とある騎士団長と銭湯アイドルの馴れ初め。
「団長……まだトイレから戻らないのか?」
「そういえばスティーブもケニーもいなくね?」
「おっと、そう言われるとウチの連中の方も何人か」
「犯人がいつ彼女を襲うか分からんちゅうに何しとんがちゃ」
クローザ王国の大衆浴場。
そこにクローザ王国の守護を司る騎士の一部……それも浴衣姿という大変珍しい格好の者達が集結していた。
その浴場の宴会場にて今回催されるコンサートの真打、アイドルのコーネリア殺害の予告状が来たという、浴場のオーナーの通報があったからだ。
そしてそれに、王国の騎士団は応じ。
こうして犯人を油断させるため、一般客に紛れる形で一緒に風呂に入ったりしていたのだが…………団長を始めとする者達はどうやらトイレに籠っているらしい。
「まさか、フルーツ牛乳が中ったか?」
「いやいやウチの団にそんなにお腹弱いヤツいたっけ?」
「団長もお腹弱かったのか」
「うほっ。だがそんなギャップもイイ」
だがしかし。
そうは言うものの、そしてそんな状況になってしまったものの、彼らはこの宴会場で発生するかもしれない事件をなんとしてでも防がなければいけない。
「あ、真打登場みたいです」
「おおー。なかなか別嬪さんじゃのぅ」
「お前見た事なかったのか」
「嫁がこういうの厳しくてのぅ」
「ヒョヒョヒョッ、エエ体しとるのぉ」
そしてそんな不測の事態の中……ついに真打は現れる。
客席側のライトが消えて暗くなり。
壇上にスポットライトが当たり明るくなる。
縦ロールにした長い金髪と青い瞳。
そして煌びやかな青いドレスが目を惹く十代後半くらいの美女がそこにいた。
彼女はかつて、貴族令嬢であったという。
しかしライバル貴族に貶められ、平民となり。
日銭を稼ぐためにこうして、貴族時代から得意であった歌を武器にして宴会場のアイドルの地位を手に入れたそうな。
そしてそれ故に、彼女は美しくあろうと、常に努力していた。
その艶のある金髪を、かつて貴族時代にしていた縦ロールにして。
真打のアイドルに相応しい煌びやかなドレスを、黄金比率と例えられるレヴェルにまで形を整えたその身に纏い……浴場のお客様達へと彼女は笑みを向ける。
「みーんなー! こーんにーちはー!」
『『『『『こーんにーちはー!』』』』』
だがしかし……その口から最初に発せられるは予想外の挨拶。
まるで教育番組の司会として登場する人物が出しそうなモノだった。
いや、その浴場の客の中には子供もチラホラいるため、当たり前な挨拶かもしれないが。
「…………これ、俺達も合わせなきゃダメっすか?」
「なんとしてでも合わせるんだ。じゃないと犯人に感付かれる」
「それじゃあ、そろそろお金を出しとかんとのぉ」
「そうしないとこっちに来ちゃくれんしな」
「お前ら、そりゃストリップの話だ」
その挨拶を初めて聞いた騎士が呆然とする。
しかしそれでは、彼女を殺そうと思うくらい彼女の事を知っている犯人に、自分達がファン以外の何かだと思われ警戒されてしまう。
なので団員の一部はなんとか仲間に、周りとの同調を命じた。
「今日は来てくれてありがとー! みんなのためにも、今日も頑張っちゃうね!」
『『『『『Woooooohoooooo!!!!』』』』』
「…………これも合わせなきゃダメっすか?」
「合わせなきゃダメだろう。ほら見ろ、子供達もしてる」
「どんだけなんやこのアイドル」
「ヒッヒッヒッ。ええケツっちゃなぁあの子」
そしてついに、彼女の歌は始まる。
それは、クローザ王国で生まれた歌ではない。
クローザ王国から見て東側の国で生まれた、いわゆるこぶしを用いる歌だ。
美しい見た目からは想像できないまさかの歌のチョイス。
というか彼女はこのタイプの歌をどういう経緯で知ったのか。
まさか家庭教師辺りから教えてもらったのか。
「おぉ……ばんなそかな」
「いやいやこいつは驚いた」
「予想外の歌っすね」
「グロロロ……よいではないかよいではないか」
「おいお前ら、ちゃんと周囲に気を配れ」
そしてその歌は、一部の騎士をも魅了する。
