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天界からのエージェント <ヒデキの恨み晴らします! 編> 後半

作者: 君島 明人

第五話  米ソは仲良しだった? 「強欲と清貧の戦い」


 昭和18年4月  私が天界から派遣されてきて約2年が過ぎた。本来なら何年もかけて研究開発にかける時間を、未来知識という虎の巻によって短縮させ、まだ限定的だが短期間で様々な第二世代の家電製品が発売された。

自動車産業についてはまだ高価で購買力が弱い為、家電のようにはいかないが、

国内ディーゼル関連業界共同で開発して陸軍に収めた、四輪バギーのようなシャーシにピックアップトラックの荷台とボンネットを被せた無骨ではあるが、野生的なスタイルの小型トラックが人気となって結構売れ始めている。車が売れ始めると自動車学校が繁盛し、続々と新たな自動車学校が開校する。自動車修理工場もどんどん出来て、それに伴い道路インフラも整備しなければならない。ガソリンスタンドも出来、二輪車の需要もでてきた。まだこのような国内消費中心ではあるが、戦時中にも係らず景気の好循環を見せているのは、技術革新による国民の欲望が大きく反映されているのと、建設国債、道路整備国債、産業工作機開発助成金、半導体開発オリンピック、土木・建設重機・農耕機大博覧会と忙しく、技術開発を促した効果が現れ始めている。これらを支える国家予算が可能になっているのは、現在進行中の戦争で消耗する戦闘行為は極力避けている事と、南方から原油などを運ぶ海上輸送路が正常に機能しているからである。当然アメリカの潜水艦が日本の海上輸送路を遮断しようと画策していることは承知している。

その為に、最新のソナー設備と有線誘導魚雷を装備した駆逐艦や攻撃型潜水艦をテストしてきたのである。結果は上々で今は対潜水艦戦用駆逐艦(風神型)と攻撃型潜水艦伊777を実戦配備している。潜水艦と言えば最新設計の戦略型潜水艦伊400型の建造が進んでいる。この新型潜水艦の動力は伊777同様ディーゼルエンジンと新開発のマグネシウムフィルム電池を搭載する。マグネシウムフィルム電池はリチウムイオン電池と違って安全で安定しているが、水没したら感電する危険性は残る。(潜水艦が水没したら、先に乗組員が溺死するけど・・・)幅約1メートル、長さ200メートルのフィルムをロール状に巻いて艦の電極にセットする。予備のロールを船倉に詰め込めば水中速度23ノットで地球を半周できる。そしてこの伊400型は当初の爆撃機を収納するタイプではなく、背中のスペースには縦型の筒を設置して中距離弾道ミサイル(推定射程5000キロメートル)を搭載する予定である。こちらは糸川博士に協力を依頼した。この糸川博士であるが、なんと辻の親友であったことには驚いてしまった。やっぱり天才には天才の友達がいるということだ。子供の頃は竹馬ではなくロケット花火を打ち上げて遊んでいたと無邪気な笑顔を見せていた。


 新鋭の潜水艦である伊777号は台湾とフィリピンの間であるバシー海峡の海上を、真昼間にも係らず浮上航行していた。アメリカの空母機動部隊は消滅している現在、脅威となる哨戒機や戦闘爆撃機も存在しないので、なにもわざわざ海中で乗組員の臭い足の匂いに耐える必要も無い。この時の太平洋の主な日本軍基地は、サイパン、ミッドウエー、そしてフィリピンと台湾の基地に整理統合されていた。アメリカの潜水艦にとって、南シナ海や東シナ海では海上を行くタンカーや貨物船に遭遇するチャンスが少なく、その前に日本のデストロイヤーの餌食になってしまう事を考えると、黙っていても獲物のほうからやってくる狭い海峡の方がグッド!なのである。海上を航行する船の中に駆逐艦のスクリュー音がなければ攻撃し、あればただジッと音を立てずに潜っていれば確実ではないものの安全性が高い。広い海域だとどうしても移動の為に推進音を出してしまうから、最近異常に耳が良くなった日本の駆逐艦に発見されてしまう現象が多発しているのである。 「敵潜水艦らしき推進音ふた~つ確認!」 曳航式のハイドロフォンをのんびりと曳きながら司令塔で煙草を吸っていた緒方艦長の元に音声が届いた。 「またか!! 今日はこれで3度目だぜ! まったくアメチャンは人使いが荒いんじゃけぇのう。副長、潜行開始!」 「あぁ~ 艦長、自分まだ火をつけたばっかしっすよ!そんな殺生な・・・」 最新鋭の伊777は東大阪の鉄工所の社長が勘と経験で鍛造した無音プロペラを採用していた。バッテリーは勿論マグネシウムフィルム電池と、新開発の強力なトルクを発生するネオジム磁石モーターを搭載している。伊777は音もなく一気に水深200メートルまで潜り20ノットで敵潜水艦に向かっていった。敵の位置を自艦の上に置いた方がソナーの精度が上がるのである。「艦長、敵までの距離二千です!」 「ようし、速度5ノットまで減速 左の方からやるぞ! 1番魚雷用意」 「1番 魚雷用意」 副長が復唱する。有線誘導魚雷は互いのアクティブ探信音の干渉を防ぐ為に、2本同時には打てない。 「ハッシャァ~!」 「発射!」 “ドウン~”と鈍い低周波が鼓膜を圧迫し、後方に電線を曳きながら有線誘導魚雷が一気に40ノットまで加速する。艦内ではカラオケのリモコンのようなもので魚雷操縦士が操縦する。距離が近かった為結構な衝撃音が届いた。僚艦の異変に気づいた右側の潜水艦は慌てて右にターンしながら全速力で脱出を図ったが、伊777が次に放った有線魚雷から逃れる事はできなかった。

ワシントンでは今回の無限潜水艦作戦での消息不明の潜水艦が50隻を超えた事実を受けて緊急作戦会議が開かれていた。 「キング君 いくら海の中での出来事だからといって詳細は不明と言い張るのには無理があるのではないかね?」 「大統領、日本は例の電子部品を使ってソナーの感度を上げている事は間違いありまるせん。しかるに我が国の潜水艦は発電所のタービンをフル回転させているような騒音をたてている始末です。これでは毎月何百隻の潜水艦を建造しても追いつく訳がありません」 アメリカ海軍技術将校のクルーズ大佐が工業技術の遅れを指摘した。 「仮に海中に潜む我が潜水艦が発見されたとしてもだが、それを爆雷で沈めるのには少なくとも数十発の爆雷を使用する訳だから、そろそろ弾切れになっているはずだよ、クルーズ君」 「キング大将、海中の潜水艦を攻撃するのは何も爆雷だけではないはずです」 「まさかあの広い海で機雷を敷設しているとでも言うのかね?」 「そうは言ってません、例えば誘導式か追尾式の何かでしょうね。そうでなければこんなに短期間で膨大な被害が出るはずがないですよ!」 「誘導式だと!? 馬鹿も休み休み言いたまえ! 我がアメリカでは鉄の蒸気船で地球を一回りもしていた時代に、ちょん髷と刀を腰に差して、国内の移動と言えば歩くしかなかった文明のブの字も知らない下等民族にそんな洒落た真似が出来るわけないだろう」 「キング君 差別的な発言は慎みたまえ! 民族を差別する考えは自身の品性と知性を退化させる事に繋がると言うことを自覚しなさい!」 キングが沈黙した為、場の空気が重くなってしまった。そこでチャンスとばかりにクルーズ大佐は以前から暖めていた腹案を披露した。 「大統領、潜水艦作戦ではどうやら我が国に分がない事がはっきりしています。なにしろあの広い太平洋の西の方まで鈍足の潜水艦で出かけることにも無理があります。いまからすぐにでも潜水艦の建造はやめて、巨大な空母打撃部隊を建造すべきです」 「私もその方が結果が出ると思うが、あの高速でやってくる死神とかいう爆撃機の対策はどうなっているんだ?」 ルーズベルトは一〇〇式司令部偵察機改や震電の性能を詳しく聞いていたのである。 「もう殆んど残っていませんが、現在実戦に使われている戦闘機を更に新型のものに更新します。 新しくダブルスーパーチャージャー付の戦闘機で、最高時速は700キロを達成しており、あの死神とか言う高速双発機に劣りません。それに死神はどうやら日本がやっとの思いで製作したらしく30機程度の限られた数しか持っていないようなので、圧倒的な数で力押しすれば日本軍はたちまち壊滅するでしょう」 「そうか! 君が言うなら間違いはないだろう。しかし、もう一つ問題がある。プロペラが後ろについていて恐ろしく早い戦闘機だ。陸軍期待のB29爆撃機があの妙な形をした戦闘機に絶滅にまで追いやられただろう。そっちはどうするのかな?」 「大統領、お任せください。ノースアメリカン社で開発中の最新鋭ターボジェットエンジンを搭載した戦闘機を艦載機として空母に載せようと思っています」 「性能はどうなんだ? あの不恰好な敵戦闘機に勝てるのかね?」 「勿論です、最高速度は1,000キロ以上で15,000メートルまで上昇できます。従来の旧式空母での運用はできないので、とりあえずはハワイの局地防衛戦闘機として運用する予定です」 「ハワイの防衛に反対するつもりはないが、あれから日本はミッドウエーに留まったままハワイに攻め込んでくる気配がないだろう? 何故従来式の空母で運用できないのだ?」 「空母から発進させるには新型の空母にカタパルトを載せなければなりませんが、カタパルトの完成にあと少しだけ時間が必要です」 「だったら今ある空母を修理する意味がないではないか! 日本の戦闘機に勝てない戦闘機を幾ら作って空母に載せてもアメリカの若者の命を無駄にするようなものだから修理は止めて新型空母の建造を優先させたまえ! キング君、その間をどうするかだが・・・?」 「ではソ連に北から日本を攻めてもらいましょう。ドイツに対して我が国が攻撃しているのは、なにもイギリスの為だけでなく、スターリンが持ちかけてきた話に犠牲まで払って協力しているのですから・・・」 キングはヨーロッパ戦線には責任がないので独ソ戦の状況が分かっていないのである。 「そうしよう。それと直ちに戦時国債を発行して新型空母と新型爆弾の完成を急がせたまえ! それから我が国の軍事力を当てにしてタダ乗りしているイギリスとソ連にも負担させるようにな!」 「我が国と同盟関係にあるイギリスは分かりますが、共産主義のソ連を仲間に加えるのは如何なものでしょうか? やがて我が国の首を絞める事になりませんか?」 クルーズ大佐は根っからの共産主義嫌いであった。 「仕方ないのだよ・・・。 ここでドイツと日本が力をつけて世界的に影響力を持てば、我が国やイギリスが国外に持っている植民地とそれに伴う権益が脅かされることになる。そんなことになったら私は石油資本家からの支援を打ち切られて大統領職を去らねばならなくなる。今は、使えるものなら悪魔でもウエルカムということさ」 「アメリカは民主主義国家ではありませんか? 大統領は国民が選ぶものですよ!」 クルーズは正論を言ったがルーズベルトには伝わらない。 「なにを青臭い事をいっておるのだ。アメリカ合衆国は資本主義国家だ! 例え大統領でも国際資本には逆らえないのだよ!!」


 昭和18年12月 大本営

先のミッドウエー、ハワイ海戦での快挙の後、ハワイを占領するわけでもなく攻撃も控えている訳と、中国での蒋介石軍との停戦と和平交渉を進めているのは如何なる考えであるのかと厳しい質問がなされていた。東条は今、日本で起こっている驚異的に進化しつつある工業技術と、発展した経済の状況を、戦争における消耗戦を出来るだけ回避した結果であると力説した。 「米英に対し宣戦布告をしてから約2年の月日が流れました。この間、我が帝国海陸軍は米英に対して連戦連勝である事は皆様ご承知の通りであります。では何故ハワイ諸島を占領し、更には米大陸を直接爆撃しないのかとの抗議の声が届いている事は重々承知いたしております。では逆に私から質問させて頂きますが、ハワイを占領したらアメリカは降参するでしょうか?更にロサンゼルス、サンフランシスコ等の都市を壊滅させれば降伏するでしょうか?答えは“否”です。力でアメリカを屈服させるには、全米の都市という都市全てを吹き飛ばさなければ降伏する事はないでしょう。そのような事が可能でありましょうか? そうです! 誰が考えてもそのような事は不可能なのです。では我が国はアメリカに勝てないと言っているようなものではないか? そのような声が聞こえてきそうですが、皆さん!私はアメリカに対して力で勝とうとはしていないのです。誤解のないように言っておきますが、我が大日本帝国に対してアメリカは戦力は勿論、科学技術の分野に於いて100年たっても追いつかないと言うことを理解させればいいのです。どこぞの共産主義国家と違って、アメリカ合衆国は自由と民主主義の国です。この点は我が国も参考にする事にはやぶさかではないところでありますが・・・ アメリカ合衆国の主権は国民にあるのです。つまり合衆国国民が大統領に“NO”をつきつけたらそれで戦争が終了します。勿論ハワイぐらいは貰ってカメハメハ大王に直接お返しするつもりですが・・」 クスクスと笑いが漏れる。 「米英仏にはインド・太平洋の全植民地を放棄してもらう所存であります!」 万来の拍手とスタンディングオベーションが起こった。陛下は勿論不在である。

東条は両手でなかなか鳴り止まない拍手を制しながら演説を続けた。 「次に中国でありますが、先般中華民国総裁の蒋介石総統と我が国の全権委任特使による会談がおこなわれました。そこで中華民国が中国共産党に大陸から台湾島に追いやられる可能性が高いことを説明したところ、蒋介石総統も毛沢東、スターリン間の鉄の同盟をひどく気にしておられて、日本軍と戦っている場合ではないことを感じておられたようです。そこで我が国が中国大陸で行った数々の軍事行動と非道のあった事を素直に詫びて、共産党撲滅の為の武器と軍事支援を申し出ると快く承諾して下さったのです」 オォ~!!と感嘆の息が漏れた。 「そして最後になりますが、ここからは絶対に他言無用に願います。もし秘密を守る自信のない方は直ちにご退場願います」 東条は暫く座を見渡して居る訳もない退場者を待つふりをしていた。ここで本当に退場したら帰宅するまでに命がなくなっている可能性が高いだろう。 「実は先日ドイツ大使がやってきてソ連に対して宣戦布告をして欲しいと懇願されまして、我がほうも以前から赤軍の薄気味悪い指導者のスターリンは消してしまいたいと考えておりましたから、近く良い返事をしましょうと申し上げておきました。ドイツは今ソ連と戦闘中でありますが、そろそろ体力の限界にきているのでありましょう。少数ではありますが、陸海軍の軍人の中にはヒットラー総統に対して拒絶反応を示している者もいると聞いております。しかし、ドイツ帝国は我が国同様非共産国で一致しております。アメリカのように資本家の都合でイデオロギーを無視してしまう事はありません。やがて指導者が変れば国家体制も平和を愛する国民の方を向いてくるはずであると信じるものであります。それが証拠に我が国の老若男女を見て欲しい。駅前では若者が召集令状の恐怖から開放されて生き生きと男女交際を楽しんでいます。家の縁側では近所の老人が集まって井戸端会議や将棋等を指している姿が増えました。そしてなにより銀シャリとまではいかないが、少々麦の入ったご飯をたらふく食べております。戦争はしない方がいいに決まっていますが、しかし悪意のある戦争を仕掛ける者には正義の鉄槌を振り下ろさなければならないのです。私はドイツ大使にこう返事しようと思っています。それは、ヒットラー総統の汚名となるユダヤ人の虐待は止める事を条件とすることです」 再びスタンディングオベーションとなった。東条はこの条件に関係なくスターリンを殺るつもりではあったが・・・。 


