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鬼神の子で魔王の弟子の旅物語  作者: よしくん
2/7

人魚との出会い。



 師匠が何か言いかけていたが、今更戻るのも面倒だ。などと考え、シラジオン大陸目がけて絶賛跳躍中の尊。眼下に広がる海の広さに心を躍らせながら凄まじい速度で進んでいる。しかし、超人的な身体能力を持つ尊にも重力は働く。無論彼は重力なんていう力は知らないので、ジャンプしたら落ちるのが当然くらいにしか考えていないが。

 「あ~あ、魔法が使えたらな~」

 徐々に推進力を失い、海へと吸い寄せられ始め、思わずボヤいてしまう。尊には魔法の才能が無かった。人間、無い物と分かってしまうと無性にそれが欲しくなる。尊も無い物ねだりをするのも仕方ない。その身体能力を考えれば、高望みしすぎなのだが。

 「ん~、折角だからもう少し空にいよう!」

 そう言うと、何もないはずの空中をまるでそこに地面があるかのように踏みしめ、もう一度馬鹿げた跳躍を見せた。

 もう一度言うが彼に魔法の才能は皆無である。魔法のプロフェッショナルである彼の師のお墨付きなのだから。尊が息を吸うように行ったのは武技ぶぎと呼ばれる代物である。その中でも、難関である空歩くうほを使えるのは、現代では片手で収まるくらいしかいないだろう。


 武技は、武術を極めると無意識に、自身の内に流れる魔力を感知できる。気とも呼ばれる。これを操り、ワンランク上の動きをする事ができる。通常何十年も修行して、気を感じ、さらに練って、ようやく取っ掛かりを掴む物なのだ。いわゆる達人と呼ばれる人たちの御業なのだが・・・・・見ての通り尊は武技の天才である。

 

 そうこうしている間に、尊は一つの事に思い至る。空ってどこまであるのだろうか。というものだ。考えたら即行動する彼は、空歩を連発し、高度をどんどん上げていく。

「なんか・・・寒いし。やけに息が上がるな。」

 真っ白な息を吐きながら、徐々に体が重くなっていく尊は、ついに落下を初めてしまった。しつこいようだが、気圧だの酸素といった化学は、残念ながらこの世界では知る者がほとんどいない。


 「・・・ん~、あれ以上は行ってはいけない領域なのだろう。」


 海スレスレまで高度を落とし、水しぶきを浴びながら再び前進を開始する。分からないことは深く考えない主義の尊らしい結論だった。


「お!凄く遠くに陸が見えてきたぞ!」

 早くも尊の肉眼はは目的の大陸を捉えた。恐ろしい速度であるが、それを指摘できる者はこの場にいない。


 順調に見えた空の旅だが、突然尊の全身に何かが纏わりつくような違和感を感じる。

 「なんだ!?」

 するとさっきまでの圧倒的な加速を見せていた尊の跳躍が、急に失われ、海へと落下してしまった。


 

 慌てて海面へと顔を出すと塩辛い水が口に入り顔を歪める。

 

 「これは・・・解除モードの時間切れか。師匠も厄介な物つけてくれたもんだ。」

 とは言っても文句を言いたい師匠は海のかなたなので(折角だし、泳ぐか!)という大胆な発想で大陸を目指す。時々魚が食べたいという師匠の気まぐれつき合わされ海に入った事が多々あったので、泳ぎに関しては人並み以上の能力があった。


 身体能力が抑え込まれているにも関わらず20㎞はあるであろう距離を前に何の焦りも無いのだから恐ろしい。


 やはり凄まじい速度で海面を進むのは予想道りといった感じだが、その尊のもっと下、海中に何か大きな魚影を発見する。勿論好奇心を抑えるタイプではない尊の事なので、これまた魚雷のような速度で魚影に近づく。

 向こうも尊の接近に気付いたが、時すでに遅し、右手で手刀を作り、モリで魚をつくように構えると

 「きゃーーー!!」

 と声をあげた。


 これには流石の尊も驚き、思わずひるんでしまった。なんと息の根を止めようと思った相手は、怪人族の女性だったのだ。俗に言う人魚だったのだ。


 「ごぼぉ!」

 本人は(ごめん)と言っているつもりなのだが、ここは水中だ。人魚が念話で会話をする事など知らない尊は、どうにか謝罪の言葉を伝えようと、和の国式に合唱して謝意を伝えた。

