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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第四章
48/53

討滅隊 -3






 ◆ ◆ ◆





 東の戦場、拳豪魔帝アロガントのいる戦場にて。


「オラオラ! こんなものかよ!」


 魔剣グローを使い、孤軍奮闘の構えを見せるブロンマ・ベリ。

 彼女は相棒であるスコーグ・エーからの合図を待ち続けながら、拳豪魔帝の相手を務める。


「ちっ。つまらねえ。《オランジュ》使いは出てこねえし、こんなことならオレさまの方が魔石卿の野郎の相手をしに行くべきだったなぁ……」


 アロガントは痺れをきらしたように(のたま)いながら、ブロンマの防戦ぶりに辟易(へきえき)しつつあった。

 ブロンマは《通信》の魔石を相棒のそれに繋げる。


「……どう、スコーグ?」

「《オランジュ》の展開、完了したぜ、相棒」


 その言葉を受けて、全身鎧を半壊させた女戦士は微笑んだ。


「なにを企んでるか知らねえが──」


 アロガントは、その本性を露わにした。

 大樹のごとき巨躯。禍々しいまでに捩じくれる角。朝の光に輝く真紅の鱗──「竜」の姿に。


『何もかも、オレさまが踏みつぶしてやるよ!』


 そう豪語し、ブロンマの二メートルぽっちの体躯を二百メートルは優に超す大重量を片脚に乗せて踏み砕かんとした、まさにそのとき。


「《オランジュ》分割励起!」


 砦にて罠を張り巡らせていたスコーグが、魔剣の力を解放。

 瞬間、竜と化した剣豪魔帝の直下を、黄金色の“網”が覆う。


『なに、これは!』


 スコーグは《転移》を繰り返して罠を張り巡らせていた。魔剣オランジュを使って。

 砦に戻って《オランジュ》を分割配置および形態変化させ、東の戦場を覆う規模の罠を仕掛けたのだ。

 それは、黄金の網。

 その網の目は小さく、人型形態で触れればあっという間に焼き殺されるだろう規格で統一されていた。

《オランジュ》が形態変化させることができる魔剣だとは知っていたアロガントも、これほどの規模にわたって張り巡らされる魔剣の網など始めて見る光景であった。


『ぐおおおおおおおおおおおおおおおおお────ッ!?』


 橙色の魔剣オランジュの造り出した網の中に囲われた竜は、もんどり打って罠を食い破ろうとする。

 が、相手は魔を討つ剣、その中でも500年前に黄金の女騎士が握ったとされる伝説の魔剣のうちの一振りである。

 その拘束力、結束力、拘引力は桁違いであった。スコーグは砦から《転移》を繰り返し、これほどの罠を用意し、それを実行してみせたのだ。

 アロガントは賞賛を惜しまない。


『み、見事だ……だが……か、かくなるうえは!』


 罠網にかかった魚が暴れるようだった竜の体表面──鱗をボロボロと崩しながら、アロガントはなんとか《オランジュ》の拘束に抗いながら、砦に向けて竜の息吹(ドラゴンブレス)をふきかけてやろうとした、が。


「…………《グロー》最大励起!」


 そうはさせじと女戦士ブロンマが魔剣を灰色に輝かせる。


「ぬあああああああああああああああああ────っ!!」


 体を回転させるブロンマ。

 ハンマー投げの要領で投擲された魔剣は、信じがたい速度と衝撃で、竜の鱗を貫き、その奥に像された心臓部にまで達した!


『ギャアアアアアアアアああああああああアアアアアアアア────ッ?!』


 これまでとは比べるべくもない悲鳴と絶叫。

 アロガントは吐き損ねた息吹を喉奥に輝かせながら、その竜の瞳から生気を失っていく。


『み──見事──だ』


 東の戦場にて、拳豪魔帝アロガントは討たれた。

 二人の魔剣使いの手によって──

 砦の守備兵たちが大歓声をもって、二人の手腕を讃え評した。






 ◆ ◆ ◆






「アロガント殿ッ?!」


 南の戦場にて、髑髏賢帝フェーグは意表を突かれたように輿から立ち上がった。

 信じがたいことが起こった。

 だがしかし、彼は冷静に戦局を分析。

 フングリングの即滅に続いて、六帝の二人目がやられた。東の戦場は人間側に優勢となっていることは疑いの余地がない。

 ならば、南軍を大きく両翼に広げ、王国軍の損耗を誘うほかに手はない。

 幸い、フェーグの相手は魔剣使いではない。一国の魔術尚書を任された男というのは知っているが、展開されるアンデッド軍とフェーグの魔法(・・)を打ち破れる要素はないと言ってよい。


