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勇者の事情 旅に出る


 あれから剣も何とか扱えるようになったり、魔力コントロールも出来るようになったことから、騎士の人たちと魔物討伐したり、魔法の発動訓練に入ったりなどしていて早一ヶ月。

 人によっては遅いと言うかも知れないけど、ようやく旅立ちの時。

 俺以外のメンバーは、俺を召喚した魔導師のアイリス、この国の王子にして騎士として動いているヴィドル、教会所属の神官、リリアナの三人である。


「……」


 そして現在は、魔王討伐のための出発パレード中。

 というか、そもそも出発するだけだと言うのに、こんなに盛大に見送られないといけないのだろうか。

 もし魔王側に、自分の命を狙う勇者が現れたなんて知って、即潰しに来たらどうするんだ。

 これでもし、魔王を倒せなかったら恥ずかしくて仕方がないのだが。


「もしかして、緊張されてます?」

「半分は、かな。こんな盛大に送り出しておいてもらいながら、もし魔王は倒せませんでした、なんてことになったと思うとね……」


 どうにもプレッシャーというか、何と言うか。


「今からそれじゃあ、先が思いやられるな」

「……殿下」


 何もそんな言い方をしなくても、と言いたげに、アイリスが困ったような表情(かお)をするが、それまでずっと黙っていたリリアナが口を開く。


「魔王は勇者にしか倒せない。その先にある結果がどうであろうと、私たちがやるべきことは変わらない」

「……そう、ですね」


 アイリスの返事を聞きながら、リリアナの目が向けられたので、思わずどきりとする。


「勇者には勇者の、私たちには私たちにしか出来ないことがある。それを繰り返し、慣れていけば、きっと魔王だって倒すことが出来るはず」


 リリアナの言ったことには、きっとチームワークとかも含まれているんだろう。

 アイリス以外は数時間前に会ったばかりだというのに、彼女の言葉は信頼してくれているとも取れる。


「だから、今ぐらいは気を抜いておいた方がいい。ここを出たら、辛くなるだろうから」


 リリアナはそう言いながら俺から目を離すと、みんなに向けて、笑みを浮かべて手を振るのを再開する。


「……」

「……」

「……」


 俺は彼女に言われたことを考えるために、アイリスは不安そうに、ヴィドルは我関せずとも取れるような態度で、この場の空気は若干悪くなる。


 きっと、リリアナの言葉は正しい。

 今この時だけが、気を抜いていられる最後の機会なのかもしれない。

 だって、ここから先は――魔物だけでなく、魔族にも会い、戦うことになるだろうから。


   ☆★☆   


 パレードは終わり、本格的に旅は始まった。

 俺やアイリス、リリアナはともかく、王子であるヴィドルが庶民が使うものや生活に耐えられるのか疑問だったのだが、その文句も最初のうちだけ。

 高価な宿に泊まりたがるヴィドルに合わせていては、国から支給される資金もすぐに底をつくだろうし、節約も兼ねて一般の宿屋に泊まってみれば、実際「よくこんなところで生活できるな」的な言葉を発しなかったわけでもないのだが、まあそんなことを言うもんだから、次第にアイリスだけではなく、リリアナまでもが不機嫌さが分かるほどに、空気が変化していた。


「本当に、何であんなのが居るの?」

「あんなでも、召喚国の代表として向かわせないわけにはいきませんからね。たとえ性格に問題があろうと、行かせざるを得なかったんじゃないですか? 知りませんけど」


 じょ、女性陣の言葉にトゲが……!

 けれど、ヴィドル(本人)がいないからこそ、言えることというのもあるんだろう。それが陰口みたいになってることは否定しないけど。


「ホクト様は? どう思ってるんですか?」

「え? あー……」


 俺としては目を逸らすことしか出来ない。

 たとえ俺が何か言った時点で、チームの空気が悪くなるのは目に見えているし、ヴィドルからも女性陣からも仲間外れにされるのは嫌だし。


「俺は、」

「おい」


 俺が何か言おうとすれば、ノックも無しに部屋に入ってきたぞ、この王子様。

 別に俺たちに聞こえなかった訳じゃないんだが、一人でここまで来たのか?


「……殿下。せめて、ノックぐらいはしましょうか」

「お前たちに対しては、必要ないだろ?」

「……」 

「……」


 もし、こういう態度で信頼されていると思っているのなら、それは勘違いなんだけど……気づいていないんだろうなぁ。


「それで、ご用件は」

「用がないと来たら駄目なのか」


 さっきの話を実は聞かれていた? とか思わないわけでもないけど、どうしてもヴィドルが王子であると分かってしまっているからか、正面切って駄目だと言うことができない。


「いえ、そんなことは」


 なるべく穏便にと思いつつ、そう返したからか、ヴィドルはこの部屋にあった椅子に座り込んでしまった。

 そんな彼に、俺たちは顔を見合わせるしかないのだが、ヴィドルはヴィドルで動く気配はなく。

 この後、『多分、大部屋に一人で寂しかったんだな』と一応の判断を下すまで数十分の時間を要することとなり、さらには、ヴィドルを高価な宿に泊まらせなくてもよくなる……というか、そのような出来事が起こったのである。


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