしまった。ブラックは階段下を睨み唸っている。何か来るの? 強張る足をどうにか動かして、壁に伝う蔦の葉の陰に身を隠した。
ずるずると階下から這いずる音がする。怖い。
大蛇ではないが、見たこともないくらいに丸々とふとった黄色い縞模様の蛇が上って来た。ジュジュは口に手をあて悲鳴を出さないよう堪えた。気づかれませんように。それだけを祈った。ジュジュのまわりに毒々しい色の花が咲く。ジュジュの匂いをかき消すかのような、酷い匂いだ。心の中でお母さんと叫ぶ。
蛇は視力が弱い。動く気配さえしなければ通りすぎてくれるかもしれない。なのにどうして? ジュジュはクシュンとくしゃみをしてしまった。
蛇が鎌首をあげて音のする方へ赤い舌を出すと、ブラックが蛇にとびかかる。避ける蛇。今度はブラックがうなり声をあげて階段を上っていく。こっちへ来いとわざと誘っている。蛇が速度を上げて這い上がる。ブラックは捕まる直前に階段を上り、蛇はまた追いかける。そのまま2匹はジュジュから離れて行った。
ジュジュは壁を背にぺたんと座り込む。足ががくがくと震えて立っていられなくなった。
「どうしよ。私をかばってブラックが囮になってくれたんだわ…」
日記帳を鞄からとりだし、ミウと大樹に向かって強く念じる。
『お願いします! 私を扉の中へ入れて。アオイ達に知らせなくちゃ』
何もなかったはずの階段に小さな扉が現れ、開いた。
ジュジュが扉をくぐると、土壁に囲まれた、人がやっと立てるような狭い穴ぐらだった。
「ジュジュ! 急に現れてどうしたの! 顔が真っ青だよ!」
「アオイ…」
「ジュジュちゃん、こっちへお座り」
ドワーフ。今はモグラ夫婦の仮住まいだった。
「階段に大きな丸々太った蛇が現れて、隠れたんだけど見つかりそうになって…」
「ジュジュちゃん、ゆっくりでいいよ。これ飲んで」
ドワーフ母さんがお茶を飲ませてくれた。
「ブラックが囮になってくれて、蛇と階段を上っていったわ。ごめんなさい。私がくしゃみなんてへましなければ…」
アオイはジュジュの隣に座り肩を抱きしめた。
「ブラックはきっと物凄く強いんだと思う。だって火竜王の尻尾だよ。ほら前に雪狼の尾が溶けたのを見たよね。あれは錯覚じゃない。父さんの魔力だよ。早く僕も火竜になりたい」
「そうだよね。きっとあんな蛇なんかに負けないよね」
「うん。負けないさ」
ジュジュも少し安心したのか、顔色もよくなってきた。
「ずっと緊張して疲れただろう。今日はこれを食べてお眠り」
ドワーフ母さんが出してくれたのは蒸したサツマイモ。穴ぐらの近くになっていたそうだ。アオイが熾した小さな火種を使って、ドワーフ母さんが蒸した。お腹は空いていないが、口に入れると満たされた気持ちになる。アオイには蒸した芋を一度ジュジュが両手ではさみ、魔力付与してから食べてもらった。さっきよりも甘くなったと喜んでいる。お母さんにもどうぞと渡す。
「驚いた。本当に甘くなっているよ。どれ。石の洞窟にも届けて来ようかね」
ドワーフ母さんはポケットから鍵を出し壁に突き立て、1人出かけてしまった。
突然2人きりになってしまった。
「ノリカはどこ?」
「狭い穴ぐらは嫌って、どこかへ行ってしまったけど、きっともうすぐで帰るよ」
「そっか。じゃここで待っていれば会えるね」
「こっちにおいでよ。母さんが藁を敷いて寝るとこ作ってくれた。ジュジュが使って」
「いいよ! 私はこの椅子でも大丈夫」
しばらく譲り合いしていたが、最後は2人で横になった。
「ジュジュはブラックがいなくなっても泣かなかったね」
「うん。全部終わるまで泣かないって決めたの」
「そんなジュジュを僕は尊敬するし、大好きだよ。お休み!」
「えっ!」
アオイは背を向けてしまった。穴ぐらの中は少し暗い。赤くなった顔がばれてませんように。




