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悪夢

変更点として現状いらないと感じた部分の削除を行いました。

誤字脱字の修正を行いました。

またパーティで集まり移動を始める


「そういえば貴方はどうしてこのパーティに入ったのですか」


クイダが苦笑いで聞いてくる。


「入れって言われたので」


それだけだが。いや食い扶持は欲しかったから、俺の意思が全くないといえばそれはまた間違いか。


「なるほど。そうでしたか」


俺の言葉を聞いて苦笑いを続けるクイダ


「私たちは新米のパーティで人手が足りなかったのですよ。そんなところだろうと思いました」


結成してそう日は長くなく人手不足か。なるほど、それにそんな状況でもないと俺みたいなムードブレイカーをパーティに入れないだろう。


「なるほど」


大通りを歩いていると人垣と遭遇した。すごい歓声だ。祭りでもやっているのだろうか。


「英雄様のお帰りみたいですよ。」


違ったらしい。

クイダにそう言われ人垣の隙間からそれを見る。騎士達の凱旋だ。魔王でも討伐してきたのだろうか。そしてその騎士達の中にいる一人の男に目をやる。


「━━━」


一瞬我が目を疑った。


「どうかしましたか?」


怪訝な顔をしたクイダに訊ねられる。


「いえ、何でもないです。」


見間違いかもしれない。だって有り得ないから。いやだからこそ見間違いだろう。


「何処からか突如現れて現在あちこちで活躍中の1団ですね。そういうものって不思議でワクワクしてきます。あの1団は名を竜牙と言うそうですね」


クイダはパーティ名と感想を漏らす。


「そ、そうですね」


そんな返事しか出来なかった。

だってあの1団の中に俺の知ってる人間に似たやつが混じっていたから。




今日も一日狩りをしただけだった。

そのあと一人夜の近場にある広場でベンチに腰掛け涼む

夜の風は程よく冷たくて気持ちいい。

相変わらず道行く人々は俺を変なものを見るような目で見て通り過ぎる。

慣れたものだ。

そんな中一人の女が俺に近付いてきた。暗闇の中目を凝らしてみるとリーナだった。


「な、何してるんですか?」


リーナがおずおずと訊ねてきた。


「何でもいいじゃないですか。そんな事より俺のこと嫌いなんじゃないですか?」


すっかり嫌われていると思っていたが


「そ、そんなことな、ないですよ。嫌いなら今も来てません」


言いながら一人分開けて俺の左隣に座るリーナ。


「どうだか」


「ほ、本当です。その、今日は今までの事、謝ろうと…その」


「私は気にしてませんが、何か、私の気に触れるようなことをした自覚はあるのですか?」


罪悪感を感じるには自分が悪いことをしたという自覚が必要だ。

悪いことを悪い事だと理解して自覚していなければ罪悪感など感じようもないだろう。


「い、意地悪ですね…」


「生憎様で。性格が悪いことしか取り柄がないんですよ。私といると気分が悪いでしょう、早く帰った方がいいですよ。」


俺には皮肉や嫌味を口にする以外の才能がない。それはきっと普通の会話をした経験が圧倒的に少ないということもあるのだろう。


「い、いえ、そんなことないです。それと今まで、避けてたみたいな対応してごめんなさい。」


べつに気にしていないのだが。いつも避けられていたから。


「…気にしてませんよ。」


「そ、それでも。謝っておきたかったんです。そ、その仲間ですから」


その言葉が本音なのかはちらっと見た横顔からは判断出来なかった。


「そりゃ、嬉しいですね」


素直に言葉を返すことにした。

表面上だけでも拒否されていないということは充分に嬉しいことだった。


「…」


「…」


しばしの無言。


「あの、じゃ、それじゃ失礼します。」


そう言ってリーナは立ち去った。

一人残って空を見上げる。


「…これだけは元の世界と変わんねぇな…」


空には宝石のように散りばめられた星たち。

その一つ一つが綺麗でとても価値があるように見えた。

それに比べて星たちから見た俺は微塵も価値がないのだろうな。


「…つぅ…」


昼間に付けられた胸の傷が痛んだ。

体を冷やしすぎる前に戻るか。




今朝はミオンが起こしに来る前に目が覚めた。朝は弱い方なのだがそれでも何とか起きなければならない。


「ナクラ、ここでの生活も慣れた?」


「まぁ、初めよりは」


「なら良かったよ」


微笑むミオン。やはり俺には何でそうやって自分のことのように喜べるのか分からない。

