あなたと出会う五分前
ぼくは高校からの帰り道、トラックに轢かれて死んだ。
死んだはずだった。
横断歩道を歩いていたらいきなりトラックが突っ込んできて、強烈な痛みを一瞬感じてから視界が真っ暗になった事を覚えているのに、何故か目を開けたら上から下まで全部真っ白な世界に無傷で立っていたのだ。
自分の体を見る。服もちゃんと来ているし、透けている訳でもない。
手や足も何らかの異常がある訳でもない。
ならあの記憶は何なのだろうか。やはり夢だったのか?そして今もリアルな夢を見続けているとか?
「はいはーい!その疑問にはこの私、女神ユインフェルグがお答えしちゃうでござるよ〜!!」
「だが断る。」
「なぜでござるか!?」
目の前にいきなり黒髪ロングで平凡顔の女が現れ、何故かござる口調で意味不明なことをのたまった。ので、脊髄反射で断った。後悔はしていない。きりっ。
「なんでキメ顔してるの!?...あっれぇ?予定だとこんな娘じゃなかったんだけど?トラックに轢かれて頭がイッちゃったのかな...?」
不思議そうに顎に手を当て、人の頭をこんこん叩く自称女神。
「自称女神、なんか色々聞きたいことはあるけどひとつ聞かせて。なんでござる口調?」
自称女神の手を叩き落としつつ一番気になったことを聞いてみる。
「ニホンジンはござる口調に親近感を持つと聞いたからでござる!!」
「そんな訳あるかい。」
自信満々に言い切った自称女神の頭をはたく。誰だ、そのアホな嘘情報を教えたやつは。まぁ、これで一番の疑問は消えたので大人しくこれが夢かどうかの答えを聞くとしよう。
「で、最初の疑問に答えてくれる?どうせ心の声とか丸聞こえなんでしょ?手早くお願い。」
「成ちゃんが脱線させたのに!?」
ブーブーいう自称女神。だが無視する。こっちだって混乱しているのを何とかやりくりしとるんじゃ。ほら見ろ、口調にでてきたよ混乱が。
「とか言いつつ見た目は冷静だよね成ちゃん...。まあいいや、最初の疑問に答えるね〜!!」
ぼそっとツッコミを入れつつ無理やりテンションを元に戻す自称女神。
「これは夢でも幻覚でもありません!成ちゃんは実際にトラックに轢かれて死にました、今は魂だけの状態で生と死の狭間にいる感じです!!」
「なんとなくそんな気がしてた。」
きっと続きはあれだ。転生して勇者になってハーレム作って魔王を倒すやつだ。
「違うよ。」
自称女神に真顔で否定された。ちょっと期待していただけなんだからね!そんな心境の僕を無視して続ける自称女神。
「私は剣と魔法の世界【ガルシア】の女神なんだ〜。ちょっと色々はしょるけど、取り敢えず成ちゃんの魂は本当は私の世界に居るはずだったんだよね〜。でも神界戦争とかあってこっちの世界に成ちゃんの魂が間違って飛んで行っちゃったんだよねえ〜。で、成ちゃんの魂を探すのに時間がかかって遅れちゃったんだけど、やっと見つけたのが昨日でね 。元の世界に戻すためいったん死んでもらったんだけど、私達の不手際で成ちゃんはこっちに来ちゃったでしょ?だから記憶は消さないし、チートもつけて世界に戻すことになりました〜!!ぱぱーん!」
何処かから紙吹雪が出てきて自称女神とぼくの頭に降り積もる。何がぱぱーんだ。そんな軽いノリでぼくは殺されたのか、取り敢えず一発殴らせろ。
「のんのん!!殴らないで成ちゃん!!チートいっぱいあげるから!!」
そう言って腕をぶんぶん振りゲームなんかでよくあるメニューウィンドウ的なやつを出す。ここに来て初めて女神らしいとこ見たわ。もう殴る通り越して呆れしかないよ。ぼくは。
