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ジュジュと不思議な日記帳 ひたすら階段のぼります  作者: ななこ


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水の精霊

 アオイは砂漠にいた。 


 ほんの少しだけ風の魔力を使い、足跡がつかないよう浮いて移動している。尻尾が出ないくらい少しの魔力なら、魔女に悟られることはないようだ。


 風妖精の村からでて、あてもなく彷徨った。


 森を抜け、人の街、草原も通り過ぎ、誰もいない砂漠に来て、やっと自分が1人だけになったと安堵した。


 誰も巻き込みたくない。

 でも1人で立ち向かうには、力がまったく足りない。次に魔女が現たら、逃げることもできないだろう。


 遠くに水場が見えた。あそこで一休みしよう。食べなくても水は飲みたい。ジュジュからもらった大樹様の木の実はいざっていう時のためにとってある。


 砂漠には見たことがない不思議な形の木や草が生えていた。とげとげしたもの、分厚い葉っぱ。面白いな。


 木を見ると、どうしてもジュジュの顔が浮かぶ。今どこにいるんだろう。まだ風妖精の村? それとも階段に戻れた? 考えるのは君の事ばかり。


 ギラギラ照り付ける太陽を、沈む夕日を一緒に見れたならどんなに楽しいだろう。砂が波みたいだ。ほら、風妖精たちが走り出すと砂が動き出したよ。君の驚く顔がみたいな。


 僕の名を初めて呼んでくれた女の子。ずっと側で見守ってくれていた。赤ん坊の時からだっけ。今更だけどちょっと恥ずかしくなってきた。


 彼女のくれた朝露はほんのり甘くて優しい味。魔力がほんわり温かくなっていく。もし1人で魔女を倒すことできたなら、約束通り森の家まで風に乗って飛んで行こう。


 水を飲んでいると、声が聞こえた。


『…アオイ…アオイ…』


 誰? ジュジュの声ではないけど、優しい声だった。


『ここよ』


 足元から聞こえる。でも水の中から? 覗き込むと水面がユラユラとゆれだした。


「誰かいるの?」


 ゆれが収まると、魔女とそっくりだが、まるで別人のような優しい目をした女の人が映っていた。


『アオイ。やっと話ができた。あの子のおかげね』

「ジュジュを知っているの?」

『今、あの子は悲しんでいるわ。扉を開けてあげて』

「ダメだよ。ジュジュを魔女に会わせたくないんだ」

『守りたい者ができたのね。でもあの子がいなければ魔女は倒せない』

「あなたは誰?」

『水の精霊 美雨(ミウ)。いつでもあなたのそばにいるわ』


 水の中から透明な手が伸びてきて、アオイの手に重ねる。


『愛しい子。水の精霊王に会ってらっしゃい』


 アオイの体は重ねられた手に導かれるように水中に消えた。


 いつの間にか体のまわりを薄い膜で覆われていた。水の中なのに苦しくない。風の魔力は使ってないのに重たい体が沈まない。


 淡い光の粒が目の前に浮かぶ。泳いだことはないのに、思った方向に体がすいすいと進んでくれた。


 水の中は気持ちが良かった。以前どこか似た場所にいたような…。記憶を探る。


 そうだ、生まれる前だ。ゆりかごのようなところで、ぷかぷかと浮かんでいた。暖かくて、どこよりも安全で安心できるところ。今みたいに優しく抱かれていた。


「お母さん…あなたは僕のお母さんだ」


 光の粒はそれに返事するかのように、チカチカと明滅して、踊るようにアオイのまわりを泳ぎまわる。


 光の粒とアオイは深く深く、潜っていく。


 とぷん。見えない壁をすり抜けた先に、水の精霊の国はあった。


 光の粒は大きな湖の中央に建つ、白く輝く城へ向かっているようだ。いくつもの尖塔が見える。塔の窓から水が流れ落ちる。とても綺麗な城だ。


 途中幾度も雨が降り注ぐ。まだ魔力を操り切れない若い精霊たちの仕業だ。ザッーと降ったり、小雨だったりする。不思議と体も服も濡れない。楽し気な雨音を聞きながら、城の前までやって来た。


 扉がわりの水のカーテンをくぐると、水色の長い髪をした長身の水の精霊王が待っていた。


「ミウ、もうこの中にお入り」


 光の粒は、小さな石の中に消えて行った。


「あっ!」


 やっと会えたのに。本当のお母さんともっともっと話したかった。


「アオイだね。待っていたよ。私はミウの父、人でいえば君の祖父にあたる。ここにお座り。本当に会えるとは。とても嬉しいよ」

「お母さんとはもう会えないの?」

「会えるよ。でも今は魔力を使いすぎて、休ませないとならない」


 良かった。また名を呼んでもらえる。


「ミウがここへ連れて来たのなら、私から伝えろということだろう。どこから、話そうか。そうだ君のお父さんのことも話さなくてはね」


 水の精霊王は静かに語り始めた。


「君の母、ミウはとても好奇心旺盛な子でね。ここではない外の世界が見たいといって、太古の森へ行ってしまった。友達の木の精霊がいると言っていたな」



 雨雲に乗って太古の森に降りた。


 雨を降らせ、魔樹たち木の精霊たちと仲良くなる。特に樹王の妻、実璃(ミノリ)とは気が合った。


 美雨も火竜王の妻となり、繁茂に太古の森には来られなくなっていたが、時折森へおしゃべりにくる。


「もうすぐ今の大樹様と交代するの」

「ミノリは樹王様とはもう会えなくなるの?」

「いえ、私も樹王様と一緒に大樹の実となるわ」

「こうして座っておしゃべりはできなくなるけど、私は雨となって、あなたに話しかけるわね」

「ありがとう。私も色々な実や花をつけてお返事するわ」

「それは楽しみね」

「でも、私達はとうとう子を生すことができなかった…」

「まだ見つからないの?」

「森中を探しているのだけれど。でももう少し時間はあるわ。頑張って探してみる!」


 それでこそ樹妃様よ。2人は笑い合った。


 火竜王が友人である樹王の所に遊びに来た時のこと。


 話しが弾み、大笑いしているうちに魔力が高まり、うっかり森に火を点けてしまったが、太古の森で雨を降らせていた水の精霊に鎮火してもらう。


 それが王妃となる美雨(ミウ)との出会い。幾度も水の精霊王に願い出て、やっと婚姻の許しがもらえた。


 2人は友人である樹王夫婦から、子を生せる琥珀を貰い受け、魔力を注ぎ入れた。


 時間はかかるが、産まれるまで幾年でも待とう。夫婦の魔力が強大で、琥珀が割れないよう慎重に注ぎ込まなければならなかった。琥珀の中からどんな子が産まれるのだろう。毎日そればかり話していた。


 そんな幸せな時間を過ごしていたある日。


 火竜王の住まう国の真上から突然大蛇が落ちて来た。

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