ツミビト(1)
義人:よっ、また来たよ。仁愛
仁愛:ようこそ、義兄ぃ。相変わらず、都会からこんな雪国に、足蹴もなく通ってくれるなんて、しぶとい人ね
義人:お前も似たようなもんだろ?
仁愛:そうね……一卵性双生児だから、しょうがないかな
義人:ふう……やっぱり寒いな
仁愛:そりゃあ、そうだよ。ここは山だからね
義人:お前は慣れたのか?
仁愛:まぁ、3年もいれば、慣れるしかないわよね
義人:そっか。あっ、そういえばさ……この前の記事、評判良かったよ。ありがとうな
仁愛:別に、ありのままを伝えただけだから。義兄ぃの文章力の賜物だと思うけど
義人:おいおい、そんなに褒めんなよ。かわいい仁愛に言われたら……義兄ぃ、調子乗っちゃうぞ
仁愛:ああ、勝手にどうぞ……やっぱり、類は友を呼ぶなんだね
義人:ん?ああ、ライのことか
仁愛:クソめんどくさい人だから、どうにかしてくれない?
義人:クソって言うなよ(軽く笑う)いや、俺よりもお前の方が会いやすいんだから。適当にあしらえばいいんだよ
仁愛:ああいう人、生理的に受け付けないわ
義人:はっはっはっ、仁愛が俺以外のやつのことで口汚くなるの、初めて聞いたよ。じゃあ、今回はその話を、記事にさせていただきますか……刑務所図書館員の今井仁愛さん?
0:間
仁愛:(M)私は抱えていた最後の本を納めて、書庫を出た。年代の古い本が眠っているため、厳重に管理しなければならない。扉を閉めると、三重に鍵をかけた :
仁愛:柞木さん、休んできてください
柞木:仁愛ちゃんこそ休んできて。私はもうちょっとやるから
仁愛:それ、三度目ですよ。せめてご飯食べてきてください。後は私がやりますから
柞木:はいはい、わかったよ。よろしくね、仁愛ちゃん
仁愛:(M)柞木さんが、控え室に入っていったのを確認してから、作業を始めた。
仁愛:(M)どんな作業かというと、本の裏表紙に、ちゃんとブックカードが入っているか、を確認していくというもの。
仁愛:(M)この図書館はニューアーク式という、貸し出し方式がとられている。今では数少ない黄色のブックカードを用いる。
仁愛:(M)私は文字がびっしり書かれたブックカードを見ると、嬉しい気分になる
仁愛:やっぱり本はいいなぁ
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ライ:今日は良い天気だね
仁愛:(M)窓は曇りガラスになっているため、外の様子を知る事はできないはず……また来たのか。
ライ:そう思わないかい、ミスにあ?
仁愛:(無視して)返却ですか、貸し出しですか?
ライ:そうだな……じゃあ、この本を返して君を借りていこうかな
仁愛:(ため息)確か、一〇〇五番でしたね。1枚でよろしいでしょうか
ライ:ありがとう、今日はそうしようかな。マイスイートハニー、いち押しの本を、俺に教えて?
仁愛:さっきからされている発言、冗談を通り越してセクハラです。もう少し、言葉を選んだ方がよろしいと思いますよ、ライさん
ライ:相変わらず冷たいなぁ、仁愛ちゃん。俺は行きつけのかわいいオネェちゃんから、本を借りたいの!
仁愛:(M)意味のないやり取りをしながら、返却されたブックカードを取り出し、返却日の欄に今日の日付を書き加え、裏表紙に入れた。
仁愛:(M)確認し終わった本と一緒にさっきの2冊を持ってカウンターを出る。
ライ:君のオススメの本を借りたいって言っただけじゃないか。そんな風に言わなくてもさ、ね!
仁愛:(M)うだうだ弁解しながら、本棚の迷路の中をくぐり抜けて、ついてくる。手元の本を本棚に戻していくうちに、どんどん近づいてきた……本当にしぶとい人。
仁愛:(M)本をたくさん読んでくれることは有難いが、暑苦しいほどの、底なしの明るさで、話してくるのは、どうも気にくわない