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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第三章
31/53

星竜/ナテュール -1






 ◆ ◆ ◆





 大洋スティッラ・ハーヴェットの中心。

 どの大陸からも隔絶された、星の真ん中に位置する、とある島。

 生い茂る豊かで巨大な森。

 清廉を極めた湖。

 苔むす岩。

 人の手の全く入らぬ巨大原生林の奥深くに、彼女(・・)はいる。


「ん?」


 原生林の奥深くに開いた、宮殿のごとき異空間。

 玉座のごとき巨大樹に腰掛け寝入っていた人物が、一人。

 純白の髪に純白の一本角、衣服も純白に染まった彼女は、片眼鏡をかける顔を歪ませる。


「なんてひどい臭い……」


 彼女は鼻をつまみたくなるほどの臭気を感じた。

 森の香りではなく、世界に満ちる悪意と戦意が、彼女を微睡(まどろみ)から覚ましたのだ。


「とてつもなく濃い瘴気……これは魔王たち“六帝”が復活を果たしたようですね」


 片眼鏡をかけた左眼の方は白く濁っていた。

 かつて、とある英雄たちのために力を使った代償である。

 彼女は物の見える右目で世界を見つめる。


「しかし、今回は一段と……おや?」


 彼女は、自分が感知したおかしな気配に小首を傾げる。


「おやおや? なんでしょう、この魔剣の数は? 私が一眠りしている数十年の間に、これほど大量に?」


 生産できるものであっただろうか。人間側に何らかの技術革新でも生じたとでもいうのか?

 彼女の興味は尽きない。

 純白の羽毛を思わせる白衣の両袖を振って、巨大樹の幹に跳びあがる。

 彼女のすべてを見透かす右目が、一人の少年を見つけ出した。


「魔剣の製造元は…………随分と錬磨された、けれど復讐と闘争を胸に宿す心の持ち主…………なるほど」


 良き魔剣鍛造者になれるはずだとひとりごちる。


「おや? 少年の傍にいるのは……イェッタ・イェーン!」


 興味が好奇心へと昇華していくのを自覚する女性。


「……少しだけ外出しても怒られませんよね?」


 純白の女性は、衣服を脱いで水浴びに興じ、そして、その姿を人のそれから逸脱させた。



 彼女の名は、星竜/ナテュール



 真の竜(トゥルー・ドラゴン)

 ドラゴンの上に立つドラゴン。

 500年前のかつて、魔王討伐を求めた六人の英傑に『虹』の魔剣を託した大賢者の正体が彼女であった。






 ◆ ◆ ◆





「うん?」

「どうかされましたか、坊ちゃま?」


 魔石錬成と魔剣鍛造に汗水たらす魔石卿は、なにか視線を感じた気がした。

 誰かに見られているという感覚が膨大化し、心の深部まで見透かされるような、不思議な感覚。

 屋敷に戻ったブロードとイェッタは、来る戦い──“六帝”との戦いを想定し、新たな魔石を錬成し、新たな魔剣の鍛造に尽力していた。

 とくに、一般兵に配給される魔剣(シェーラ)以上の性能を持った魔剣を量産、とまではいかずとも、将官クラスには行きわたる量を鍛造中である。

 そんな時に味わった、不可思議を極めた感覚。

 これは一体なんだと疑念をこぼす間に、


「はじめまして」


 突然の声の出現に、ブロードもイェッタも、完全に居を突かれた。

 双方ともに、敵意とも戦意ともかけ離れた純白の女性を見やって愕然とする。

 この屋敷の深部である地下工房に侵入者など、考え難い事態であった。

 しかも、イェッタはブロードとは全く違う反応を示す。


「ナ、ナテュール殿っ?!」


 どうやらイェッタの知己(ちき)らしい片眼鏡の女性は、白衣を翻し、とりあえず挨拶を交わす。


「久しぶり。イェッタ──505年ぶり、といったところかな?」

「ええ……よく覚えておいでで」

「それはそうと……すごい魔石と魔剣の数だね?」

「イェッタさん──この女性は?」


 作業を中断し、汗まみれの顔をタオルで拭ったブロードが問う。


「以前、お話したこともあったと思いますが」

「私は星竜のナテュール」


 ナテュールと名乗った女性は、左眼の濁った眼に片眼鏡をかけ、純白の羽毛を思わせる白衣を身に纏い、魔石卿と相対する。


「君らが持つ『虹色』の魔剣──それを鍛えあげた張本人、といえば理解も早いかな?」


 ブロードは目を瞠った。


「正直、いきなりそんなことを言われても」


 信じることは難しい。

 ナテュールは人差し指を頬にあて、「じゃあ、これならどうだろう」と、左眼付近に手を添えた。

 手の動きに合わせて、赤い魔剣レード・イェッタの愛剣に酷似した模造品(レプリカ)が形成されていく。

 魔剣はその外見を似せて造ることができない。

 それができるのは鍛造した本人だけだとされる。

 魔術でも魔石でも、ブロード自身ですら真似しようがない芸当に違いなかった。


「これはただのハリボテだけど」


 ナテュールは何のためらいもなく、ハリボテの《レード》を叩き折った。砕け壊れた赤い破片が塵と化し、白く濁った左眼へと戻っていく。


「なんだったら、私の竜化した姿を見せてもいいけど?」


 ざわりと空気が変わった。

 白い一本角が鋭角に伸びあがり、彼女の右目が爬虫類然としたものに変わる中。


「いいえ、充分です」


 ナテュールの話は、イェッタからあらためて聞かされていた。

 どの大陸にも属さない小さな島。そこを縄張りとする星の竜。そして、イェッタたち六人に、虹の魔剣を供与してくれた協力者。


「それで、星竜ナテュール殿は、どのような御用件で、はるばる屋敷(ここ)へ?」


 そう訊ねるブロード・スヴェートに対し、星の竜は笑みを消して答えた。









「君を止めようと思って、ここへ来た」










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― 新着の感想 ―
[良い点] さりげない自然な修飾文は、いつ読んでも参考になります。 [気になる点] 「じゃあ、これならどうだろう」と、左魔付近に手を添えた。 左目 のことでしょうか? [一言] 文章が好みに合うんで…
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