とある少女の話
彼は一人公園のベンチで缶コーヒーを飲んでいました。ひどく寂しそうで、ひどく怯えていました。
私にはわかったのです。彼が何かにひどく怯えていることがわかったのです。
私も怯えて生きてきたから、わかったのです。
私なら、彼のことをわかってあげられる。そう思って、近づきました。彼に近づいたのです。
彼を助けるためだと大義名分を自分の心の中に掲げていました。
しかし、実際のところは、自分よりも「かわいそうな」人を見て、自分は「かわいそうな」人間ではないのだと思いたかったのかもしれません。彼を助けることで、私は怯える必要のない勇敢な人間になれた気になりたかったのかもしれません。幸せな人間だと思いたかったのかもしれません。
私は彼の悩みを聞きました。
もちろん、いきなり聞いたわけではありません。少しずつ、少しずつ彼の懐に入り込んでいった末のことです。
彼は私をすっかり信用していました。年の離れた友人だと思ってくれていたのでしょうか。
私は、彼に必要とされることによろこびを感じました。とても嬉しかったんです。
しばらくして、彼は少しずつ私の助けを必要としなくなっていきました。
私が感じたのは「寂しさ」だったのでしょうか。わかりません。
彼の前で、私にとっての「理想の母親」を演じ始めたのは彼が深夜バイトを始めて間もないころでした。
「一般的な母親」というものはよくわからなかったのです。だから、私にとっての「理想の母親」を演じたのです。ただ、私はこうすれば彼がもっと私を頼ってくれると考えていたのです。
そういえば、私が自分の家に帰らなくなったのもこの頃でした。
あの家には私を必要とする人はいません。だから、帰らなくても良いのです。
いいえ、違います。私はただあの家に帰りたくなかったのです。
目論見どおり、彼は再び私を必要としてくれるようになりました。
私は自分が演じた「理想の母親」は正しかったのだと思いました。深い満足感とよろこびを得ることができたのです。
血走った「我が子」の目を見て、気づいてしまいました。
私は「理想の母親」になることができなかったと気づいてしまいました。
沈みゆく意識の中、ひどく怯えた「我が子」の姿が見えました。
三話目で一旦の完結とさせていただきます。
詳細については活動報告の方を一読していただけると嬉しいです。




