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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第三章
35/53

吸血大帝 -3






 ◆ ◆ ◆





 屋敷外の森にて。


「《エーヴェヴィンナ》──第二励起!」


 ブロードは風の属性を“征服”し、それを吸血大帝の群れにぶつける。


「《征服する大嵐エーヴェヴィンナ・ティフォーン》」


 吹き飛ばされた吸血蝙蝠の群体は、あっという間に空の上で再生していく。


「無駄なことを!」

「《征服する大嵐エーヴェヴィンナ・ティフォーン》」


 数回目の励起でブロードは理解したことがある。


「ブロードくん、気づいた? 吸血大帝の攻略法」

「ええ、大体はイェッタさんにも聞いていた通りです」

「それじゃあ、ここは任せるよ」


 ナテュールは見えない左眼で屋敷に向かった分身体の動向を注視していた。


「《リーラ》の最大励起を確認した。あっちを先に止めるのが先決だと思うから」

「お願いします」


 ナテュールが《転移》を使用し、屋敷へと戻る。

 ノルシェーンとフェリ、そしてモーネの三人が戦っているのだろう。

 そして、モーネがまた無茶なことをしでかそうとしている。

 止めなくてはならないが。


「問答は終わりか?」


 金髪の美丈夫は漆黒の台風のごとき眷属らを率いて、ブローとイェッタを包囲殲滅せんとしている。


「ここまで戦えた褒美に、今宵の我が晩餐に加えてやる──ゆけ、眷属たちよ!」


 吸血蝙蝠と吸血鬼の群れが大挙して襲い掛かってきた。


「イェッタさん」

「委細承知!」


 二人は即座に迎撃を開始。


「《征服する大嵐エーヴェヴィンナ・ティフォーン》!」


 突撃の気勢を削ぎ落す、ブロードの魔剣。

 そこへ、イェッタが辛苦に燃え上がる魔剣を励起させる。


「《赫灼たる火山(レード・ヴルカーン)》!!」


 その業火は、ブロードの操る台風の突風に勢いよく流れ込む。


「まさか!」


 吸血鬼の大群が、吸血大帝の眷属が、二本の魔剣の能力によって焼滅していた。


「魔剣同士の相互作用?! そんな芸当までできたのか!?」

「《フェシュテーラ》──最大励起」


 眷属群を失い、風に拘束される吸血大帝。

 奴を潰すには、“一つ所に集め”、“一挙に叩く”しか方法がない。


「《破砕する大宝玉フェシュテーラ・ユーヴェル》」

「グおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!」


 血液の一篇までも残らぬ破壊の大鉄球が、吸血大帝の五体を轢き潰した。


「な…………なんとか、勝てた」

「いえ。まだ屋敷にいる分身体──いまや本体同然となった大帝を、叩かね、ば」


 二人は呼吸を整えるべく、その場で膝を屈し、数分の間身動き一つとれなくなった。





 ◆ ◆ ◆





(我が本体が?)


 完全にやられた。

 こうなった以上は、分身体である自分が本体同然の存在となる。


(くそ、熱くなっていた……このような雑魚どもと、完全に見下していた)


 そう自己分析する吸血大帝は、現在、《リーラ》の蜘蛛の巣にからめとられ、身動きがとれぬまでになっていた。

 周囲でキィキィと泣き声をあげる吸血蝙蝠たちも同様。まるで得物を繭でくるむかのように、屋敷の一角は蜘蛛の糸で編まれたボール状の空間内にとって代わっている。モーネは容赦がなかった。

 だが、


「ああ、うう……」


 長時間の最大励起は、使用者の気力を損なう。おまけに、リーラの場合は“呪いを拡大させる”という副作用付きだ。

 彼女はダラリと落ちる両手足を、なんとか蜘蛛の腹胴部につなげて自立できている程度。


(逃げる、もとい撤退するなら今だな)


 吸血大帝は無理やりにからめとられた手足や腹部を自切同然に千切り棄て、数匹の蝙蝠の姿に。


「ま、待ちなさい!」


 しかし、モーネは糸を伸ばせなかった。体力気力の限界はとうに超えていた。

 彼女の代わりにフェリがボウガンで銀矢を打ち出すが、最期の一匹が捕らえられない!


「くそっ」


 勝利を確信する吸血大帝。

 彼の耳に、静かな声が注がれる。


「逃がさない」


 スヴェート公の家令──ノルシェーンであった。


「《ブロー》──形態変化」


 青い魔剣が弓状に変化し、氷の矢を(つがえ)えさせる──自然な動作で、100年の禁を破って、敵を照準し、放つ。




「《射貫く氷フェレルスカセイ・イース》」




 ハーフエルフの瞳は、確実に最後の吸血蝙蝠を射抜いていた。


「な…………ば、か、な…………」


 本体となった分身が氷漬けになったことで、そのほかの眷属群も氷漬けとなり、次の瞬間にはバラバラに砕け散った。


「こ、これで、我に勝ったと思うな、小娘が」


 それでも、吸血大帝は生きていた。

 極低温にさらされては、もって数秒か数分の命ではあったが。


「いずれは第二、第三の我が、貴様らの喉笛を」

「そうはさせないんだよね」


《転移》してきた星竜/ナテュールによって、《癒し》の力が施された吸血大帝。


「な、貴様」


 飛び立って逃げようとする魔王をふん捕まえる白衣に片眼鏡の女性。

 そしてナテュールは、どこからかからの硝子瓶(ガラスビン)を取り出し、その中に吸血大帝──蝙蝠状態のそれを幽閉してしまう。


「封印処理完了──これで、魔王復活は不可能というわけだ」

「ぐあああああああああああ、貴様あああああああああああ、またしても我にこのような屈辱をおおおおおおおおおおおおッ!」


 キィキィうるさいそちらは完全に無視し、ナテュールは屋敷の守護に徹した家人たちに告げる。


「本当にお疲れさ────ま?」


 ガラスビンを(もてあそ)んでいた星竜の右手が消え失せた(・・・・・)


「悪いが、同胞をそう何度も封じられるわけにはいかんのでな」


 ナテュールが漆黒の女騎士を前に、悔し気に呻く。


「……死刑剣王!」


 右腕の傷口を反射的に抑えるナテュール。


「今回はこちらの敗北だ。そういうことにしておこう」


《転移》を使ってあらわれ、ビン詰めにされた同胞を救ったダークエルフの魔王は、再び《転移》の魔法(・・)で逃げおおせる。


「ちぇ。昔から可愛くない時に最悪の結果だけ残すんだから。──何はともあれ、痛み分けか」


 星竜の言葉で緊張の糸がとけたのか、モーネが最大励起姿を解く。八眼が閉じられ、蟲の胴体が消失。


「モーネ様!」


 だが、手足の呪いが拡大した影響で、彼女は屋根の上に留まることもできない。屋根瓦の上を、意識を失って滑落する第一王女──だったが。


「もう……また無茶をして」


 森から《転移》の魔石を使用してきたブロードとイェッタに支えられ、何とか無事に済んだのであった。












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