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魔石卿  作者: 秘灯麦夜
第二章
22/53

拳豪魔帝 -1







 ◆ ◆ ◆






 旧城壁都市スタルク。

 旧政府庁舎の一室にて。


「アロガント殿が出征なされたですと?」


 髑髏賢帝フェーグは、同胞の一人がいないことを確認して、彼らしく取り乱した。

 そんな骸骨に王冠と豪奢なコートを纏う魔王の慌てぶりに、報告した強欲女帝が嗤って応じる。


「別に構いはしないでしょ? 私らは同盟関係であって主従ではない。自分が戦いたいときに戦いにいく──何か問題でも?」


 悪魔的な嗤笑(ししょう)を浮かべて、魔王らしくない魔王を窘めるシェルヴィスクことシエル。


「シエル殿はそれでいいでしょうが、ぜぜ全軍の統率を考えますと」

「だから問題ないって言ってるでしょ? むしろ、あんなキカンボウを統御できると思う方が問題よ、フェーグ賢帝?」


 ソファの上でしどけなく生肉のソテーを頬張る悪魔の女帝に対し、フェーグは落ち着きない様子のまま、頷くしかなかった。







 ◆ ◆ ◆






 一方。

 モーナルキー王国、王直轄領、レグンボーゲ城を急襲しおおせたアロガントは、


「うっひょおおおおおおおおおおおおおおおおおお────すげえ、すげえ!」


 純粋な感嘆符と共に、己を城外へと追い出した少年の手並みに、内心で拍手喝さいを送っていた。


「これほどの風を引き起こせるのは《緑色(グレーン)》だけだと思ってたんだが、な!」


 彼は自分一人を襲って食らいつく暴風の大蛇を、正拳突き一発で雲散霧消させる。

 アロガントは己の用いる情報を基に分析し、即座に理解の首肯をおとした。


「なるほどだな。風の属性を“征服”し、それを“使役”したというわけだな? それならば得心がいくってもんだ!」


 それ故の第二(・・)励起。

 魔石卿のみが扱う魔剣──天上五剣の特質のひとつであった。


「ギハハハハ! おもしろい! おもしろい! 愉快すぎるぞ、魔石卿とやら! 」


 彼は、《飛行》魔石で追撃に出たブロードの一撃を、上半身を九十度近く反らす格好で躱した。


「《エーヴェヴィンナ》──第一励起」


 征服の魔剣は、魔術における第一属性・炎を隷従化させて、剣の持ち主の力と変える。


「《征服する大火エーヴェヴィンナ・エルド》」


 火力を加えたその一撃は、赤の魔剣レードの通常攻撃を彷彿とさせる威力を存分に示していた。

 だが、拳豪魔帝は燃え盛る黒刃を掴み取り、


「ぬ・る・い・んだよッ!」


 ブロードの鳩尾めがけて、死を思わせる速度と拳圧が繰り出される。

 しかし、魔石卿もその程度のことは承知のこと。


魔剣(シェーラ)十本追加」


 斬ることに特化した魔剣を一挙に十本も開放し、己を護る盾──どころか、相手の拳や腕を串刺しにすることで、その勢いを削いだ。そのうえで《エーヴェヴィンナ》を防護の盾代わりとする。

 そこまでしたのにもかかわらず、魔帝は嗤う。


「惜しい、なァ!」


 魔石卿の策は確かに一撃死を免れ、相手の腕に致命的なダメージを与えたかに見えた。

 それでも、アロガントの拳はブロードの体躯を吹き飛ばしていた。


「ぐっ」


 咄嗟に回避行動をとったおかげで、致命的な一撃をもらわずに済んだ魔石卿。だが、アロガントは突き入れられた十本の魔剣を筋肉の圧ですべてへしおり、バラバラに砕いて傷口を再生させる。

 そして告げる。


「おまえさん……特記事項とか言われてたくせに、あんまり戦いに向いてねえんじゃねえか?」


 挑発するでもなく、冷厳に冷徹に、ブロード・スヴェートの戦いぶりを観察した上での、純粋な感想がそれであった。


「500年前の連中はすごかったぜえ? こっちを殺す気まんまんだったからな? だが、おまえさんはどうだ? 殺気ってものがまるでない──鍛冶仕事でもしてた方が、まだお似合いってもんだ」