 昭和19年4月 対米戦闘が下火になって日本海軍はあまりやることがなくなって来た。勿論、アメリカは降伏する気などさらさらないに決まっている。どうせまた新型戦闘機が完成したら、性懲りもなく空母を押し立ててやってくるつもりだろう。そこでドイツの期待にも考慮しつつ、米英にもその心胆を凍りつかせてやる作戦を考案した。攻撃型潜水艦の伊777型と防空護衛艦の冬風型、対潜水艦攻撃駆逐艦の風神型の有効性が先のミッドウエー・ハワイ海戦で証明されたのだが、それをらを使ってインド洋から紅海を抜けて地中海、大西洋と進んでイギリスを牽制しつつ、北海からバルト海に入り、サンクトペテルブルグで大騒ぎを起こしてドイツ軍に加勢し、ヒットラー総統主宰の晩餐会で感謝されるという計画を立案した。題して、インド・ヨーロッパ暴れん坊クルーズの旅である。政界や財界から参加希望者が殺到したが、結局軍事作戦の性格が濃厚であるから民間人の乗船は拒否され、軍人だけと決定した。参加する艦艇は太平洋に展開する護衛艦隊等に悪影響が出ないように予備対応の艦艇だけを抽出した。駆逐艦 闘神・戦神・大神  護衛艦 西風・東風・北風・南風 伊777型潜水艦 昇竜・大竜・武竜・激竜 そして修理改装した戦艦武蔵と油槽船と補給船である。寄港地はマニラ イギリス軍を追い出して日本陸軍が安全を確保してあるコロンボ ドイツが治安を受け持つアデン湾から紅海を抜けてスエズ運河を渡って、ナポリで補給休憩してイタリア軍が安全を約束したジブラルタル海峡を通過する予定である。司令官はミッドウエー・ハワイ海戦で国民的英雄になった黒島亀人中将であった。9月5日、呉の港で物資の積み込みを全て終えた344プラス1艦隊の黒島艦隊は、旗艦武蔵に座上して瀬戸内の海に単縦陣で出航した。 「まさに天気晴朗なれど波高しだな!」 「長官 まだ瀬戸内海ですよ。こんなところで波が高いと思っていたら、太平洋に出たら津波が来たように感じますよ」  「たわけ! 波高しと言うのは任務の重大性の例えだ」 艦長の君島大佐は黒島の教え子のような存在で、お互い兄弟のように思っていた。旗艦武蔵は連合艦隊のミッドウエー作戦に無理やり借り出されて艦橋上部に大きな損傷を受けたのであったが、大和と武蔵は帝国海軍の象徴のような存在なので、高いカネをかけて近代化改修を施したのである。まず、一番の特徴はレーダーである。対空・対水上レーダーは勿論だが、射撃管制レーダーを備えたことである。とは言ってもコンピューターの開発に手間がかかっているために、浅いおわん型のアンテナでマイクロ波を一定方向に指向するようにして、リモート操作で目標を照射するものである。的となりそうなものは水上艦か陸上の目標位なものだからこれで十分である。射撃用レーダーから送られてきたデータを射撃管制室のディスプレーで読んで人力で座標に転換して発射ボタンを押すのである。因みに砲身を動かす砲台内の動力係りも同じ座標を見ていて、砲身を移動させると座標上の印が移動する。

発射試験では、横風の計算を無視しても3万メートルで誤差は50メートル以下であった。風がピッタリと読めれば10メートル以下であろう。46センチ主砲以外は護衛艦と同じ127ミリ高角速射砲20門と20ミリバルカン砲40門である。レシプロ戦闘機なら数百機の大群で現れても屁でもない。順調に航海は進みバシー海峡に差し掛かった。武蔵の前方にまるで鯨のジャンプのように水面下から黒々とした潜水艦が飛び出してきた。武蔵艦橋は一瞬恐怖と強い緊張が走ったが、黒島は平然としていた。武蔵にはソナーはなく、潜水艦に対しては無力である。しかし隣に併走する駆逐艦が平静なのは相手が味方だと言うことをとうの昔に判っていたはずである。ではあの潜水艦の艦長は何故こんな子供じみた真似をしたのであろうか?答えはすぐにわかった。艦長の君島は艦橋の外に出て双眼鏡を覗きながら手を振っている。潜水艦のセールにいる人物も手を振って、指でピストルの形を作って”Bang“とやった。君島は胸を押さえて倒れた振りをした。 「お前らは馬鹿か?」 黒島はあきれた。 潜水艦の艦長の岡崎は君島と同期の親友であった。 まあそれはさておき、これでバシー海峡の安全は再確認できたのである。敵の多い海ではあんなくだらない事をやっている気にはなれないだろう。更に艦隊は巡航速度の20ノットでマニラを目指した。20ノットは護衛の潜水艦や補給船の速度に合わせているのである。

 マニラは蒸し暑くエアコンの効いた艦内から出て上陸しようとする者は、よほどある事に飢えていた独身の水兵くらいなものであった。黒島と君島は外出許可が出た参謀の一人にフィリピン名産のココナッツワインを買ってきてもらい、それを二人で飲みながら異国の夜を満喫したのであった。翌日黒島艦隊は南シナ海を横切りマラッカ海峡を目指した。途中南沙諸島の岩礁帯が見えたが、黒島にはこんなところが中国の領土になるとは全く理解も想像もできないであろう。誰がどう見ても遥か遠い中国とは縁もゆかりも感じないのどかな南洋である。

マラッカ海峡では、再び洋上に浮かんで手を振る味方潜水艦に出くわした。潜水艦というものは海の忍者であって、闇夜ならともかく白昼堂々と海上を航行するなんてありえない行動であるが、戦艦武蔵の威容を一目見たいとの潜水艦乗組員の心情はよく理解できる。しかも近くに日本が誇る防空艦もいるのである。敵襲を受ける可能性は万に一つもない。マラッカ海峡を抜けるとインド洋である。どこの海も見た目に違いはないが、ここからはいつ敵が現れてもおかしくない海なのである。コロンボで水や食料を積み込んで、一路紅海を目指す。コロンボを出て3時間後、武蔵の対空レーダーに反応が現れた。射撃レーダーを空に向けると、正体不明の15機の航空機が高度3,250メートルで420kmの速度でやってくるのが分かった。射撃レーダーの無い護衛艦部隊には無線で知らせて、後はお願いする事とした。恐らくムンバイ方面からやってきたイギリス軍の攻撃隊であろう。まだ日本の新型護衛艦の洗礼を受けた経験のないイギリス軍には、高い授業料を払ってもらおう。敵機から見たら何と言っても一番でかい武蔵を目指してくるであろう。しかし先頭の護衛艦をさけて迂回行動に入ろうとしたその時、いろんな方向から127ミリ近接信管入り砲弾を浴びせられて、武蔵の遥か前方で壊滅してしまった。これでは誰もイギリス軍の責任者に報告も連絡も相談もできない。まあ過ぎたことは仕方がない。先に進もう。アデン湾からジブチを目指していると海中の激竜が浮上式無線を上げて所属不明の潜水艦がうようよしていると緊急連絡が入った。この地域はドイツ軍が押さえているはずなのでもしかしてドイツのUボートかもしれないと思い、予めドイツと打ち合わせていた無線周波数を使って問い合わせたが、分からないとの返事であった。 「分からんということはこちらの安全も分からんではないか!?」 黒島は日焼けをした顔を上気させて「潜水艦戦初めー! 全部沈めてかまわん」 と命令を出した。そこで今回は狭い海域でもあるので、日本の対潜戦法をじいっと陸から見ているであろうドイツ軍に、あまり海上を走り回ってる駆逐艦の姿を見せないよう、昇竜部隊で密かに始末することとした。海上のあちこちから白く盛り上がった水柱がみえるなか、ドイツ軍の視線を意識しながら黒島艦隊旗艦、武蔵は隊列を崩すことなく威風堂々と12ノットで進むのであった。 このときの黒島の本音は 「紅海は深いのでたまたま格好つけられたが、浅い海なら水上艦でばたばたしたことだろう」と艦長に漏らしていた。スエズ運河を無事通過すると景色は一変した。穏やかな地中海が広がっている。遥か右に見える陸地は友好国のトルコであろうか。情熱の国スペインは、今は敵国である。安全なイタリアのナポリに寄港した。潜水艦隊は紅海で使用した魚雷の補充作業に忙しい。黒島と君島は、恨めしそうに見つめる当番将校を残して、自分で出した上陸許可証でいそいそ出かけて行った。ピザにスパゲッティー、ワインとチーズその他諸々。君島はナポリタンを注文したが無かった。

艦橋で留守番をしていた当番将校達の為に、珍しいお土産だから喜ぶだろうと乾燥ポルチーニと情熱色の赤ワインを買ってきたが、評判はイマイチであった。

さて次は難所のジブラルタル海峡である。ムッソリーニは我が国の威信をかけて抑えておきますと言っていたが、敵国スペイン領である。念のためにモロッコ寄りの航路をとった。すると・・・ スペイン側の荒鷲の要塞のような崖の割れ目から大砲を撃ってきた。 「ほら、言わんこっちゃない 他人の言うことを素直に信じたらこの世は渡っていけない」 君島は撃ってくる要塞を双眼鏡で確認したところ、撃ってくる砲台は一箇所のようだ。武蔵の九門全ての46センチ砲から徹甲弾をお見舞いしてみた。要塞はどうなったか分からないが、崖の形が変わってしまった。その後撃ってくる様子はないから大小の岩と共に海中に沈んだのだろう。そしていよいよ大西洋に入った。ここはもう完全に敵地である。黒島艦隊は常時臨戦態勢を敷いて進路を北に向けた。

 このとき、アメリカやイギリス、ソ連などの連合国の首脳陣は固唾を飲んで巨大戦艦一行の動性を見守っていたのである。アメリカは日本帝国海軍の恐ろしさは身に染みて分かっている。ソ連はドイツ軍同様陸軍中心で、ランドパワーは強大であるが、海軍力は並以下である。しかしイギリスは違っていた。かつては七つの海を支配していた海軍国家である。主な空母や戦艦はインド・太平洋戦争が勃発してまもなく日本の旧式陸海軍の攻撃でインド洋に沈められたが、それでもまだまだ海の支配者としてのプライドは捨てていない。黒島艦隊がドーバー海峡の南200キロの海域に到達した頃には、北から数十機単位で続々と戦闘攻撃隊が現れた。高度が3,000メートル程度でやってくるので、これは雷撃か急降下爆撃を狙っているようだ。いつものように迎撃射程圏に入り次第、各艦が自由に望遠スコープに写る的を狙って撃つだけである。この頃には射撃員達も達人の域に達していた。30機、60機、90機、120機までは撃墜数を数えられたが、後は数えるのも面倒になったので不明となった。そして遂に攻撃機がなくなってしまったらしい。黒島は 「空からの攻撃は止んだようだな・・・」 と独り言を言ったところ、また北の空から、しかも大きな航空機がやってきた。今度は高度8,000メートルを五軍に分かれた中型の爆撃機隊であった。洋上の僚艦達は流れ爆弾が落ちてくるのを警戒して全て武蔵の傍に寄ってきた。 「絨毯爆撃でやるつもりだな」 127ミリ砲では届かない。黒島は艦長に46センチ三式榴散弾の用意を命じた。過去にも同じ三式弾で大和が米軍のB17を撃墜した記録が残っている。武蔵の九門の主砲は全て最大仰角をとって舌なめずりをしながらその“時”を待った。そして、巨大な艦がひっくり返るほどの衝撃と号砲を残して上空一面スターマインの乱れ打ち状態になった。爆撃機の積んでいる爆弾が二次爆発を起こして更に空の饗宴を盛り上げた。

一度目の打ち上げが終わり、上空に黒々とした爆煙も風に流された頃、もう諦めたかと思った後続隊は変らずこちらに向かってくる。 流石はドイツ空軍機をバトルオブブリテンで撃退しただけはある空の猛者達であった。 いや、それとも頭が真っ白になって冷静な判断能力を失くしてしまったのであろうか?誰が考えても花火大会の会場上空に行きたいと思う奴はいないはずである。黒島艦隊が空に注意を向けていると、海上からも大小の攻撃船団が現れた。こちらが潜水艦を伴っている事はとっくに承知しているのであろう。広範囲から魚雷艇と駆逐艦が猛スピードで突っ込んでくる。味方の護衛艦達が武蔵を離れて小さめの輪形陣になって127ミリ砲で狙いをつけはじめた。勿論、武蔵の主砲以外の射撃員達も思わぬ活躍の場ができたので、奮い立っている。上空も海上も鋼鉄の嵐が吹き荒れて、先頭を走るミサイル艇は炎を上げて停止し、駆逐艦は操舵室が穴だらけになって、これも炎を上げ出した。後方のやや大きめの巡洋艦は伊777の魚雷攻撃で撃沈されていく。最後に一番大きな戦艦と思われる艦が残っているのが見えた。 「あれはどうしたのだ?」 黒島は君島に尋ねたところ 「自分の想像ですが、武蔵の主砲で撃ってみて欲しいから残してあるのではないでしょうか?」 たまたま残っていただけでそんなことはないが、君島艦長が個人的に撃ってみたかったのであろう。 距離は約35,000メートルで、測距儀ではまぐれでもない限り当たらない。武蔵の高い位置にある艦橋からでも敵艦の上部構造物しか見えない。しかもUターンして逃げようとしている。 「そうなのか? 全く余計な気を使いやがって、迷惑だよ!」 と言いつつ黒島は子供のような悪戯っぽい目で艦長に砲撃を指示した。 「座標○○ 砲撃よ~い!」 射撃管制官の声が響いた。砲台では座標に砲身をセットするだけで発砲はタイミングが遅れるので、武蔵と大和の改修の折に射撃管制室から直接引き金を引く方法に変えた。そして三門の主砲が火を噴いた。今度は遅延信管をセットした46センチ徹甲弾である。5秒 6秒・・・ 「だんちゃあ~く、今!」 誰かが言ったような気がした。赤い火柱と真っ黒な煙以外、巨大な水柱は見えない。

恐らく炎と黒煙でハッキリ確認できなかっただけかも知れないが、何発か命中したことは確かのようだ。周りの海面一帯にひっくり返ったり、もうもうと黒煙を上げて燃えている魚雷攻撃隊の残骸を避けながら、更に艦隊はドーバー海峡に入っていった。


  その頃満蒙国境では、国境警備隊長の湯浅大尉が只ならぬ異変を察知した。監視所の北西の丘にモンゴル兵と見られる騎馬軍団が現れたのである。まるで三国志に出てくる曹操軍率いる大軍団を髣髴とさせる光景であった。モンゴル兵だからチンギスハーンの軍団もこのようなものだったのかも知れないが、それはさておき、直ちに司令部に報告して航空支援を依頼した。モンゴル兵軍団は次から次と無尽蔵と思われるかのように丘の上に湧いてきて、地鳴りをたてながらこちらに突っ込んでくる。国境の向こうにはモンゴルのチョイバルサンという町があって、地理的条件が良いので、度々武装騎馬軍団が越境してきて付近の村々が襲われている。その為の対策としてこの監視所は防衛力を強化していたのである。しかし今回はそのような夜襲強盗団とは違って本気の大部隊であった。こちらは、狙撃兵が10名と重機関銃が5丁、120ミリ迫撃砲10門 30ミリ機関砲を積んだ対戦車バギー15両であった。相手が人馬であるので対戦車バギーの30ミリウラン弾では馬が可哀想だが、でもそんなことは言ってられない。軍団の先頭が1,000メートルを切った時、湯浅は黄燐弾の発射命令を出した。狙撃隊と重機関銃隊はまだ待機している。10門の迫撃砲は幅数キロの広い角度に満遍なくポンポンと次々黄燐弾を発射した。敵騎馬軍団の上空には発煙弾のような白い煙が発生し、無数の光の粒が糸を曳きながら地面に落ちていく。先に人より馬が反応した。狂ったように暴れて、またがっている兵士を振り落としてあらぬ方向へ走り去る。振り落とされた兵は頭上から降り注ぐ焼けた燐の粒が衣服についてぶすぶすと燃え広がる。そんな光景が数キロ四方で繰り広げられている。阿鼻叫喚の先陣部隊を見て、後続部隊はただの煙幕と勘違いしたのか更に押し寄せてくる。湯浅は新兵器の迫撃砲の発射を命令したのは始めてであった。なので次弾は焼夷弾の効果を見定める為に弾種を変えて発射させた。すると今度は空中で炸裂した子爆弾が地面に落ちて次々と弾けて、あたり一体が火の海になった。それだけではない、不発弾と思っていた子爆弾が忘れた頃に時間差をおいて弾ける。今度はモンゴル兵の尻や背中から炎が出て、地面を転がって必死に消そうとするが、やがて火がついたまま次々と絶命していった。湯浅はこの光景を見て悩んでしまった。小銃で射殺しても、焼夷弾で焼き殺しても失われる敵兵の命に変わりはないが、絶命するまでの地獄の苦しみを思うと、こちらに余裕があるなら焼夷弾だけは使わないようにと決めた。

