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1-2 フォルテ捕獲大作戦

 

「レオンハートの生徒? ……いや、通ってないね」


「え? レオンハート寮の生徒の通行記録? ハハ、見返すまでもなく無いよ。存在が珍しいから通ったら覚えているからな」




「ウッ……終わった……」

「エリック! しっかりしてください!!」


 貧血を起こしたようにふらふらとよろめくエリックの体を慌てて支えた。

 元々色白なエリックだが、顔色が悪いせいでより一層白く見える。


「正門にも裏門にも通行記録が残っていませんでしたね。ご飯も食べずにアカデミーのどこかにいるんでしょうか」

「もしくは……」


 エリックと並んで雑木林に埋もれている塀の歪みを眺める。

 恐らくベネットが学園の敷地内に入ってきた隙間だ。大型犬は問題なく通過できそうだし、少年も無理をすれば何とか通れそうに見える。


「うーん、図書室や修練場にいるのかもしれないけど……フォルテの部屋から私物が無くなっていたんですもんね」

「うん……」

「やっぱりここから出て行ったんですかねえ」

「うぅ……」


 エリックが胃のあたりを押さえてうめき声をあげる。

 友人がいなくなったというのは確かに一大事だけれど、それにしても反応が大きいような気がする。何かあるのだろうか?


 エリックの背中をさすっていると、心配されていることに気づいたらしいエリックがこちらを元気づけるように笑みを浮かべようとして、失敗した。笑みと真顔の間の中途半端な表情でぽつぽつとエリックがつぶやく。


「僕たちは入学にあたって色々誓約をするんだけど……」

「はい」

「卒業後は何らかの形で国に貢献することになっているから、基本的に正当な理由の無い中途退学は認められていなくて……」

「はい」

「もし、万が一、最悪のことだけど、このままフォルテが戻らなくて、勉学に嫌気が差したとかの自己都合の出奔だと判断された場合……」

「あ、分かりました。こういうケースは大体違約金を支払わされるやつですね!」

「……そう……」


 蚊の鳴くような声だった。


「でもそれはフォルテの家に請求されるんじゃないですか?」

「もちろんそうだよ。でも僕は寮長だから……監督不行き届きを問われる可能性がある。可能性というか、まあ、確定した未来だな、ハハ……父上母上……申し訳ありません……」


 後半はもうひとりごとである。焦りや諦め、申し訳なさなど色んな感情が処理しきれなくなったようだ。

 そんなエリックの肩を叩くように勢いよく掴む。


「諦めないでくださいエリック!」

「そうは言っても……門からじゃなくてこんな穴を通って私物を全て持って出ていくなんて……もうこれ戻ってくる気の無いやつじゃないか……。これが発覚したら僕はもう……」

「なあんだ、ほら、エリックも気づいてるじゃないですか」

「え?」

「つまり……バレなきゃいいんですよ!」


 何を言っているんだコイツ。


 エリックはそう言いたげな顔でこちらを見ているが特に気にしてはいけない。

 ちっちっと指を左右に振ってエリックに言い聞かせる。


「十中八九、フォルテはここからこっそり王都内に出ていますよね?」

「う、うん」

「今は幸い春休み中で、授業に出席する必要がありませんよね?」

「うん……」

「ほら解決です! つまり我々もここから王都内に出て、春休みが終わるまでにフォルテを見つけて連れ戻せば何も問題ありません! 発覚しなければフォルテの出奔も無かったのと同じですからね」

「な、なにを……」


 言っているんだコイツ。


 と、途中まで言いかけたエリックだが、すんでのところで自分の口を覆って言葉を飲み込んだ。

 そのまましばし考え込むように目を伏せる。


「いや……でも確かに、フォルテも遠くまで行けるような金子を持ち合わせていないはずだから……できるのか……?」


 徐々にエリックの顔に血色が差し込み始める。

 かすかな希望にすがるように、エリックが不安げにこちらの顔を覗き込んだ。安心させるようになるべく優しく、優しく微笑みながらエリックの手を握る。


「エリック……」

「アンさん……!」

「できるできないではなく、やるしかないのでやるんです」


 死にそうな表情から、徐々に笑みの形になっていたエリックの顔がぎしりとこわばった。

 包んだ両手が逃げたそうに引かれるのを感じたが、逃がさないぞという意志を込めてより強い力でぎゅっと握りしめる。


「根性です根性、根性全解決、レオンハートの教えを思い出して」

「いやレオンハートにそんな脳まで筋肉みたいな教えは無いよ」

「では作りましょう。これで解決です」

「む、無茶苦茶だ……」

「ワウ!」


 足元から犬の鳴き声がして、二人揃ってそちらへと視線を向ける。

 歪んだ塀の隙間から、するりとベネットが入り込む。やはりここからベネットは侵入していたようだ。


 お行儀よくおすわりをしているベネットの頭を片手で撫でて、それから再度エリックに微笑みかけた。

 もうこちらの微笑みに嫌な予感しかしていないらしい。エリックは一歩二歩と後ずさろうとしているが片手はいまだに繋がれたままなので距離が取り切れていない。



「では心強い味方も一匹増えましたし、まずは王都内の乗り合い馬車を総当たりしていきましょう!」



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