討滅隊 -2
◆ ◆ ◆
吸血大帝フングリングは死んだ。
あまりにも唐突に。
あまりにも突然に。
それは他の地にいるすべての魔王が感受した事実であった。
「フングリングの野郎が?」アロガントは突然の出来事に吼えた。
「……ああ、……そんな?」フェーグは額に手をあて嘆いた。
「ブロードくん何したの?」シェルヴィスクは疑念した。
【死刑剣王】スヴァット・シュークもまた、同胞の死を感じはしたが、
「やはり完成させていたか」
その感想しか出てこなかった。
昨夜、ブロードの屋敷を、イエッタのもとを訪ねた時に、その気配は感じ取っていた。
しかし「まさか」という思いが強かった。
「“星剣”が完成されていたとはな」
星の剣。
それは、魔剣などよりも数段強い力を秘める剣であると同時に、星の竜を素材とするもの。
『魔石卿』が鍛てるのは魔剣のみであり、魔剣鍛造者に星剣が鍛造できるとは、にわかには信じがたいことであった。
(ナテュールの気配と混同した、私のミスか。いや、あるいは)
魔王は今度こそ全滅する運命となるのか、否か。
死刑剣王は、陣内に共にいる大愚魔皇を見た。
そして、昨夜の娘との問答を思い起こす。
(──「どうかお願いです。母さま。我等、六帝討滅の部隊に御力添えをしていただけませんか?」──)
剣王はかすかに鼻で笑った。
(──「何故そこまで……何故、母さまは魔王となったのです?」──)
理由など決まっている。
人間は滅ぼさなければならないモノだから……
何故なら。
彼女から夫を奪った者は、人間であるのだから……
「ヴェン・スカープ卿」
死刑剣王は、星剣に滅ぼされる聖剣を引き抜かず、時空剣ティードを空間から引き抜きつつ、陣内に控える男の名を呼んだ。
◆ ◆ ◆
「へっ。やっぱりやるじゃねえかよ、魔石卿の野郎は! なぁ!」
同意を求めるように、アロガントは東の戦場で相対する魔剣保有者を見る。
灰色の魔剣を持つ女戦士は、応える口を持ち合わせないように沈黙を貫く。
「一体どうやってフングリングの分裂回避能力を突破したのか知れねえが──こっちも、うかうかしていられねえよなぁ?」
拳豪魔帝は竜の角と尾を伸ばし、人獣形態を露わにする。
対する《グロー》使い、ブロンマ・ベリは、冷静に、拳豪魔帝との戦いに集中する。
アロガントは自分との肉弾戦闘に追随できる《グロー》使いを見て、500年前の戦いを思い出す。
(アイツ並みのパワーがありながら“女”とはな!)
しかし、ブロンマが女だからと言って手加減するアロガントではない。
「さぁ、俺をもっと愉しませろ、《グロー》使いのお嬢ちゃんよぉ!」
ブロンマは沈黙し続ける。
彼女は、戦場を細かく転移している相棒の“策”が張り巡らされるまでの時間稼ぎをこなしつつ、拳豪魔帝と魔剣で渡り合う。
◆ ◆ ◆
南の戦場にて。
「せっかくのお話ですが、事態はそれどころではなくなったようです」
ミューレン伯から“取引”を持ち掛けられた髑髏賢帝フェーグは、彼の申し出を頑なに固辞する。
本音を言えば、取引の内容に興味がないわけではない。
だが、
「つい今しがた。我が同胞の一人……フングリング殿が討たれたのを感じました」
「吸血大帝が?」
ミューレン伯はいっそわざとらしいほどに驚愕してみせる。
「一体、誰がそのような」
「白々しい。取引などと称して、我が軍団を足止めしようとしていたのでは?」
滅相もないと腰を折る黒髪の若者。
だが、フェーグには読めていた。
読めるのは当然、とも言えた。
「我がアンデッド軍に一人で出向いてきた勇気はたたえましょう。賞賛に値すると。ですが、ことここに至っては足止め薬にかまっている時間などありません」
フェーグは骨の指を鳴らしてアンデッド軍の攻撃態勢をとらせる。
ゾンビ兵として使役している《ギュール》と《グレーン》の魔剣使いも、ミューレン伯の前に。
ミューレン伯は悲し気な面持ちで吐露する。
