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林檎の刑務所  作者: 中森 五郎
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1話 新たな看守

とある田舎の広大な平原に一本、道があった。

道には一台のトラックが走っていた。

トラックの中には檻が、さらにその中には4人の男がいた。

一人は檻の中で座り、もう一人は立ち、あとの二人は殴り合いの喧嘩をしていた。

喧嘩をしているのは金髪の中年の男とガタイのいいパーマの男だった。

お互いボロボロになりながらも、拳を動かすのをやめなかった。

「なあ、あんた。座ったらどうだ。到着まではあと1時間はあるらしいぞ」

檻の隅っこで胡座をかいている小柄の男は、檻の鉄格子を掴んで立っているスーツ姿の男に話しかけた。

「お気遣いどうも。でも結構だ。僕は椅子にしか座らないたちでね」

スーツの男は小柄な男に見向きもせず、檻の外の壁をじっと見つめて言った。

「そうか。…それにしてもあの二人、乗って早々に喧嘩とは。怖いねえ」

小柄な男は小声で言った。

「着く前にこれとは、これからの監獄生活が大いに不安だよ。ああ怖い、怖い」

スーツの男はそう言う小柄な男の方に少し顔を傾けた。

「…僕には君が本当に怖がっているようには見えないな。随分と余裕がある。「花が開いた」んだろう、違うかい?」

小柄な男はフッと笑った。

「余裕というなら、そういうあんたこそ。これから地獄の生活が始まるというのに、あんたはさっきから落ち着いた表情を一切崩していねえ」

「地獄かは自分の目で見てから判断するさ」

すると、金髪の男が殴られて、ついに倒れた。

「いいか、次に俺の髪を馬鹿にしたら、脳天をピストルでぶち抜いてやるからな。分かったか?ゴミハゲ」

パーマの男がそう言うと、金髪の男は強く唇を噛んだ。

「の、能力が開花したら、次に地を這うのはお前の方だああ!」

金髪の男はそう言うと、後ろを振り返った。

「…おい、お前。そこのスーツを着たお前。なーんでスーツなんか着てんだあ?ムショに就活でもしに行くつもりかあ?」

金髪の男は立ち上がって、スーツの男の方へ歩いた。

「おい、聞いてんのか?てめえのことだよ、てめえ」

金髪の男はスーツの男の肩に血まみれの手を置いた。

「おいおい、あんた。さっきそこの兄ちゃんに喧嘩ふっかけて、またか?喧嘩してないと生きていられないのかよ」

「お前は黙ってろ!チビがあ!…おい、無視してんじゃねえぞ。さっさと振り向け」

スーツの男は言われた通り、後ろを振り返った。その目は嘔吐物でも見ているかのような冷ややか目をしていた。

「この手を退けてくれるかな?一着しかないんだ。血がこれ以上滲むと困る」

「あん?舐めたこと言ってっと、その顔面…」

すると、スーツの男の肩に火がついた。そして金髪の男の服の袖に燃え移った。

「うぅうあわるあああ!何だこれええ、熱ちい熱ちいい!」

金髪の男は急速に燃え広がるシャツを必死に脱ごうとした。

「うううああ、くそっお!焼ける、体が焼けるうう…あれ?熱くない。全然熱くねえ。火傷もしてねえぞ」

シャツを脱ぐと突然、金髪の男は我を取り戻したように落ち着いた声で言った。

裸になった金髪の男の上半身は赤くもなっていない。

「は?幻覚?」

火は幻覚ではない。脱げたシャツは現在進行形で燃えている。そしてすぐに燃え尽き、灰が残った。

「な、何をし、した。の、能力か?お前が火を出したのか?」

金髪の男は後退りながら言った。そして檻の角まで来て、怯えながら座り込んだ。

「はは、すごいな。…んで、試したか?その能力」

小柄な男はまた小声でスーツの男に問いかけた。

「何の話?」

スーツの男が聞き返すと、金髪の男はコンコンと

檻の棒の一つを叩いた。

「ああ、脱出か。当然やってみたけど、無理だったよ。この炎は鉄ぐらい溶かせるはずだけど、この檻はどうやら特殊な素材で出来ているらしい」

「まあ、当然といえば当然か」


一時間後、トラックの揺れが止まった。

ガチャという音がした後、扉が開き、運転手が現れた。運転手は無言で檻の鍵も開けた。

「出ろ。…分かっていると思うが命令に背いたら、すぐ殺す」

4人は一人ずつ、檻から出て車を降りた。金髪の男は辺りを見回して息を呑んだ。ここはもう刑務所の中で、巨大な壁に囲まれていた。

停まったトラックの前には二人の男がいた。背の高い痩せた男と全身黒色の衣服を纏った男だった。

4人は二人の男の前に並ばされた。

そして、背の高い男が口を開いた。

「俺の名前はカウ。この刑務所の看守長をしている。そして、まずは…」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、カウ。…おい、お前え!何、裸になってんだ!?」

長身の男、カウの隣に立っていた黒服の男は突然叫び出し、金髪の男を指さした。

「い、いや、これはこいつに…」

金髪の男はスーツの男を指さした。しかし黒服の男はそれに見向きもせず、髪をくしゃくしゃとかき乱した。

「おめえ、右乳首と左乳首とへそで…顔みてえじゃねえか!うわあ、どんどん顔に見えてきたあ…気持ちわりい」

「おいフロッグ、今は我慢して黙ってろ」

「てめえ、さっさとそれ、どうにかしろおお!!」

金髪の男は、黒服の男、フロッグの勢いに呑まれて急いでズボンを脱いで上半身を隠した。

「こ、これでいいですか?」

すると、フロッグは口をあんぐり開けた。

「てめえは、アホかあ!顔に見えた時点で、俺にとってそれはもう人間同然なんだよ。生きているんだよ!それじゃあ苦しくて呼吸できねえだろう!!後ろ向いとけ」

言われた金髪の男はすぐさまズボンを手放して、後ろを向いた。

フロッグは呼吸を荒くして、疲れた顔をした。

「すまないな。こいつは少し神経質な所がある。…では本題に戻るが、この中にキャメルはいるか」

カウが言うと、スーツの男が手を上げた。するとカウはスーツの男、キャメルの前に歩み寄り、手を出した。

「よろしく、キャメル。今日から君も看守の一員だ」

カウがそう言うと、他の三人は眉を上げた。

「は?看守だと…」

パーマの男は困惑した声で言った。

「よろしくお願いします、看守長さん」

キャメルはカウの手をとり、握手した。

「じゃあ、残りの三人の囚人は任せたぞ、フロッグ」

「…ああ、了解した」

「ではまず、看守室から案内しよう。ついて来い」

カウが言って歩き始め、キャメルはあとについて行った。その場を去っていくキャメルを見て、小柄な男は声をかけた。

「お、おい、あんた…」

「…悪いね」

キャメルは振り返り、首を傾けて微笑んだ。


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