しかし、折角湯浅が敵に対して感傷的な気持ちになったところなのに、そこへ本物の刺客が現れた。過去に日本軍がノモンハン事件で苦戦に陥った原因の憎っくきソ連軍のT26軽戦車である。まだ数は分からないが、丘の頂上からなだらかな坂をゆっくりと進んできた。本来は歩兵と一緒に敵陣を攻め落とす為に作られた軽戦車であったが、このような戦車でも日本軍の戦車隊はノモンハンで敵の戦車の数の多さに苦戦しまくった。対戦車バギーはもう散開して監視所付近にはいない。敵の先頭は監視所からは2,000メートル程度のところまで迫ってきたが、まだぎりぎり監視所を狙える距離ではない。バギーは敵戦車隊を囲むように前進し、それぞれくぼ地や茂みの陰に隠れて射撃のタイミングを計ってた。敵戦車隊はバギーを見て、自らはT34ほどの装甲はないが、大砲から発射される砲弾より遥かに運動エネルギーの小さいバギーの機銃弾でやられるとは考えてもみなかっただろう。先頭のT26に向けて数発のウラン弾が砲塔下部に撃ち込まれた。その刹那、砲塔上部のハッチが吹き飛んでここでもドラゴン花火の銀色の火花が噴出し、戦車砲弾に引火して砲塔自体が数メートル真上に飛び上がった。これを合図に各車が一斉に撃ちだした。丘の頂上から下に向けて姿を現している16両程のT26は全て30ミリ砲弾の餌食となった。この直後、基地から応援に駆けつけた隼戦闘隊が丘の向こうの残敵を機銃掃射してチョイバルサン方面に追い返した。

モンゴル騎馬軍団の奇襲から一週間ほどが過ぎて早くも満州は秋から冬に衣替えしようとしている。 インド・太平洋方面で活躍の場を失ったゼロ戦の熟練パイロット達は、新しい活躍の場を求めて続々と満州国の地に降りたった。満蒙国境と満ソ国境の要所々には簡素な砦のような監視所に戦闘車輛が10輌程と、幌付の軍用トラックが5~6台程配置されている。兵士の数は多いところで100名以下とあまり大所帯とは言えないが、120ミリ迫撃砲要員が10~15名で、迫撃砲は20~30門前後 その他対戦車バギー要員と重機関銃・狙撃要員である。この監視所の後方にはこれらの監視所を数ヶ所抱える前進基地で、更に後方は滑走路を整備したベース基地となっている。ベース基地は全部で六ヶ所で、それを陸軍満州派遣軍が統括している。満州派遣軍を指揮するのは、辻の義兄である辻政信大佐であった。副官は海軍出身の源田実大佐である。源田は太平洋方面に米空母が現れるまでのつなぎ役であったが、それまでの間は少しでも多くの空戦ノウハウと無線とレーダーの活用を先任の辻司令官に伝授する役目を負っている。ベテランのゼロ戦パイロットもソ連製の戦闘機と戦った経験のある者は少ない。しかし経験のあるベテランパイロットによると、ソ連空軍はまだカウルのない二枚羽の戦闘機や、その上は米軍のバッファローやグラマンのワイルドキャットレベルであるそうだ。ただ、まだ少数ではあるがヘルキャットレベルの戦闘機も現れ始めているらしい。そこで源田の発案で多数の最新型の52型ゼロ戦だけを集めて、その優位を生かして強行偵察や制空に従事させようと考えたのだ。作戦行動は制空権圏内であっても単独飛行は禁止することとなった。何しろ日本本国も満州国もガソリンは安くて質も良いし、ハイオクも十分足りている。後はソ連軍のヨーロッパ戦線からより多くの軍備と兵士を引っ張り出す為の作戦を実行するだけとなった。

それから数日後・・・ ウラジオストック軍港上空に多数の最新の52型ゼロ戦隊が現れた。迎撃に舞い上がったソ連の旧式戦闘機をバタバタ落としながら申し訳程度の60キロ爆弾を港湾施設にばらまいた。港内にいた戦艦と駆逐艦などは直接的な被害がなかったこともあり、大急ぎで外洋に非難しだしたが、その頃には既に上空にはゼロ戦隊はいなくなり、遠くでソ連戦闘機の駆逐作業に移っていた。ほうほうの体で外洋に逃げ出したソ連海軍ウラジオ艦隊は、本当の恐怖がこれからだと知ることにさほど時間はかからなかった。対空、対水上レーダーを装備して、遊び心で試しに設置したリモートコントロール式の射撃レーダーを搭載してみた大和が、大西洋で活躍する武蔵を意識して日本海で暴れたくなったのである。大和単艦で(伊777二隻は密かに護衛しているが)第二次日本海々戦が始まるのだ。ソ連ウラジオ艦隊司令官のゲオルギー ラフマエノフは 「いきなり何なんだ!? 日本が我が国に宣戦布告したことは承知しているが、あんな巨大な戦艦がやってくるとはどういうことだ?」 「きっと脅しですよ。いくら巨大な戦艦でも単艦です。こちらは艦隊規模なのでかなう訳がありません。痛い目にあわせましょう」 チェルネンコ艦長は、小国日本ごときが大国ソビエトに歯向かってくるのは百年早いとたかをくくっていた。大和の射撃司令室では、本来は巨大測距儀から報告される標的の情報が、今は射撃レーダーからの情報を目の前の画面に数字のデータとして表示されている。「目標距離○○○ 方位○○ 速度○○ 進路○○ 風○○○」 続いて射撃司令から命令が発せられる。 「座標350 一番ねらえ~ 」 射撃手は目標の未来位置の座標と射撃レーダーの情報を睨みながら僅かのタイミングをストップウオッチで計っている。 「発砲!」 自分で言って自分で引き金を引いた。水平線の彼方に見え隠れするソ連戦艦の上部に巨大な火柱が見えた。続いて第二射も火柱が上がった。敵艦隊との距離がどんどん縮まって20,000メートル程になり時間も30分位たった時、これといった大型艦の姿が見えなくなった。海中の2隻の伊777は大和を狙う敵潜水艦がいないので、残り物の駆逐艦を処理して回ったところ、ある問題に直面した。浮いている敵戦闘艦を全て沈めてしまったので、海上に漂う生存者を救助する船はどこにもいなくなったのである。大和艦長の角田はしぶしぶ大和のカッターを全て下ろしてウラジオ艦隊の生存者を救助した。しかし 「捕虜はメシの無駄だから、軍港が近いので勝手に帰ってもらえ」 と追い返した。


 ソビエト連邦共和国首都モスクワ クレムリン

スターリンは大会議室に政府と軍首脳達を集めて、パイプたばこをふかしながらも苦悩の表情を表していた。「日本は何故今になってソ日不可侵条約を破って我が国に宣戦を布告してきたと思うかね?誰か答えられる者はいないか?」 「それはドイツが日本に参戦して欲しいと懇願したからだと聞いております」 情報部参謀のナバエフ大佐であった。 「つまりドイツ軍は我が軍に勝てる気がしないから日本に助けを求めたということか?」 「はい、恐らく極東方面に軍備を裂かせて我が軍の分断を図って楽に勝とうと考えているものと思われます」 「それなら極東方面は放っておくのが良いということか・・・」 「スターリン同志、それでは沿海州は日本にプレゼントするようなものです。ウラジオ艦隊が全滅した今、二度と取り返せなくなる恐れがあります。ここは踏ん張りどころと考え、ウラル地方の戦車工場と航空機工場をフル稼働して、大兵力を極東方面に送るべきです。費用はまたイギリスとアメリカの石油資本が出してくれるでしょう」 軍産担当のイワノビッチは大型兵器が消耗すればするほど自分の懐が潤うので、積極的作戦を推奨した。「以前からかなりの兵力を送っている。さらに送りたいのは山々だが・・・ 実はアメリカの石油資本も金融資本も共産主義革命の世界浸透活動資金の支援には快く応じているが、日本との戦いにかかる費用の貸付を渋りはじめているんだよ。何故だか分かるかね?今回日本が我が国に対して参戦する条件として、ドイツ在住のユダヤ人の虐殺をやめるようヒットラーに要求した事にあるらしい」 「つまりドイツに住む同胞の人権を尊重した国だから、腰が引けたということですか?」 イワノビッチは渋い表情になった。 「奴らにそんな美しい人の心があるとは思ってもみなかったが、どうせすぐに金の亡者に逆戻りするさ! 今度は我々に牙を向けてくる事になるかも知れん!」 資金に窮したスターリンは、それでも安作りの戦車と装甲車と戦闘機を大量に製造してシベリア鉄道で極東方面に輸送を続けた。そこは金がなくても共産党独裁政権である。労働力確保の為に目障りな者や反抗的な者は、軍人だろうが市民だろうが構わず、囚人や政治犯として収容所送りにするのである。そのような人々が数百万人も存在する。彼らは腐りかけて芽の出たジャガイモと塩のスープだけで昼夜の別なく兵器工場で働かされ、挙句の果てには極東方面に歩兵として送られる運命にあった。共産主義とは誠に都合の良い統治制度である。労働力はタダ同然で手に入るのだから国内的には通貨はいらないのである。原爆の100個もあれば他国から攻められる事もないし、麻薬の密輸も他国の通貨を偽造することもできる。サイバー攻撃で泥棒をしたり、国家レベルで公務員のように身分を保証されての悪事も働けるのだから、犯罪好き人間には理想郷に見えるかもしれない。


満州派遣日本軍基地では、歴戦のゼロ戦パイロット達が中堅や若手のパイロット達を模擬空中戦で鍛え上げているところであった。辻大佐は源田大佐とソ連領内のシベリア鉄道の破壊計画を相談していた。 「そろそろ物資の集積所があるチタと、バイカル湖南の山岳地にある鉄橋を破壊しておく必要がありますね・・・」 辻大佐は哨戒機からの情報で、シベリア鉄道で毎日西方から大量の戦車と兵員が運ばれてきている状況を常に注意深く監視していた。当初はヨーロッパ方面に展開しているソ連部隊を、少しでも極東方面に引っ張ってくる作戦であったが、いつまでたっても大量輸送が終わる気配がしないのである。これは新たに武器弾薬が大量生産体制に入っていて、このまま際限なく増え続けると危険だと感じ始めたのである。 「これ以上輸送させては、逆にこちらが危なくなるかもしれませんな。距離的にチタは問題ありませんが、バイカル湖までとなると一式陸攻は余裕がありますがゼロ戦ではギリギリの距離っぽいですね」 源田は大陸の不正確な地図を見ながら本土とのサイズを比較して距離を推測していた。 「国境の一番近くからチタまでは800キロですから、その先は・・・国境から直線距離だとして1600~1700ってところですかね? 行けるかもしれませんよ!」 辻大佐は飛行気乗りではないので、向かい風の影響やガス欠おこした航空機がどうなるかを直感的に理解できないようだ。 「辻さん、前言を撤回します。つまり私の言うギリギリと言うのは、早い話が不可能ということです。敵陣に不時着した搭乗員に待っている運命を考えたら、とても飛ばせられません!」 「では諦めろとでも?」 「いえ、大丈夫です。二~三日待って頂ければ本土から死神号を呼んできます」 「おぉ! あれは私の義弟が開発したやつだよね? でも航続距離は約4,000キロと聞いてますが?」 「ミサイルを積まなければそこに更に二本の増槽タンクを装着できるので、5000キロまで伸ばせるから空戦にも余裕を持てます」

それから三日がたって4機の死神攻撃機が満州基地に到着した。隊長の安倍少佐は久しぶりに再会した源田と握手を交わした。 「源田大佐殿、お久しぶりであります」 「よ~ 安倍少佐、出世したようだな、おめでとう。元気だったか?待っていたぞ」 二人は部下と共に作戦室に入っていった。翌日、陸軍の一式陸上攻撃機10機を伴ってチタを目指した。満蒙国境を越えて更に蒙ソ国境をソ連側に進入したら、早速10機程の統一感の無い戦闘機集団が現れた。中にはカウルのない複葉機もある。安倍は後部座席の飛田に 「おい、複葉機がきたぞ。今時珍しいから写真をとっておけ」 と本気とも冗談ともつかない指示に飛田も応じて 「隊長、歴戦の戦闘機図鑑に載っていますから写真を撮る意味無いです」 と笑って答えた。 死神隊は木の枝に止まっている鳥のように見える敵機を片付けたら、再び隊列に戻ってチタに急いだ。そうして一式陸攻の半数が無事にチタにある物資倉庫群と兵舎や駅を破壊している間、死神隊は2隊に分離した爆撃機隊を2機ずつに分かれて護衛した。チタの爆撃を終えた爆撃機は身軽になったのでこのまま帰りたかったが、500kmも出せない鈍足機では岐路で戦闘機に喰いつかれたらアウトなのでそのまま付いて行ったが、そこからがまた遠いのである。しかしチタから先は空軍基地はないらしく、戦闘機の迎撃はなかった。そして無事にバイカル湖南の深い谷に架かっている鉄橋を落とす事に成功した。この知らせを聞いたソ連極東陸軍司令部は激怒し、集められるだけの戦車と装甲車と戦闘機に爆撃機。それに五万人に及ぶ歩兵を、満ソ国境に一番近いハバロフスクに集合させて一気に国境に攻め込んできた。ハバロフスクに近い第一監視所は満ソ国境最大の監視所であるが、どんな芸当を使っても何百台あるのかわからないT34重戦車を阻止することは不可能であった。唯一の救いは一本道の外側は重戦車の走行に適さない事であろう。湿地ではなかったが重量のある車両は柔らかい土に深く沈んでしまい、たとえ戦車の無限軌道帯でもぬかりこんで動けなくなってしまう。一方四駆のバギーならそんなの関係ないとばかりに縦横無尽に駆け回れる。そこで対戦車戦闘バギーの要員以外は、武器弾薬をトラックに放り込んで一目散に後方の前進基地に逃げた。25両の武装バギーは30ミリウラン弾を先頭集団の戦車に叩き込みながらジリジリと後退していく。先頭のT34が火を噴いて道を塞ぐが、後続の戦車が道路脇に突き落として先頭に立つ。また同じことが起きて更に後続が先頭に立つ。これでは埒があかないと見て、荒地でチョロチョロ走る小ざかしいバギーを狙って砲撃を始めた。バギー部隊は戦車砲弾が近くに落ち始めると、蜘蛛の子を散らしたように道路の左右の低木の中に非難した。それぞれが比較的安全で、しかも敵を狙いやすい最適な場所に移動しつつ反撃を加えていった。戦車側から見ると、500~1000メートル先をゴソゴソとゴキブリのように素早く走り回る敵に狙いを合わせる事ができないので、適当に公算射撃をしている。そうしている内に一輌、また一輌と砲塔のハッチを突き上げてドラゴン花火が噴出する。さらにその後には砲弾に引火して砲塔そのものが数メートルほど吹き飛んでいる。ソ連戦車軍団が前進基地の見える所まで来た時には、その数は一割ほど減らしていたが、それでもまだ九百両のT34が居るだろう。前進基地では更に二十五両の武装車両が合流して合計五十両となったが、これでもまだ対抗できないので、他の兵員はやはりトラックに乗って一目散に後退した。任務を終えて帰り支度をしていた死神部隊4機は一報を受けて直ちに応援にやってきた。さらに近くの基地からゼロ戦隊も駆けつけた。地上では双発で信じられないスピードの死神号を見てバンザイ!を叫び、再び恐怖を乗り越える勇気が出たが、ハバロフスクからも数え切れない戦闘爆撃機が襲ってきたのである。空も地も組んず解れつの様相を呈した。



