表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第三章
34/53

吸血大帝 -2






 ◆ ◆ ◆





 六英伝説いわく、

『吸血大帝やその眷属の弱点は、“銀製の武具”』

 実際、彼を討滅し果せた“銀の水騎兵・シルヴェル”は、純銀の騎士鎗(ランス)によって吸血大帝を討ち取った──とある。


(こんなボウガンでも、ないよりはマシっしょ!)


 音もなく引鉄を絞ったフェリ・エーブリクト。元傭兵時代からとった杵柄(きねづか)、そのボウガンの腕前は百発百中を誇る──はずだった。


「ギィ!」


 しかし、あたったのは主人の盾のごとく飛び出した雑魚吸血鬼であった。

 吸血鬼を一体仕留められたのは戦果ではあったが、


「こっちの場所がバレた!」


「移動する」と言ったノルシェーン。

 その直後であった。


「うわっと!」


 大量の蝙蝠の群れが、二人を取り囲むように飛行してきた。

 蝙蝠たちはあっという間に吸血大帝の偉容と殺意を形作る。


「邪魔建てするな雑魚どもが──よろしい。私は前菜から手を付ける口なのでな」

「くっ!」


 二人は魔剣を抜いた。

 吸血大帝は感心したように息をつく。


「ほう。《ブロー》と《ローサ》の適合者か。懐かしいものだ、特に銀騎士が握っていた《ブロー》は、な!」


 吸血大帝の長爪が、ノルシェーンの態勢を大きく崩した。

 フングリングは一目で看破した。


「なんだ貴様。ずぶの素人か? 魔剣の戦闘能力に頼るのみでは、私は殺せぬぞ!」

「ぐぅあ!」

「ノル殿!」


 すでにボウガンの装填を終えていたフェリが銀矢を速射していく。しかし、吸血大帝には当たらない。ここにいる体は、蝙蝠の分身体にすぎないからだ。あっさりと素通りしていくフェリの弓撃。


「フェリ、離れて!」


 ノルシェーンは吼えた。

 戦闘が苦手な自分でも、《ブロー》の最大励起までもっていけぬ非戦闘員でも、できることはある。


「《ブロー》──広範励起」


 青白く輝く魔剣が、極冷気を(まと)いだす。


「《青昏き冷風(ブロー・カル)》!」

「むうっ!」


 屋根瓦を含むノルシェーンの前方空間が、凍てつく霜を降らせ始める。途端、蝙蝠たちが冷気に耐えきれず落下し氷結していく!


「はああああああ────ッ!」


 ノルシェーンは吸血大帝の分身体を氷漬けにはできない。

 それでも、奴の戦力の何割かを削り取ることが出来れば!





「なめるなよ、ハーフエルフの小娘」





 フェリが悲鳴にも近い絶叫をあげた。


「ノル殿! 後ろ!」


 振り返る間もなく、ノルの背中を長爪の閃きが襲った。







 ◆ ◆ ◆






「ふむ、あちらは問題なさそうだな?」


 森の中で対峙するフングリングは、《フェシュテーラ》と《エーヴェヴィンナ》二剣を抜いた魔石卿の攻撃を五爪の長剣で受け止める。

 そこへ、《レード》を数十本に分割統御したイェッタの小剣群が襲い掛かるが、


「おっと」


 こちらも蝙蝠の群れに変じられ、すべて(かわ)されてしまう。たたらを踏むブロードは、イェッタとナテュールで周辺を警戒し、とある木の幹の上に姿を現す。


「邪魔をしないでいただきたいものだな、魔石卿殿」

「だまれ」


 ブロードは冷徹な声で告げる。


「僕の家族を傷つけて見ろ──強欲女帝のように、その胸切り開いてやる」


 あまりにも静かすぎる殺意。

 イェッタが思わず見惚れ、ナテュールが自分の鑑識眼の確かさを認めた時。


「む」


 吸血大帝は、屋敷の屋上に飛ばした分身体の方に意識を向ける。


「新手か」






 ◆ ◆ ◆





 ノルシェーンの命を輪切りにせんとしていた瞬間、


「これは?」


 分身体は腕をからめとられたように固定されていた。

 そして、その正体を正確に看破する。


「蜘蛛の、糸?」

「正解」


 答え合わせをしてくれた魔剣保有者の一撃を、分身体は避けもせず躱した。蝙蝠の群れとなった分身体は、そこに現れた金髪の王女を見てほくそ笑んだ。


「これはこれは。モーナルキー王国第一王位継承者──モーネ・レグンボーゲ殿下ではありませんか」

「《リーラ》──最大励起」


 モーネは何も答えず、ただブロードの家族を守るために出来得る限りのことを己に課した。


「《紫毒の大蜘蛛(リーラ・スピンデル)》!」


 現れる女郎蜘蛛(アラクネ)の特徴。紫紺色の毒霧。縦横無尽に張り巡らされる蜘蛛の巣。


「モーネ様! その力は!」

「お願い、今だけは見逃して!」


 ノルが制止の声を張り上げる──ブロードがあれだけ使用を禁じていた最大励起の使用に対し、大蜘蛛と化した王女は敵を見据える。

 

「分身とはいえ、こいつは私の糸がないと倒せそうにない。協力して二人とも!」


 黄金の髪を振り乱し、八眼を見開く第一王女。

 モーネの覚悟を見届けたノルシェーンとフェリは、あらためて、吸血大帝の分身体と相対する。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