「……それは否定しない」

「そうかい。自分で理解できているなら結構なことだ」


 ブロードは鍛冶錬鉄の才技と師匠に恵まれはしたが、剣才の方にかんしては独学我流もいいところであった。

 それで問題はなかった。彼には魔剣を調整する能力があるし、魔剣はそもそも戦闘補助の能力に秀でている。それを利用した自分なりの剣術を開拓できたのも、ひとえに魔石錬成と魔剣鍛造の力があってこそ。この両輪がなければ、今のブロード・スヴェートは形成されることはなかったと、自信を持っていえる。


「だが」

「ッ!」


 咄嗟にエーヴェヴィンナを構えるが、それよりも早く拳豪魔帝の一撃が魔石卿の腹に入る。

 軍礼装に施されていた防御魔術がなければ即死していた一撃であった。


「俺様の相手としては落第点だ」

「げほ、かほ」


 失望の色を隠さないアロガントの声。彼は続けざまに告げる。


「この分じゃ、今に飛ばされた『《レード》使い』の方も、望み薄かもな。すっかり牙が抜け落ちてても不思議じゃねえぜ」

「────何?」


 それに対し、ブロードは冷静に答えを求める。


「いま、何と言った?」

「あん?」


 ブロードの雰囲気が一変する。

 これまでの剣気も殺気も薄い状態から、一挙に血に飢える餓狼のような狂暴性を発露する。


「《レード》使い──おまえ、イェッタさんがどこに行ったか、知ってるんじゃないか?」

「ああ、それがどうし」


 たと告げる前に、ブロードの握る魔剣(エーヴェヴィンナ)が、魔帝の腕を斬り落としていた。

 彼が回避していなければ、おそらく首を落とされていただろう一撃。

 アロガントはようやく獲物が目を覚ましたことに驚喜した。


「ぎ、はは、ははははははははははははは! やればできるじゃねえか! 今までのは一体なんだったんだってぐらいの変わり身! そんなにもあの(メス)のことが」

「イェッタさんは、どこにいるッ!!」


 怒りで視野狭窄(しやきょうさく)に陥ることなく、ブロードは新たな魔剣──天上五剣の三本目を、左腕に抜き払った。


「《フェシュテーラ》!!」

「──おっ、……おお?」


 その刀身を見て、拳豪魔帝は身震いした。身震いしながら歓喜の咆哮を奏でた。


「素晴らしい魔剣だァ! さっきの白いの(シェルレース)も、右腕の黒いの(エーヴェヴィンナ)も素晴らしいが、そいつ(・・・)は最高だ!」


 しかして、その形状を剣と呼んでいいのか、大きな疑問が残る。

 あまりにも禍々(まがまが)しい刀身であった。

 剣というよりも、魔王の鎚を思わせる巨大な存在感が、モーニングスタ―……星形状の鉄球の重々しい武装に姿を変えていた。

 フェシュテーラ。

 その意味するところは、“破壊”そのもの。

 主人の破壊衝動をそのまま具象化したような姿だが、本来魔剣の形状を表すことが多く、このような形状の変化は、ごく稀──いや、初といってよかった。


「さぁさぁさぁさぁ! 存分に充分に殴り合おうじゃねえか! 魔 石 卿 よぅ!!」


 アロガントも本気を出すべく腕を再生させ、竜の鱗(ドラゴンスケイル)(はだ)(まと)いだす。

 背中から伸びた被膜(ひまく)付きの赤い翼。頭部から突き出る二本角が、彼の種族の特徴であった。


 ドラゴン。


 その人獣形態。

 拳豪魔帝もまた、本気と本性を尽くして、魔石卿と相対し始める。








・設定

 魔石卿の“天上五剣”

1 “征服” 《エーヴェヴィンナ》 

  漆黒の剣  効果は「異能無効+属性攻撃」

2 “寛大” 《シェネレース》   

  純白の剣  効果は「敵意や戦意の無効」

3 “破壊” 《フェシュテーラ》 

  鋼鉄の剣  効果は「形状自由」

4 “??”


5 “??”

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