 満州派遣軍司令部では辻司令官と源田大佐が協議していた。 「ソ連軍のT34戦車の力攻めに対戦車バギー隊も限界に近づいていて、我が軍は後退を余儀なくされています。一〇〇式改をもっとよこしてもらえませんか?」 辻はゼロ戦の機銃ではT34に全く効かないので、死神号の強力なウラン弾を放つバルカン砲に期待を抱いていた。 「一〇〇式改は海軍が30機しか持っていないので無理でしょう。現在、アメリカの大規模な作戦は陰を潜めていますが、それでもボルネオ方面には米艦船がゲリラ攻撃を仕掛けて来ます。広い太平洋を守るのに精一杯で死神隊は休む暇もないほど忙しいのです」 「バギー部隊はソ連軍の高速装甲車の機銃掃射で急速に被害が広がっています。ハバロフスクにある燃料タンクを攻撃する為に向かわせたゼロ戦隊も、何度出撃しても戻って来る機はいません。このままでは歩兵に爆弾を持たせてT34に突入させるしかないですよ!」 「ノモンハンの戦いではあるまいし、今更そのような無謀な作戦は東条元帥閣下がお許しにはなりませんよ」 「ならばどのような方法があるというのですか? 私は例えソ連が言うファシストと非難されても構いません。勝つ為なら玉砕覚悟で戦います」 「まあまあ、そう熱くならないで下さい。我が国と世界の状況を冷静に見てください。ヨーロッパでは戦艦武蔵が大活躍をしていて枢軸国の英雄になっています。この艦隊にはイギリスだけでなく、ソ連も手出しは出来ないでしょう。そして本国では頑固に降伏を拒んでいるアメリカを、降伏に導かせる決定的な新型兵器を開発中です。そのレベルで考えれば、極東ソ連軍との戦いは地域の武力衝突のようなものです。満州国の広大な面積を利用して敵の消耗を図るのも一つの方法ではありませんか?どんな強力な戦車でもガソリンが切れたらただの鉄の箱です」 「では我々誇り高き帝国陸軍兵士にゲリラのような真似をせよと言うのですか!!」 源田は激高する辻の顔から目を逸らして冷静になるのを待った。 「大声を出してすまなかった・・・。確かにバイカル湖の橋を落としたのもこの為だったという事を忘れていましたよ」 「海軍軍人の私が陸の戦い方に口を出した事のほうが申し訳ないと思っています。天才軍師の誉れ高い辻政信大佐のお手並みを期待しています」


 ドーバー海峡  黒島艦隊は向かうところ敵無しの勢いのまま、遂に英仏の間に横たわるドーバー海峡までやってきた。イギリス軍はアメリカから貸与された、ドイツの空爆に使う予定の爆撃機まで武蔵の主砲の餌食にされて意気消沈であろう。この狭い海峡に留まっていてもなんの攻撃も仕掛けてくる様子はみられない。ならばと、黒島は日本の造船技術の粋を結集して建造された武蔵を、かつては造船技術の師匠であったイギリス人に披露しようと考えた。その事でお互い武士と騎士の精神が融合してくれる可能性に期待した。 「艦長、イギリス政府にこちらはこれ以上攻撃する意思はないから、一目ロンドンの市民に日本の戦艦を見せたいと連絡してくれないか?」 「はい、やってみましょう」 そして暫くたった時、イギリス軍から応答があった。 「日本の艦隊の攻撃により我が海軍と空軍の艦船と航空機に被害を出した事で貴殿が責任を感ずると言うなら、3時間だけ停戦することに合意する。但し、その間ドイツ軍の攻撃も停止させるよう保障せよ!」 との回答であった。この期に及んでもイギリス人という民族はプライドが高い。アメリカ人なら小憎たらしい言い訳しかしないだろう事に比べれば、日本人から見ればそれはそれで許せる感じではあるが・・・。長く続く戦乱に欲求不満のロンドンっ子達は、自分達が教えた造船技術の集大成である巨大な戦艦がはるばる東洋から来たと、戦時であることも忘れて熱狂的な騒ぎとなった。テムズ川河口に現れた武蔵船首に輝く巨大な黄金の菊の御紋がロンドン市民達を圧倒した。黄金の国の伝説は今目の前に実在したのだ。 「これで日本とイギリスはかつての日英同盟の関係に戻ってくれるといいがな・・・」 黒島はそう言ってドーバーの海に別れを告げた。黒海を進みデンマークとスエーデンの間の軍事的に微妙な海域はドイツ海軍に迎えにきてもらい、キールと言う港で最終補給を済ませ、いよいよ本命のサンクトペテルブルクに向けて出撃した。バルト海からエストニアとフィンランドに挟まれた狭い海域を通る関係上、どうしてもフィンランド政府に静観をお願いしなければならないが、事前に外務省を通じて相談したところ、ソ連を攻撃してもらえるなら全面的に協力すると回答があった。ゴッドランド島を過ぎ、サーレマー島を過ぎたあたりからエストニア方面からソ連軍の攻撃機が10機程度の数で現れたが、護衛艦から放たれた正確無比な127ミリ近接信管入り砲弾に恐れをなして、遠巻きに監視するだけであった。遠くにヘルシンキの港が見える。ここまで来るとフィンランドの領海なので、エストニア側から飛行物体は来なくなった。ドイツ軍の前線はどの辺りまでモスクワに迫っているのかは分からないが、ソ連軍の主力はフィンランド方面に展開できる状況ではないだろう。遂に最終目的地のサンクトペテルブルグ湾の入り口が見えてきた。湾の入り口には海上を監視する為の施設があるようだが、ちまちまやっていては面倒だからオーバーキルと思いつつも黒島は46センチ榴弾を一発だけお見舞いしてみた。これを合図としたのか、小型の艦船がぞろぞろ現れ、上空にはソ連軍としては最新型の戦闘爆撃機がやってきた。結果はあのイギリスとのバトルよりもあっけない結果となった。意外にも潜水艦はいないのか、それともぼろ過ぎて出られないのかは分からないが出てこない。港湾の先には市街地が広がっているが、海上からは軍事施設がどこにあるのかがわからない。 「無闇に市街地に砲撃はできんな・・・」 黒島は悩んでいた。 「上陸して様子をみてきましょうか?」 君島は敵を馬鹿にしていることを、冗談で表現してみた。 「お~、それいいね。それじゃ君島艦長、貴官を上陸部隊の隊長に命ずる。ただちにかかれ!」 「は?・・・」 君島は軽口を叩いた事を反省した。結局港湾施設のみを破壊して、湾外で軍事演習をしながら時間を稼ぎ、モスクワ攻略中のドイツ軍の為に援護射撃の役割を担ったのである。


 モスクワ陥落も確実となってきたので帰路についた艦隊であったが、黒島と君島にヒットラー総統から労いたいので形ばかりだが食事会にお出で下さいと連絡が来た。キールから小型の旅客機でベルリンに入り、車で30分ほど走ったところにあるサンスーシという宮殿に案内された。黒島と君島は車から降りてその宮殿の正面から延びる緩くて長い階段の先にドッカ~ンと横に広がる宮殿の威容に腰を抜かした。ただ、宮殿の中に入ってみるとそんなに凄くはないような気がするが、それに比べ接待役のドイツ軍人達の熱烈歓迎ぶりに、黒島も君島も感激の極みに達していた。じゃがいも料理にビーツという見た事もないがそんなに旨くもない赤い野菜、ウインナーソーセージにベーコンでドイツビールにドイツワインを豪快にやりながら、ゴッツイ男達と腕を組みながら訳の分からない歌を口パクで歌う。そしてクライマックスはヒットラー総統が厳選に厳選を重ねて選抜したという、ドイツとポーランド混成美女軍団による喜びの歌に合わせた喜びダンスが始まった。黒島はノリノリで美女軍団に加わり、腕を組んではクルリと回って次の美女へと移っていく。しかし普段は適当な性格の君島は珍しく冷静に冷めた目で総統閣下ご自慢の美女達を見つめていた。背は高くて手足も長く、その意味では世界のトップモデルにも引けはとらないだろうが、なんとなく君島の好みのタイプとは違う。まず顔の彫が深くて鼻がやたらとでかいし、骨太ですごく頑丈に見える。そしてこの雰囲気では間違いなく誰か一人でも二人でも選んでホテルに持ち帰ってください・・・と絶対言われるに違いない。総統自ら厳選した美女を無碍にしたら、日独の友好関係にヒビを入れる事になりかねないだろう。君島は悩んだ挙句決心した。 「仕方がない、ここは日本とドイツのより強力な同盟関係に貢献する為、“男 君島明人” ここは天皇陛下の御為、祖国に残してきた妻と家族の為に人柱となる覚悟ができたぞ!」 ・・・それから一晩待ったが、“男君島”の心配は杞憂に終わった。


 永田町 国会議事堂 衆議院第一本会議室

陸軍の生きのいい青年将校達が見守る中、タカ派と言われている国会議員が東条総理に質問をしている。 「今の日本社会は一体どうしてしまったのですか?街中で男女が腕を組み、盛り場では客引きが横行し、更には敵性音楽を流す商店街と、見るに耐えない退廃的惨状を呈しております。軍人兵士が身の危険を承知で命を賭けて戦っているのは、こんな腐れきった日本の姿を見る為ではありません!恐れ多くも・・・」 出席者全員は直立不動を強制された。 「天皇陛下の臣民として情けなく思っている次第です。東条総理におかれましては、直ちにメリケンかぶれの連中に強制労働を命じ、美しい国日本を取り戻し、共産主義思想は勿論、アメリカの退廃的思想を徹底排除し、敵国のスパイや逆賊の取り締まりを強化していただきたい!」 東条は心外だと思っているのだろう。天井を見つめたままなかなか発言しようとしない。しかし彼らのような時代遅れで非科学的な思想を持つ者が、この時代には多く存在するであろう事は分かっていた。 「この退廃的と見える世の中にしてしまったことは私の責任です。あなた方の意見はいちいちごもっともであると痛感しています。ただここで考えなければならないのは国家として、或いは統治機構として国民の幸福を第一に考えなければならない事だと思います。その結果色々と弊害も生まれてくるでしょうが、しかしそれが人間社会の特徴でもあります。恐れ多くも・・・」 また全員が直立不動になった。 「天皇陛下の下という思想で全ての問題を解決させるという考え方は、制度として成り立ちません。そこは私も皆さんも法の支配を受けなければならないのです。法に書いていないことは、国民に強制することはできません。街角で男女が腕を組んでいる? 商店街でジャズが流れている? いいではないですか! 大体それらの何が法に触れるというのですか? 今ではアメリカの若者が“死神”とか“富士山”とか書いたTシャツを着て某ONYのラジカセで盆踊りを踊っていると聞いています。権益をめぐる国家同士の戦争行為と、国民に対する思想統制と何の関係があるのでしょうか?」 「では総理に伺いますが、権益をめぐる国家同士の戦争行為とおっしゃいましたが、どこが権益争いなのですか? 多くの兵士の血を流して獲得した中国大陸から兵を引き、更にあろう事か台湾を独立させるというのはどう言うことなんでしょうか?まだありますよ。朝鮮半島は後々我が国に害悪をもたらせる事になるから放棄するとか、ハワイをアメリカからカメハメハ大王に返還させるとか妄言をおっしゃってますよね?一体これらのどこが日本にとっての権益なのですか?お答えください」 「権益というのはその国々によっていささか事情が異なります。例えば欧米では石油や鉱物資源のあるところならどこの国の領土であっても自国の領土とします。資源の無い国に対してはその国の領民の労働力搾取を権益と考え、インドやインドシナを植民地化しています。資本主義も共産主義も一部の者だけが富を握って、その他の人民は生かさず殺さず、家畜として飼育し労働を強いる事しか考えていないのです。我が大日本帝国はこのような邪悪な者たちから、幸せに暮らしたいと願っている国々の国民を守る事が大事と考えています。いずれこれが我が国の権益となるのです」 「総理、詭弁をおっしゃってもらっては困りますよ。明治維新以来脈々と磨き上げてきた我が大和魂をいとも簡単に軟弱な国民に堕落させ、あまつさえ他国の国民の安寧を考えてあげるとは・・・? 総理は一体どこの国の総理大臣なのでしょうか? もしかして総理はあの“天界”から来たという男に騙されているのではないですか?」 「今の発言はいくら赤坂議員の発言でも看過できませんよ! あのミッドウエー海戦の大敗北を思い出して頂きたい。私も彼も猛反対した結果があの大惨敗となりました。本来ならあの戦いで失った空母と艦載機の消失により、我が国はもはやアメリカ軍の猛攻に耐えられず、今頃は東京大空襲によってあたり一面焼け野原になっていたのです。大地震の被害も事前に備えていて最小限に抑えられた事も忘れたとは言わせません! そして今、全ての国民が飢えることなく暮らせています。一体これのどこが騙されたというのですか? ただちに前言を撤回していただきたい」 「騙されたと言った事は撤回してお詫びします。 しかし我が国の権益はどこにあるのでしょうか? 何をもって権益と考えれば良いのでしょうか?」 「権益とは我が国が更に豊かになり、国民もささやかながらも幸せを感じて生きていく事です。そしてそれが未来永劫に続くということです。他国の領土を荒らして資源を奪うだけでは豊かさは長続きいたしません。常に先進的な技術を追求し、世界中に輸出して外貨を稼ぎ、代わりに我が国に必要な物資を買う、この循環により皆が豊かになるのです。自国の一部の者だけが富を掌握し、他の人々は貧困に喘いでいては、それは豊かとは言えないでしょう。 あっ!誤解のないように申し上げますが、富とはお金だけのことではありません。人々から収奪した全ての事を指します。この富を再び人々に戻さなければ再収奪はおろか国の経営も出来なくなるのです。私は再循環が不可能となるような焼畑農業型の資本主義と労働搾取型の共産主義をこの世から駆逐する事こそ、我が国の国益だと固く信じております」 衆議院第一本会議場は拍手が巻き起こった。


