1.不幸の女はまだ生きていた
私は、富光 未憂。
物心ついた頃からずっと、苗字のせいで散々不幸だなんだと言われてきた。
とはいえ、実際私も本心ではその通りだと思っている……自分は不幸の女だと。
優柔不断で自分じゃ何も決められない、そんな馬鹿な女。
自分で決めたところで、その選択の先の失敗はもう見えている。
生まれつき、何をやっても駄目な人間だから。
大人しく口下手で、さらに要領も悪い。
何も悪い事をしていなくとも、あらぬ誤解を招いて勝手に大事にまで発展させてしまう。いつも濡れ衣ばかり。
自分とは全く無関係なトラブルに突然巻き込まれる、なんて事もしょっちゅう。
容姿だって見れたもんじゃない。
もちろん恋人なんていなかったし、手が早い事で有名だった上司も、いくら妙齢の女だからって私だけはしっかり避けていた。
(それはそれで被害を受けずに済んで、ある意味ありがたかったが)
毎日毎日仕事に忙殺され、気弱な性格ゆえに舐められ、何かと皆に良いように使われていた。
普通なら、不当な扱いを受けたからとしっかり反論するんだろう。
きちんと自分の意思を表すんだろう。
でも、私にはできなかった。
どのタイミングでなんと言えばいいのか分からなかった。
絶え間なく与えられる苦しみから少しでも身を守ろうと、脳が麻痺して止まってしまっていた。
私にはそれ以上どうしようもなかった。
どうしようと考えたところでどうにもならなかったし、どうにかする気力もなかった。
だから、耐えるしかなかった。
そんなある日、とうとう耐えきれなくなった私は駅のホームから飛び降りて自殺した。
いつも長々悩むくせにこの時は珍しく早い決断で、そこから行動に移すのも人生で一番なんじゃないかってくらい早かった。
予想以上になかなか痛かったが、初めての『私の決断』はうまくいった。
思っていたより、逝くのはあっという間だった。
終わりはなんともあっさりとしていた。
しかし、それでようやく全てから解放されたかと思いきや……なぜか別の世界で、とある貴族の奴隷としてまた生きることになってしまったのだ。
『ミュー・フィルコート』。
それがこの世界での私の新しい名前。
幸いにも、偶然前世と似た音の名前だったから覚えやすかった。
しかし、それでも『未憂』としての意識がまだ染み付いていて、慣れるまでに長い時間かかったが。
本当に突然、何の説明もないまま。
どうしてこうなったかも分からないまま。
年齢も、見た目も、中身も……全てがあの日そのままで、別の世界に来てしまった。
残酷にも、終わらせたはずの私の人生はまだ終わってくれないようで。
もういい、やめてくれと強く願ったはずなのに……まだ懲りずにさらに続きを紡ごうとしているのだった。