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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第四章
46/53

討滅隊 -1





 ◆ ◆ ◆





 明朝。

 スヴェート領の東の山嶺(さんれい)に、急ごしらえで造営された砦と城壁から、それ(・・)は見えた。


「敵軍を確認! 魔族軍です!」


 スコーグは魔剣の柄を握りながら報告に耳を傾け、そして告げる。


狼狽うろたえるな。ブロンマの率いる《グロー》隊がいる。魔剣を持ったあいつを、早々打ち破れるものかよ」


 彼の推測通り、魔族軍の急先鋒部隊は、壁に弾かれる水のごとく散り散りとなる。

 しかし、スコーグは迷う。


(このままあいつを前面に押し立てて逃げる敵に進軍させるか、それとも)

「いかがなさいましょう、隊長」


 スコーグは数瞬で決断を下す。


「──ブロンマ隊に一時後退の指示を出せ。相手が態勢を整えているうちに、こっちも休んでおくのが得策だ」


 スコーグの指示は徹底された。

 ブロンマは休息の必要を感じなかったが、こちらは俄か仕込みの志願兵が多数を占める。

 一般兵装の魔剣(シェーラ)があるとはいえ、急場しのぎの軍隊に、深追いや追撃の手は悪手に感じられた。


(戦いはまだ始まったばかりだ…………頼みますぜ、『魔石卿』の旦那!)


 自分たちが魔軍を引き受けている間に、ブロード率いる討滅隊が戦果を挙げる手筈となっている。

 志願兵たちは士気こそ高かったが、一度の戦闘で死の恐怖と戦の恐怖を味わえば、それだけで使い物にならなくなるだろうと思われた。

 が、魔剣の戦闘補助能力のおかげで、どうにか士気維持が可能という具合である。


「うん?」


 ゴブリンやオークの軍団が蹴散らされ逃げ出す先で轟音が響いた。

 それは巨大な生物の足音を彷彿とさせる衝撃を森に食らわせ、山嶺の開けた土地に現れ()でた。

 赤毛に、目元には奇怪な紋様を刻む若者が、スコーグたちのいる砦に向かって歩を刻んでいる。


「へへ。愉しそうな戦場じゃねえかよぅ、えぇ?」


 武官の一人が絶叫に近い声で喚いた。


「あれは【拳豪魔帝】です!」

「チィ、旦那の予想通りこっちに来やがったか! ブロンマ!」


 魔剣グローと、立派な全身鎧をブロードから譲られた女戦士、ブロンマ・ベリが。委細承知の声を出しながら、拳豪魔帝アロガントに斬りかかるべく、突撃。

 魔剣オランジュを引き抜いたスコーグも、《転移》の魔石を使って、アロガントの後背に回り込む。








 ◆ ◆ ◆







 一方。

 南軍にも動きがあった。


「アンデッド軍が侵攻! 数、概算して九千、いや一万とのこと!」

「一万!」


 ヴォール王はこちらの倍の兵力に舌を巻いた。

 さらに、アンデッドと化したストレング騎士候とセリエース騎士候が、魔剣ギュールと《グレーン》を持ったゾンビへとして視認される。

 そして、大魔(イェッテ)たちの担ぐ輿(こし)に乗った【髑髏賢帝】の姿も確認された。

 王はすぐさま通信武官に告げる。


「ミューレン伯に《通信》、髑髏賢帝は南軍前線にいると伝えろ!」


 アンデッド軍の攻囲に抗うヴォール王軍。

 こちらも一般兵装の魔剣(シェーラ)のおかげで善戦できているといったところであった。

 しかし、王自らの出征と、魔剣保有者のゾンビ兵の登場は予想の範囲外である。

 王は冷や汗を額に浮かべる。


(ブロードが、『魔石卿』がいなかったらと思うと肝が冷えるな!)


