俺の魔王様
「……ええ」
頷く。もちろん、昨日まで、こんな模様はなかった。これは、認めるしかない──わよね。
でも、本当に私でいいのかな、と不安には思うけれど。
「……良かった。俺の魔王様、それでは城に移動しましょう」
「……城?」
「はい。あなたの城です」
ニルヴァーナが恭しく私の手を取る。すると──……。
「っ!?!?」
目の前が光で真っ白になる。思わずニルヴァーナの手をぎゅっと握り返すと、心配ございませんよ、とニルヴァーナは囁いてくれた。
「でもっ……」
「はい、俺の魔王様。もう、着きました」
その言葉通り、瞬きをすると、先ほどいた黒い森が消えていた。そしてその代わりに目の前に現れた豪華絢爛なこの建物は──。
「ここ、は……」
「魔王城です。目覚めた俺がいれば、どこからでもこの城に戻ってくることができますよ」
誉めてほしい、と言わんばかりの得意気なその言い方に思わず笑う。
「……ふふ」
「俺の魔王様、笑いましたね。あなたの笑みはとても素敵だ」
これは、光溢れる魔王城になりそうですね、と言って笑ったニルヴァーナの笑みの方がよほど素敵だった。
「さて、俺の魔王様」
「ねぇ、ニルヴァーナ」
私はニルヴァーナにずっと疑問に思っていたことを尋ねることにした。
「……何でしょうか?」
「その『俺の』魔王様って、なに?」
普通に呼ぶなら魔王、とかティカリアでいいはず。魔王呼びをするときに、毎回わざわざ『俺の』という言葉をつける理由が気になった。
「だってあなたは、俺の魔王様。ずっと、ずっとあなたを待っていました。俺を従えるべき、真の魔王様たるあなたを」
ニルヴァーナが私を見つめる。その瞳には、孤独が滲んでいるような気がした。その孤独を消したくて、握ったままの手に力を込める。
「!」
一瞬驚いた顔をした後、ニルヴァーナはふんわりと微笑んだ。
「あなたを、従えるべき、というのは……」
「選定の木に刺さっていた俺を抜いた方々が、本当の魔王です。ですがここ数代は、かつての魔王の一族が選定の木に戻さずに、俺を使い続けました」
……つまり。
「私はいつかあなたをあの木に戻すときがくるのね。そして、あなたは、その次の魔王が現れるまであの木の中で眠り続ける」
私の言葉にニルヴァーナは頷いた。
「はい、俺の魔王様。その日まで俺を肌身離さず、お側に置いてくださいね。そして、俺は──あなたの全てを守り、あなたの全ての敵を切り裂きましょう」