魂を込められた歌であるが故に、騎士達の魂もが高ぶる。
しかしそれはそれとして……彼らは事件を未然に防ぐためここにいる。
歌という一つの芸術を堪能せずにこの場にいるのは、プロに対して失礼に当たるかもしれないが、そんな体たらくでは事件を防げやしない。
「ッッッッ!?!?!? ガハッ!!!!」
そしてそれは……突然に起こってしまった。
騎士達の目を、そして魔術的な結界をかい潜り。
コーネリアが壇上で、大量の血を吐き出した。
「ッッッッ!?!?!?!? んなっ!? 馬鹿な!!」
事態を一瞬遅れて把握した騎士達は、咄嗟に行動する事ができなかった。
そもそも司令塔である団長がこの場にいない上に、どのようなトリックを用いてコーネリアに危害を加えたのか分からず……動揺したのだ。
しかしそれでも、彼らは騎士。
すぐにコーネリアを救うべく。
すぐに観客の混乱を鎮めるべく。
すぐに犯人を捜さんと動き始める。
「みなさん、クローザ王国騎士団です! 落ち着い――」
「どいたどいたぁ!!」
だがしかし、その声は途中で遮られる。
騎士団の誰もが知る声――団長の声が出入口の方から聞こえてきたのだ。
「ッッッッ!?」
そして、一人の騎士が団長のいる方へと目を向けた直後。
そんな彼の頭上――今まさに立ち上がらんとしていた彼の頭上を、ハードル競争のハードルを越えるかの如く、一つの影が飛び越えた。
飛び越えられた者。
そしてその場面を視認できた者は瞬時に状況を理解した。
飛び越えたのは、浴衣を着た男性。
赤く短い髪、そして時折浴衣のはだけた部分から見える、鍛え上げられし筋肉に刻まれた歴戦の傷痕が目を引く、見た目二十代くらいの美丈夫。
知る人ぞ知る、クローザ王国騎士団の団長だ。
「くっ! まさかと思ったが本当にそうだったとは!」
そして団長は、立ち上がっている途中の団員の一人の頭上を飛び越えるという、陸上選手もビックリの事を成し遂げ、さらには料理がいくつも置いてあるテーブルに着地し、料理を豪快にもひっくり返したりしつつ走り出し……すぐに壇上にいるコーネリアへと駆け寄る。
彼女は吐血をした後、そのまま壇上でうつ伏せで倒れていた。
団長が駆け寄り、仰向けにすると、彼女の胸はまだ上下している。
まだ息はある。
しかしその呼吸は苦しそうで、そして大量の吐血もあり……このままでは犯人が仕掛けたであろう何かにより亡くなってしまうかもしれない。
けれど団長は狼狽えない。
彼はすぐにその懐から、液体が入った小瓶を取り出す。
そしてその蓋を咥えて、噛み締め無理やり外し、その中身を口に含み――。
『『『『『ッッッッ!?!?!?!?!?!?』』』』』
なんとそのまま、彼はコーネリアへと口付けた。
コーネリアのファンからしたら卒倒ものの展開だ。
「…………ッッッッ!?!?!? ~~~~~~ッッッッ!!!!」
そして当のコーネリアは……何かを受け、衰弱していたハズの彼女は、団長の口移しという衝撃的展開によって目が覚めたのだろうか。顔を赤く染め、グイグイと団長の胸元を手で押してその身を離そうとする。
けれど団長は、離れない。
口移しの体勢を一切変えない。
しかし、コーネリアの喉がゴクリと音を立てるや否や。
団長はすぐに彼女から離れ、浴場の人気アイドルに口移しをした自分、さらにはその影響か、その場でゲホゲホと咽る人気アイドルを見てポカンとしている団員達に指示を出す。
「今すぐ食堂にいる者に聞き取り調査を!! 怪しいヤツがいなかったかどうかをすぐに突き止めるんだ!!」
その顔は真剣そのもの。
人気アイドルと口付けをしたにも拘わらず一切動じていないように見える。
「だ、団長!! 状況の説明をしてください!!」
「この食堂の料理に微量ながら毒が含まれていた!!」
人気アイドルとの口付けという、あまりにもスキャンダラスなシーンを見せ付けられたかと思いきや、いきなり自分達に指示を出してくる上司に納得がいかないのだろう。騎士の一人が団長にそう言うと、団長はすぐに驚愕の事実を告げる。
「ただし、今回使われた毒は一種類じゃない。二種類揃って初めて人体にダメージを与えられる二成分毒素だ」