 そう思うヴォール王は、急増の南城砦の中で、髑髏賢帝フェーグと対峙するミューレン伯を視認。


「頼んだぞ、ミューレン伯」






 ◆ ◆ ◆






 その男は、人間の《転移》魔術で現れた。

 アンデッド兵共の攻勢を《火炎》魔術で一掃しつつ、イフト・ミューレンは髑髏賢帝の輿近くまで降り立った。

 髑髏賢帝は律義にたずねる。


「何者でしょうか?」

「髑髏賢帝──フェーグ殿ですね?」

「そうですが、君は?」

「お初に御目にかかる。私、王国魔術尚書を拝命しております、イフト・ミューレン伯爵。以後、お見知りおきを」


 貴族らしい丁寧な物腰に、フェーグは興味をそそられ、南軍の攻撃の手を止めさせた。


「何か用向きがあって、こちらに?」

「実は折り入ってご相談があるのです」


 ミューレン伯は微笑んだ。


「私と取引いたしませんか?」






 ◆ ◆ ◆






「【拳豪魔帝】および【髑髏賢帝】出陣を確認」

「とすると。残るは四帝──【吸血大帝】【強欲女帝】【死刑剣王】、そして【大愚魔皇】」


 討滅隊は旧ヴェン・スカープ辺境伯領に潜入しつつ、徒歩で、連中の中枢部が築かれた陣を目指す。


「大丈夫ですか、フェリ?」

「これぐらい、平気、です」


 だが、その顔色は胃に穴でも空きそうなほど蒼白であった。

 無理もない。

 この作戦の可否に、人類社会の存亡がかかっていると考えれば、緊張と不安で倒れても不思議ではない。


「やっぱり城砦守備の方がよかった?」

「ば、馬鹿にしないでくださいよ坊ちゃま!」


 元傭兵のメイドは、水色の髪を振るって勇気を絞り出す。


「私だって、今ではスヴェート家のメイドの一人。主君が出征するのに、自分だけ安全圏にいられますかっての」

「その心意気は買うけど──ッ!」


 ブロードは腰に佩いた星剣が、かすかに輝くのを感じた。


「誰か来たようね」


 両の眼を聖布で覆うナテュールも言及する。


「あら。バレちゃった♪」


 森の奥から現れ出でたのは、戦場とは不釣り合いに情欲的な衣装を身に纏う【強欲女帝】であった。

 シェルヴィスクは気安い調子で話しかける。


「ブロードくん久しぶり~♪ 元気してた?」

「坊ちゃま。ここは」

「私たちが」


 ノルシェーンとフェリが、《ブロー》と《ローサ》の魔剣を抜いた。


「あら、可愛い子に囲まれるのは嬉しいけど、あなた達じゃ役不足じゃないかしら?」

「やってみなければ」

「わからないことです」


 フェリとノルシェーンの言葉に、強欲女帝は頬を可愛らしく膨らませつつも、そんな二人の勇者──メイドの意気込みを大いに買う。


「それじゃあ、ちょっとだけ遊ぼうか♪」


 ブロードは二人に告げる。


「ノルシェーン、フェリ、強欲女帝の能力は」

「すべて承知しております、坊ちゃま」

「此処は任せて先にいってください!」


 二人の首肯と言葉に背中を押され、ブロードはイェッタとナテュールを伴い、敵陣深くへと潜入していく、その時であった。

 またも星剣が反応を示したのは。


「高速で飛行する敵──これは」


 ブロードたちの頭上を、朝の光をものともせず、蝙蝠の群れが乱舞した。


「殺す、殺す、殺しつくす!」


 長い金髪の偉丈夫の姿が形をもって現れる、分裂と終結を繰り返す蝙蝠の群れが凝縮し、赤く血走り輝く眼があらわとなる。


「貴様も、貴様も、貴様も、我に屈辱を与えるすべてを殺しつくす! 殺して殺して殺しつくさねば気が済ま」


 彼が言い切る直前であった。



「────なアぁ?」



 フングリングは自分の肉体を見た。見下ろした。

 そして、胴から下が寸断され、首から下が両断され、なくなっていることに遅れて気づいた。

 首だけの魔王が告げる。


「お、おいおい……冗談、だ、ろ?」


 吸血大帝は吐血していた。吐血しながらその優美な頭部を崩していく。

 ブロードが告げる。



「……すまないが、あまり時間をかけていられないんだ」



 言って、荒い呼吸のブロードは手早く血振りし、イェッタとナテュールを連れ、その場を《飛行》の魔石で去っていった。

 吸血大帝フングリングは、星剣の刃に破断され、果てた。








六帝、残り五人

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