聖人という人種を聞いたことがあるがこういう人間を言うのだろうか。


「ごちそうさま」


出された朝食を片付け立ち上がる。


「どうだった?」


「美味しかったですよ」


「そっか。なら良かったよ。今から何処か行くの?」


立ち上がった俺を見てかそう聞いてきた。


「行きませんよ?一人であちこち歩くにはまだまだ不安がありますし」


近場は覚えたがそれ以外、となると中々難しいものだ。そもそもどこかに行く用事もない。


「分かったよ。今日はギルドにナクラの情報登録でも行こうかなって考えてたの」


「登録?」


何だそれは。初めて聞いた。


「むっふっふー。ナクラ、まだしてないよね?」


むっふっふーと言われても困る。


「そもそも、何ですか?それ」


「あ、ごめんね。狩人とか兵士として働くならそれをギルドに伝えないといけないの」


「へぇ」


そもそも俺はミオン達のパーティに入るという方向で決定なのだろうか。まぁ、する事もやることも無いし何をするべきなのかも分からない。とりあえず少し厄介になる程度は構わないか。抜けるなら何時でも抜けられるだろうし目先のやることは決まったな。


「そういえば、結局ナクラは何処から来たの?」


「…ここじゃないどこか…ですね」


「なにそれ?」


俺も言っていて意味が分からなかった。それに俺自身何と説明すればいいのかがよく分からなかった。


「さて、私もよくは知らないですね」


自分ですら理解していないし知らないものを説明出来るわけがない。


「帰らなくていいの?」


「別に、いいですよ。それに、今更過ぎませんか?」


その質問の答えは決まっていた。それに今更すぎるもっと早めに言うことだろう


「むむ、それを言わないでよ」


ふくれっ面を作るミオン。

何故かそれが非常に癪に障る。


「でもお母さんやお父さん心配してない?」


「さぁ、どうでしょうかね。でも、それを言うなら貴方も、では?」


むしろあいつらは疫病神がいなくなって喜んでいるだろうな。


「私は定期的に帰ってるから大丈夫だよ」


「それはそれは、立派ですね」


少しは皮肉のつもりなのだが気付いていないらしい。


「でしょ。もっと褒めてもいいよ」


「偉いですね。ミオンさんは」





ギルドと呼ばれた建物内に入る。中はそこそこ賑やかだ。入ってすぐのところから中ほどまでは椅子やテーブルが置かれていてその奥が受付、といった配置。

ミオンに連れられ受付まで歩く。


「今日はどういったご要件でしょうか?」


勝手が分からないので全てミオンに任せると予め伝えておいた。


「この隣の人の登録したいんですけど」


「分かりました。お名前を伺っても?」


「名倉 奏司」


手短く答える。


「ナクラ ソウシ様ですね。お待ちを」


そう言って受付の女は奥へと引っ込んでいった。奥は事務所のようなものらしい。


「そういえばナクラのフルネーム初めて聞いた気がする。でもほんと珍しい名前だよね。」


と笑いながら言うミオン。悪意はないのだろうが人によっては勘違いされそうな笑顔だ。


「初めて言った気がしますからね」


「もしかして、ソウシって呼んだ方が良かった?」


「いえ、ナクラで結構です。」


本音だ。別に嘘なんかじゃない。そもそも自分の名前は嫌いだ。それならまだ名倉と呼ばれた方がいい。


「はい。おまたせしました。こちらに必要事項を記入お願いしますね」


女が戻ってきて何かの紙を渡してくる。

長くなりそうなのでテーブルに移動することにした。

空欄を埋めて行く。


「住所…」


「貸して。書いたげる」


紙とペンをミオンに取り上げられた。そう言えば俺は住所がないんだったな。ミオンには助けられてばかりだな。


「ありがとうございます。」


「いいって。いいって。仲間だから」


仲間じゃなかったらどうなのだろう。やはり見捨てるのだろうか。純粋に尋ねてみたかったが無粋か。


「はい。あとは書いてね」


紙を返される。あと埋まっていないのは家族構成とか。書けないな。


「完成ですね。持っていきましょう。」


そういえば元いた場所とは違う言語のはずなのに文字が読めたし書けたな。不都合な訳でも無いしまぁ、いいか。




そういえば俺は剣の知識なんか皆無なのだがそんなのでもよかったのだろうか。聞くのも野暮か。前を歩くミオンを眺めながら歩く。それにしても本当に、何故彼女はこんな俺にここまでしてくれるのだろうか。気味が悪い。無償の善意なんてあるわけがないだろう。