「交渉、は、できない、と?」
「ええ。まったく残念ながら」
フェーグは抹殺の指令をアンデッドたちに下した。
多少魔術の心得があるとはいえ、敵はたった一人。
恐れる必要など、どこにもない。それでも全力をかけて殺す。様子見など必要としない、それが髑髏賢帝の必勝戦術であった。
「征きなさい、我が軍勢よ」
怒涛の勢いで進軍する骸骨と死体の混成部隊たち。
元ストレング騎士候が《ギュール》を握り、元セリエース騎士候が《グレーン》をもって強襲する中。
「では、致し方ない。──私の戦いを始めさせていただきましょう」
アンデッドを焼く《大火》の魔術で防壁を張りながら、ミューレン伯はあるものを懐から探り出した。
◆ ◆ ◆
「ま、フングリングの野郎がやられたのは、自業自得でしょうけど」
森の中で《ブロー》使いと《ローサ》使いと会敵したシェルヴィスクだが、彼女の見える範囲内に、ノルシェーンもフェリも不在であった。
強欲女帝の収奪蒐集能力は、近距離にあるもの──彼女の体に触れるすべてのものを“奪い取ってしまう”。
いかに魔剣保有者といえど、例外はない。つまり。
「ブロードくんがやったように遠距離戦でいこうってわけね。でも。ちょっとさびしいわね、可愛いお顔を見ながら戦えないのは」
そう言ってる矢先、青色の矢と桃色の鏃が降り注がれる。
どちらも魔剣と《ローサ》から撃ち出された攻撃であることは明らかであった。
強欲女帝は、それを収奪する気にもならず回避一択の行動を見せる。
実に単純な攻撃過ぎた。矢が中途で曲がってくることもなければ、分裂して押し包むように展開されることもない。
「さすがの私も飽きてきちゃうな~、もうちょっとマシな時間稼ぎ方法はとれないの?」
シェルヴィスクは理解していた。
あの二人では、自分を討ち取ることは至難の業であると。
故にこそ、何かしらの策を巡らせる時間を稼いでいることは、明々白々たる事実であった。
短調活単純な攻撃も、体力気力の温存であると考えれば納得もいく。
「ま、なんにせよ、お手並み拝見と行こうじゃない?」
強欲女帝は余裕綽々のまま、ノルシェーンとフェリの相手を務め続ける。
◆ ◆ ◆
一方で。
「あそこね」
両目を聖布で覆ったナテュールが感知する方角にあった大天幕。あれが敵の本陣であることは、真の竜たる彼女が保証するにたる濃密な気配で揺らいでいた。
「ああ、本当にいやな臭い──魔王の気配をびんびん感じるわ」
「──ありがとう、ナテュールさん」
ブロードは改めて感謝を紡ぐ。
「あなたがいたおかげで、僕たちはここまで来れた」
「そんなの気にしなくていいわよ」
聖布を取り外したナテュールは、完全に光を失った両目をさらして笑顔をつくる。
「目が見えなくなった程度で、私の命が脅かされるわけじゃない──むしろ、私の方こそ感謝すべきでしょうね」
再び布切れを両目にあてがい巻き付けるナテュールは、意外な言葉を口にした。
「この時代に、あなたのような人物がいてくれたことに感謝を」
「そんな僕は」
「お二方とも」
イェッタが注意を喚起する。
まっすぐこちらに近づいてくる気配。
その迷いのない様子に、ナテュールは舌をうった。
「さすがにバレたか。向こうには【死刑剣王】もいるし、当然か」
現れた人影は二人。
漆黒の仮面を帯びる女騎士、スヴァット・シューク。
そして、
「よう、兄弟」
「ヴェン・スカープ、辺境伯」
王国の裏切り者──ブロードの良き友人だった者。
彼はダイヤのように輝く白髪を後頭部でまとめて一房に結い、聖剣を腰の鞘から抜き払う。
対するブロードは天上三剣となった魔剣──“破壊”の《フェシュテーラ》を構え、それに続きイェッタも《レード》の赤い刀身を露わにする。
「それじゃあ、二人とも」
後事を託したナテュール。
ブロードはヴェンと向かい合い、イェッタは死刑剣王と相対する。