 続いて午後は貴族院予算委員会会議室 次の質問者は左派系の新鋭女性議員の吉本議員である。東条にとってこの女性議員は天敵であり、大の苦手としている。 「東条総理にお伺いします。総理は先の衆議院本会議に於いて国民の幸せを第一に考えているようにおっしゃいましたが、今でもそのお気持ちに変わりはありませんか?」 「はい、それは変りません」 「では、国民の幸せとは何だとお考えですか?」 嫌な展開である。 「それは国が豊かであり平和である事だと認識しています」 更に吉本はたたみかける。 「今、平和とおっしゃいましたが、我が国は現在平和だと言えますか?」 「なんなんだよ!この女は・・・」 東条は心でつぶやいた。 「平和だと認識しています。少なくとも空襲はないし、戦争で失われた兵の数も一部の例外を除き極少数に留まっています。これも先進技術を取り入れた作戦により最小限の損失で最大の戦果をあげています」 東条はよせばいいのにドヤ顔で言い放った。 「戦争のために兵士が死ぬ事を平和だと言う総理の神経には呆れてものも言えません。何故戦争をするのですか? 何故人が命を落とさなければならないのですか?」 「あぁ~来たよ来た! ワシは禅問答は面倒くさくて嫌いなんじゃよ。このブスどうにかならんかなあ~」 と心のつぶやきである。 「人の命は大切である事には間違いありませんが、より多くの人々を戦禍から守る方がもっと大事なことであると思います。その為に戦争を継続しているのです」 「総理は戦争がお好きなんですか? 中国の蒋介石総統とは話し合いで平和を実現したではないですか? 何故アメリカやソビエトと話し合いで解決しようと努力なさらないのですか?」 「アメリカには何度も降伏勧告をしましたが、返事はありませんでした」 「総理は御自分を神か何かと勘違いしておられませんか? 上から目線で降伏を迫って“ハイ解りました”なんて言う相手がどこにいるのですか? いいかげん目を醒まして先方の言い分を謙虚に受け止める事から始めなければ、まとまる話もまとまりませんよ! 少し謙虚さと努力が足りないのではないですか?」 「では、貴女がやってみればいいだろう。口だけなら誰も苦労はしないぜ! この馬鹿女!!」 と総理経験者なら誰でもが一度は口をついたであろう言葉をつぶやいた。 「戦争というものは相手があります。こちらの考えるようにはなかなか参りません。今後一層の努力をして戦争終結を目指していく所存です」 「ではそのように努力してください。次の質問に移ります。 総理は沖田毅という人物をご存知ですか?」 「え~ 私の側近として国家戦略についての助言をしてもらっています」 「その側近の沖田氏は軍人でしょうか? それとも公務員なのでしょうか?」 「いいえ、民間人として働いてもらっています」 「ここに沖田氏関連に支払われた費用の明細があります。これによると昭和18年だけでも○○万円という大きな金額が支払われていますが、このお金は何に使われたのでしょうか?」 「それらの多くは新兵器開発の為の調査費として使われたものです」 「では沖田氏個人には幾ら支払ったのですか?」 「その分は官房機密費から支払われており、国家機密となるのでお答えできません」 「官房機密費から支払われようが国庫から支払われようが国民の税金が使われたのです。沖田氏個人に支払われたお金は報酬として支払われたのではありませんか? 一民間人に対して支払われた報酬のどこが国家機密なのですか?」 「そこは個人情報に係わる事なのでお答えを差し控えます」 「いやソーリ、ソーリ ちょっとソーリ答えになってませんよ。議長、真面目に答弁するように注意してください。国民の貴重な税金の使い道を出自不明の民間人に、しかもどのような働きで幾ら支払ったのか説明しなくては国民が納得しませんよ。きちんと答えて下さい」 東条は答えに窮した。今まで科学技術の発展も経済の発展も自分を中心とした東条内閣の成果だとアピールしてきたのは、全て天界のエージェントがもたらした事だと言うと東条は気が狂ったと誤解されかねないからである。ましてやこの関西訛りの女性議員にそんな事を少しでもしゃべれば、まるで鬼の首を取ったかの勢いで倒閣運動に走るだろう。 「民間人の立場から専門知識を活かして助言を頂いた事に対する正当な対価をお支払いしたと言うことで、決して不正なものではございません。そして具体的な金額については先ほどお話したように、個人情報に係わる事なので答えを控えさせていただきます」 「それでは国民が納得しませんよ。・・・では少し角度を変えて質問します。沖田氏は天界からのエージェント若しくは天界のエージェントと噂されているようですが、この天界のエージェントと言うのはどう言う意味なのでしょうか?」 「キタ~!! この女め! どうせワシを狂人扱いして貶めるつもりだろう。誰がそんな手にのるかよ!」と東条は心でつぶやいた。 「えぇ~ そのような噂は聞いたこともありますが、一体誰が言ったのかは解りません。天界とは展開とも転回ともとれますが、その何れが正解なのかも知りません。つまり流言飛語の類にはお答えを持ち合わせておりません」 吉本は東条の惚けた発言に行き場を失ってしまった。しかししつこい性格だけが取り柄の左派系野党議員である。ここで引き下がっては自分の名声と選挙の得票に悪影響を及ぼしかねないから、ダメもとで新兵器開発に質問を切り替えた。 「では次の質問ですが・・・ 東条総理は常日頃人命第一を掲げられていますよね? 人命とはどこの国の人命でしょうか?」 「それは我が国を始め、全世界の人類です」 「では、我が国の軍隊はアメリカやイギリスの若者をどの位殺したのですか? 最近では戦艦武蔵がヨーロッパ遠征中にまるで殺人マシーンのようにイギリスの若者を虐殺したと聞いています。 東条総理! あなたは口先では人命第一を唱えながら影では大虐殺を行っているではありませんか? この矛盾をどう説明しますか?」 「それは戦争ですから仕方が無い事です。殺るか殺られるかの極限下では、味方の損害を防ぐ為に必死で戦うのですから、負けた方の戦死者が圧倒的多くなってもそれは戦いの結果として止むを得ないのであります。 それを虐殺と言うのは命をかけて祖国の為に戦っている兵士を愚弄する事になります。 直ちに撤回していただきたい」 「いいえ! 断じて撤回はできません。何故ならアメリカやイギリスに宣戦布告したのは誰ですか? つい最近ソビエト連邦共和国に宣戦布告したのは誰でしょうか? 我が国が正義の為に戦っていると仰いますが、一方的に戦争を仕掛けたのはあなたではありませんか? つまり東条総理は戦争好きの独裁宰相である事は明々白々の事実ではありませんか?」 「確かに東洋の弱小国が米英に対して肩を並べようと頑張って来た結果がこのような事態を招いた事は事実です。中国にも申し訳ないことをしたと反省しております。しかし我が国が進出しなければ米英の魔の手が我が国の近隣まで迫ってきて、やがては我が大日本帝国も欧米列強の強欲な野獣に喰われる運命にあったのです。私はここで皆さんにお約束します。この少々緩んだ日本社会の隙間に付け入ってウイルスのように侵入して国民を洗脳し、やがては国家をも蝕むコミンテルンと、それを利用して世界各地で戦争を起こさせようとするネオコンや悪い意味でのグローバル資本主義と徹底的に戦うつもりです。ネオコンとは耳慣れない言葉でしょうが、武器商人とでも理解して頂いて結構です」 「随分とながなが説明して戴きましたが、最後に質問をします。東条総理はファシストなんでしょうか?」 「ほう? 吉本議員はファシズムをご存知ですか? 日本では古くから言い伝えられてきた、毛利元就が子供達に伝えた三本の矢の例えで有名な話ですが、この“結束”のどこがいけないのでしょうか? まさかとは思いますが、吉本議員はソ連のコミンテルンがイタリアやドイツを思想攻撃する為に盛んに使っている政治宣伝を引用されているのですかな?」 これで勝負が決まった。東条の鮮やかな切り返しにより吉本議員は“アカ”のレッテルが貼られてしまったのである。 



第6話  日米最終決戦


 愛知県の小牧にある陸軍技術工廠の委託を受けた次世代技術研究所の巨大工場で、昭和19年秋の新作航空ショーが開催された。招待客は軍関係者に財界の一部の関係者と同業者のみであった。発表された航空機は、まず100式司令部偵察機改に良く似た双発のターボプロップエンジンを搭載した戦闘爆撃機 死神改である。初代の死神号よりやや後退翼になっており、プロペラは強力なエンジンのパワーを効率よく発揮させる為に、回転数を抑え気味にして二重反転式四枚プロペラとし、エンジンも機体もシャープになった。バルカン砲やミサイル発射装置等、装備品は変っていない。巡航速度650km/h 最高速度790km/h 最大航続距離10,000キロメートル(増槽タンク使用)実用高度限界10,500m 最大の特徴は低燃費で高速飛行が可能になった事で、サイパン島やトラック島で給油を受ければ、いつでも日本国内からオーストラリアやハワイを攻撃することができるようになった事である。


 次が初代対潜哨戒ヘリコブターのマイナーチェンジをした二代目対潜水艦哨戒ヘリコプターで、青海Ⅱ(ブルーオーシャンⅡ)である。 特徴はよりダウンサイズした小型ターボシャフトエンジン2基を積み、新たにソノブイ投下装置を取り付けた。活躍の場がない旧式の小型空母に搭載して、対潜駆逐艦の強力な助っ人として活躍中の機体である。この対潜ヘリも誘導式の爆雷や魚雷の発射は出来ないので、磁気感知器で地磁気の乱れを監視し、ソノブイや(海上投下型ソナー)ディッピングソナー(海中吊下型ソナー)を使ってしつこく付きまといながら、駆逐艦の到着を待つのである。ただし、この為には制空権が確保されている環境が必要である。


 その次に展示されているのは、ターボファンジェットの部であるが、胴体内に2基の低バイパスファンジェットエンジンを搭載したジェット戦闘機で幽霊ファントムである。形も実際に存在する航空自衛隊のF-4EJにやや似ているのだが、その訳はジェット戦闘機開発プロジェクトの設計陣が、ジェット戦闘機の機体のイメージが分からないと悩んでいたときに、私が記憶の範囲内で書いた絵がたまたまF4ファントムに似ていたので、その絵を参考にしたら似てしまったのである。しかしエンジンパワーは本物とは似て非なるもので、推力は4t×2で某国のパクリ戦闘機並みになっている。しかし昭和19年のこの時代の戦闘機としては出来すぎであろう。この幽霊にも死神改と同じ対艦ミサイルを四発搭載できる。最高速度マッハ1.5で音速の壁を越えている。実用限界高度は14,000メートルで、航続距離は巡航速度(1,000km/時)で1,500キロメートルである。増槽タンクを使用すればプラス500キロメートル伸びる。本土防衛以外はアングルドデッキとカタパルトを備えた新型空母を作る必要があるが、わざわざ敵地に出かけてまで使用するつもりもないので、震電の後継機として、専ら国土防衛の任にあたる予定である。その先にはもう既にお馴染みとなった、巨大なファンジェットエンジンを2機主翼に取り付けた、民間用の旅客機と軍事用の爆撃機である。どちらも招待客の目を奪っていた。


 そしていよいよ真打であるが、辻と糸川博士の合作である中距離弾道ミサイルである。先月館山沖の伊400からトラック島の東端にある無人島に向けて発射実験を行ったのだが、なんとミサイルは300キロも西にずれて元連合艦隊泊地の近海に落下した。勿論、弾頭は砂を詰めたものであったが、海軍監視船からは抗議が来て、陸軍では失笑が漏れた。失敗の原因は地球の自転を計算にいれてなかった事であった。ここに展示されているペンシル型ロケットは辻と糸川博士が子供時代に遊んでいた打ち上げ花火と大差ない模型である。今現在もロケットの軌道を制御する研究が進行中であったが、その研究は難航している。まず飛翔隊の姿勢と方向を保つ為にジャイロスコープを使用することで理論的には解決出来たが、それをどうやってロケットの動力で姿勢制御するかが問題となった。超高速で、しかも一時的には大気圏外を飛行するロケットに方向蛇はつけられない。そこで考案されたのがロケット自体の方向と姿勢を固定する小型のブースターと刻々と変っていくN極との位置関係をパンチディスクに記憶させて方位を修正する小型ブースターの2系統をメインノズルの手前の高圧燃焼室から、自動車の給排気バルブに似たバルブを取り付けて、上部のカムシャフトでコントロールしながら瞬間噴射する方法に辿り着いた。弾道の頂点に達した後はあなた任せの自由落下となって、ここでも着弾点に誤差が生ずるが、キネティック弾頭を開発する技術はまだない。ただし、これでもまだ完成はしていない。何故なら、何回も打ち上げ実験をして動作と性能を確認しなければならないからである。二回目の打ち上げ実験では発射直後、ブースター部が爆発して発射台付近は火の海になり、三回目は上空まで上がったがくるりと下を向いて空中爆発、四回目は無事に青空の彼方に消えたのだが、観測所からは着弾は確認できていないと言われ、五回目は来るには来たが、予想した着弾地点から20キロ以上彼方の海に消えたと報告が入った。あと一歩だが、総理大臣も大蔵大臣も涙目になる位の巨費が投じられた。


 E=MC2乗  国家戦略本部

中距離弾道ミサイルの開発が完了したところで、いよいよアメリカを楽に黙らせる方法の最終打ち合わせを辻としているのだが、禅問答のようになってしまった。 「辻君はアインシュタインという物理学者を知っていますか?」 「いえ 知りませんが、専門はなんですか?」 「宇宙さ! 宇宙の始まりはビッグバンという爆発で生まれて、それが光の速度で膨張しているという話なんだけど、聞いたことない?」 「その話は聞いた事がありますが、でもアインシュタインというのは聞いたことがありません」 「今頃はアメリカのニューメキシコ州の砂漠地帯のロスアラモス研究所というところで、日本に落とす為の原子爆弾を造っているよ」 「なんですと!? それは放っておけませんよ!」 「そのアインシュタインがE=MC2 なる式を発案して来年早々に原子爆弾を完成させる事になるのだが、なんでも重量が2トンもあるという巨大なやつだから、そう簡単にはいかないさ」 「で、そのE=MC2とは何の式ですか?」 「え? そんなこと俺に聞いちゃうの? そうねぇ、言葉で言えばエネルギーは質量×光の速さの二乗ってことだよ」 「質量とエネルギーの等価性なら何となくイメージできますが、そこに何で光の速さが加わるんですか?」 「そんなこと聞かれても分かりませんよ! ただ、爆弾に使用している火薬が爆発するエネルギーの量は全質量の10-7 %しか使われていないらしい。 更に言えば核分裂によって発生するエネルギーでもせいぜい1%以下らしい。それが豆鉄砲でも、光の速さでぶつければ100パーセントのエネルギーが得られるんじゃないの?」 「なるほど! 今まで自分は核分裂や核融合について、常に100%の反応ばかりを考えていましたが、1%以下でもいいんですね? ならば考えがあります」 「100%の反応ってあり得るの?」 「勿論あります。但し、地球のどこかで反物質が見つかればの話ですが・・・」 「そんな無理しなくても、いまあるプルトニウム型のやつをミサイルに搭載できる位の小型軽量にするほうが早いのではないの?」 「そうなんですが、プルトニウムは臨界量ギリギリ以上は使用したくないんです」 「それは放射能汚染を考えてのこと?」 「勿論そうですが、小さい核分裂のエネルギーを利用して強大な核融合のエネルギーを発生させようというものです」 「あぁ~ 水爆を造ろうとしている訳だね? 多分解ると思うから手伝いますよ」 「なんだ、知っていたんですか? なら早速造って実験しましょう」 辻は子供時代の火遊びの楽しさを思っているのか、とても浮き浮きした表情を見せた。

それからは毎日々放射性物質の少ない核融合タイプの爆弾開発に没頭した。

アメリカが開発しようとしているウラン型やプルトニウム型の原子爆弾の製造方法は当然知っているし、少々重いがプルトニウム型の原子爆弾ならもう持っている。 これは理化学研究所の実験用原子炉で天然ウランを中性子で反応させて抽出した20キログラム程の純粋なプルトニウム239を、某菱マテリアル社製作のウラン合金製弾体に、元日本一の花火師だった某キン工業の職人に爆縮用成型炸薬を仕込んでもらって完成したのだった。これを各10キログラムのプルトニウムを使用して二個製造した。一個はマーシャル諸島沖で核実験をおこなったが、無事成功し、爆発エネルギーの規模は5キロトン程度と推測された。アメリカは開発費用も研究所の施設も大重工業並みの規模でやっているのだろうが、こちらとしても早くミサイルに搭載できて、威力はでかい水爆を完成させなければならないのである。日本が先に原子爆弾を完成させたとの証拠を見せ付けて、アメリカを降伏に追い込み原爆開発を止めさせなければならないが、今はたった一発の重たいプルトニウム型しかないから使う訳にはいかない。戦後の世界はドイツと日本が手分けをして管理し、お互いは決していがみ合う事のないようにするつもりである。水素爆弾の原料に重水リチウムという物質がある。その名の通り金属リチウムに二重水素を浸透させて、本来であれば原子爆弾を使用して超高温と超高圧下でリチウムをトリチウム(三重水素)に変換させて二重水素原子と融合させると熱核爆弾ができあがる。これを何とか核分裂エネルギーを使用しないでクリーンな水爆が作れないだろうかと、島根県沖の竹島で爆発実験を繰り返していた。高性能炸薬で重水リチウムを爆縮するが、結果は芳しくない。クリーン水爆とはいっても10~20キロトン程度は欲しいわけで、現状では弾体の内側にウラン合金を貼り付けて全体的に軽くし、更に火薬の爆発時に一瞬でプラズマ状になるスチレン樹脂を隙間に詰めたが、それでも巨大戦艦を吹き飛ばす爆発力になるまでには至らない。そこで已む無く核物質の力も借りる事とした。理化学研究所の実験炉はメンテナンスに入っているので使えない。ならばと、今後の研究の為に資する事になる中性子発生源用の大きな真空管を作り、中は籠状の陰極カソードで全体を真空状態で希薄な重水ガス環境にし、容器外部にはスパイダーマンのような模様の陽極アノードを張り巡らせ、更に外側の環境はヘリウムガスが手に入らなかったので窒素ガスで冷却させ、ウラン238合金のライナーで覆って中性子を反射させる。そしてその中性子が中間に置いたウラン原料に戻るように調整する。カソードからアノードにプラズマ状の電子が飛んで、重水ガスの原子核同士もプラズマとなって激しくぶつかり合って、この時に発生した高速中性子がウラン238合金のライナーで跳ね返って行ったり来たりを繰り返す。因みにこのライナーは一回使用するごとに取り替えなければならない。やがて中性子の通り道に置かれた天然ウランは臨界状態になりβ崩壊を起こして様々な不安定物質となるのである。そしてカリフォルニウムやプルトニウムやコバルトのような中性子を出しやすい不安定な物質を取り出す為に溶融塩電解によって抽出し、それを厳重に鉛とカドミウムの合金カプセルに詰めて、爆縮用成型炸薬中に配置してみた。その結果はというと、大成功である。ここまで努力したのだから成功しない訳がない。今度の実験も日本海にある日本領の竹島で行ってみた。最初は一個の巨大な岩山だった竹島が二つに割れて大と小の岩山になってしまった。これで10~20キロトン程度の爆発エネルギーは得られたであろう。いやひょっとしてメガトンまで行ったかもしれないが、計測不能であった。


