博多弁の女の子は確かに可愛いが僕にはちょっと難解過ぎる件
「おっとっととっとってっていっとったんになんでとっとってくれんかったとぉ?」
夕暮れに染まる放課後、二人だけの教室にて。
福岡からの転校生、有栖川さんは頬を膨らませて、こう言った。
「……有栖川さん。ごめん、もう一度言って」
「はぁ? じゃけん、おっとっととっとってっていっとったんになんでとっとってくれんかったとってきいとうとって」
有栖川さんは何かの呪文を高速詠唱するかの如く繰り返す。
しかし、東京生まれ東京育ちの僕には何を言っているのか一切分からない。
これが悪性隔離都市と呼ばれている博多の言葉なのか……。
だが、こんな事では有栖川さんに好かれるなんて夢のまた夢だ。
何とかして彼女の話す異世界語を解読しなければ。
――そうだ。彼女の発言を文節で区切ってみよう。
そしたら何か手がかりが掴めるかも。
【おっとっと/とっとってって/いっとったんに/なんで/とっとって/くれんかったとぉ?】
駄目だ。意味が分からない。
おかしいな。国語の偏差値は60近くあるのだけど。
まず最初の『いっとったんに』というのが何か分からない。
なんかうつけ者みたいなニュアンスを含んでいそうだが……。
『とっとってって』も意味不明だ。そういう鳥の名前だろうか?
クソッ、初めて英語に触れた幕末の侍の気持ちが分かって来たぜ。
何か手がかりは無いのか。
――逆に考えるんだ。分からなくてもいいんだと
彼女が何故怒っているのか。こちらからアプローチすればいい。
思い出せ。今日一日、有栖川さんと交わした会話を。
……そういえばさっき有栖川さんに「これ、とっとってくれん?」と言われ、あるものを受け取ったっけ。
そう、それは全国的に有名な森永製菓のお菓子、おっとっと。
あっ、そうか。全て分かったぞ。
有栖川さんは、
【おっとっと(お菓子)を取っておいてといったのに何で取っておいてくれなかったのって言っているのっ///】と言っていたんだ。
……ヤバい。てっきりくれたと思って食べちゃった。早く謝らないと。
そうだ、この東京名物を添えて。
「ごめん。有栖川さん」
「ん? なんね」
「有栖川さんから預かっておいた『おっとっと』だけど、間違えて食べちゃった」
「はぁ!? なんばしよっとねっ」
「本当にごめん。代わりに東京名物のコレを」
「これは。……ってこれは『銘菓ひよ子』やん。これは福岡の名物たいっ」
この後、僕は有栖川さんの百裂肉球を喰らう事になったとさ。
おしまい