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被召喚

異世界転移ものです。



━━━━俺は君のためなら何度だって死ねる。死んでみせる。こんな命くれてやるよ…それで君が俺を忘れずにいてくれるなら…。

止まっていた心臓がまた動き始める。俺は…立ち上がり続ける。挑み続けなければならない。

何度だって…救い続けてやる。世界を…何もかもを。それを君たちが望んだんなら…


「守りたい奴らがいるんだ…それを否定させなんてしない。いい歳して世界征服だの世界破壊だの…いつまでもボケたこと抜かしてんじゃねぇぞクソジジイ…いい加減引退しやがれ…迷惑なんだよ」


額からは血が垂れ流れそれが視界を朱く染める。折れた刀を支えに何とか立ち上がる。決めただろ…何度だって立ち上がるって…


「ナクラ…もうやめて…立ち上がらないで…お願い…もう、死なないで…」


俺が倒れて立ち上がろうとしていた時…後ろにいた一緒にいたいと思った女の子が声をかけてくれる。

本当は生き返れるって分かってても死ぬなんて嫌に決まってる、でも俺は…君のためなら何度だって死ねる。


何度だって…勝つまで死んでみせる…。10回戦って勝てないなら100回100回戦って勝てないなら1000回…俺は勝つためなら無限回死んでやる…それで人間じゃなくなったとしても…お前達が幸せになるならそれでいい。元々これはこいつと俺の…殺し合いだ。


「クソジジイか…確かに事実かもしれんが俺は精神年齢…肉体年齢共にお前と変わらんはずだがな。それにしても愛する女の悲鳴。それもまた絶望だ」


目の前の無傷の男は神が持つような翼をバサっと広げる。

何度も殺した。だが…こいつもその度に立ち上がる。何処をどう見ても俺とこいつは確かに似ていた。顔も態度も戦い方も何もかもが…でも唯一似ていないところがある。


「最強の俺は…最強のお前を倒す」


その内なる心が違った。こいつは全てを恨み…俺は全てを守りたいと願った。


「俺を超えるつもりでいるのか?ここまで育ててやった甲斐があったな。それでこそ神話の再現が出来るというもの。そうだ。俺を倒してみろ、そのくらいの気概がなくては、世界を救う英雄にはなれんぞ?」


尤も…そう口を開いた目の前の敵。


「出来るならな。それより俺の方もそろそろ時間でな…いい加減、無駄に足掻くのをやめて貰えると助かる」


ニヤッと歪む口元。

奴の背後に現れ始めた黒の円。それから出てくるのは無数の槍。

それを見て…思い出した。その絶望を。耐えられぬ絶望を。

何度目だ…こうして俺がこいつに敗れるのは…。

俺は…こいつには勝てないのか?この世界の神には…。




「はっ…」


夢から目覚めた。

最近変な夢を見る。

妙に汗ばんだシャツを肌から引き剥がすように持ち上げて立ち上がる。


あの男はナクラ、とそう呼ばれていた。俺の名前と同じ読みではあるが俺はあそこまで血の通った人間じゃない。人違いだしあんな化け物を相手にするような人間でもない。何より俺に守りたい物なんてない。


「…」


昨夜はあまり眠れなかった。寝るとこんな電波のような夢を見るかもしれないと考えれば熟睡ができなかった。その結果睡眠不足で屋上で寝るとなると意味の無い話だが。

校舎の屋上、吹き抜ける風は心地よくもあったが、濡れた体には少し寒くもあった。


「…」


自分の顔が嫌いだ。

だからそれを隠すように伸ばした髪の毛。

今はそれが顔に張り付いて鬱陶しい。


「…」


ふと隣に何かあるような気がしてそちらを向いた。

ネズミの死体が転がっていた。


「…またか…」


珍しいことではない。俺の周りにいる動物は死んでいく。

毎日シャワーは浴びるし体は洗っている。不潔ということもないだろうが…何故か死んでいるのだ。


人間が死んだところはそう見た事がないけど…こういう小動物はよく死んでいる。気のせいか、とも思ったこともあるけど、多分そうじゃない。俺は「死」に愛されているのかもしれない。今はそう思っている。


「…」


その死体を手に取って屋上にある庭園に埋める。


「はぁ」


夕暮れに染まる学校の屋上でため息を一つ。何が変わる訳でも無い。きっと俺はこうして死んでいくのだろう。自分のことなのに他人事のよう。まるでくだらない映画を見ているような気分だ。仮に映画だとすればきっと客は俺だけで、一銭にもならない駄作だが。


校庭を見ると部活動に励む生徒たち。彼らを見ていると本当に俺と同じ世界に生きる人間なのかという疑問がわいてくる。それだけ俺は無機質で退廃的な生き物だ。何かに熱中することもなければ、当然情熱を持っているわけでもなかった。