 昭和20年の正月を迎えた。世の中はまるで戦争なんかなかったような平穏そのものであった。今年の流行は旧ソ連領土だった沿海州への旅行や定住などになるかも知れない。モスクワが陥落してスターリンもこの世にはいない。沿海州各地に残されたソ連極東方面軍の兵士や民間人は、ヨーロッパ方面に戻りたいと希望するものは、シベリア鉄道で帰還させた。但し、バイカル湖南の鉄橋を破壊してしまったので、バイカル湖に海軍の大発と陸軍のホバークラフトを大量に運び込んで連日のピストン輸送でイルクーツクまでは責任を持って送った。一方でバイカル湖から東のシベリア地方や極東地方に残りたいと希望する者には、新規に立ち上げる国家で勤労かつ勤勉である事を条件に定住を許し、箸にも棒にもかからないならず者達は、北方の森林地帯で厳重に管理しながら木材の切り出しと加工作業に従事させる事になる。この労働キャンプに連れてこられた者たちには日本の刑務所並みの飯は食わせるが、ウオッカは一生飲む事ができないし煙草もギャンブルも禁止される。賃金は支払っても使い道がないので、その分は強制的に全て国家管理の口座に貯金させて、新国家設立の為のインフラ整備資金と社会福祉と教育の資金にまわす。日本本土からは一攫千金を目当てに、満州国同様に人も企業も我先にと入植し始めた。新国家の名称も全国から募集したところ、「ロシア共和国にしてやりなよ!」と言う意見が最も多かった。因みにバイカル湖から西の広大な地方は大ドイツ連邦共和国 スラブ人自治区で落ち着き、ドイツ人は勿論、イタリア人とユダヤ人が大量に入植した為に、後々アラブ諸国の反発を買うことになるイスラエルという国家は存在しない。

そしてまだ松飾もとれない正月早々、アメリカ西海岸付近を監視していた伊777から良からぬ報告が届いた。月々火水木金々で休みなく婦人も子供も総動員して頑張ったのであろう。巨大な正規空母が多数存在しているらしいのである。積載している艦載機はプロペラが無いらしい。暫くは西海岸の北から南で演習を繰り返していたが、それがいよいよ出撃を開始したらしい。 「こんな時にドイツは一体何をしているのか!!」 と、アメリカ東海岸を攻撃するよう頼んだが、 「大恩ある日本の為に何とか協力したいのだけれど、何しろ我がドイツ海軍にはろくな戦艦も残っていないし空母もなくて、Uボートだけでは如何ともし難い・・・」 と恐縮している。

元々陸軍国家だったから仕方ないといえば仕方ないのだが、なんとも頼りない同盟国である。メイドインジャパンの幽霊ファントム戦闘機が開発されてから陸軍と海軍に加えて、新たに空軍が整備された。幽霊戦闘機は正確には胴体下部に4発の赤外線誘導ミサイルを搭載できるから戦闘爆撃機である。アフターバーナーを使用すれば満載重量でもマッハ1.5(2,000km/h弱)まで出せる。武装は発射速度をアップさせた20ミリ機関砲2門を両翼の付け根に配置している。増槽タンクを使用して最大航続距離は約2,000キロメートルだが、アフターバーナーを使用しての空戦となれば別の計算をしなければならない。総合幕僚監部は直ちに陸・海軍に緊急作戦命令を発した。サイパンとミッドウエー島に配備されている全ての航空隊は本土に帰還命令を出し、入れ替えに幽霊戦闘爆撃機をサイパンに派遣した。この一部はさらにミッドウエーの前進基地に進出してハワイ方面からやってくるであろう米新型空母と戦闘機の邀撃体制に入った。大和や武蔵を含む海上部隊はサイパン島沖合いで、米水上部隊の襲撃に備え、護衛の艦隊の127ミリ砲弾は全て徹甲弾とした。伊777攻撃型潜水艦はミッドウエー、サイパンの導線上と硫黄島と小笠原諸島の海域に潜んだ。本土防衛用の震伝は幽霊戦闘機の迎撃を補助する為の遊撃機として出陣しても、決して自ら立ち向かわないように厳重命令が出され、厚木と土浦と浜松に残りの幽霊が配置された。米軍に対して日本軍はどうしても数で見劣りがするが、こちらは専守防衛体制で、線を守れば何とかなるだろう。ミッドウエー上空で対空レーダーで監視活動をしていた幽霊から敵戦闘機らしき機が6機発見したとの無線が入ってきた。基地で待機していた幽霊は次々に迎撃に飛び立った。そして10分後、ついに日米ジェット戦闘機同士が合間見えることとなった。アメリカの戦闘機は機首に大穴が開いていて、そこから空気を取り入れているらしい。翼は細長く、後退翼になっていて幽霊から比べると大きさも貧弱と思え、速度もレシプロ機よりは速いが幽霊と比べるとアフターバーナーは必要ないような遅い速度に思える。一方アメリカ人パイロットから見たら、我が国自慢の最新鋭ジェット戦闘機で日本軍の奴らをビックリさせてやろうと意気揚々ミッドウエー島を目指してきたら、肩を怒らせた形の翼を持つ三角形の化け物のようなでかい戦闘機が現れて腰を抜かさんばかりの驚きであった。最高速度が1,000kmチョイのF86セーバーはファントムに似た幽霊の敵ではなかった。敵の空母部隊は全く近寄ってこないので、燃料の問題があってお礼に出かけるのは止めてとりあえず基地に戻った。硫黄島で警戒していた伊777は、遠くに米空母部隊らしき艦影を発見した。ただちに日本軍司令部に無線連絡をして後を追い、硫黄島守備隊は防空壕に非難して災難が降りかからないことを祈った。米空母の情報をキャッチした小笠原諸島から本土に近い伊777潜水艦部隊は、直ちに米空母の予想進路に先回りして200メートルの深海からジッと息を潜めて耳を澄ませて待ちの体制にはいった。海の中とはいえ、数々の米潜水艦がこの伊777によって沈められたとは全く考えてもいない米軍上層部は、再び自国の若者の命が多数犠牲になる事にどう責任をとるつもりなのか? そして小笠原沖合いで5隻の米巨大正規空母がただの一機の戦闘機も発艦させることなく、日本海軍が誇る93式有線誘導型長魚雷の洗礼を受けたのであった。しかし流石巨大空母だけあって、やや速度を落としたものの見た目にはあまり影響が出ていないようである。手負いの巨大空母は必死に逃れよと4基の巨大な蒸気タービンをフル回転させるが、破口が抵抗となって思うような速度が出ない。護衛の駆逐艦は敵潜水艦を必死に探そうとしているが、東大阪の鉄工所の社長が巧の技で鍛造した無音スクリューとハイパワーモーターと大出力が可能になったマグネシウムフィルム電池の組み合わせた最大水中速度25ノットの潜水艦を補足できないまま、また空母に2発目の魚雷攻撃を許してしまった。2発目となると、流石の巨大な艦体もやや傾いてきたが、注水作業で復元させている。しかし速度は益々落ちてきて20ノット以下となる。そんなにのんびり走っていたら、潜水艦にとっては好きなポイントを狙って攻撃できるのである。3発目は空母の後方斜め下からケツを狙ってぶち込んだ。これは効いた、空母の舵もスクリューも吹き飛んでケツに大穴が開いてみるみる艦尾から浸水が始まり、30分後には艦首を上に向けて海中に没した。残された護衛の駆逐艦は、以前に大和がソ連艦隊を一隻残らず撃沈してしまった為に、装備品のカッターをしぶしぶ提供した事実を踏まえて、まだ対潜水艦攻撃を諦めていない駆逐艦だけを駆逐した。


 この事態を受けてアメリカ海軍は戦略の見直しを余儀なくされたのである。 蒸気カタパルトを開発してジェット戦闘機を搭載した大型空母で日本を攻撃すれば、もはやこれに対抗する手段は日本には無いだろうと意気揚々とやってきたのだ。しかし日本もジェット戦闘機を開発していた。しかもノースアメリカン社とアメリカ海軍が国運とプライドを賭けて開発したF86戦闘機よりも遥かに高速で旋回性能も優れている異様な形をした高速ジェット戦闘機が現れた。更に今まで謎だった自国潜水艦の大量行方不明の原因は、それまでのアメリカ軍の常識を超えた潜航深度と、無音で高速走行する日本の潜水艦の存在だった事を知ったのである。この時代の潜水艦といえば、日米共に潜航深度はせいぜい100メートル前後であった。この深度では艦を立てれば水面から艦首が見える位の深さで活動していることになる。米海軍の駆逐艦のソナーも100メートルより深い位置を探るようには設計されていないのである。更に海面から深くなればなるほど海水温度が低くなって、海面近くにあるソナーでは発見しづらくなる。魚雷についても疑問だらけで雷撃機は勿論、潜水艦からの攻撃であっても海面には必ず雷跡が確認されるはずなのに、それがない。そして恐ろしく命中率が高いのは何故なのかは推論の域を出ないのである。ただ、魚雷に関してひとつだけ判っている事は、魚雷自体が探信音を出して突進してくる事であったが、トランジスタの開発に先を越されたアメリカにとって、この原理の具体的な応用技術を取得するまでにまだ時間がかかる。

 ワシントンでは主が交代していた。いや、交代と言うより早い話がルーズベルト大統領の容態が悪化して政務が続けられなくなり、副大統領のトルーマンが大統領職に就いたのである。それに伴って軍部も含めてスタッフが全員入れ替わっていた。 「諸君! 現在の我が軍の状況はどうなっているのか詳しく教えてくれないか? 話では日本に対してアメリカ海軍は劣勢に立たされていると聞いているが、あんな小さな島国の軍にアメリカ海軍が苦戦するとはどうしても思えないのだが、一体どうなっているのだ?」 「大統領、まずは順を追ってご説明します。まずはこれらをご覧下さい」 元々は技術畑の出身である国防次官補のチャールズチャップは何やら小さな部品のような物を大統領の机の上に並べた。 「これらは中国の米大使館から送られてきたものですが、日本製のテレビジョンに使われている部品で、真空管の役割を果たしているものだと言っておりました」 「真空管? 私は電気の事はよく分からんが、話だけは以前から聞いている。それがどうしたというのかね?」 「これをエジソン総合研究所に持っていって詳しく調べてもらったのですが、この小さな部品を構成しているものの大部分はシリコンという鉱石から出来ていて、その結晶体は不純物の無い人工的な結晶配列になっているようです」 「つまり日本は我が国にはない技術を持っていて、その部品が電気製品に使われていると言うことだね? そういえば娘が日本の某ONYのラジカセで友達とパーティーを開いて踊っていたな・・・? それでこの部品がどうかしたのかね?」 「エジソン研究所の話では、この豆粒のような部品一つで真空管数本分の電子の流れをコントロールする事が可能だとの事です。つまりこの部品を軍事用兵器に使用すればレーダーや無線の性能が上がり、ロケット弾の推進方向を自由にコントロールする事もできるはずです」 このやりとりを黙って聞いていた海軍参謀のロバート少佐は、日本の爆撃機が高空から発射する信じられないほど正確に命中するロケット弾の理由が分かった。 「大統領、お話中申し訳ありませんが私からも少しお話してよろしいでしょうか?」 「ああ、ロバート君か? かまわんよ」 「実は我が海軍の空母や戦艦が日本の爆撃機の被害に遭い、その全ては大掛かりな修理をしなければならないほどに破壊されてしまいます。 今回アメリカ海軍と民間の航空機会社の技術の粋を集めて開発し、実践に投入したF86ジェット戦闘機も日本が開発したジェット戦闘機とは大人と子供の開きがあったそうです。認めたくはありませんが、アメリカと日本の科学技術の差が開きつつあるのではないでしょうか?」 「諸外国から遮断された島国で、どうして科学技術が進んでいるのだ? まさかドイツが技術を流しているのか?」 「いえ、ドイツにもそのような技術は確認されていません。現在アメリカを含め、世界中の国々を探してもこのような部品も製品も存在していません」 チャップもアメリカの科学技術の遅れを実感していた。 「世界のどこにもない物を日本が作ったという事か? では我が国も当然作れるのではないか? ここに見本もある事だし・・・」 「はい、それはやってみたのですが上手くいきませんでした」 「どうやってみたのだ?」 「シリコンとはガラスと同じ物質なので、ガラス工場でなるべく不純物が入らないようにして試作してみたのですが、最初は分子構造が多結晶体でサンプルの分子構造とは違っていました。そこで何度も工夫して、部分的ではありましたが、なんとか単結晶体を作るところまでは成功したのですが・・・」 「なんだ、やればできるじゃないか? 早速同じものを大量生産したまえ」 「いえ、まだ当分はできそうにありません。 ・・・と言うのは、こちらで試作した結晶はシリコン成分の中に酸素や水素の他、様々な物質が混ざっていて、これを除去する装置の開発に時間がかかるのです。 それに・・・ サンプルで用意してあった部品を研究者達が調べていたら、その部品はまるでスクランブルが働くように機能を失ってしまうのです。」 チャップは研究者たちがトイレに行って手を洗わずにシリコン結晶体を触ったことにより、ナトリウムが付着してお釈迦になったという事に気付くまでにはまだ5年位はかかりそうだ。 「なんだ? どういうことなんだ・・・? ということは今は間に合わないという事か? だめだなこりゃ・・・ ロバート君、今ある軍備で日本軍をやっつける方法を考えたまえ!」 いきなり無茶振りされたロバート少佐は 「はい、承知しました!」 と安請け合いをしてしまい、ハワイの米海軍太平洋軍司令部に飛んだ。


  黒島艦隊に戦闘艦も爆撃機も壊滅状態にさせられて、ドイツ軍に対抗する軍備を失ってしまったイギリスは、アメリカからの支援も途絶えてしまい、万事休すの事態となった。一方のドイツも旧ソ連領の戦後処理に追われて、ドーバーの向こうまで気が回らないまま中途半端な状態が続いていた。そこで東条は誇り高きジェントルマンの国を救済すべく手を差し伸べたのであった。別に頼まれたわけでもないが、インドを筆頭にインド太平洋にある数々の植民地を放棄して、それらの国々の独立を承認するよう迫った。イギリスと一口に言っても、イングランド スコットランド アイルランド とそれぞれ別の国家の様相を呈する大英帝国は、利権が絡むと一致団団結するのが早いが、その逆だと内輪揉めばかりしていてなかなか話が纏まらない。一ヶ月たち、二ヶ月が経つというのに何の音沙汰も無い。フランスもオランダもあるのか無いのかカオスの状態なので、最後にイギリスを連合国から引き剥がせばアメリカは孤独の一匹狼状態になる。カナダやオーストラリアは戦力外なので無視しても構わないが、イギリスとアメリカをくっつけていて良い事は何ひとつ無い。いつまでも小田原評定をやっているイギリスに対して、“港々を機雷で封鎖されるのが良いか、ナチスの支配下に置かれるのが良いか、それとも日本の提案を呑んで再び海洋国家として繁栄の道に進むのが良いか早急に返答されたし”と督促した。

更には“この件はアメリカには伏せておいてもらいたい”と注文をつけておいて、いずれ近い内にアメリカに対して水素爆弾をお見舞いする予定がある事をバラした。しかしこれは東条の大失敗であった。まだ原子爆弾も開発途上の段階で、水素爆弾と聞いて紙風船に水素を詰めた爆弾だと誤解され、アメリカに対する脅しにはならなかった。そしてインドが独立してマハトマガンジーが初代総理大臣に就任した。いまでは毛沢東を処刑して新しく生まれた自由中華民国とインドの総人口は15億人に達する。この二つの大国が日本と友好関係にあればどのような好い事があるかと言うと、日本の技術と製品を輸出してガッツリ稼げる事と、やがては共に手を携えてインド太平洋地域の平和と安定を守る軍事同盟も築けるだろう。どうせオーストラリアもそのうち泣きついてくるだろうし、アメリカを解体させればもう地球上に覇権を唱える国はなくなる。ドイツは古代ローマ時代からアレクサンダー大王や北方のバイキングに襲われ、ナポレオンの侵略やロシア帝国の脅威にさらされ続けて生きてきた歴史がある。第一次ヨーロッパ大戦で敗れてからドイツ国民は空腹を紛らわせる為に木の根をかじり泥水をすすって耐えなければならないような状態にまで落ち込み、困窮の極みに達していたのである。そこまでドイツから過酷で莫大な戦費賠償をさせて、一方のフランスではフランスパンをたらふく食べ、ベルサイユ宮殿ではマリーアントワネットのようなマドモァーゼルが不細工な金持ち男と結婚式を挙げ、イギリスではマダム達が、インド人を強制労働させて作らせた午後の紅茶とビスケットでおしゃべりを楽しんでいたものと思われる。ドイツも日本同様に喧嘩っ早い所があって、そこを責められたら仕方が無いが、勝てば官軍でも構わないけれど、負けた側に対しては“武士の情け”をかけてやるだけの度量をみせてやれば、こんな悲惨な戦争は起きなかったかもしれない。


