初めての狩り
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「ナクラ、眠れた?」
目に悪そうなくらい窓から日の光が差し込んでくる。そんななか、彼女、ミオンが声をかけてくる相変わらず笑顔だ。
結局空き部屋も貸してくれるし頭があがらない。
「ん、まぁ。お陰様で」
久しぶりにぐっすりと眠った気がする。
にしてもこれはあれだな。俺は別の世界に来てしまった。そういう解釈でいいのだろうか。というよりそう理解するしかないのだが。じゃないとこの世界で見た摩訶不思議なもの全て説明がつかないし
「あ、そうだ。また街を案内したげるね」
「え、あ、はい」
手短に準備をする彼女に声を返す。結局昨日はあの通路しか見ていない。
「あ、その、」
そんなことよりも気になることがあった。
「どしたの?」
彼女が不思議そうな目で見てくる。
「どうして、こんなに良くしてくれるんですか?」
「困ってる時はお互い様じゃない?」
聖人か何かかこの人は。だが、同時にやはりこの人といると居心地が悪い。何故かは分からない。
「あ、そうだ。ナクラはどうして、あそこに倒れてたの?」
「さぁ、私が知りたいくらいです」
「ふぅん。難しい事もあるもんだね」
深く追求してはこなかった。
「ここがねぇ。」
彼女が楽しそうにどんな店なのかとかどんな場所なのか説明してくれるが全く頭に入ってこない。
「ねぇ、聞いてる?ナクラ?」
「え、はい。聞いてますよ。」
彼女が俺の顔を覗き込んでそう言っていた。
「そういえば、ナクラ仕事とかは大丈夫なの?」
「仕事はしてないですね」
「ふぅん。そっか。じゃ、私たちのパーティに入らない?」
「パーティ?」
パーティといえばゲームやらに出てくるあれのことだろうか。
「うん。パーティ。剣は振れる?」
今まで生きてきて振ったことがあるのはおもちゃの剣くらいだ。
「振れないです」
「じゃ、練習しよっか。」
「え?」
「振れないとパーティに入れてあげませーん」
なんて事を冗談っぽく言われてしまう。
だが、よく考えれば確かに金を稼いでものを食べないといけない。食い扶持は必要だったな。
「お願いします。」
「げほっ…」
「今日はこの辺りにしとく?」
「そ、そうですね」
吐きそうだ。意外と強いぞこの女。あちこち打たれ過ぎて体が痛い。
「…ナクラ、ほんとに初めて剣を持ったの?」
急に真面目な顔を作るミオン
「?はい、初めてですけど、どうかしましたか?」
何かやらかしたのだろうか。
「いや、何でもないよ」
「そうですか」
イマイチ煮え切らないが追求するのも不躾だろう。
「この剣。返しますね」
借りていた剣を突き返す。
「いや、あげるよ。それ。あと、装備も」
「いいんですか?」
「いいよ。いいよ。私使わないし」
にっこり笑ってそう言ってくれる。好意は素直に受けておこう。
「その、ありがとうございます。」
ただこんなもの貰っても仕方ない気がする。
「…何か、気持ち悪いな…」
夜貸してもらった部屋で寝転がり色々と考える
無償の好意。それが気持ち悪くて仕方がない。あの女も気持ち悪い。
「何が困ってる時はお互い様だ」
あんな人種初めて見た。
理解したくない。別に元の世界に帰りたいということでもないがここにもいたくない。
気持ち悪い。
「寝よう」
すぐに俺の意識は闇に消えていった。
次の日いきなり叩き起されたと思ったら、ミオンが実戦だ、何だと喚いて草原に行くことになった。
「遅いなぁ」
呟く彼女。
「何を待っているんですか?」
「パーティメンバーだよ。一人でモンスターは狩れないからね」
俺はえらくファンタジーな世界に来てしまったみたいだ。
「おや、団長、その方は?」
突如声が聞こえた。そちらを見ると如何にもな好青年が立っていた。
「ほら、挨拶」
横のミオンからそう促され、彼に向き直り挨拶する。
「ミオンさんのところでお世話になっている名倉という者です」
青年は人懐こい笑顔を浮かべる。黒髪でショートヘア。優しげな男だ。背中には槍を担いでいる。左腕には楯。
「ありがとうございます。私はクイダ。よろしくナクラ」