 

 なんとか敵意がない事が分かったらしく、人魚が怯えた表情から警戒した表情に変わった。まじまじと見てみると、下半身が魚の尾ひれのようになっていて、髪の毛は鮮やかな金髪で、凄く整った顔だ。

(しかし、胸が大きいのは泳ぎにくくないのか?)などと台無しな事を考える尊だった。


 「なんですか!ジロジロ見て!」

 

 怒られてしまった。まぁ確かに失礼だったな。と素直に手のひらを合わせ、再び謝意を表す。しかし、初めて人魚を見たのだから会話の一つでもしたいと考える尊。自然な願望だが、言葉を伝えるにはどうにか海面まで出なければならない。

 そこで、身振り手振りで表現していると、あまりの必死さに笑われてしまった。少し恥ずかしい気分になる尊。すると、人魚が尊を手を引き海面ではなく、海底へと引きずりこんでいった。


 暗い海の底へと進むと、一つの明かりが見えた。明りの正体は家だった。なんと人魚は海底に家を建てて暮らしていたのだ。あまりの驚きに、大量の息が漏れる。そろそろ息を止めるのもきつくなってきたな。と考えていると、人魚が家に魔法をかけた。

 するとドーム型の結界が現れ、結界内の水がなくなり、呼吸することができた。人魚は歩けないだろうと思い注目すると、魚だった部分が足に変わり、服装も陸上の人と似通ったものになった。


 「ぷはぁ~・・・さすがに苦しかったよ。」

 人魚って便利なんだな~。などと思いながら、自分の濡れた服が乾いている事に驚く。


 「ごめんなさい。流石に海面に出るのは怖かったの。ねぇ!それより貴方何者?なんであんなに早く泳げたの?陸の人間じゃないわよね!?」

 人魚の方も好奇心に負け尊に質問攻めをする。少し驚いたが、あまりに目を輝かせて迫ってくるものだから一呼吸おいて自己紹介を始める。

 

 「とりあえず落ち着こうよ。俺は、月夜 尊半分は人間だよ。」


 「あ、私ったらごめんなさい。私はイール・アクティア。見ての通り人魚族よ」

 

 そう言って笑顔を向けるイールを見た尊の反応はというと、(なんか急に普通になっちゃったな。)という、失礼な感想だった。


 「ところで半分は人間ってどういう事?」


 尊の言い回しに違和感を感じたイールが首を傾げながら質問をする。その仕草は、たいていの男なら骨抜きにしてしまう美しさだった。


 「ん~、俺って鬼と人間の子供なんだよね」


 「えぇ!?鬼って、東の方にいる戦闘民族の鬼!?全滅したって聞いたけど」

 

 かなり驚いた顔をするイールに対して、(次からは普通の人間って言った方がよさそうだな。)と学習した尊は、さっきから自分をとりまく敵意に似た気配が増えた事を気にしていた。


 「ところで、俺って歓迎されてないみたいだね。人魚と会話もできたし帰るよ。」


 そう言って、結界の外に出ようとすると5,6人の屈強な男に囲まれた。

 「止まれ、海賊!」

 「待って!彼はまだそうと決まった訳じゃ・・・」

 「黙れイール!貴様もそれ相応の罰を受けてもらう!」


 自分を囲んでそんなやり取りをしている人魚達を見ながら、嬉しそうな顔をする尊。

 (男の人魚もいるんだ!強いのかな?)

 などと内心ワクワクしていた。


 自分を囲んできた人魚の兵隊は5人、もう一人は他の5人より立場が上なのか、イールの前に立ち、こちらを警戒している。兵たちは3叉槍を持っている。今は鎧姿だが、普段は人魚姿なのだろう。


 (さて、殺し合いをするのも悪くないが・・・見た感じそこまで強そうでもないし、気絶させるか)


 そう思った瞬間水避けの結界が解除され、凄く不利な状況になってしまった。兵達は、下半身が魚で上半身は鎧という姿に変身していた。


 (これは・・・面倒くさい。)



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