ジュジュの琥珀
ドワーフの夫婦がジュジュの琥珀を持ち帰ってくれた。
「綺麗ね。これがわたしの琥珀……」
ジュジュは掌に包み込む。夢の中では父と母がこうして魔力を注ぎ込んだくれたんだ。もう1度、夢の中でもいいから父と母の姿が見たい。
「どうやって琥珀から魔力を受け取るの?」
「こうやって身に着けておけばいいわ」
ほら。首にかけているペンダントを出して見せた。ノリカの琥珀だ。
「そうだった。ノリカも琥珀生れだよね」
風の精霊女王の子だ。お父さんはいつもものすごい速さで上空を吹き抜けていて、ほとんど国には帰っていないらしい。風の男はじっとなんてしてないわよ。たまに通りがかりに声をかけてくるからびっくりしちゃう。今頃はどこを飛び回っているのやら。
「それならわしがペンダントにしてやろうか。ブローチでもいいぞ」
どっちがいいかな。ノリカと同じペンダントの方が便利かな。服の下に隠しておける。
ジュジュと琥珀を見ていたアオイが口を開いた。
「髪飾りはどうかな?」
「こんなくすんだ髪に飾っても似合わないだろうし、落としそうで怖いかも」
「ジュジュの髪は蜂蜜色で綺麗だと思うけど……」
「私も賛成! 髪飾りで可愛いくなったジュジュをみんなに自慢したい!」
「ありがとう…」
こんなに褒められたことない。いつも魔女見習いのお姉さん達からお手入れくらいしなさいと言われ続けていた。綺麗だなんて初めて言われて、誰の事? って聞き返したくなる。それも男の子に、アオイに言われた! わたしにも日記帳があったなら記憶しておきたい。
「ジュジュ? 僕、変な事言ったかな。ごめんね」
「ちょっと驚いただけだよ。そうだね。髪飾りは持っていないからお願いしようかな」
ドワーフのお父さんに渡すと、上着のポケットから出した銀の塊と琥珀を握る。一瞬強く光を放って、形を変えていく。久しぶりに見たドワーフの魔法。
「すごく素敵! 私にはもったいないかも」
琥珀を囲むように銀の花と蔓が可愛らしい髪飾りになっていた。
「つけてあげる!」
ノリカがジュジュの額にかかる髪をあげてぱちんと止めてくれた。鏡があれば見れるのにと言うと、お父さんは銀の塊をもう2つ出して握り込むと小さな手鏡にして、2人に差し出す。今は小さなモグラで大物は作れないが、これくらいお安い御用だと笑う。
「わたしにも? ドワーフ父さんありがとう!」
ノリカが手鏡をみて、これもみんなに自慢すると言っている。ドワーフ製の細工物はなかなか手に入らない貴重な物だ。お礼に夫婦を風にのせて空中散歩に連れて行ってしまった。
髪飾りをつけた時から体が温かい。まだ多くを取り込めないらしいけど、大樹のお父さんお母さんがくれた魔力だ。大切に使わせもらおう。
「ジュジュ……もう1度鏡を見て欲しい」
「落ちそう?」
なぜだかすごく驚いた表情のアオイに言われて鏡をのぞくと、金茶の髪と琥珀色の瞳をした少女がいた。これ私? 後ろ振り向いても誰もいない。やっぱり私だ。
琥珀を身に着けたことで本来の姿になったのかな。けど随分と変わってしまった。でも背は変わらないし、体型も変わらない。それはまだ成長途中としておこう。
「とても綺麗だよ」
「アオイも琥珀を身につけたら変わるのかな。いきなり翼は生えないよね?」
恥ずかしくて顔は見れないけど、アオイも変わるのならどんな風になるのだろう。想像だけでドキドキしてしまう。内緒だけど今だってカッコいいと思っているのに!
「魔女だけでなく、ジュジュに近づく奴からも守らなきゃ。盗られちゃう……」
アオイが1人でぶつぶつ呟いていると、ノリカがドワーフ夫婦を連れて戻って来た。
「驚いた! どこのお姫様かと思ったらジュジュだった」
ノリカが本当にジュジュだよね? 髪飾りをつけたり外したりしているが、もう金茶と琥珀色のままで変化はなかった。
「次はあたしが服でもこしらえようかね」
ドワーフのお母さんがエプロンのポケットの中を探り、巻き尺をだして3人の背にあてる。
「大きくなったね」坊やの背が伸びたと目を細めている。可愛くて仕方がないのだろう。
女の子の服は初めて作るから楽しみだと言ってくれた。レースやフリルもつけたい、ボタンも家に可愛いのがあったはずだ。活発な2人には動きやすい服にしようとデザインを考えてくれる。魔法ではないけれど、お母さんの作る服はどれも着やすそうで、ジュジュは坊やの服が羨ましかった。
「服すごく嬉しいです! でも3着は大変だよね。無理はしないでね」
「優しい子だね。大丈夫。ドワーフは頑丈だよ」
「じゃ楽しみにしています。私はもう一度階段に戻って上ってくるね。次の階でまた会おう」
日記帳に階段へ戻れるようお願いすると、姿が消えていく。
完全に消える前に、スカートの裾を咥えたものがいた。
階段に戻ったジュジュは、髪飾りを父と母に見せるように壁に沿って咲く花に近づいた。
「うわっ! 驚いた! 卵やヒナを食べないでね」
葉の陰に黄色い縞模様の掌にのるくらい小さな蛇がいた。時折リスが蔦を上ってくるので、蛇だっているだろう。枝には小鳥が巣をつくり、卵を抱いている。自然の営みとはいえ狙われたらかわいそうだ。でも体長より大きな卵は無理か。
「ドワーフのお母さんが服を縫ってくれるって。楽しみだな。次の階で着れるかな」
ジュジュはブラックを連れて次の階目指して上り始めた。
『うまく大樹の中へ潜り込めた。あれがジュジュか。赤い実はもう手に入らないと思ったが、ここでは獲り放題。さっそくいただこうじゃないか』
魔女の分身である小さな蛇は、大きな花の中に潜り、蜜を吸い始めた。




