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うつくしい二つの人形  作者: あさぎ
一章 人形は歩き出す
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二つの人形は、鬱くしい。

 


 静かな屋敷の一室に、オルゴールの音色が流れ出す。


 掃除をしていた数人のメイド達が一斉に顔を上げ、壁の時計を見ると……針は16時を指していた。


 16時は午後のお茶休憩の時間。

 一日中働き詰めの彼女達の唯一の楽しみだった。

 美味しい紅茶を飲んだりクッキーを摘んだりしながらお喋りする、楽しい時間だ。


 間を開けずに今度は、どこからかふんわりと紅茶の優しい香りが漂い始め、みるみる満面の笑みになっていった彼女達。

 箒をその場に適当に立て掛けて、軽やかな足取りで部屋を出ていった。







 人がいなくなった部屋で、時計のオルゴールはまだ鳴り続けている。


 壁にかけられた、その大きなからくり時計。

 曲調に合わせるように小さな人形が2体、くるくると楽しそうに回っている。




 目を凝らしてよく見ると……片方は短いクリクリの金髪の男の子で、もう片方は黒くて真っ直ぐな長髪の女の子のようだ。


 片や、繊細な刺繍の入ったローブを着た育ちの良さそうな子。

 片や、何の装飾もないシンプルなワンピースを着た素朴な感じの子。


 統一感のない二人だが、どうやら女の子の方を後からこの時計に付け足したらしい。

 彼女の周りにだけ、色々と手を加えた跡が残っていた。


 女の子の背中にはゼンマイがついていて、飾って楽しむというよりは動かして遊ぶ人形だったようだ。

 なぜこの時計につけられてしまったのかは分からないが、外してその背中のゼンマイを巻いてやりさえすれば、きっとまたどこかへトコトコ歩いていく……そんな風に見えた。


 しかし、その表情はまるで蝋人形のようなつるんとした無表情。

 絵の具で塗ったかのような光のない真っ暗な瞳、血の気がなく冷たそうな頬、真一文字に結んだ口……嬉しいのか悲しいのか全く読み取れない。




 そんな印象の彼女とは反対に、男の子の方はとても明るく見えた。


 程よく高揚した頬に澄んだ青緑の瞳をしていて、生き生きとした笑顔のなんだかとても幸せそうな人形。

 不気味な雰囲気の女の子と違って、ニコニコと可愛らしい感じだ。


 しかし、嬉しそうな表情の向こうで……年季のせいか、中で金属が軋むような甲高い音がしきりに鳴っている。

 まるで悲鳴のようなその音色は、彼の表情とは裏腹にどこか苦しげなオーラを纏っていた。







 2体の人形達はひとしきり踊った後、音楽と共にピタッと止まり大人しくなった。



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