「えーっと...まず吸血鬼としての永久的な寿命と、言語理解は当たり前でしょ〜、魔法も本当は種族的に使えないんだけど使えるようにしちゃう!それで〜ステータスも可視化出来るようにして〜、鑑定能力もつけてっと、魔力と生命力はもちろんオート回復にして〜、ついでにラックも...本当は弄っちゃいけないけど...上乗せしちゃう!もー出血大サービスだよ!?だから殴らないで〜!」
そう言って土下座しつつこっちをチラチラ見てくる女神。こっちを見るな。魔法があることにももう驚かないぞ。異世界といえばそんなもんだ。
本当は死んだことに対しては生き返れる?から、あんまり気にしていないのだが貰えるものは貰っておこう。これが強くてニューゲームというやつだね。ふはははは。
「もう成ちゃん喋ることを止めたね...。そして考えることを放棄したね...。ごめんね...っ。お母さんが無能なせいで成ちゃんを...ううっ...。」
「君はお母さんじゃないけど、無能ってとこには同意するよ。」
「手厳しいっ!」
もうぼくはなにもしゃべらない。
ぼくが口と心を噤んでいると女神が土下座しつつもう1度腕を振った。その途端、白かった世界に風景が映し出された。
青く晴れ渡る広い空。
遠くに堂々と連なる山々。
陽を反射して輝く海や湖。
ぼく(と足元で土下座してるやつも)は空に立っていた。
白い鳥の群れが顔の前を通っていく。
遠くにはドラゴンらしき姿も見える。
瞬きもせずに広がる世界を、輝いている世界を見つめる。
不思議と落ちるとは思わなかった。
ただただ美しい世界に見とれる。死ぬ前にも景色にこんなにも感動したことは無い。やっぱり魂の故郷だし感じるものもあるのだろうか。
「気に入ってくれた〜?私の世界。」
いつの間にか立っていた女神が穏やかに聞いてくる。
「うん。とても気に入ったよ。」
気が付けば本音が口から出ていた。
女神がニッコリと微笑む。
「それは良かったよ〜。私の自慢の世界だからね〜。」
そして世界がまた元の真っ白に戻る。さっきのは映画みたいなものの様だ。という事は本物を見る時、どれほどの感動があるか計り知れないな。
「じゃあ成ちゃんに感動してもらうためにも、そろそろ送り出さなきゃ行けないね〜!寂しいよ〜成ちゃん!成ちゃんもそうだと思うけど、大丈夫!私は空から、大地から、海から成ちゃんを見守ってるよ!」
心を読んだ女神がストーカー紛いの発言をした後、手で魔法陣を作ると、僕の足元にも同じものが現れ光り始める。どうでもいいが一瞬で飛べる式じゃないらしい、ずるずる引きずり込まれていく。
「原始の世界の祖神ユインフェルグが約束します。貴女が私の世界で幸せになれることを。」
微笑みながら喋る女神が不思議な存在感を放つ。ちょっとだけ信頼してやってもいいかも知れないと思った。だがやはり自称女神。
「やっぱり最初は慣れないと思うから〜、成ちゃんが不安にならないように将来のお婿さん候補とすぐ会えるようにしておくね〜!大丈夫!!選別はしっかりしておいたからね!!安心して異世界ライフをスタートできるよ!」
とのたまったのだ。さっきまでの神々しい何やらに少しだけ感動する気持ちも全部吹っ飛び、ただ唖然とする。が、もう頭しか残ってない為抵抗も無駄だろう。ぼくはがっくりと項垂れた。
そして頭も飲み込まれ。視界は青一色に染まった。
なんだか優しい声が聞こえたような、聞こえてないような。
なんで魂1つ放っておかないのかと言いますと、一応ユインフェルグの世界は一番初めに出来た世界なので魂一つと言えど存在が大きすぎて異世界が耐えられないっていう裏設定があったりするからです。
次回予告?:「成、お婿さんを襲う!?の巻」
ゲストからひとこと:女神「作者の語彙力の問題で私の世界の描写がちょっと薄いけど、読者様の想像力で補ってね〜!読者様方ひとりひとりの一番綺麗だと思う世界が【ガルシア】だから〜!!」