『『『『『…………な、なんだって?』』』』』
ほとんどの者にとって、それは初めて聞くタイプの毒であった。
そしてそれ故に団員どころか観客、さらには口元を拭うコーネリアまでもが頭上に疑問符を浮かべる。
「俺が彼女に飲ませたのは、その二種類の毒に効く回復薬だ。まったく。一滴でも吐き出させたら効果が出なくなるとかあのババア……吐き気を催すほど苦いのに、それでも飲ませるには口移ししかないだろうがッ。というか下手すりゃ俺、社会的に抹殺させられるぞ…………ん????」
団長は説明を続けた。
しかし途中から愚痴……おそらくその回復薬を持たせてくれた者へ向けた、なぜアイドルに強引に口付けをしたのか、その理由がよく分かるそれを吐き始めたが、途中で周囲の視線に気付く。
「お前ら、すぐにこの施設の外で包囲網を敷いている騎士に連絡しろ!! 今出て行こうとする怪しいヤツは誰であろうがしょっ引けとな!! そして施設内にいる団員は全員犯人を見つけ出せ!! 以上!!」
「お、押忍!!」
団長の指示で、すぐに団員達は動く。
すると、ようやく体が回復し始めたのか。まだ、苦しそうな顔をしてはいるものの、コーネリアが団長に「あ、あのぉ」と弱々しい声をかけてきた。
「コーネリア嬢、今はまだ動かない方が」
「い、いえ…………それより先ほどのは…………私を、助けるための行動だったんですよね、申し訳ありません」
彼女は、軽く頭を下げた。
まだ本調子ではないせいであろう。
しかし彼女は、なんとか頭を下げて。
美丈夫に口付けをされたせいなのか、その頬を少々赤くしつつ……なんとか言葉を紡ぎ出す。
「一度でもあなたを、性犯罪者だと疑ってしまって……それから、助けてくださりありがとうございます」
「いやいやいや、何にせよあなたに酷い事をしたので謝罪も感謝も要りません」
一方で団長は苦い顔をした。
彼は常日頃、騎士として場合によっては自分が悪者になる覚悟もしていたので、改めてこうして謝罪をされるとどう返したらいいのか分からないのだ。
「それよりも、感謝の言葉は……あなたが飲まされた毒……この施設の料理に混入させられていた方の毒の存在に気付いた……今はトイレのお世話になっている団員達に言ってやってください。彼らの胃が弱かったからこそ、毒の存在に気付けたんですから」
「団長、もっと言い方を考えてくださいよ」
そして、さらに団長がそう告げると。
宴会場の出入口の方から一人の騎士の声が聞こえてきた。
弱々しい声だ。
団長とコーネリアはすぐにそちらに目を向ける。
するとそこにいたのは、少々青ざめている団員二人だった。
「お、お前ら! スティーブにケニー!」
「ま、まさかお前らがここにいなかったのは……犯人が料理に入れていた毒のせいだったのか!?」
団長とコーネリアのやり取りで、大体の事情が見えてきた団員達が、二人に声をかける。
「そうだぜコノヤロー」
「まったく。以前から聞いてはいたが、二成分毒素なんてモノが実在するとはな。まぁ俺達の胃はその片方にもダメージ負わされるけど」
スティーブが口汚い言葉を。
そしてケニーは自嘲気味な言葉を返す。
というかケニーは二成分毒素の存在を知っていたようだ。
胃が弱い故に、どんな物を食べれば大丈夫か研究してたりしたのだろうか。
「団長が毒殺のセンも想定して回復薬を持ってて良かったよなぁ」
「ああ。それはそれとして確かに団長の言う通り吐き気を催す回復薬だったから、腹痛もあって今まで捜査に参加できなかったぜコンチクショー」
「うぶっ」
そして、この時二人は気付かなかった。
コーネリアが、団長に無理やり飲まされた回復薬の副作用である吐き気を、まだ覚えていた事に。
そして『吐き気』という単語を聞いて、今までなんとか堪えていたそれを改めて自覚してしまい……今にも吐きそうな状態になった事を。
「まぁまぁ、二人もお手柄だ」
しかし団長は、その事に気付かない。
それどころか彼は、解決のための手掛かりとなる、口内に残っていた毒をトイレで提供してくれた二人の頭をポンポン叩く。
