はじまりのはじまり
穏やかな最期だった。
如何なる事象も、そうであるように。それは、最初はとても、小さな小さな火だった。その火は、幾度となくそう、数えるのも嫌気があるほどに踏まれ消されつぶされた。だが、その火は絶えなかった。火はやがて、消えることのない種火となった。それは、時と共に成長し、そのままに焼き尽くす焦熱となった。それは、もはや止めおくこともできず、大地を大空を業火によって焼いた。
残るものなどないほどに。
それを破壊と呼ぶ者のがいるだろう。だが、それは、我らにとっての悲願。
再生に向けての悲願だった。
そう、つい先ほどまでは。
「いかんな。魅入られてしまうとは……だが、それも良し」
黒く禿げあがった大地。焼け落ちた空。それは、私にとっては知りたる景色だった。
はぁ……大きなため息が出た。それは、失望や疲弊ではない。
ただただの、心からの感嘆とやり終えたという安堵。たったそれだけだった。
「第拾参班 収容完了。壱班より第拾参班、総班、目的の行動を完了した」
不意に、頭の中に文字が顕われる。 そう言えばそのようなことも命じていたと今更のように感じ入る。
「ああ、すまない。君たちは無事か?」
「ええ、私……■■:■■以下、全部隊現存。皆たちも、全員無事」
その声に思わず口角を上げた。彼女とは世界をかけて争い、そして、共闘した。いわば、同志。そして、運命共同体だった。
「気苦労をかけるな。
まあ、今回の件だ。特に彼女なんて怒っているのじゃないか?」
「ええ、当然よ。怒ってる。
でも、わかってくれている。ちゃんと理解しているの。
だからこそだけど、こちらからの提案。
今ならば間に合う、当然に反対者もいる。でも、あなたの席は空けてある。
せめて……」
「ああ、わかっている。だからこそだ、すまない。君たちと共に向かうことはできない」
私の言葉で長い沈黙が訪れた。それは、おしゃべり。だが、それでいてとても、プライドの高いものだ。
だが、私の言葉に、きっと泣いている。一言も発せしないのは、それが、誇り高いから。それと、私の心変わりを待っているからなのだろう。
だが、それの想いには答えることはできない。私には……果たすべき私の約目というものがある。
すっと、それは、普段は土くれと忌む心臓の位置に手を寄せた。まるで、わたしたちが言うことは全て真実であるとでも言いたいように。
「わたしたちは、あなたを想ってここにたっています。
私は理解しています。あなたが、いえ、貴方たちが生み出した土くれが……それがあなたにとっていかに重要で、護るに足る一物であるかを。
あなたは、土くれを慈しみ、憐れみ、そして、土くれを愛していることを知っています。
だとすれば、わたしたちは、わたしたちは…………あなたにとって取るになりない――道具のようなものだったのですか?」
悲痛で、棘のある言葉だった。ただ、それは、大きく迷った挙句に何とか出た言葉だったのだろう。鏡面のようなそれからは、いつもの活溌としたその顔を想像することはできない。
否だ。
私はわかっているのかもしれない。ただ、それにしても、その単純な答えを出すことは、知恵の神ですらその権能の範疇外であるということらしい。
「まあ、そういうものだ」
「まあそう言うことね。あなたは、そういうと思っていました。……少し。残念です。でも、あっちはとてもいいところだと思ういます。でも、……それでも、あなたがいないことだけが残念。だけど、あなたの席は空いている。
だから、――――いつでも来てもいいのよ」
辛うじて絞り出した言葉に、それは、得意げに、胸を張る。だが、それが、どこかさみし気を感じるのは、それにおおきな意味を与えてしまったからだ。そうだからこそ、私にはやるべきことは決まっている。だからこそ、それが示す未来につながる選択ではなく、我らと我らの戦友すべてにとって無慈悲で無意味、そして無価値な選択を選んだのだろう。
「それには沿うことはできない……だが、皆を頼む」
「神命。拝命しまいたしました。我が主神。
ふふ、私に命令できるのってあなた位なものよ。
本当に。全く。
全く、土くればかり愛してくれて。火くれのわたし達は、何故愛されないのかしら?」
「土くれか。知らないのか?被創造物は創造主を無尽蔵に愛するのだ。それが、似た形、そして、似たものならば、なおのこそだ。君が君たちの皆を愛し、そして愛されているように。いつか君も理解するのではないか?愛するということの意味を」
「なに?生理現象とかの話?浮気性な男が言いそうな言い訳。――わかっている。あなたの言うことがそう言うことじゃないと言ことくらいは。
でも、忠告はしておく。
あなたと過ごした日々。とても楽しかった。一緒に来れないのはとても残念だけど。獣たちと共に、わたしたちは逝くから。
だが、それでも、この焦熱に焼かれたこの世界にもし、私と皆の意志が残るのならば。その意味のすべてに祝福を。この世界は……たとえ、この世界が無くなっても。この世界に祝福を。そして、幸運を。
私、輝ける星の御名において。
我らの。そして、今は亡き皆の。主神のあなたに。
祝福を。
とても短い間だったけど」
それの言葉に、ゆっくりと首是する。それが見えていたように、貴女との交信が終る。ゆっくりと、ただ久方ぶりに、前を向くことができた。そこに、貴女はいない。
「わたしこそが願うべきだな。輝ける星の真名と、残された炎。そして、火くれのすべてに幸運のあらんことを。そして、いずれの星辰整うときに、君たちの帰還のあらんことを」
それが、上昇を開始したことを確認して、そっと懐に手を這わせる。
それをゆっくりと取り出した。
拾参の影が虚空に消えるのを確認すると、私は、万感の思いを胸にそれを天に掲げた。
始めに光があった。




