遭難者と冒険者
魔獣の森に行くべく町を出る門をくぐると、尊が入った時とは別の門番がいた。冒険者プレートを見せるとすんなり外に出られた。それから全力で森を目指す。
「さ~て、強いモンスター、もしくは美味いモンスター出てこい!」
尊にとってモンスターなど飯でしかなかったのだが、どうやら冒険者の中には飯に負ける奴がいるらしい、と考える尊だった。そんなに弱い迷子の冒険者なのだから少し会ってみたい気もしていた。
ついでに遭難した冒険者を探そうと決める尊だった。魔獣の森に入ると、尊が通ってきた道の他に、人が通った痕跡が僅かに残っていた。
「走り抜けちゃったから気づかなかったけど、草が踏み倒されてるな」
おそらく冒険者が入った後なのだろう。いくつか人が立ち入った痕跡がある。その中でもより奥へと進んで行く物があった。おそらく遭難した人なのだろう。という事はこの跡を辿れば強いモンスターと遭難した奴がいるのか。と実に躊躇いなく危険地帯へと踏み込んでいった。
しばらく進むとオークに出くわした。オークの方も尊に気づき、威嚇しようと息を吸い込むが、その時には首を手刀で刎ねられていた。これぞ瞬殺である。もはやオークが可哀想なほどの。無論、食料としか思ってない尊がそんな事を考える事はない。
オークの肉は焼かないと食えないのだが、雨で火が起こせないので生で食べる事にした。オークをバラしながら魔石を見つけきちんと拾っておいた。
「うえぇ、不味い。ダメだなこりゃ」
そう言って肉片を投げ捨て、再び歩き出す。すると少し先に洞窟が見えた。尊が追って来た跡も、洞窟の先には続いていなかった。恐らく遭難者は洞窟の中に入ったのだろう。そう考え尊も洞窟の中へと入る。
洞窟の中は暗く、よく前が見えない。頭や体を壁にぶつけながらしばらく進むと、明かるく、少し開けたとこに出た。天井で何かの鉱石が発光していた。これは助かると思い一歩踏み出すと何かを踏んでしまった。
見れば短剣だった。遭難者はここで武器を落としたらしい。きっとこの洞窟にもモンスターがいるのだろうと意識を集中する。尊はこうして敵の気配を感じることができる。本人は気づいていないが結構凄い能力だ。
「妙だな、一か所にモンスターが集まってるな。」
そんな奇妙な場所へ何の躊躇も無く向かう尊、向かった先にはやはりモンスターがいた。尊は見た事の無いモンスターだった。固そうな表皮を持つ蜥蜴のような生き物が群れていた。不思議な事に全ての蜥蜴が壁の高いところめがけて威嚇している。
蜥蜴の視線の先には、人一人が入れるくらいの穴があった。壁を登れない蜥蜴が、早く落ちろとプレッシャーをかけているようだった。
すると尊に気づき、一斉に襲って来た。先頭の蜥蜴の尻尾が伸び、鞭のようにしなりながら尊へと向かう。
「何だコイツら、面白いな」
と、全く危機を感じていない。かなりの速度だったのだが、あっさり掴むと、両手で引きちぎってしまった。ソレを見て、群れの動きが止まる。千切った先を捨て、尻尾を手繰り寄せ、最初の1匹の顔を拳で潰し、仕留める。
「結構固いな~」
などと相変わらず呑気な声を出し、顔がペシャンコになり、首から上が無い蜥蜴をみると、胴に近い首の位置に魔石を見つけた。笑顔でソレを拾いながら、生きたまま魔石を取り出すとどうなるのだろうと考える尊。
蜥蜴の群れは尊を睨んだまま動かない、すると尊は一瞬で間合いを詰め、二匹同時に、魔石があるであろう位置に、手を差し込んだ。固いはずの蜥蜴の表皮なのだが、あっさりと貫通する。貫通した手には肉片が握られていた。
すると、どちらにしろ蜥蜴は即死だったのだが尊の感想は違った。
「なるほど、体内から出た瞬間に死ぬのか。」
