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0‐1 プロローグ

 夢を見る。

 繰り返し繰り返し、あの日の夢を見る。



「君が聖女?僕は勇者のベネット!これからよろしくね!」


 ……これはちょっと違う。大分古い記憶。

 旅立ちの始まりの日のこと。



「ついにここまで来たか勇者に聖女よ。魔族を統べる余に勝てると本気で思っているのか?」


 これも大分古い記憶。

 旅立った理由の魔王退治の時。



「余を倒したとて……。真の敵はいまだ潰えてはおらぬぞ……」


 ちょっと進んだ記憶だ。

 倒した魔王が何か言い始めてベネットと二人で戸惑ったのをよく覚えている。



「祝福をくれてやったのに神に弓引く愚か者め!呪いあれ……災いあれ!汝、この世界に存在すること能わず!」


 そう、ここだ。

 使命を与えたもうた神こそが本当の敵だと魔王に教えられて、「それじゃあ倒しに行くかー」とベネットとお供にした魔王とで神の元へ殴り込みをかけに行った時のこと。


 繰り返し繰り返しこの瞬間を夢に見る。

 目が開けられないほどの眩しい光の放出。ベネットと魔王の届かなかった手。

 神にかけられた呪いは強力で、瞬く間に私を世界から追い出した。






「おお神よ。絶対殺されると思ったのに異世界への追放で赦してくださったお慈悲に感謝いたします」


 聖女(元)の朝は早い――。

 毎日変わる適当な祈り文句を捧げながらパンをちぎって口に入れる仕事から始まる。


 異世界に追放されて早一年。

 初めは生きていることに驚き、次に普通に人間が生きていける世界に飛ばされていることに驚いた。

 ふらふらとさまよって辿り着いた村の村人たちは、身寄りの無い女を怪しむことなく「行くとこないんけ?んだらば牛と畑さ手入れすんの手伝ってくんろ、したっけ余った小屋さ使ってええぞぉ。」と受け入れてくれた。何というゆるさだろう。


「アンちゃーん、いるかーい」


 開けっ放しにされたドアからひょっこりと、恰幅の良い女性が顔を覗かせた。


「あらクレアおばさん!お久しぶりです」

「本当に久しぶりだねえ、はいこれ王都のお土産」

「おお……箱からも漂う都会の香り……」

「これが今流行ってるお菓子なんだよ」

「ありがとうございます!でも、どうしてこんな春の時期に?」


 クレアおばさんはこの村の人間としては珍しく、王都まで出稼ぎに行っている女性だ。

 この田舎ではたまーーーにやってくる行商人と毎年夏と冬の休暇で帰省するクレアおばさんだけが文明をもたらしてくれる。大変貴重な存在だ。


「娘夫婦にね……」

「はい」

「子供が生まれたんだけど、あ、娘夫婦は南の港町に住んでいるからこの村にはいないんだけど、冬に会ったんだけどそれがもうかわいくてかわいくて、側にいてあげたくて、娘も手伝ってほしそうにしているしね」

「はい」

「アンちゃん……」

「はい」

「アタシの代わりに王都で働いてみたくないかい?」

「はい?」


 予想もしていなかった誘いに思わず首を傾げてしまった。

 がっしりと両手を掴まれて逃げられない気配を察する。


「良いところなんだよ。あ、もちろんこの村も良いところだけどね、ほら、やっぱり年頃の娘さんだし王都に興味ないかい?今渡したお土産なんてありふれた存在だから毎日目にするし」

「目にするだけで食べられはしないんですか?」

「……食べられる食べられる!ちょっと忙しい日は無理かもしれないけど!でもそんな忙しい日ばっかりじゃないし、お休みもあるし、お休みには観光もできるし!」


 要するに。


「クレアおばさんは仕事を辞めてお孫さんと一緒に過ごしたいけど、そのためには王都で働く代わりの人間が必要ということですか?」

「……そう!」


 くっ、と観念したようにクレアおばさんがうつむく。なるほど。

 脳裏にこの世界……この村に来てからの思い出がよみがえる。


 初めての牛の世話。

 初めての畑の世話。

 あたたかな村の人々。

 救世の旅の中ですぐ側にあったけれど決して自分が居る事のなかった穏やかな日々。


「……分かりました、任せてください!」

「本当かい?!」

「本当ですとも!わたしでお役に立てることでしたらやってみましょう」

「ありがとうねぇ……」


 しっかりと掴まれていた両手がぶんぶんと上下に振られる。

 よほど嬉しかったらしい。釣られて自分の顔もゆるんでしまう。


「春の休暇は短いから、すぐに王都に向かえるかい?」

「頼まれている仕事はほとんど無いので、村長にさえ連絡できれば明日にでも行けますよ。……あ、でも」

「なんだい?」

「クレアおばさんって王都で一体何のお仕事を……?」


 詳しい事を把握せずに勢いだけで請け負った無鉄砲さがツボに入ったらしい。

 大きな笑い声をあげながらクレアおばさんは言った。


「大物だね! きっとあんたなら間違いなく上手い事やれるよ。王立アカデミーの寮母を問題なくね!」




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