表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第四章
50/53

最後の戦い






 ◆ ◆ ◆





 イェッタは思い出す。

 500年前の戦いを。





 ◇ ◇ ◇





 魔王の居城のひとつにて。


 六帝最後の一人【大愚魔皇】ドゥムを滅ぼしたことで、戦いは終わったかに見えた。


 だが、致命傷を負っていたはずの【死刑剣王】……自分の母が聖剣の力を開帳・回復し、時空剣ティードをもって現れ出でた。


 そのことにいち早く気付いたイェッタは歓喜を分かち合うヴィートとグルドを押しのけて…………そうして、母の刃に自ら貫かれた。


 魔剣レードは、その時に取り落とした。


 そして、イェッタは時空剣の《時渡り》に巻き込まれ、“六英”とよばれた仲間たちと、強制的に別れた。





 ◆ ◆ ◆





 一秒で思考を今に戻すイェッタ。

 彼女は肩で息をする主人──五年前、イェッタに《心臓》の魔石を与え、この時代での居場所を作ってくれたブロード・スヴェートを見やりつつ、対峙する漆黒の女騎士を見やる。

 母たる魔王は悠然と告げる。


「よくぞここまで来れた、スヴェート公ブロード──『魔石卿』殿」


 漆黒の仮面がちらりとイェッタの方を(うかが)ったような気がした。

 死刑剣王は森の奥に広がっていた荒野で、彼らを待っていた。

 魔王は嘲弄するように(のたま)う。


「17という若き身空で、ずいぶんと大仰な使命を背負ってきたものだ」

「歳なんて関係ない──これは、僕自身にしかなしえないことだと聞かされた──ならば“やる”。それだけのことだ」

「ふ。そうか」


 立派なことだと感心の吐息をつくスヴァット・シューク。

 そうして、ここにいるもう一人。

 ブロードは裏切者の名を、呼ぶ。


「……ヴェン」


 呼ばれた方は、優美な白髪(はくはつ)を振るって、薄ら笑いを浮かべながら応える。


「よぉ、ブロード」


 魔石卿は落ち着き払った様子で対峙してみせるが、長年の知古が魔王と肩を並べている姿に、どうしようもない感慨をいだいてならないらしい。

「何があった」「どうして」などどいう問答に意味はない。

 ヴェンスカープ辺境伯──ブロードの友である男は、王を裏切り、国を裏切り、ブロードたちを裏切った事実に変わりない。

 余計な問答など無用。それでも、ブロードは訊ねずにいられない。


「ヴェン……どうして裏切った」

「前にも言わなかったか? ──おまえをブチ殺すためだよ、“ブロード”」


 王宮で言われたことの再現がなされただけであった。

 ヴェン・スカープ辺境伯の敵意と殺意は本物であり、その言葉の真偽を疑う必要はない。

 スヴェート公ブロードは、決意したように顎を引いた。


「わかった。なら、“おまえ”は俺の敵だ。ヴェン・スカープ辺境伯」


「よくぞ言ったり」と辺境伯は歪んだ笑みを浮かべた。ケラケラと嗤う兄貴分を、ブロードは真実“敵”と見做して、一切の情けと容赦を捨て去っていく。

 ブロードは魔剣フェシュテーラを、傍にいるイェッタの手に握らせる。


「イェッタさん」


 魔石卿は、魔剣フェシュテーラを預ける手に力を込めて、告げた。


「今度こそ、悔いを残さないように」

「──はいッ」


 主人からの厳命に、イェッタは刃のごとく鋭い声で応じた。

 ブロードは空間から、新たな剣を取り出してみせる。


「ほぉ……それが噂に聞く“星剣”ってやつか?」


 星剣の銘は《ヴェード》──“世界”を意味する名を冠されたそれは、刀剣と呼ぶには相応しくない、白い極大の水晶石の塊のような外見をしていた。

 これが、ナテュールの眼を犠牲にして鍛造された星の剣。

 六帝が一人、吸血大帝を一撃で葬ったモノ──


「それじゃあ、始めようじゃねえか」


 ヴェン・スカープも腰の鞘から聖剣ファルスクを抜いた。

 今ここに、最後の戦いの火ぶたが切って落とされた。






 ◆ ◆ ◆






【大愚魔皇】ドゥムは、大天幕の中で虚空を見据えていた。

 フングリングたちの討滅から復活までには、ややもすれば時間がかかる。

 魔王の代替となりえる器は準備できるものではなく、その魔王が死して初めて器となりうるものが判明する仕様、故に。


「ああああああ…………」


 ドゥムは全魔族を復活できる権能の持ち主。

 彼を討滅できるかどうかによって、今後の戦略は変更を余儀なくされるだろう。


「ふんぐりんぐ…………」


 ドゥムは仲間たちの死を嘆く。


「あろがんと…………」


 大粒の涙を流しながら、彼らの欠落を肌身に感じる。


「ふぇーぐ…………」


 ドゥムは探し続ける。

 自分の仲間たちを復活させるにたる器を。

 彼がそうしている大天幕の外では、四人の剣士たちによる凄絶な戦いが繰り広げられていた。






 ◆ ◆ ◆






「《フェシュテーラ》!」


 破壊を銘に冠する魔剣をイェッタは振るう。

 魔剣の形状はレードと似た大剣状に固定され、死刑剣王が振るう巨剣の刃を打ち払う。


「《レード》……小剣・100分裂!」


 打ち払われた巨剣と共に、イェッタはスヴァット・シュークの全身を包み込むように魔剣を展開。

 だが、死刑剣王の両腕で振るわれる巨剣を圧倒するには及ばない。


「──その程度か、イェッタ・イェーン」


 失望したといわんばかりに巨剣で大地を根こそぎさらう魔王。