時間は少々戻るが、昨年のミッドウエーと小笠原沖でのアメリカ空母部隊との対戦後、米空母艦隊はハワイに引きこもったまま出てくる気配をみせなかった。アメリカ軍がジェット戦闘機を開発したことが判明した為に、ターボプロップ機やF86と同速度の最新鋭のファンジェットエンジンを搭載した偵察爆撃機が使えなくなってしまったのである。戦況を考えると今から新しい大型エンジンを設計製造している時間がないので、幽霊に搭載されているバイパス比の低いアフターバーナー付エンジンを二基束ねてそれを4セット主翼にぶら下げた、まるで未来の米軍のB52に似た偵察爆撃機を作ったのである。推進力は4t×8で32t アフターバーナー使用時は6t×8で48tで、最高速度はマッハ1を超える。元々後退翼であったが、マッハの壁を破る為に主翼を少々カットして根元を幅広に補強してフラッター現象(マッハ1に達すると衝撃波によって翼先端が破壊される現象)対策を行った。これも未来知識があったから風洞実験や超音速試験をしなくて済み、飛行テストで問題ないことを確認しただけで完成したのである。機体も大きいので燃料をたっぷり積めるから、焼付けを起こさない程度に何回もアフターバーナーを使用してもハワイは軽く往復できる。ミッドウエー島で給油すればアメリカ西海岸からニューメキシコ州辺りまで楽に往復できるのである。やはりミッドウエーを確保しておいてよかった。名称は用途が死神号と同じで3代目となることから、“死神Ⅲ”が考えられたが、米軍も死神は聞き飽きて驚かなくなってきているという話なので、製作プロジェクトの主要人物である中島飛行機の社長が念願としていた幻の超大型爆撃機の生まれ変わりとして“富嶽Ⅱ”とした。

 そして昭和20年の新年早々、富嶽Ⅱはハワイに向けて偵察飛行に出発した。機長は源田大佐、副機長は安倍少佐である。後部の座席にはカメラマンや陸・海軍の情報将校も同席している。途中何度かアフターバーナーのテストを繰り返したところ、風向によって正確ではないが最大マッハ1.2程度(時速約1,470km)出ることが分かった。アメリカ軍の新鋭ジェット戦闘機の速度は日本の幽霊の速度より遅いと聞いたが、まだよく分からない相手なので油断はできない。大型機とは思えない快速に酔いしれていたところ、あっという間にハワイ上空に達した。高度12,000メートル やや雲が多い。対空レーダーには結構な数の飛行物体が映っている。恐らく米軍の新型ジェット機であろう、従来のレシプロ戦闘機とは明らかに航跡が違う。後ろのカメラマンと軍関係者にシートベルトは解除しないように警告して、敵機が進行方向に入らないようにアフターバーナー全開で蛇行や旋回を繰り返しながら偵察ポイントを回った。やがて迎撃機は全て後方にかたまったところを見てその速度性能は亜音速ではないかと思われた。偵察の結果、やはり真珠湾内には大型の空母が何隻も停泊している。狭い湾内に全ての艦艇が停泊しているのは、日本の忍者潜水艦が恐ろしい為であろう。アメリカもここまで手詰まりならさっさと降伏すればいいだろうと思うのだが、やはり日本から距離があって広大な国土で暮らしていると、遠い太平洋で起きている戦争の事は他人事のように思っているのだろうか。そこで東条は考えた。富嶽Ⅱの完成により、毎回護衛艦1隻分に相当する打ち上げ費用がかかる弾道ミサイルはなるべく使わないようにして、富嶽Ⅱで純粋水爆を落とすことにした。純粋水爆は多量の濃縮ウランやプルトニウムを使用しないので気楽に何発でも落とせる。それで高価なミサイルを消費しなくても、アメリカを降伏に追い込めるかも知れない。早速源田に命令が下った。まずは真珠湾の外側の深めの海域に一発落としてみて様子を見るのである。投下方法は海面まではパラシュートで落下し、海面下に沈めて200気圧で爆発するようにセットした。再びハワイ沖にやってきた。レーダーには性懲りも無く迎撃機が上がって来るのがわかる。外洋に空母の姿がないから、既に空母から地上の基地に移動していて、その基地から飛び立って来るようである。源田はそれらに構わず、湾口から約5キロの海上にそれを落とした。迎撃機が迫ってくるので横に90度ターンして飛行を続けてじっと様子を見守った。やがて落下したであろう海域が大きく盛り上がり僅かだがオレンジ色の眩しさを感じた。黒い煙も確認された。その頃トルーマン大統領に無茶振りされてハワイの太平洋軍指令部にいたロバート少佐は司令部の執務室で地割れのような振動と鼓膜を圧迫するような低周波音に驚いた。戦艦が爆発事故でも起こしたのかと慌てて窓から軍港を見たが、空母も駆逐艦も特に問題ないようである。しかし湾の外を見ると巨大なスコールが見える。いや何かが違う、海面も高くなって見えるのである。やがてその海面は湾口の木々を飲み込みながら湾内に怒涛のように流れ込んできた。 「全員!非難せよ!!」 と大声で叫んだが、一瞬で岸壁に停泊していた空母も巡洋艦も潜水艦も大波に載って陸上にどんどん流されていく。この司令部も危険となったので、どこまで逃げられるかは分からないが、兎に角より高い場所を探して逃げた。大津波の後からは激しいスコールと大小の魚が降ってきた。湾内には何隻かのプレジャーボートがひっくり返っているだけとなり、空母やその他の軍艦はほぼ陸上に引越ししていた。

 それから1週間がたち、東条も幕僚達もアメリカの反応を待った。 「真珠湾の水爆投下は効き目が無かったのだろうか?」 東条はもう何度も降伏勧告を出しているが、アメリカ政府の返事はないので不思議に思っているようだ。

「きっと今頃は世界初だと思っている原子爆弾の核実験に成功したので、日本に降伏する必要はないと思っているのかも知れませんね」 「そうか、アメリカはまだやる気なんだな? 面白いじゃないか・・・ 次はどこに落とそうか?」 東条は悪戯っ子のような顔で私を見た。 「ここにアメリカの詳しい地図がありますが、ニューメキシコ州のサンタフェという町の隣にロスアラモスと言う小さな集落があります。見えますか? ここをやりましょう」 「ああこれかね? こんな辺ぴな所では効果はないだろう?」 「いえ、ここでいいのです。ここで現在日本に落とすつもりの原爆を製造しているのです。ただし、今は日本がマリアナ諸島もミッドウエー島も占領しているから日本本土に落とす手段がありませんが、やけっぱちでサイパンに落とすかもしれませんよ」 「そうか、それなら放っておけんな! で・・・なんて言ったっけかロスパンチョス?」 

「ロスアラモスです」 「そう、そのロスアラモス攻撃を許可する!」

 日本空軍厚木戦略爆撃軍司令部では、源田機長 安部副機長 そして航空機関士役の浅田大佐が集まってロスアラモス原爆製造所を水爆攻撃する為の、米大陸進入コースを検討していた。 航法担当の浅田が説明を始めた。 「まず厚木を飛び立ったら真っ直ぐミッドウエー島に行って給油し、次にサンフランシスコとロサンジェルスの中間のモントレーから真東に進路を取ってラスベガス上空で1度右に修正してグランドキャニオンを見ながらアルバカーキを目指そう。モントレーとラスベガスのヘンダーソンには航空基地があるから注意が必要だな」 「高度10,000でサンタフェが見えるだろうか?」 源田は不安を覚えた。誰も行ったことがない未知の大陸を飛行するのである。地図では簡単そうに見えるが、実際行ってみなければ誰も判らない。 「空幕からサンタフェ出身の米系日本人を探してもらったら、元米国大使館で勤務していたが、日米開戦が原因で日本に帰化したハリー サカタという人物が喜んで道案内をすると申し出てくれたそうなんだ。だから最悪迷子になることはないと思うよ」 浅田は広大な中国大陸を飛び回っていた歴戦の陸軍航空隊の英雄である。源田も安倍もそれ程心配はしていないが、爆撃目標の近くの出身者が同乗すれば鬼に金棒である。 「このなにもなさそうな岩山地帯に水爆を落としても誰も気付かないんじゃないですか?」 安倍は疑問を口にしてみた。 「沖田さんの話によれば、施設の破壊はどうでも良いから、くれぐれも民家のあるところには落とすなといわれている。だから岩山か砂漠のど真ん中でもいいんだよ」 浅田はなんとなく納得できない。 「それなら何もわざわざロスアラモスくんだりまで行かずにラスベガス近郊でもいいんじゃないか?」 「確かにそうだが、この地図を良く見てみろ、この赤い点はなんだか分かるか?」 「ここが原爆工場ってことか?」 「そうさ、沖田さんの推測ではあるが、俺は絶対ここに正確に落とすつもりだよ」 「さすがは源田大佐殿! そうこなくっちゃ~」 安倍も納得の源田の職人魂に改めて命を預ける決心をした。 

今回使用する水爆はアメリカ大陸に合わせて巨大な威力を発生させるようにバージョンアップさせた。とは言ってもそんなに大したことでもない。従来と同じ構造で、重水リチウムを臨界質量以下の約4㎏のPu239 とサンドイッチ状に重ねて、その周りに爆発速度の速いプラスティック爆薬でくるんだだけである。つまり何%核融合反応を起こせるかの工夫であって、やたら水爆の原料だけを増やしても何の意味も持たないのである。新たに挿入された臨界質量に満たないプルトニウムが爆縮によってどう反応するかはやった事がないので解らないが、失敗してもハワイ沖での規模よりは下回らないであろう。


 日本時間昭和20年2月1日 きりの良い日付で対米水爆投下記念日を飾ろうと、案内役のハリー サカタを乗せた富嶽Ⅱは厚木飛行場をミッドウエー島に向けて出発した。約3,000キロの道のりを2時間半ほどで富嶽Ⅱはミッドウエー基地に到着し、給油を済ませたら更に約4,000キロを往復する旅に出た。高度12,000メートル、モントレー上空からラスベガスにかけて迎撃機を心配したが、レーダーで見ても高度10,000メートル以上上空に上がってくる迎撃機は全くいない。グランドキャニオンから先は案内役のハリーの指示に従ってサンタフェ上空に達した。 「ゲンダサン、ワタシ ロスアラモス シッテイマスヨ ココカラヒダリニマガッテクダサイ」 ハリーの指示に従って岩山と砂漠が広がる上空を進む。雲を心配したが、砂漠の空には雲は全くない。 「ゲンダサン、アノイワヤマノフモトノタテモノ タブンアレガゲンバクケンキュウシセツダトオモイマス」 「ハリーさん、有り難う!後は任せてください」 ハリーが教えた場所からそう遠くない位置から高射砲が撃ちあがってきたが、せいぜい8,000メートル位しか届かないようである。源田は近くに迎撃機がいない事を確認して9,000メートルまで高度を下げて狙いをつけた。そして投下!・・・・

想像していたレベルを遥かに超えた火の玉ときのこ雲が現れた。安倍は活動写真を撮り続けていた。1メガトンに達したかもしれない火の玉の熱を顔に感じた源田はアフターバーナー全開で現場を脱出し、途中ハワイの様子も偵察して無事ミッドウエー基地に着陸した。満タンにした燃料は残り20%になっていた。ミッドウエー基地の隊長は安倍の後輩である。後輩隊長は安倍とその上司の快挙を祝しておもてなしをしてくれると言う。まずは夕日が美しい西の空を見ながらのドラム缶海水風呂に入り、酒もご馳走もないから、軍支給の缶詰とお握りで宴会を開き、幽霊戦闘機がスクランブル体制を敷いている安心・安全な環境の中、ハンモックで一晩休ませてもらったのであった。メガトン級の水爆を落とされたロスアラモス研究所は、地上施設は跡形もなくなり、トンネルの奥の研究施設で働いていた研究者や作業員達は岩山の崩落の為に生き埋めになった。オッペンハイマーとアインシュタイン博士は、たまたまワシントンに出張中であった為に難を逃れ、軍の原爆開発責任者であるグローブス准将は殉職した。 

 総理官邸では、東条はやや疲れた顔をしていた。 「沖田くん、アメリカは何故こんなにも頑なに無条件降伏を拒んでいるのだろうか?」 「日本も一発目の原爆投下では即座に降伏しなかったから、きっと悩んでいる最中なんでしょう。アメリカの大統領が降伏したいと言い出しても、必ず反対する勢力がいて、結局何も決められない状態が続くのだと思います・・・」 「それでは最終兵器の死神の使いでニューヨークとワシントンを吹き飛ばすしかないな・・・」 伊400型潜水艦から発射される水上発射型SLBMは“死神の使い”と命名されたのであった。 「だめですよ! 戦争とは無関係な庶民まで犠牲になってしまいます。そんなことをしたら東条総理は本物の戦争犯罪人として、靖国に行けなくなりますよ」 「あぁ、靖国神社ね! でも今は靖国に眠る英霊は、先の日露戦争から今回の大東亜戦争の前までの英霊だけで、ミッドウエー造反組みの起こした過ち海戦の犠牲者は入ってないからあまり意味がなくなってしまったよ」 「何故入れないのですか?」 「あの海戦は天皇陛下の御裁断を仰がずにやってしまった戦争だから、靖国側も拒否したらしい」 「そうなんですか?お気の毒なことでしたねぇ。でもだからといって、都市に水爆を落とすなんて絶対にだめですからね!」 「だって君は当初アメリカを西部劇の時代に戻すといっとったではないかね?」 「まあー 確かに言いましたけど、それは物の例えですよ。だいいち、アメリカ国民が掘っ立て小屋に住んで、カウボーイが拳銃を撃ちまくるような世界にしてしまって、それでどうやって日本の優秀な自動車や家電製品を買ってもらうのですか?アメリカには再軍備をさせず、航空機の製造も禁止して先端技術はすべて日本からアメリカに伝わっていくようにがんじがらめにするだけで十分です」 「それでもアメリカに造反の動きが出てきたらどうするの?まさかまた軍事力を使って成敗する訳にもいかんだろう」 「アメリカの憲法に戦争の放棄と戦争のための一切の軍備の保有を禁止させる条項をいれて、学校教育は国家より個人の権利が優先するという教えを徹底すれば今後100年200年は大した国にはならないから大丈夫です。それより総理、今後日本とドイツは比肩する国が無いほど強大で富の集中する国家となりますが、その力を世界中の人々が無学と貧困に喘ぐ事のないように、ドイツとしっかり協力しあって実現すると約束して下さいね?」 「勿論分かっているさ、それより早くアメリカを降伏させる手を考えるのが先だろう?」 そこに総理秘書官がメモを片手に入ってきて東条に何やら耳元で囁いている。「沖田君、アメリカから一時停戦をして和解交渉をしたいと言ってきたぞ」 「和解とはふざけてますねぇ。それであちらは誰が交渉を担当するのですか?」 「ドワイトアイゼンなんとかと言う米陸軍中将らしい。君、知ってるかね?」 「アイゼンなんとか・・・? はいはい、知ってますよ、アイゼンハワーでしょう。何代目になるのかは知りませんが、トルーマンの次にアメリカ大統領になる人物です」 「ほー そうなのか! それじゃ顔つなぎにワシが行こうかな?」 「自分が目立ちたいという理由で日本の国家元首がのこのこ陸軍中将の元に行くなんてありえません! 吉田さんに行ってもらって下さい」  「因みに日本の国家元首は畏れ多き天皇陛下だが・・・まぁ、君に言っても始まらんだろう。それにやつは好きではないと言ったろうが・・・」 「そんな可愛そうな事言わないでくださいよ。あの方は東条総理亡き後、艱難辛苦を味わってなんとか戦後の建て直しをしてこられたのですから。でもこれから我が国がアメリカに対してやろうとしているがんじがらめ作戦をやられてしまったのだけど・・・ なら岸さんではどうですか?」 「岸君かぁ、彼なら頭も切れるしワシの友人でもあるからいいじゃろ」

 ホテルマリンブルーホノルル 岸信介とドワイトアイゼンハワーはホテルが用意した会見場で向き合った。 「では始めにアメリカの和解案についてお伺いしましょう」 岸は余裕を見せて相手の出方を見た。 「我が国はこれ以上戦争を長引かせる事は日米両国にとって利益が無いだろうと思料し、現状を維持して戦争を終わりにしたいと考えています。これまでの双方の損害については一切の賠償を求めないという事でいかがでしょう?」 「現状の維持とは具体的にどのような状態を言うのでしょうか?」 「太平洋はハワイ諸島から西は日本が実質的に支配しています。フィリピンを含む東南アジア地域の国々の独立を支援するという日本の御主張にも同意します」 「ハワイ諸島やその他の植民地はそのままですか?」 「ハワイ諸島は昔からアメリカ合衆国の固有の領土ですから、ハワイ諸島から北のアリューシャン列島までのラインから東はアメリカ領です。 それ以外の地域にある我が国の植民地の独立については努力しましょう・・と言うことです」 

