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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第二章
29/53








 ◆ ◆ ◆






「ほ、報告!」


 通信武官が《通信》魔術でもたらされた吉報をもって、ヴォール王の鎮座する玉座の間に現れた。

 片膝をついて恭しく報告内容を奏上する。


「ヴェンスカープ卿率いる左翼、南都奪還に成功! 中翼、右翼ともに、そのあとに続き、魔王の支配領域を奪還いたしました!」


 場内がどよめいた。

 ヴォール王はほっと胸をなでおろす。


「そうか、よかった……」


 多大な犠牲を払いはしたが、魔王の侵攻を止める一助にはなろう。

 その間に軍備を整え、諸国への望みをつなぐのだ。


「して、魔石卿──スヴェート公たちの方は」

「心配いらないわ、お父様」


 戦いの疲れなどおくびにも出さず、モーネは玉座の間に参内する。


「モーネ、おまえという娘は」


 勝手に出征したことを咎める語調であったが、それにもまして、モーネのもたらした朗報は玉座の広い空間をどよめかせた。


「作戦は成功といってよいでしょう──魔剣レードと、その使い手・イェッタを回収。魔剣ギュールは敵の手に堕ちたままですが、これは大戦果といえるでしょう」






 ◆ ◆ ◆





 ささやかな宴の席にて。


「えー、というわけで。我々は無事、イェッタの奪還に成功いたしました!」


 スヴェート公の屋敷に戻ったモーネは、水入りの杯を手に音頭を取った。

 家令のノルシェーンが用意した宴席と料理を前に、ブロードをはじめ電撃部隊に参加した五人が大テーブルの席に着き、奪還されてきたイェッタが所在なさげに主賓席に座る。


「第一王女様は、お城で戦勝記念式典に出られるんじゃあ?」

「細かいことは言いっこなしよ、元傭兵のメイドちゃん?」


 フェリに指摘されたことを一旦おいて。


「堅苦しいのはここまで! 乾杯!」


 乾杯の声が唱和し、盛り付けられた料理やパンの山に手が伸びる。


「ほんとう、今回は何度しぬかとおもった」

「フェリの嬢ちゃんの活躍のおかげだろうが、ほれ食え食え!」

「……おいしい、これ」


 魔剣ローサ、《オランジュ》、《グロー》を腰に佩く三人がスープや肉料理に舌鼓を打つ。


「今回は私のおかげで、魔王の一角を討滅できたのよね、ブロード?」

「うん。《リーラ》の能力があったからこそ、僕はこうして無事でいられる。ありがとう、モーネ」


 素直に感謝され、頬が緩むのを抑えきれない第一王女。

 だが、その話を聞いたイェッタが疑義を呈した。


「強欲女帝を、討った?」

「ああ、そのはずだけど?」

「え、なに問題でもあるの?」


 一座がシンと静まり返る。


「……誠に言いにくいことですが」、強欲女帝は生きている……いえ、復活する可能性が高いと思われます」


 イェッタは詳細を語った。

 俄かには信じがたい内容であったが、彼女が500年前の“六英”の一人である事実を考えると、否定する材料がない。


「あれだけ苦労して討滅したのに」

「復活ありとか、マジで言ってる?」

「はい。大マジです」


 沈みまくる場の雰囲気。

 だが、やはりイェッタを奪還して正解であったとブロードは考えをあらためる。

 イェッタは訥々と話し始めた。


「あれは500年前────」






 ◆ ◆ ◆






「イェッタさん」


 作戦成功を祝う宴が散会を告げ、酒がまわり酔い潰れた傭兵二人を尻目に、ノルシェーンとフェリ、そしてモーネまでもが後片付けに参加する。


「坊ちゃま」

「まだ、話せてないことがある──そうだね?」


 ブロードは気づいていた。

 彼女が語った500年前の戦いとは別に、彼女には明かしきれてない秘密があることを。

 しかし、それでも。


「今は話せなくてもいい」


 そう告げる主人の言葉に、イェッタは心の底から救われる。


「それでも」

「それでも?」

「それでも。何も話さないでいなくなるのだけは、やめてね?」


 微笑みを深くするブロードの言葉に、イェッタの内にある《心臓》の魔石がトクンと脈打った。


「はい。お約束します」


 夜気の中、ともに涼む二人

 自分はもう迷うまいと心に誓うイェッタ。

 彼女の脳裏に、かつての優しい母の面影がちらつくが、魔石卿のメイド長は今度こそ、彼と共に戦う決意を固めたのだった。










































 ◇ ◇ ◇





 魔王連合国家の首都“ヒューヴドスタード”。

 その宮殿にて。

 厳かな空気の中、輿の上に乗せられた悪魔の娘が一人。

 彼女は己の運命を見定めたような鋭敏な視線を、ひたすらに前へ向けて、小魔(ドーリグ)たちの担ぐ神輿の上に鎮座する。

 向かう先は宮殿の奥──復活した魔王“六帝”のうち五人が集っている。

 その中で唯一玉座に腰掛けるのは、虚空をぼんやりと眺める子ども【大愚魔皇】ドゥム。

 やがて、悪魔の娘を載せた輿が、ドゥムの眼前へと運ばれる。闇色の涎と涙を流しながら、彼は告げる。


()は悲しい』


 普段の様子が信じられないほど英哲な声の響き。

 他四人の六帝が片膝をつく死聖というのも、普段の様子からは逸脱している。


『余はこれから、我が仲間を復活させねばならない──そのための犠牲(いけにえ)に選ばれた其方(そなた)のことを、本当に気の毒に思う』

「どうか、そのようなことはおっしゃらずに、我等が大王にして魔皇陛下。すべて、覚悟の上です」

『──すまない』


 悪魔の娘は、自分に下される運命を称揚と受け入れた。

 そして、玉座から一歩ずつ降りてくる少年魔王を、神の啓示を待つがごとく、両手を組んで待ちわびる。

 ドゥムは告げる。


『我らが同胞【強欲女帝】の、“復活の儀”を執り行う』


 魔皇は悪魔の娘に接吻を落とした。

 情熱的な、官能的な、淫靡と貪欲極まる水音が玉座を染める。

 そして、彼の闇色の体液──純黒の中身が、娘の口から体内に落ち切った時。


「んぐうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!」


 ドゥムが唇を離し、その場をさがった。

 くぐもった悲鳴と断末魔が、宮殿内にに響きわたる。

 娘の体躯が、黒髪肌色の瘦せ型の躯体が、青白く染まりだした。

 黒髪が金色に染まり千切れ、角や尻尾が隆起し、淫蕩な乳房や臀部が形成され──ついには【強欲女帝】の姿そのものへと変化。

 すべてのものを収奪する能力を秘めた女帝は、とろんとした目つきを、やがて鋭くも楽し気な調子にゆがめる。


「やぁ【大愚魔皇(ドゥム)】──それに、我が仲間たち。復活させてくれて、ありがとう」


 魔王復活はなされた。

 ここに、【強欲女帝】は復活をはたした。

 ささやかな祝宴が饗され、“六帝”はその絆を新たなものとした。









第二章、終了。

第三章に続きます。

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