 刃渡り100メートルを優に超す巨剣の圧力は、暴風のごとくイェッタの全身を吹き飛ばす勢いだ。

 しかし、イェッタは己の限界に挑むように《レード》に命じる。


「《レード》……小剣・1000分裂!」


 500年前にも試したことがない大規模展開。

 千を超える刃と化した魔剣が、魔王の全周囲を覆ってみせる。

 さしもの死刑剣王も、仮面の奥で瞠目した。

 漆黒の女騎士に突き刺さらんと殺到する紅蓮の小剣群は、まるで花火の逆再生のごとく、死刑剣王の身を押し包み、起爆と誘爆の連鎖を続けさせた。

 しかし。


「まだまだ。それでは足りんぞ!」


 仮面を半分罅割れさせた死刑剣王は、健在。

 無論、そのぐらいのことはイェッタは承知済み。


「《レード》《フェシュテーラ》──同時励起」


 彼女は二本の魔剣を共鳴させるように励起させ、

 そして解放。


「《赫灼たる破壊の権化レード・フェシュテーラ》!」


 火山弾もかくやという砲弾の雨霰が、死刑剣王の巨剣を襲い、その刀身を溶融・大破させた。

 ──これは誰にでもできることではない。

 魔剣レードと適合したイエッタが、ブロードの天上三剣(・・)である《フェシュテーラ》とも適合を果たしたからこそ可能な(わざ)

 魔剣に選ばれること自体が稀である現状下にあって、二振り以上の魔剣を扱えるのは、魔剣鍛造者たるブロードか、すべての剣を支配下におく権能を持つ死刑剣王のみであった。

 しかし、イェッタは彼らに次いだ三人目として、《レード》と《フェシュテーラ》を振るう。


「さすがなり。鋼鉄の女魔剣士よ」

「いいえ」

「?」

「いまの私は、“ブロード・スヴェートの剣”です」

「ふ……そうか」


 死刑剣王の顔から罅割れた仮面が剥がれ落ちる。

 そこにあった相貌は、イェッタのそれと近似したダークエルフの特徴を備えていた。

 褐色に焼けた浅黒い肌──細長く伸びた耳──漆黒に艶めく髪──目の色だけは空色の戦乙女の姿が、そこにはあった。

 スヴァット・シュークは破壊された巨剣を放り棄て、今度は刃渡りがキロ単位に及びそうな長刀を抜き払う。

 イェッタはあえて(たず)ねる。


「聖剣は使わないつもりですか?」

「抜かせてみるがいい……“ブロード・スヴェートの剣”よ!」


 彼女たちが刃を交える先で、ブロードと辺境伯の戦いもまた、白熱の度合いを増し続けていた






 ◆ ◆ ◆





 激闘の続くイェッタたちの隣で。


「どけえええええええええええええ!」

「どかねええええええええええええ!」


 星剣ヴェード聖剣ファルスクが交差するたび、二人の身体は裂傷を余儀なくされていた。

 肉が裂け、骨が砕けんばかりの衝撃。

 相反する力同士の激突に、生身の人間の身体が耐えきれないのだ。


「《ファルスク》──励起!」

「! 《ヴェード》──励起!」


 ここへ来てヴェン・スカープは聖剣の力を解放し始めた。

 それにブロードは応じなければならない。


「《実在せよ、偽なる閃光フィンナス・ファルスク》」

「《持続せよ、世界の光輝フォートシェッタ・ヴェード》」


 白烈する輝煌の衝突に、双方の身体が弾け飛ぶ。


「ハハァ!」

「くうっ!」


 二人の実力は拮抗していた。

 それもギリギリのせめぎあいの上で成立するものであったが。


「そこをどけ、辺境伯!」

「どくわけねえだろうが、兄弟!」


 ブロードの目的はただひとつ。

 大天幕に存在する最後の魔王──【大愚魔皇】の討滅。

 奴さえ仕留められれば、この戦いは魔族軍にとって何の意味もなさなくなる。

『全魔族の復活』という規格外の権能を与えられた六帝の一人【大愚魔皇】ドゥム。

 ブロードは距離があるのを承知で、天上魔剣のこりの二本を展開。


「《セリア》《シェールレーク》!」


 “悲嘆”と“愛情”と号された二剣が、ブロードの周囲を旋回し、固定。


「チッ。そう来たか!」


 辺境伯が舌を打った。


()け!」


 大天幕に向かって高速飛翔する二本の魔剣。夜色の《セリア》が大天幕の豪奢な布を斬り払い、緋色の《シェールレーク》が護衛の悪魔たちを痛みを感じさせる間もなく裁断していく。

 ブロードは飛び上がった。

 星剣を構え、天幕内から姿を現した少年魔王──虚空しか見定められない大愚魔皇の首を落とそうとして、


「そうはいかねえんだよ、兄弟」

「…………ヴェン!」


 男の握る聖剣と鍔競りあう。


「どいてくれ、ヴェン」

「いいや、どかねえ」

「どけと言っている!」

「どかねえって言ってんだろうがァッ!」


 ブロードは大愚魔皇の眼前であることを忘れて問いただした。


「何故そんなにも邪魔をする! 僕が一体、君に何をしたって言うんだ!?」

「……おまえは、なにもしてねえさ、兄弟」


 ヴェンは暗黒よりも暗い声で答えた。


「だが、だからこそ、俺はお前を殺さなきゃならねえ」

「だから、どうして?!」


 頑迷なまでに邪魔立てする友の姿に、ブロードは叫んだ。

 そんな魔石卿の問いに対して、辺境伯は信じがたいことを口にする。









「俺がお前の────両親を殺した(かたき)だからさ」







 ブロードの意識が、空白化を余儀なくされた。








完結まで、あと三話

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