「成るほど・・・ アメリカの御主張は承りました・・・がしかしそれでは我が国は到底終戦には応じられないでしょう。アメリカは日米の戦争を太平洋戦争と称しているようですが、我が国は欧米の植民地主義の台頭を危惧して大東亜の主権を取り戻す為の戦いの一部が日米の太平洋に於ける戦いであると認識しています。そして今後二度と共産主義も覇権主義も許さない国際社会を目指そうとしているのです」 「日本の崇高な理念には感服いたします。我が国も微力ながらお手伝いさせて頂ければ幸いに思います」 「そうですか?ご理解い頂けて光栄です。ではアメリカにお手伝い頂きたいのはアメリカという国家がもう二度とアジア太平洋もインド中東地域にも覇権と利権を求めなくなるように国内制度を改正していただきたい」 「国内制度とは何の事でしょうか?」 「合衆国憲法に戦争の放棄と戦争の為の兵器等の保有は一切認めないと明記し、憲法改正の要件は上下両院の三分の二以上の同意を得て、国民投票で過半数の賛同がなければならないと定めて頂ければ、我が国も終戦に合意することに吝かではありません」 「それでは自国の安全保障が瓦解してしまいます。元々アメリカ国民は銃を取って自らを守る事が美徳とされています」 「アイゼンハワー特使殿、いやアイクと呼ばせて貰っても良いですか? アメリカの安全は日本が責任を持って保障します。もう銃を持って敵と戦わなくても良くなるのです。今ここで仮の同意が得られるなら、ハワイ諸島とアリューシャン列島については何も言いませんが、同意がなければハワイは勿論、アメリカ西海岸からロッキー山脈の向こう側までを日本の領土とさせて頂きますぞ!」 岸はここで一気に賭けに出た。 「そんな無茶な!それではまとまる話も纏まらなくなるではありませんか?」 「そこなんですが・・・我が国は貴国に対して従来から一貫して無条件降伏を勧告しているのはご存知の事と思いますが、当方としては特別まとめる話はないのです。あくまで日本が要求した条件を呑むか呑まないかという事です。お分かりですかな?」 「私は和解の話をしにきたのであって、降伏の話は論外です!!」 アイゼンハワーは椅子を蹴って退席しようと立ち上がった。 「いやまだ帰らないで下さい。これから貴国と貴方の運命を決する重要なお話をしましょう。先月貴国のニューメキシコ州の或る施設が破壊された事はご存知ですね? あそこで何を製造されていたかはあえてお聞きしませんが、あの地で起きた核爆発がもしニューヨークやワシントンで起こったらどうなるかとても心配しております。貴方はとても聡明で有能なお方です。そう遠くない内に第34代合衆国大統領になられるかも知れません。そのときが来るまで潜水艦発射型弾道核ミサイルで大統領執務室を蒸発させるような事があってはならないと考えますが、いかがでしょう?」 「私が大統領? しかも第34代とは・・・ トルーマンが33代だから次・・・?」

「そうです。今ワシントンを核ミサイルで吹き飛ばしたら貴方はこの先年金暮らしのただの爺さんになってしまいますよ(笑)。」 トルーマンは太平洋では連戦連敗が続いて次に打つ手も見つからないまま、さらにロスアラモスが核攻撃を受けたショックで急速に信頼を失っていった。岸はアイゼンハワーが大統領職に就くまでは停戦とし、その後にハワイとアリューシャン列島までのラインを認め、憲法の変更と日本のメディア(洗脳用)をアメリカ国内に自由に設立させて活動の自由を保障させる事で合意した。


 岸信介の老獪な交渉のおかげで日米の問題は片付いたので、東条は次に国内の浄化作戦を実行した。まずは国民を欺瞞のウイルスに感染させたコミンテルンの後遺症である。人というのは一度信じてしまうと他人が何と言おうが、その考え方は変らないものである。コミンテルンの教えは大雑把に言うと、共産主義革命を起こして労働者が主役の理想的な国造りに参加せよ!ってところだろう。新たな地域で理想的な社会を目指そう!と言うものもあるが、大概は他国に侵入して乗っ取ろうというシステムになっている。そしてその理想とする社会の頂点に立つものは皇帝として永代まで君臨できる制度であるが、労働者には全員皇帝になれるとは思っていなくても小皇帝位にはなれると勘違いさせている。労働者全員が小皇帝や小々皇帝になれるなら稼ぎ頭の労働者はいなくなる。皇帝はどこの馬の骨でも運が良ければなれるのだから、例えば中国の清の時代の皇帝に憧れて、出自を問われない便利なイデオロギーを編み出したとしか考えられない。早速東条内閣公認で共産主義革命実現党を立ち上げて、全国から党員を募集した。中にはよく分からずにトレンドを追って入党してくるミーハーを防ぐ為に、小論文では面倒くさいので短答式のテストを受けさせて、話にならない者は入党不可とし、成績優秀な者から人口が少なくて困っているロシア連邦共和国の許可の下に、北部森林地帯で新しい仮の国造りを行わせた。日本政府が資金を提供し、旧ソ連の筋金入りの共産主義指導者を講師に招いて理想の革命国家の建設を目指すが、安全保障の面は全て日本政府が面倒を見るので、軍備はおろか拳銃や猟銃の所持も厳罰に処する法律を制定した。結果は何れわかるだろう。どうせ日本政府からの資金提供はそう長くは続かないから・・・。 そのような訳で、日本国内には日本○○党や日本○軍は存在せず、殆んどの革命戦士は仮国家建設の為に海を渡ったのである。次に在日朝鮮人の問題であるが、日本政府が朝鮮を放棄して無理やり独立させたことにより、日本に残った朝鮮人の扱いに苦慮したのである。朝鮮を一方的に独立させた日本としては無下に強制送還させる訳にもいかず、かといって朝鮮国籍のままの朝鮮人を日本の福祉制度に組み入れる事もできない。そんな時に朝鮮国政府から朴正男という高官がやってきた。 「朝鮮半島から日本人も日本企業もいなくなってしまい、朝鮮国の経済が破綻しかかっています。これは全て日本政府のやった不当な差別政策のせいでこうなったのですから補償を要求します」 と独立したらしたで面倒くさい事を要求してきた。 しかし東条は微動だにせず反論する。 「差別政策とは聞き捨てなりませんなぁ。朝鮮国を独立させて国際社会にもそれを認めさせた事のどこが差別政策なのですか?」 「日本の都合で朝鮮半島を併合して帝国臣民となれと言ったかと思えば、都合が悪くなれば朝鮮とは関わらないというのでは、我々朝鮮人は到底納得できません」 「それは大変申し訳なかったと反省しています。しかし過ちを正すに憚ることなかれとも言います。国策で進出していた国営企業や国策企業が朝鮮半島から撤退する事は理にかなった事です。決して差別や嫌がらせではありません」 「過ちをただす事は良い事です。しかし長年続いてきた日本の統治をいきなり解消したらどうなると思いますか? 今我が祖国では発電所が止まり、鉄道も動いていません。さらには国民は食べるものもなく、子供達が餓死しています。これは一体誰のせいですか?」 「公助、共助、自助という言葉がありますが、あなたのお国にはこのような概念がおありですか?石油がなければ自ら輸入したらよろしい。食料が無ければ農業や漁業を促進して生産すれば良いのではありませんか?」 「今の朝鮮国には石油を輸入する為のお金も、農業や産業を育てる技術もありません。何故だか分かりますか?経済も技術も教育も全て日本の統治で賄ってきたからです。それを今更朝鮮とは関わりを持ちたくないというのは無責任過ぎるでしょう?」 「日本が統治してきたこの数十年の間、朝鮮の人々は何をしていたのですか? 朝鮮独立抗日の勢力には、我が国ももはや無視できなくなった結果の放棄だったのですよ。一方で抗日抗争を繰り広げ、一方で統治を終了させた責任を取れでは、国際社会の常識に照らしても理解不能です。それに朝鮮半島の独立が決まった時、独立派の人々が小日本を朝鮮半島から叩き出したとか叫びながら、国をあげてお祝いと馬鹿騒ぎしていたじゃないですか? お金に困っているならお貸ししますが、それなりの担保がなければ貸せません」 「我が国には国土以外担保になるものは国民くらいしかありませんけど、それでよろしいですか?」 「貴国の領土は1ミリたりともいりません。その代わり貴国の国民をなんとかしていただきたい」 「やはり日本の方は相変わらずスケベなんですね? よろしいでしょう。美人ばかりとはいきませんが、多少のブスを混ぜれば1万人位は提供できます。それで幾ら貸してもらえますか?」 「馬鹿な事を言わんで下さい! 逆ですよ、我が国に在留している朝鮮国籍の者をきれいに祖国に連れ帰って下さい。そうすれば○○○○万円お貸ししましょう。年利は1%で・・・」 東条は補償や賠償と言う要求には徹底して拒否をしたのである。インドもインドシナも太平洋の諸国も独立したが、どの国も植民地支配されたことに対する賠償を求めた国は一つも無い。戦争に負けた国が国土を占領されたからと言って賠償を求めるようなものであって、下手をすると第一次大戦の敗戦国のドイツように、負けた上に莫大な賠償を求められかねないのである。植民地支配をされた国は多少は事情が異なるが、大概は宗主国がインフラや発電所やダム等々、被支配地に莫大な投資をしているものである。それらの費用を返せと言われたら藪蛇となるので賠償の話は出さなかったのであろう。大日本帝国も自国の領内とも言える朝鮮半島で破壊活動や虐殺行為など、健全な経営に逆行するような無駄な行為をするはずがない。


 蒋介石が統治する中国では、まるで過去に戻ったような混沌とした様相を呈していた。まるで三国志の時代が来るのではないかと懸念されている。大きな勢力としては、雲南省方面のベトナム派 成都から重慶を中心に勢力をひろげようとする旧毛沢東の残党派 福建省方面の台湾派 そして北京から満州国境までを支配するモンゴル・蒋介石派が縄張り争いを始めたのである。南方からの貿易が大きく経済を押し上げて行くベトナム派と重慶の石油資源に頼る毛の残党派とこれも海洋に面して海上貿易で潤う台湾派に対して、蒋介石・モンゴル同盟派はこれといった財源が無くて中国全体をまとめる力が無くなってきたのである。今では日本とドイツの監視が厳しくて、もうこれらの派閥に武器を与える国はないので大規模な衝突は起きていないが、このままでは本当に三国志の時代が到来することになりそうだ。首相官邸では東条が珍しく、嫌いな吉田外務大臣と相談していた。外交の重要な話で好き嫌いは言ってられないのだろう。 「蒋介石が日本に武器と資金を提供してくれと言ってきたが、吉田君になにか妙案はないかね?」 「武器の供与なんてのは論外ですな。資金についても我が国がこれ以上中国大陸に影響を与えない為にも、特定の勢力に肩入れするのは避けるべきでしょう」 「しかしこのままでは中国国内は弓や槍で争いあう事になるかも知れんぞ」 「ハハ、三国志ですか? まさかこの時代にそんな事にはならんでしょう。東条さんは派閥論という言葉を聞いたことがありますか?」 「人が3人集まれば派閥が出来るという話ですかな?」 「そうです。この世に人がいる限り派閥ができるのは仕方がない事です。要はその派閥をいかに上手に使って国を運営するかが大事なんです」 「ワシでも難しいのに蒋介石では無理だろう。吉田さんが蒋介石の立場だったらどうするね?」 「今の北京政府は周りの誰からも尊敬を集めるような政治を行っているとは言えませんから、まずは全派閥から尊敬されて羨望の眼差しを向けさせるような事をやるでしょうな」 「パリのベルサイユ宮殿で世界最高指導者会議を開催して蒋介石も出席するような感じかな?」 「映像がまだ普及しているとは思えない雲南や四川の人々に伝わるかどうかは疑問ですね。僕なら中国全土から優秀な子供達を集めて小学校から大学まで奨学金を出してやって学ばせますね。肥えた豚より痩せたソクラテスの方が貴い事を学ばせると同時に全国にキャンペーンを広げて、全中国人の識字率を上げて知的レベルのアップを図るのです」 「しかし一口に中国人と入ってもモンゴル系や少数民族など様々な民族が集まった他民族国家に哲学の教えなんて通用するのかい?」 「哲学が無理なら宗教でもいいんじゃないですか? 仏教とイスラム教に老子の儒教・・・ですかね? どのような教えでもそれは必ず哲学に通じています。人々の心から争いの記憶を薄める工夫が大事ですよ」 「それでは時間がかかりすぎるだろう。それに蒋介石がそれをやってくれるかどうかも分からんし・・・」 「ではアメリカのように中国に日本の新聞社をつくって、中国国内の情勢を全国に知らせるようにしましょう。それに日本が中国の警察役となって、紛争を起こした派閥の長を公正な裁判にかけて、判決に従って処罰するのも良いでしょう。この為に我が国はアジアで唯一の軍事力を維持しているのですから」 「儲けている派閥からは多く税金をとるべきだな。それに最低賃金法も必要だし、全ての国民には年金と健康保険をかけさせて中央政府が管理すれば国民は派閥に頼らなくても良くなる。そして良い派閥には中央政府の高官ポストを用意し、悪い派閥にはその理由を新聞に大々的に載せて派閥トップを優秀な指導者に代えれば高官ポストが待っているとかなんとかおだてれば争いごとも起きないし・・・ 吉田君、君が蒋介石を教育してやってくれないか?」 「そうくると思いましたよ。でも成功して日本に戻ってきたときは総理の座を禅譲してくれますか?」 「勿論そのつもりだよ。ワシが禅譲しなくても間違いなく次の内閣総理大臣は君だと言う者もおるのだから安心して行ってきてくれたまえ!」 


 それから暫くの日が過ぎた神楽坂の料亭で、東条は私の送別会を開いてくれた。 「沖田君、本当にご苦労さまでした。おかげでワシの事も日本の事も心配なくなった。ドイツは以前のような荒っぽい真似をしなくなったし、第一、世界中から戦争がなくなった事も全て君のおかげだと感謝していますよ」 「いえいえそんなことはありません。東条総理やその他の皆さんのお力があっての結果です。正直東条総理の実力がここまで凄いとは思っていませんでした」 「未来の知識があったからこその力ですよ。そうでなければアイゼンハワーとの会談も成功していなかっただろうし、ソビエトもまだ悪さをしていたかもしれん。君が世界の平和を実現させたといっても過言ではない」 「私はただのエージェントですから決して表舞台には出てはいけないのです。ですからこれまでの成果は全て東条総理とその部下の皆さんが挙げた成果として歴史に残しておいてください」 「わかっておるよ、君の事は歴史の教科書には載せないから心配いらんよ。・・・で、もう帰ってしまうのかい?」 「はい、もうすぐ死神が迎えに来ます。そして今か今かと天界で待っている東条さんに報告しなければなりません」 「これからワシに会いに行くというのか? 妙な感じだねェ~ ワシはもう死ぬまで君には会えんというのにな」 「その死んだ後の東条さんに会うのだからよぼよぼのジイサンになっていることでしょうね」 「ワシも今連れて行ってくれんかね?」 「だめですよ! 生きた人間は行ってはいけない決まりなんです」 「じゃあ、同じく生きてる君はどうして天界に行けるんだ?」 「それには深い訳があって一言では話せません。この話の続きは天界でお会いしたときに分かります」 そして天界に戻った。TJは公文書館で現役で館長を務めていた。 「やあ、お帰りなさい。大変だったでしょう、本当にご苦労さまでした」 「TJさんこそお元気そうでなによりです。でもちっとも老けていませんね?」 「ハハハ ワシが君に会うのはあれから一年振りくらいだから、そんなに老ける訳はないさ」 「一年振りって事は早死にされたんですか?」 「吉田君に首相の座を譲ってから毎日海で大好きな釣りをして過ごしていたんだが、岩から足を滑らして海に落ちて死んだので~す♪」 「あれ?まあ!? 泳げなかったんですか?」 「陸軍出身だったから金槌だったんだよ」 「それはそれはお気の毒でした。でもなんでそんなに明るいの?」 「天界ってこれ以上年はとらないし、嫌な奴もいなくてまるで天国のような所だからだよ」 これでは下界での報告は必要なさそうだ。次の仕事を探すことにしよう。   ・・・この回おわり。
















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