見た目こそ二十代くらいだが、団長は彼らよりも年上なのである。
「お前達のおかげで解決したようなモンだ。今夜の宴はお前らをメインに「クソッタレがああああああああ!!!!」
「団長! 犯人見つけました!」
するとその時だった。
何者かの絶叫が響き渡るのとほぼ同時に、宴会場の出入口から一人の騎士が報告のため現れる。
「施設内の料理人の一人として紛れてました! しかもその犯人、団長の言う毒があまり効果が無かった場合に備えて、なんとコーネリア嬢に贈るハズだった花束の花にも毒を仕込んでいt「オヴェエエエエエエエエエエッッッッ!!!!」
そして、その彼の報告――特に毒の部分が。
コーネリアの吐き気に対するトドメとなってしまった。
幸いにも、飲んだ回復薬まではリバースしなかった。
しかしこの事件をキッカケに、彼女はやむなく……そういうゲロインなキャラも受け入れてくれる業界にも手を伸ばさなければいけなくなったのであった。
※
それから、早五年。
流行というモノはすぐに切り替わり。
いつしか銭湯アイドルはコーネリアから別の誰かへ変わっていた。
しかしだからと言って、彼女が失墜したワケではない。
今でも、ゲロインなキャラも受け入れてくれる業界で活躍していた。
五年前に遭遇した、歪んだ愛ゆえに命を狙われた事件も、貴重な経験として活かして……他の同業者が気圧されるレヴェルの存在となっていた。
「ただいまー!」
いやそれどころか。
彼女の生活環境も変わっていた。
「おう、おかえり」
コーネリアの挨拶に、なんと彼女の家で料理をしてる団長が答える……という、彼女のファンからしたら卒倒ものな生活環境へと。
そしてその影響か、彼女は五年前も出した、教育番組の司会として登場する人物が出しそうな口調で普段は生活していた。
「だんちょー! お腹減ったー!」
「ったく。しょうがないなぁ、お前は」
実は事件の後……コーネリアは団長の事を忘れられなかった。
まぁ美丈夫に強引に口付けをされ、しかもそれが命を救うためだったのだ。逆に意識しないのはあり得ないかもしれない。
そしてそれ故に、彼女は、自分を助けるためとはいえアイドルに強引に口付けをした事で、世間を良い意味でも悪い意味でも騒がせた団長と、秘密裏に接触し……世間を鎮めるためにも『いっそ結婚する』という強引な手段に打って出たのだ。
団長としては願ってもない申し出だった。
いや、アイドルと結婚できるからとかの理由ではなく、王国民を守る存在が世間を騒がせてしまった事への申し訳なさや、そのアイドルにしてしまった口付けへの後悔があったからである。
「というか、俺をいつまで団長と呼ぶ気だ? 俺にはグr「だってだんちょーって呼び方に慣れちゃったんだもーん」
「…………お前なぁ」
しかしだからと言って、団長がコーネリアに嫌な印象を抱いている、というワケではない。
寧ろ彼女に好印象を抱いていた。
たとえゲロインとなろうともそれを利用し這い上がる、その精神力の強さを一人の人間として尊敬しているのだ。
「というかだんちょー、いつになったら…………一緒に寝てくれるの?」
「ブフォ。お前なぁ。自分が芸能人だって事を忘れていないか? もし妊娠したら仕事が無くなる可能性だってあるだろうがッ」
一方で、コーネリアは団長に対し団長以上の愛を向けていた。
口付けをされて以来、ずっと気になっていた人物と結婚した事により、その辺のリミッターが壊れたのだろうか。とにかく彼女は結婚してから団長へのアプローチが増えていた。
けれどそれもまた、良いかもしれないと……団長は最近思い始めていた。
なぜならば、彼が今まで歩んできたのは血で染まった道。
下手をすれば、穏やかな生活を二度と送れない可能性もあった道なのだから。
だからこそ、団長は。
この幸せを壊さないよう、大切にしたいと……思うのである。
ヒロインをゲロインにするなというルールはない(ォィ
ちなみに自分。
某ガオなレンジャーな歌手と握手した事があります。
ガオなレンジャーを見直さなきゃなぁと思いました。
個人的には伊達さんとも握手したかったぜ。