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Aの話

「うん。そうなの。」

 女は洗い物をしながら、ソファに座っている男にそう答えた。

「だから、ごめんね? ちょっとうるさくなるかもしれない……」

 苦笑を浮かべて振り返った彼女に男は少し笑ってみせる。

「いや、大丈夫だよ。どうせ、薬を飲むんだ。それに今夜は耳栓も使うつもりだし、気にはならないと思う。」

 彼が「薬」と口にした瞬間、少し悲しそうな顔をしたのを女は見逃さなかった。

 男は睡眠薬を飲んでいた。不眠症なのだ。医者によればストレスだそうだが、自分が幸せで友人にも仕事にも両親にも、そして恋人にも恵まれていると思っている男はどうしてもそうだとは思えなかった。しかし、うまく眠れないのも事実だった。

「劇場でイベントだなんてねぇ。何かそこそこ有名な人……えーと、誰だっけ?」

「政治家の……あー、ごめん。忘れた。とにかく、どうせうるさくなるんだろ? 活動家やらのおかげ様で。」

 男は腕時計を眺めてから、立ち上がる。

「とにかく、誕生日祝えなくて本当にごめん。」

 今日は女の誕生日なのだが、男は仕事があった。

「昨日、『おめでとう』って祝ってくれたじゃない。ほら、ネックレス着けたのよ? 似合ってる?」

 女は男に近寄って満面の笑みを見せた。胸元にはピンクの石が光っていた。

「ああ。似合ってる。」

 男は目を細めて笑った。

「だから、あまり気にしないでね。」

「そうだな。ああ、うん。友達と楽しんで。」

 女は頷く。

「そういえば、その二人には挨拶した方が良いよな。なんて挨拶すべきか……」

 男はソファに置いていたカバンを取り、言う。

「うーん。適当で良いんじゃないかなぁ。仲は良かったのは本当なのだけど……正直、なんで二人が今日を祝ってくれるのかよく分からないの。今はそんなに会ってないのに……嬉しいんだけどね。」


 玄関に向かいながら、二人は話し続ける。

「じゃあ、頑張って。いってらっしゃい。」

「できるだけ早くに帰るから。いってくる。」

 女は階段を下りていく男の後をしばらくぼうっと眺めていた。

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