そう言って手を差し出してくる。どうしたものかと考えるが結局その手を握ることにした。気持ち悪いな。この感覚。だが慣れないといけないのだろう。これからも俺はこいつらと行動を共にすることもあるだろうから。
「よろしく。クイダ」
次はミオンに向き直る
「…それにしてもいいんですか?こんなパーティに俺なんかがいて」
迷惑なんてかけたくなかった。
それに痛いのは嫌だ。
「いいよ。いいよ」
心のどこで見捨ててくれるのを期待していた。お前はやっぱりいらないと
「…」
でも、抵抗も虚しかった。
その時
「すみません、遅れちゃって…」
更に大人しそうな女が小走りでこちらに近付いてきていた。
「ひっ…」
そして俺を見るなり悲鳴を上げた。
「あ、そのすみません…。」
謝ってきた。忙しいやつだな。なら初めから悲鳴など上げるな。
「名倉、と言います。」
とりあえず俺から自己紹介しておこう。
「わ、私はリーナと言います…。」
消え入りそうな声でそう返ってきた。
「じゃ、みんな揃ったし行きましょうか」
ミオンを先頭に皆で移動を始めた。
「へぇ。では貴方は異世界からきたと?」
クイダは察しがかなり良かった。話すべきか悩んだがべつに構わないだろうと決断を下した。
「えぇ。」
「それは災難でしたね。」
そうは思ってなさそうな顔でそう言われる。実際俺もどうでもよかった。リーナは何をそんなに怯えているのかミオンと共に少し前を二人で歩いている。
「俺、何かしましたかね」
あの態度が気になって聞いてみる。今までも距離を置かれることもあったが怖がられるといった様子になられる事はなかった。
「あの子はいつもあんな感じです。次第に貴方にも慣れますよ」
クイダにそういわれる。あれで普通らしいが真偽は確認できない。
「そうですか。だといいんですが」
それに俺の気にすることでもないか。
「さて、着きましたよ。」
話しているうちに目的地に着いたらしい。草原だ。何処までも緑が続く草原。
「ナクラ。ここで見てるからちょちょいとやってみてー」
ミオンが声をかけてくる。何をやれば良いのだ。と思っていると草陰からスライムのようなブニョブニョとした生き物が出てきた。
「あれを?」
「うん。安心して弱いから」
3人が俺を置いて後退する。一人でやれということだろう。
剣を構える。
こちらの敵意を感じ取ったのかスライムが体当たりしてきた。それを左にステップして受け流す。
よし、いけそうだな。
べちゃっと顔面から地面にダイブしたスライムだがすぐさま俺に向き直り口から何かを吐き出す。
しかしそれは俺に届くことはなかった。
「つ!」
その時視界に異変が生じる。一瞬だけ真昼間なのに、視界が黒に染まる。
「…何だよこれ…」
急におかしくなった視界に驚く。数秒はあっけに取られ動けなかった。
が、数秒でいつも通りの視界が戻ってくる。頭上からは燦燦と照りつける陽の光。
「疲れてんのかな…」
さっきのスライムを眼中に収めながら呟く。早く倒してしまおう。長引かせてもどうせ俺の体力が先に底をつくだろうから。
「はぁ、はぁ、」
結局何十回も剣を振りやっと倒せた。どこが弱いのだ、めちゃめちゃ強いじゃないか。
「やるじゃない。ナクラ!」
だがミオンが我が事のように喜んでくれる。
「おめでとうございます。ナクラ」
クイダもそれに続いた。ただ、リーナだけは遠くから俺を見ているだけ。
「あ、ありがとうございます」
二人にそう返す。褒められたのなら例を言わねばならない。
「ねぇ、ナクラ、貴方本当に剣は振ってなかったの?」
不思議そうな顔をしてそのもう一度の質問。意図がわからなかった。前も答えたはずだが。
「?振ってませんよ」
振っていたのはおもちゃだけだ。
「その割にはピンチの時にも落ち着いてたね。」
「そうですか?」
自覚はないが、彼女にはそう見えたのか。
「えぇ。私にもそう見えましたよ。ナクラ。胸を張っていいと思いますよ。初めての実戦であそこまで平常心を保てるのなら」
クイダも褒めてくれる。やはり、気持ち悪さは拭えない。
「あ、ありがとうございます」
そう返すのが精一杯だった。