するとまだたくさんいた蜥蜴の群れが同時に尊に襲い掛かってきた。しかし、その全ての魔石とその周辺の肉と一緒に引きずりだしていく。
傍から見ればさぞかし怖い映像だろう。手を引き抜くと噴水のように血を噴出し、絶命していく蜥蜴。両手の肘から先を血で染め、笑顔の尊。どっちがモンスターか分からない。
「生きたまま魔石を砕くとどうなるのかな?」
その言葉通り、最後の一匹を他と同じく手を首に刺す。鋭利な爪でも生えているのかと錯覚するほど抵抗なく蜥蜴の体内に侵入する、この時点で蜥蜴は血を吐き悶え苦しんでいた。とりあえず生きている。尊の手の中には魔石がある。それを握りつぶすと、やはり即死だった。
「砕いても死ぬのか。どういう仕組みなんだ?」
モンスターや魔獣と呼ばれる生き物は、魔王と呼ばれる奴が人間を殺すために作った生き物らしい。それを思い出した尊は
「魔王に会ったら聞いてみるか」
と、人生のほとんどを元魔王と過ごしてきたとは知らず、間の抜けた事を言いだしていた。といっても師匠である元魔王にそれを聞いたところで、大昔からいる魔獣の詳しい生態についての答えは聞けないだろうが。
すると、ふと蜥蜴がしきりに見ていた壁の少し高い所に空いた穴の事を思い出した。改めて穴の近くの壁を見ると、少しも出っ張りがなく、まるで、穴へ登れないよう平らに舗装してあるようだった。明らかに人為的で、違和感が半端ではない。
穴の高さは3mくらいだった。尊は軽くジャンプしたように見えたが、簡単に穴に手をかけ、懸垂するように穴の中を覗く。
・・・・・・遭難者発見。中で寝ていた。穴の入り口は狭いが、奥は広く、部屋のようになっていた。どうやって作ったのか気になった尊は、穴の中の人物を揺すり、起こした。
「おい、おきろ~」
「ん、ん?・・・うわぁぁぁ!!来るなぁぁ!!!」
慌てて腰に手をまわし、剣を抜くような構えをしたが、ソコにあるのは鞘だけだぞと、可哀想な物を見る目で遭難者に目を向ける。
「しまった!剣が無い!」
「ほら、落ちてたぞ」
そう言って親切に剣を投げて渡す尊、慌ててそれを受け止める遭難者
「あ、ありがとう。」
「気にするな」
「味方か?」
「んー・・・そうだな、俺も冒険者だ。冒険者の、月夜 尊だ。」
こんな弱そうな味方は嫌だなと思いながらも返事をする尊。
「僕は、ロイ・ティオーネだ。ロイでいい。・・・・・・それにしても君はどうやってここに来た?見ない顔だが腕の立つ冒険者なのか?」
「今日から冒険者になった。腕が立つかは知らないけど、ロイよりは強いかもな。」
「はぁ~、新米冒険者にまで馬鹿にされた」
かなりがっくりと肩を落とすロイ。その顔はどこか諦めたような顔だった。
「それにしても、こんな危険なところでよく無事だったね・・・えっと、ミコト、でいいかな?」
「うん、それでいいよ。それにしても、何でこんなところで寝てたの?」
尊の質問にまた暗い顔をし、口を開いた。
「実は僕、家出して冒険者学校に入学したんだ・・・・・・でもね、戦いの才能が無くて成績が悪かったんだ。なんとか卒業したけれど、戦えない落ちこぼれのレッテルを貼られた僕が入れるパーティーは無かったよ。挙句の果てに落ちこぼれのロイなんて馬鹿にされる始末さ。」
「それで皆を見返したかったんだな?だったら強いモンスター倒さなきゃだめじゃない?」
「君ね~・・・・・・この洞窟はメタルリザードの巣窟だよ!」
「あの蜥蜴は弱かったけど」
「いやいや、一応危険度Bランクなんだけど。」
「へぇー」
尊が感心したような声をあげると気を良くしたのか、得意げな顔をしながらメタルリザードの説明を始めた。それはもう研究者かというレベルの知識を披露していた。普通ならうんざりするような状況だが、それを聞いた尊は凄く面白い玩具を見つけた子供のような顔をしていた。