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鬼神の子で魔王の弟子の旅物語  作者: よしくん
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プロローグ~旅立ちの日


 とある剣と魔法の世界、勇者が魔王を倒し、王都を凱旋していた頃、一人の子供が生まれた。同族には鬼神と呼ばれ、他種族には闘神と呼ばれた男と、人間の女性の間で生まれた子供。しかし、どちらもその子を育てる事は出来なかった。母は子を産んで死に、父は母を追って死んだ。名付けられる事も無く両親を亡くした不運の子。

 

 そんな彼を育てたのが、魔王ディザストロ。正確には元魔王であった。彼は勇者に斬られ、死んだと思われていたが、極東の国、和の国へと亡命していたのだった。隠居生活をしていたところ、鬼ヶ島と呼ばれる島で異常な気配を感じ取り、駆け付けてみれば、過去に友と呼んだ男と、女の亡骸、それに泣きつく赤ん坊がいたのだ。彼は思った。自分はこの子を育てる運命だと。しかし、父親が何か分からない彼は、和の国で知った師弟関係を結ぼう。彼が一人で生きていけるまで、自分が師となりこの子を鍛えよう。そう決心した。

 師となった魔王は子に名前をつけた。月夜つきよ みことと。









 時は流れ、尊も16になった。

 彼が今いるのは故郷である鬼ヶ島だ。といってもいるのは彼と師匠だけだ。元々いた鬼たちは王を失った事で内乱となり、ほとんどが死んだ。内乱を止めたのは5歳の尊だった。生き残った鬼は彼を恐れて鬼ヶ島を捨てどこかへ姿を消したのだった。

 そんな事もあり、鬼ヶ島には2人だけだ。鬼がいなくなり魔獣が増え、緑が消え、岩だらけの、かなり殺伐とした島になってしまっていた。


 そんな島で、どこか幼さを残した面持ちの子供が鼻歌交じりで歩いているのだから違和感を感じずにはいられない。その少年こそが尊である。赤黒い髪を背中で一つに編みこみ、柔らかい表情なのだが、どこか鋭い眼光を放つ瞳も髪の毛と同じ色をしている。

 太陽の日差しが照り付ける暑い昼下がり、上半身裸で引き締まった肉体と、全く日焼けしていない肌を露出させ、意気揚々と歩いてく。

 それを少し高い岩の上から眺めるのが彼の師である元魔王ディザストロである。今は御剣みつるぎと名乗っている。本来歳などとらない魔王だが、顔を変えている。彼曰く師匠といえば初老なんだそうだ。そんな師匠の見た目は、やはり初老の男である。白髪交じりの髪の毛に、髭。気怠そうに煙管をふかす見た目は、かなり胡散臭い。その実、いい加減なおっさんであった。


 「昼飯発見!」

 そう言った尊が見つけたのは、サイクロップスだった。見つかったサイクロップスは、身長4メートルといったところだ。単眼が特徴的な魔獣で、鬼ヶ島によく生息している。岩のこん棒を持ち、徘徊している。サイクロップスの方も尊に気づき、咆哮を一つあげ、棍棒を振り上げ尊めがけて走ってくる。

 「いやー、昼飯が向かってきてくれるんだから楽だよな~」

 そんな呑気な事を笑顔で言いながら棒立ちしている。

 サイクロップスはそんな隙だらけの尊に巨大な棍棒を振り下ろす。普通なら跡形もなく潰されてしまうような一撃だ。重苦しい衝突音が響き、尊のいた地面を陥没させた一撃が大地を揺らす。しかし、岩の棍棒は地面に到達していなかった。原因は、尊が棍棒を受け止めたからだ。笑顔を崩さず、片腕で棍棒を止めている。そして空いている腕で棍棒に掌底を打ち込み跳ね上げる。驚いたサイクロップスは重心を後ろにそらされ、のけぞっている。尊はそんな隙だらけのサイクロップスに猛禽類のような鋭い視線をおくる尊の瞳は、真っ赤に光っていた。地面を蹴り大きな単眼の目の前まで一瞬で距離を詰め、回し蹴りで首を跳ね飛ばしてしまった。

 普通サイクロップスというのは、腕に自信のあるAランク冒険者でも、見つけたらバレずに逃げろ、ばれたら死を覚悟しろ、と言われるくらい危険なモンスター・・・のはずである。