「あ、そうだ。ナクラ」


「どうかしましたか?」


振り向きながら声をかけてくる彼女に俺も言葉を返す。


「どうして隣に立って歩いてくれないの?」


「そちらの方が良いですか?」


誰かの隣に立つのは苦手だ


「あたりまえだよ。一緒に歩いてるんだし」


少し考えたが好意を無下にするわけにもいかないか。隣に立つ。


「ナクラって変わってるよね」


「そうですか?」


俺自身そんなに誰かと比べて変わっていると思ったことはないが。


「もしかして私のこと嫌い?」


「そんな事はありませんよ。」


「…そっか。」


探るように見てからミオンはそう答える。俺の言葉が嘘か本当かを見極めようとしたのだろうが彼女自体は嫌いではない。むしろ好ましく思うくらいだ。時折強い苛立ちを覚えることもあるがそれだけだ。


「そういえば結局ナクラは何処から来たの?何か毎回上手くあしらわれて聞けてない気がするー」


あしらってなどいない。なんと答えるべきかが分かりにくいだけなのだ。クイダはすんなりと理解してくれたが普通は理解できないかもしれないし。


「遠い国…とだけ。そうだ。絵本の中の国、と思ってもらって構いませんよ」


俺からすればここは絵本の中の世界のようなもの。ミオンからすれば俺達の暮らす世界もそんなものだろう。


「そんな世界あるんだね。」


「あるから、今ここにいます。」


そうだ。俺があの世界で生まれていなかったらきっとここにはいなかった気がする。


「何かいいね、そういうの。遠くにいた人と人が何かのきっかけで出会う、みたいな。」


「そうですか?」


何にせよ一つ言えるのは俺と出会ったのは彼女の人生の汚点だ。可哀想に


「そうだよ。」


その時彼女が体をこちらに向け俺の顔を見る。


「━━━全てのことには意味があるの。そう。きっと私とナクラが出会ったことにも何か意味がある。」


「…」


言葉が出なかった。その有無を言わさぬ物言い。頭の中でさえ反論が出来なかった。反論の一つも浮かばなかった。一言も浮かばなかった。いや反論したくなかったのもあると思う。


「なんてね。おばあちゃんの受け売り。それでも私はナクラと出会えた事に大事な意味があると思うよ。」


「…何か意味があるといいですね」


俺はやはり否定出来なかった。これは心の底からの本音だ。





「今日は何か嫌なことでもありましたか?」


いつものように爽やかな笑顔を振りまきながら俺に近くにクイダがやってきた。ミオンはリーナを呼びに行った。


「だとしたら、どうしました。」


「いえ、尋ねてみただけです。今日は一段と不機嫌そうでしたので」


むしろ今この瞬間に関してはいつもより機嫌がいいと思うが。


「いつもこんな感じですよ。」


だがいつもより機嫌が悪そうと思われている手前、逆に機嫌がいいとは答えづらい。予想が外れたと思うかもしれない。


「そうですか?今日は何となく貴方の周りの空気が少し重く感じましたよ。いつもは感じないのですけど」


別段重くしているつもりなどないが


「なら、私の意識していないところでストレスなりなんなり感じたのかもしれませんね。」


「無意識のストレスというやつですね。私もたまに感じますよ。そういうの」


俺から見たこいつはそういったものを抱えるタイプには見えないが。それに無意識のストレスなど感じられるものなのだろうか。


「そうそう。ここ最近、貴方のように違う世界からここへ来た、という人達がいるようですよ。」


「そうなんですか?」


いきなりの話題だがそれが本当だとすれば俺が凱旋で見たあいつは本物かもしれない。


「最近王城ではなにやらそういう研究が盛んと聞きますので、本当だと思いますよ」


やれやれといった様子で首を振るクイダ。別世界の人間をこの世界に呼ぶ研究か。悪趣味なもんだ。


「そりゃ勘弁して欲しいですね」


別に元の世界がよかった訳でも無いが。全く知らない土地で死ぬよりはマシかもしれない。

やがてリーナとミオンがやってくる。

相変わらずリーナは目を合わせようとしない。それでも以前よりましだが。

俺個人としては別に慣れてくれなくてもいいが、いつまでこうでは気まずさもある。やはりパーティメンバー。連携が取れないと困るのではないか。


「さてみんな集まったし今日の狩場に行きましょうか」


ミオンが先導して移動を始める。




今日もいつかの平原にきた。

そしてモンスターを狩って一日も終わる。




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