六帝
宿敵
◇ ◇ ◇
城壁都市“スタルク”は、僅か一日で陥落した。
これまで数多の化け物たちの進行を食い止めてきた城壁のうちは、阿鼻叫喚の地獄と化した。
都市の住人で生き残った者はわずかであった。早い段階で都市を放棄せざるを得ないと考えた軍団長の一人が都市内部でバリケイドを築き、都市西側の住人を避難させる時間稼ぎを行ったが、それも二時間で崩壊を余儀なくされた。
現在、堅牢無比を誇っていた城壁都市は破壊の限りを尽くされ、虐殺の処刑場に変わってしまった。
そんな都市の中心──旧政府庁舎を兼ねた大聖堂に、六人の魔族が巨大な円卓を囲んでいた。
だが、主に発現しているのは四人に絞られている。
「いやはや。なんというか。魔王の力がないとここまで来ることもできなかったのか、我が末裔共は?」
「い、致し方ありません。まま魔族同士が連携を取るには、まま魔王たる我等の存在が必要不可欠。そそそれを欠いた状態では」
「フフ──致し方ないか、貴公らしい考え方であるな、髑髏賢帝殿よ」
「そんなことより、ここから先どうするのよ?」
「と、申されますと?」
「ハハァ! そんなこと決まってらぁな! このまま突き進むあるのみ! だろ?」
「はぁ。脳筋バカには聞いてないし?」
「なんだと、こら、やんのか、こら?」
大円卓に集った六人の魔王。
高慢に吼えつつ拳を鳴らす【拳豪魔帝】──アロガント
怯えながらも合議を進める【髑髏賢帝】──フェーグ
整然とグラスを傾けて呷る【吸血大帝】──フングリング
人の血でマニキュアを塗る【強欲女帝】──シェルヴィスク
そして、会議にほとんど参加していない二人の魔王もいる。
「………………」
椅子に腰かけ腕を組む騎士【死刑剣王】──スヴァット・シューク
先の戦では“一番乗り”の大功をなしとげ、都市の総隊長を秒殺した、漆黒の女騎士。
その面貌は黒い仮面に秘されているが、漆黒の髪と褐色肌、そして長耳という、この世界から失われた種族の特徴をこれでもかと顕示している。
そして。
「ぁぁぁぁぁ?」
最後の一人。
空虚な瞳で虚空を眺める子供【大愚魔皇】──ドゥム
この六人こそが、500年前に六英によって討滅され、封滅を余儀なくされた魔王たち──その復活した姿であった。
フェーグが骸骨の骨の指先で羊皮紙の報告書をめくる。
「ええと、ほほ報告によりますとですね」
「賢帝殿」
吸血大帝は嘆くように言う。
「500年前から申していることだが、そなたほどの地位ある身の者が、そのような下働きの仕事をするのはいかがなものか? ここは、我等が従僕に報告書を読ませるべきでは?」
フングリングのいうことは尤もであった。
フェーグは恥じ入るように謝罪しつつ、席に座りなおす。
吸血鬼の魔王は、王の従僕と化した……魔術によって奴隷と化した人間の女性兵士を、指を鳴らして呼び寄せる。
彼女に報告書を奏上、読み上げさせる吸血大帝。
『げ、現在、城壁都市“スタルク”は、完全に、完全に、魔王連合国家の手に──堕ちました』
「ふむ。続けよ」
人血のグラスを傾け、涙を溢れさせる女の様を愉しむように、吸血大帝は細長い指を鳴らす。
『そ、それに伴い、人間ども、人間どもの土地を簒奪する橋頭保を確保。順次、準備が整い次第、大侵攻を再開すべし』
「うむ。よく言えたな」
褒美を授けようと言って、フングリングは立ちあがった。
身の丈2メートルは越える美丈夫を見上げる女性兵士は、魅入られたように白金の髪の吸血鬼と見つめあい、
一瞬であった。
肉体を頭の上から太腿に至るまで喰いちぎられた。
残された両脚だけが、鮮血を吹いて直立している。
強欲女王が不機嫌そうにつぶやいた。
「うげぇぇ。相変わらずの暴食ぶりよね、吸血大帝は」
「失敬──いやなに。少々、小腹が空いていたのでな?」
残された人間の両脚を、まるで酒の肴でもつまむかのようにムシリムシリと咀嚼し嚙みちぎりながら、骨髄の一片までゆっくりと味わう吸血大帝。
「そそそういうわけで、これからの侵攻計画ですが──その前に懸念すべき特記事項を、ひひひとつ」
結局、髑髏賢帝が進行役を務めて、合議は進む。
「我々の協力者から得られた情報──人間国家に存在する魔剣鍛造者──魔石卿について、お話しましょう」
彼らの目的はただひとつ。
人間の世界を滅ぼす為に。
・登場人物紹介【“六帝”】
●【拳豪魔帝】──アロガント
高慢で傲岸不遜な喧嘩好きの男。種族:ドラゴン
●【髑髏賢帝】──フェーグ
臆病だが参謀を務める骸骨の王。種族:アンデッド
●【吸血大帝】──フングリング
美食家・悪食屋・暴食の美丈夫。種族:ヴァンパイア
●【強欲女帝】──シェルヴィスク
悪辣淫蕩な性格で、魔性の美女。種族:悪魔
●【死刑剣王】──スヴァット・シューク
仮面と鎧で全貌を隠す女性騎士。種族:ダークエルフ
●【大愚魔皇】──ドゥム
いつも虚ろな様子の子供の魔王。種族:?




