魔石卿の新たな日常
最終話
◆ ◆ ◆
星暦3117年。
十年の歳月が流れた。
盲目の竜が白い翼を広げ、スティッラ・ハーヴェットの大洋を越えて、一つの王国をたずねていた。
降り立った先は王直轄領。王の城。しかし、この十年でさらに発展を遂げていた。
王自らが生産する魔石の恩恵によって、王国はこれまで以上の繁栄を極めていた。
「久しぶり、王様。相変わらず元気そうね?」
王の執務室にベランダから姿を現した白衣姿に聖布を顔に巻いた女性は、王に対するというよりも、慣れ親しんだ友に対する気安い声で呼びかけた。
義足の王は机の上で公務に明け暮れていたが、星竜たる女性の訪問を心の底から歓待する。
「ああ。ナテュールさん。いらっしゃい」
「最近はどう? 王様稼業には慣れた?」
「あれから十年ですからね。いい加減慣れましたよ。ノルシェーンのおかげで、経済関係は心配ないですし」
「そう。……魔族関係は?」
「あちらの氏族たちとも、調停を結ぶことに成功しました。先代国王と、彼女の尽力のおかげです。将来的には、我が国の良き隣人として、共に歩んでいけるように取り計らうつもりです」
「それは何より」
その時だった。
扉を勢いよくノックする音が室内に響く。
「おとうさま!」
「おとうさま!」
二人の童女が先を争うように扉を開け、王の執務室へ駆けこんできた。
一人は白い肌で、いま一人は浅黒い肌の持ち主だが、腹違いの姉妹の仲は良好そのものであった。
二人とも父母の髪色の特徴をよく備えており、金と黒および黒と白の髪房が太陽の輝きに負けず劣らず煌いて見える。
その後ろをついてきた、二人の母。
「こ~ら、二人とも」
「お客様の前で。はしたないですよ」
「「 はーい! 」」
元気よく返事する娘たちに満足げな苦笑をこぼす王妃たち。
その姿は、やや下腹部が膨れている。侍医が申すには、両者ともに懐妊して半年といったところだ。
二人は侍女のほかに、傭兵あがりの近衛兵長二人──赤毛に隻眼の男と彼に付き従う巨躯の女を引き連れていた。
一人は、もと第一王女の第一王妃。もう一人は、ハーフダークエルフの第二王妃。
二人とも腰にはそれぞれ王から婚姻の時に贈られた新しい魔剣がさげられており、この国の特色をよく露わにしていた。
二人は十年前と変わることない──否、より一層美しく華やかに成熟した国母たるにふさわしい美麗さをもって、旧知である星竜の訪問を歓迎した。
「おひさしぶり、ナテュール」
「一年ぶりでしょうか。いつも王の体調を気遣ってくださり、誠にありがとうございます」
「うん。最近はどう? フェリちゃんの孤児院は?」
「順調そのものだそうです、ナテュールさま」
「最近は国務尚書に直談判して、あれこれ注文をつけてきているとか?」
「たくましいことだね~。魔術尚書くんの方は?」
「それが、陛下と共同開発した魔剣の性能が良すぎて良すぎて」
「あのお方も、ブロードさまに負けず劣らず研究熱心な御仁ですから」
そんなやりとりの間にも、子供たちは王の膝元に寄り添い、肩車や抱っこ、絵本の読み聞かせなどを要求してくる。
「それじゃあ、少しだけな」
やったと歓声をあげる二人の王女。
王は執務の手を休め、愛する娘たちに、とある英雄譚を読み聞かせる。
その英雄譚は二人の王女のお気に入りだが、まだ終わりまでには至っていない。
「おっと、もうこんな時間か。続きは夕食の後にしよう」
王はエルフとドワーフ共同制作の柱時計に目を止めると、二人を膝からおろして絵本を閉じた。
「じゃあ、ナテュールさん、また」
「ええ。私は夕食になるまで街を散策してるから」
言って、ナテュールはベランダから街へと降りていく。
彼は娘たちの世話を王妃たちに任せ、執務室奥の昇降機を使って、地下に降りる。
そこは、かつてと同じ地下工房──魔石を錬成し、魔剣を鍛造るための、王個人の趣味の部屋であった。
うずたかく積まれた魔石の山。灼熱を吐き出す炉。壁の張り紙には現地語で、こう記されていた。『注意一秒、怪我一生』と。
「よし」
作業着に着替え、国王は傷だらけの腕に手袋をはめ、槌を握る。
そして魔鉱石の目利きを始めた。
「うん。今日もいい魔石になりそうだ」
モーナルキー王国スヴェート朝、初代国王となった魔石卿ブロードは、今日も魔石を錬成し、魔剣の鍛造を続けている。
錬鉄の音色が、音奏が、地下工房から地表へと、心地よいほどに響きわたる。
【 Fin 】
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