「これ以上、そちらの好きにはさせない──」


 静かに宣誓する髑髏賢帝であったが、彼の冷静な思考が警戒音を鳴らし続けている。

 何故、こちらには魔剣使いを用意しなかったのか?

 何故、魔術尚書ひとりで挑みかかってくるのか?

 何故、ミューレン伯は取引などと称し、髑髏賢帝の前に現れたのか?

 何を考えているのか、フェーグにはまるで見当もつかない──しかし。


「私は六帝が一人【髑髏賢帝】」


 イフト・ミューレンがどのような手を使ってこようとも、それを超克する策を打つのみ。

 そう信じぬいて、《大火》の魔術を展開し続ける伯爵への攻撃を続けさせているフェーグであったが、


(あれは?)


 ミューレン伯の手にある金属のカケラのようなものが気にかかった。

 それは、人間どもの鍛造する魔石、否、魔剣のカケラのようにも見受けられるが……あんなものが一体なんの役に立つ?

 わからない。

 わからない。

 わからない。

 あの男は一体、なにを考えている?


「《転移》魔術、座標固定を確認」


 転移。逃げるつもりかと一瞬だが判断するフェーグ。

 しかし、次の瞬間には、自分の判断が間違いであった事実を知る。


「バカな!」


 ミューレン伯が転移した先は、フェーグの超至近距離。

 魔術師が遠距離戦ではなく、至近距離での戦闘を採択する理由など、《自爆》以外の何もないと判ずるフェーグは、防御魔法の層を厚くする。

 しかし、ミューレンの思惑は違っていた。

 彼はその手にあった“魔剣のカケラ”を、フェーグの空洞の胸骨──心臓部あたりに差し入れ、起動。


「《シュシュべッシュトレード》──励起」


 それは、彼らの王を蘇生させた魔剣の名。ブロードから譲り託された希望の力であった。

 さらに、ミューレン伯は詠唱する。


「魔剣の力よ。我が魔術を通じ、この呪わしき魔王の手によって死した者(・・・・)たちに、《再生(・・)》の力を!」


 まさか。

 ありえない。

 そんな思考など無意味だとわかっていても、ミューレン伯の握る魔剣のカケラ──魔石と魔術の複合起動は、完璧に遂行された。


『アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』


 叫喚し、自らの内からこぼれる力を抑え込もうとするフェーグ。

 だが、身の内に着きこまれた魔剣の力は、確実に、着実に、彼の支配するアンデッドたちを通じて、《再生》の力を逆流させられていく。

 吐き気がした。

 胃の腑などない骸骨の身に吐き気が込みあがるとは!

 ────つまり、ミューレン伯が行おうとしていたこととは!


『そ、蘇生魔術!

 貴殿は最初から、我がアンデッドを、再生させるのが、目的、だったか!!』


 その通りとでも言いたげに微笑むミューレン伯……彼が見下ろす先で、倒れ伏した骸骨やゾンビが《再生》の力によって、元の生命──人間の形に復元されていく。

 無論、魔剣保有者であるストレング騎士候とセリエース騎士候も。


『よくも、よくもよくもよくも、よくも!』


 やってくれたなという前に、フェーグは目の前の男の片腕を、骨の手刀で斬り落とした!


「ぐぅッ!」

『殺してやる!』


 賢帝にはふさわしくない憎悪と憤怒の咆哮を奏でて追撃しようとするフェーグ。

 だが、


「「魔術尚書殿!」」


 魔剣ギュールを握る老騎士が雷霆を発し、魔剣グレーンを掴む女騎士が旋風を巻き起こした。


『邪魔をするなあああああああああああああああああああああああああああああああ──!!』


 ──この場に揃っていた二本の魔剣および魔術尚書の魔術によって、髑髏賢帝は討滅される運命をたどった。













六帝、残り三名

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