 狩りを終えた尊は、サイクロップスを引きずり師匠の元までやってきた。

 「師匠、昼飯!」

 御剣は血まみれで笑顔の尊を見下ろし、大きなため息と共に煙を吐き出す。

 最初は師匠、師匠とニコニコしながら俺の後を付いてきて、それはもう可愛かったのに、今じゃ立派な化け物だな。と自分が育てたことを棚上げして心の中で嘆く御剣。そんな師匠を他所に、魔物の解体を始める尊。


 「なー尊!お前随分強くなったよな」

 カンっと煙管の灰を捨てながら弟子に声をかける

 「ん~・・・師匠に勝てた事ないけどね」

 サイクロップスを食べやすいサイズに解体しながら、師匠の言葉を返す


 「お前、旅に出てみるか」

 「!!・・・遂に最終試験?」

 師匠の言葉に手を止め、つい嬉しそうな声をあげてしまった。


 「そうだな、だがこれも修行の一環だ!・・・ちゃ~んと課題があるからな」

 そう言って不敵な笑みを浮かべる師匠に、凄く嫌な予感を抱く尊。

 「お前は強い!旅なんて楽勝だ!だがそれじゃつまらん!だからこれを付けて行け!」

 御剣が何も無い空間から魔法陣の書かれた紙を取り出した。

 「・・・それ何?」

 恐る恐る尋ねる尊を見て、嬉しそうな顔をする師匠。おっさんのくせに子供が悪戯する時の表情とそっくりだ。と口に出さずに思ていると、リングの説明がきた。

 「これはなぁ、お前の力を抑え込むものだ」

 「抑え込む?」

 「そうだ、これを付けている間は、お前の馬鹿力はほとんど抑え込まれる。これを付けて旅をしろ。今よりもっと強くなる。」

 「本当!?」

 「当たり前だ!そんで世界を見て回れ。そーすりゃお前も一人前だ。」

 そう言うと尊を呼び、背中を向けさせた。その背中に魔法陣の書かれた紙を貼る。すると背中に魔法陣が写された。

 「いいか尊。その魔方陣は1日3回まで解除できる。背中に集中して解除と念じろ。本当にやばい時に使えよ?」

 「分かった!」

 師弟は海へと向かいながら話をした。これからの旅の面白さや大変さについて。そして旅立ちの時はやってきた。

「じゃあな尊、ボン・ヴォヤージュ!」

「ボン・・・なにそれ?」

「異世界からこの世界にやってきた奴に教わった言葉だ。良い旅をしろよ!って意味らしい」

「へぇ~・・・面白いね!」

「だろ?お前も会えるといいな!」

 豪快な笑顔を浮かべつつ船の準備をする師匠。ここは島だ。西には和の国、その奥にはシラジオ大陸がある。こんな船では和の国までが限界だろう。でも、まぁ尊も昔いた国だし、一人旅の最初にはいいだろ。そんなことを考えていると

 「ねー師匠!どこに向かうのがいいかな?」

 「そりゃーシラジオン大陸じゃねえか?」

 はるか遠く、西を指さしながら答える

 「他にする事は?」

 (こいつめ、ワクワクして浮足立ってやがるな?ここは師匠として釘を刺してやらないと。)

 「尊、旅が楽しみなのは分かるがな、俺の忠告は忘れるなよ?」

 黙々と船の準備をしながら尊に背を向けて忠告を続ける。

 「いいか?まず一緒に旅をする仲間を探せ。きっと楽しい旅になるぞ、それから仲間は大切にしろ。いいな?後な、能力の解放、あれは本当にやばい時だけ使えよ?お前の生命線だからな!」

 かっこつけて振り返りながら親指を立てる御剣。

 「分かったよ師匠!行ってくる」

 「おう!まずは俺の作った船を・・・・・」

 「解除」

 船と言いかけた瞬間、尊が能力解放を使った。

「えぇ!?」

 思わず間の抜けた声をあげ、目を見開く御剣をよそに、全力でシラジオン大陸がある方めがけて跳躍しようと力を溜め、一言。

 「師匠、ボン・ボヤージュ!」

 そう言い残し地面を吹き飛ばしながら消えていった。


 「・・・・・・尊・・・使い方間違ってるぞ。」

 呆然と立ち尽くす御剣がようやくひねり出した一言だった。


 こうして、鬼神の父と魔王の師を持つ男の旅が始まったのだった。

下手なりに頑張ります!感想などいただけたら泣いて喜びます。

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