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魔王の証

「私が──魔王に……」

 それも、魔剣を木から抜いたから。

「ねぇ、ニルヴァーナ」

「はい」

 私がその名前を呼ぶと、ニルヴァーナは、きらきらとした瞳で私を見た。……うっ、眩しい。


「あのね、もう一度、剣の姿になってほしいの」

「かしこまりました」

 ニルヴァーナはひとつ頷くと剣の姿になった。……本当にニルヴァーナは、あの剣なのね。


「よしっ」

 私はニルヴァーナを持ち上げると再び、木の窪みに、ニルヴァーナを突き刺した。

「これで、いいわよね」


 ニルヴァーナには、悪いことをしてしまった。魔王が抜くべき魔剣を、聖女──いえ、ただの平民しかも、人間が抜いてしまうだなんて。


 でも、これで、間違いは正せたはずだ。


「元気でね、ニルヴァーナ。間違って抜いてしまってごめんなさい」


 ニルヴァーナに背を向けて歩きだす。


 これから、どうしよう。馬車はもういってしまったし。そういえば、足を擦りむいたんだった。癒しの力を使って、治療し──。


「あなたは、癒しの力が使えるのですね。流石は俺の魔王様だ」

「!? えっ!?!?!?」

 思わず、癒しの力を止める。半端に傷が塞がって少し痛いけれど、それどころじゃない。


「ニルヴァーナ、どうしてあなた人の姿でここに立っているの!? 本当の魔王があなたを抜くのを待たなくていいの?」

「俺の魔王様、どうやらあなたは冗談をおっしゃっているわけではなさそうですね」

 てっきり木に刺されたのは、新手のごっこ遊びかと思いました、とニルヴァーナは付け加えた。


「いいですか、選定の木に刺さった魔剣は、その代の魔王にしか抜けません。ですが、一度魔剣を抜けば、ほらこの通り。自由に動けます」

「で、でも、さっき、するって抜けたじゃない。……あ」

 私に魔王なんか務まらないと、思いかけてはっとする。そうだわ! さっきはするって抜けた。


「もしかして、あなた他の誰かに抜かれたんじゃないかしら。その人(?)が正しいあなたの主で、だから──」

 私じゃ、ない。そう続けようとした言葉は、ニルヴァーナの手で口を塞がれたことによって、消える。

「どうか、あなたが俺の魔王様だということを否定しないで」

 赤の瞳には、困惑した私がゆらゆらと映っている。その瞳はとても悲しげだった。


 その瞳を見て、少し落ち着いたのがわかったのか、ニルヴァーナは、私の口から手を離し、とん、と私の右手を人差し指の先で叩いた。


 その瞬間、模様が私の右手の甲に浮き上がる。幾何学的な模様の中に、古代語──聖女教育の一貫として習っていた──で『魔王』と描かれている。

「これで、ご理解いただけましたか?」

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