おるすばんのろくちゃんとあたらしいお友だち
頼りになるいちろう兄さんに、ふたば姉さん。ちょっといたずらっ子のさんた兄さんに、おっとりよしこちゃん。ひとつうえのごろうちゃんとはちょうど良いケンカ相手。
その中で一番ちっちゃくて、一番のあまえんぼさんがろくちゃんでした。
六番目に生まれた子犬だったから、ろくちゃん。
ろくちゃんは、ずっと「ろくちゃん」
朝、おひさまがまだ眠そうに目をこすっているころ、ろくちゃんのお母さんはろくちゃんをたくさんたくさんなでなでした後に、ごはんをくれて、出て行きます。
「ろくちゃん、行ってきます」
ろくちゃんはおるすばん。
だれかあそんでくれないかなぁ。
今日もろくちゃんはあそび相手をさがしています。
おひさまがお顔をあらって、歯をみがいているころになると、チチチチチ、と鳴きながら、スズメが電線に止まります。
「今日はどこのごはんを食べに行く?」
「おこめやさんか、あっちにあるパンやさん?」
「パンやさんのところには、昨日ねこがいたから、おこめやさんにしよう」
そう言うので、ろくちゃんも「ぼくもつれてってよ」と一声。
するとスズメはあわてて飛び立ってしまいます。
あ~あ。
ろくちゃんは大きなため息をつきます。
スズメはおこめやさんに行ったのかな? それとも、パンやさんなのかな? ぼくもつれていってほしかったな。
おひさまがぐーんと伸びをしてぽかぽかになり始めるころになるとネコのさびこさんがやってきます。ろくちゃんのおうちの塀の上でおひるねをするいろんな色がごちゃごちゃと混じったさびこさん。塀の向こうから「おい、さびこ」という声がさびこさんにかけられるから、さびこさんの名前は「さびこ」だということを、ろくちゃんは知っています。
さびこさんはゆらりゆうゆう歩きながら、塀の上でのびのびします。
ろくちゃんは、さびこさんにもあいさつをします。
「わん!」
さびこさんはちらりとろくちゃんをながめるだけで、お返事はしてくれません。でも、逃げたりはしないので、ろくちゃんはまたおしゃべりをします。
「おひるね?」
ろくちゃんは一人でおしゃべりをつづけますが、さびこさんは一回もお返事をせずにそのまま塀にぺったりより添うようにしていねむりを始めます。
ろくちゃんも気持ちよさそうなさびこさんを見ていると、あくびが出てしまいます。そして、うとうとうと。良い気持ち。ゆめの中でろくちゃんはおさんぽをしていました。
スズメの飛んでいった空の上。やわらかな雲の上をおさんぽしているのです。ふわふわふわ……。
いっしょにごはんたべたかったなぁ。
くんくんとお鼻を動かします。そして、ふん。なんだかお鼻がこそばくて、大きな鼻息をはき出したろくちゃんのお鼻は今度はくんくんくんとたくさんうごきはじめました。
なんだろう?
ろくちゃんが目を覚ましてにおいの方を見上げると、一匹のネズミさんがさびこさんの前をそろりそろりと歩いています。ちゃいろの毛をしたネズミさん。おなかの上の辺りにある白い毛がちょこっと見えているネズミさんです。
さびこさんがうっすら目を開きます。
すると、ネズミさんが石のようにうごかなくなるのです。きっと見つかってはいけないごっこをしているのでしょう。だから、ろくちゃんもそっと声をかけました。
「くーん?」
「しぃい」
ネズミさんはそっとろくちゃんに人さし指を立てて見せるので、ろくちゃんも「わかった」としずかにうなづくのです。するとネズミさんは静かにうなづき、またそろりそろりと目をつぶったさびこさんの前を歩いて、ろくちゃんのそばに下りてきてくれました。
「やぁ、ねずみさん」
「おぅ。犬ころ。おいらはチューすけだ」
チューすけは「えっへん」といばりんぼをします。
「ぼく、ろくちゃん」
「ろくちゃんだな。よし、今日からともだちだ」
「ともだち? ぼくといっしょに遊ぶの?」
ろくちゃんはその言葉に黒くて丸い目をきらきら輝かせました。だけど、チューすけはろくちゃんがきゅうに乗り出してきたので、びっくり。思わずこけてしまいそうになって答えます。
「おうさ、だから、……えとえと。そう、だから、おいらにごはんをよこせ」
「いいよーっ。でも、今日のごはんは食べちゃった。だから、また明日ね」
ろくちゃんはチューすけに約束をします。いばりんぼのチューすけはやっぱり「えっへん」と胸をはり、とくいそうにしてろくちゃんと約束をします。
「よし。じゃあ、また明日。その後いっしょに遊んでやるからな」
そう言って、チューすけはちっちゃい手を振りながら、またさびこさんの前を通って、もと来た道を帰っていきました。
ろくちゃんはそのうしろ姿をにこにこ見送ります。
おひさまはちょうどごはんをもりもり食べてににこにこ笑っているころでした。
おひさまがとってもピカピカ元気になったころ「ぶーんぶん、カチャ」とバイクが止まりゆうびんさんがポストにお手紙を入れます。
「わん」
ろくちゃんはやっぱりあいさつをします。
「やぁ、ろくちゃん。今日もおりこうだね」
「うん、お手伝いしてあげようか?」
ろくちゃんはゆうびんやさんににこにこ伝えますが、ゆうびんやさんはろくちゃんに手を振ると「じゃあね」と言って、またバイクで行ってしまいました。ゆうびんやさんを見送ったろくちゃんはまたつまらなくなっておひるねをはじめます。
お手紙を持ってくるお仕事はろくちゃんだって出来るのに。
行ってしまうのはとっても残念です。
あたたかいおひさまが少し塀の向こうにかくれるころ、さびこさんはやっとぐーんと伸びをして、耳の後ろをかきはじめます。
「さびこさん、おはようございます」
起きたさびこさんにろくちゃんはやっぱりあいさつをしますが、さびこさんはちらりとろくちゃんを見た後にさっと塀の向こうに飛びおりてしまいました。
「また明日ね」
さびこさんを見送ったろくちゃんが空を見上げると、お向かいの屋根の上にカラスが止まりました。
カラスが「カァ」と鳴きます。「そろそろだよ」
「わん」
ろくちゃんはカラスにお返事をします。もうすぐお母さんが帰ってきて、おさんぽにつれて行ってくれる時間です。
「からすさんありがとう」
「カァ」
カラスも「どういたしまして」とお返事を返します。
お母さんが帰ってきたら、今日はあたらしいお友だちが出来たことを伝えなくっちゃ。ごはんをあげる約束したことを伝えなくちゃ。明日はそのあたらしいお友だちといっしょに遊ぶんだ。
そう思って、ろくちゃんはお母さんを待つのです。
おひさまが真っ赤になっていなくなるころになるとお母さんが帰ってきます。ろくちゃんは今日あったことをいっしょうけんめい伝えます。
「ただいまぁ」
「おかえり。あのね、きょうはね」
ろくちゃんはいっぱいいっぱいシッポを振って、お母さんのお出むかえをしました。