「…帰りたくないな」


でも帰らないわけにもいかないだろう。鬱陶しく思いながらもカバンを持ち上げ、背中に背負う。

適当なコンビニで立ち読みして時間を潰してから帰ることにする。

毎日毎日、してきたことだった。気が遠くなるほど繰り返したことだった。


別に心が惹かれるような漫画がある訳では無い。ただ眺めているだけ。内容も当然入ってこない。そういう意味では毎日同じ雑誌を読んでいるにも関わらず全く違う雑誌を読んでいる気分になれた。


「あれ、名倉じゃないか。」


そうやって立ち読みしていた時、声が聞こえた。隣からだ。そちらをちらっと見ると見覚えのある人間。たまにいるのだ。

辞めておけばいいのに…。それを分からずにこうして俺に話しかけてしまうもの好きのバカがいる。


「感心しないな。私服ならまだしも制服でこんなところに屯しているとは」


別にお前の感想を気にして生きているわけではない。

内心そんなことを思う。でも口には当然出さない。


「…別に、屯してる訳じゃないですよ。それじゃ、」


本を閉じ半ば投げるように返しコンビニをあとにする。


「お、おい待てよ。名倉。」


そんな俺を何が楽しいのか知らないが呼び止める男。無視したかったが無視すると後で何を言われるか分からない。


「何ですか?」


「困っているなら力になるぞ。」


その言葉を聞いて思わず笑いそうになったが何とか堪える。

本気で言っているのならあきれるな。


「…そりゃ、どうも。ですがお言葉ですが先生も俺みたいな奴に構ってないで『可愛い教え子』にものの一つでも教えた方が徳を積めますよ。」


お前らが俺の力になったことなんて一度もないだろう。

時間の無駄だ。嫌なところで嫌な奴に会うものだ。なにか聞こえた気がしたが聞こえないふりをして外に出る。


「寒っ…」


外に出ると冷気が俺の体をいたぶる。一瞬店内に戻ろうかと思ったがあの教師がいることを思い出した。


「…帰るか」


気が進まないが仕方ない。もう十分に時間は潰した。




別のコンビニで適当な夕食を買ってから帰宅するとそのまま自室に籠る。俺の部屋は二階にある。今日は偶然アクシデントが起きたがいつも繰り返してきたことだ。


「冷た…温めてもらえば良かったな…ったく何を考えてたんだ俺は…」


イライラしていたのか、いつもの俺ならしないミスをしていた。

レンジは下にあるのだが…一階には行きたくないな。

仕方ない。

冷たいそれを無理やり胃袋に流し込む。


今日も散々な1日だった。寝よう。布団なんてない。硬い床に直接寝ころび何年も洗ってない毛布にくるまる。どうせ見たいテレビもないし起きていてもいいことなんてないんだし。

それなら寝た方がいい。





朝、いや、早朝だ。時刻は四時になるかならないかくらい。深夜の延長のような時間に起きると一階に降りて適当にシャワーを浴びる。

適当に体を拭き制服に着替えると誰かが起きる前に家を出る。

誰とも顔を合わせたくなかった。


何周目になるかわからない雑誌をまた立ち読みして時間を潰す。



登校時間になったので本を戻し学校へ向かう。


「おはよー」


「おはよー。いい朝だね」


なんて声が聞こえて来る。勿論俺に向られたものではない。いい朝か、こっちは最悪な朝だな。



特に何もなくまた一日が終わる。

これもまたいつものことだった。

しかし今日は違うこともあった。


「…今日はあっちの方へ行ってみるか」


気が向いた。学校から出て満員の電車に乗り込み隣町を目指す。さっきから妙に気分が悪いが、無理して進む。昨日の冷めた弁当で体調でも崩したかな。仮にそうだったとしてもそれだけで戻る気にはなれなかった。

人でごった返す道。


横断歩道を渡る。

丁度向こうから渡ってきた奴らとすれ違うくらい半ばまで進んだその時、


「つぅ…」


ダルさを感じる。例えるならもう、歩けないんじゃないかというレベルのそれ。

激しく全身が倦怠感を訴えてくる。


「…っ」


駄目だ。気付いた瞬間、思わず立っていられずに路上に倒れ込む俺の体。


助けを呼びたいのに上手く呂律が回らない。

なんとなく死ぬんじゃないかとか思う。

まさか死ぬ時もここまでロクな死に方をしないとは思わなかった。


「…下ら…ね」


今までの人生を思い返していた。何もいいことがなかったな。

周りからはそんな俺を見てか叫び声と悲鳴が聞こえる。

でも、やっと死ねるのか。

そんなことを考えながら俺は瞼を閉じた。


やっと…


最後までお読みいただきありがとうございます。


一話です。定期更新を目指しますが、場合によっては更新まで時間がかかるかもしれませんが、宜しくお願い致します。


変更点

誤字の修正です。

冒頭部に夢の追加を行いました。

大筋に変更はありません。

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