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*異世界のパン屋さん*  作者: 河野 晶
第六話 家族
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閑話(書き下ろし)

 その朗報は夏の終わりにもたらされた。

 違法な人身売買組織の一斉検挙に、国を挙げて取り組むという。

「それ、ほんとう?」

 聞いた悠馬はパン屋のカウンターから身を乗り出して、アダルベルトに詰めよった。

「本当。良かったな。これでレンも落ち着けるだろう?」

 アダルの言葉にほうと息をつき、悠馬は安堵の笑みを浮かべた。

「うん。はやくレンにもおしえる。安心ができるよ」

 あ、でもと悠馬は続けた。

「とれい商人つかまえるのは、あぶないきけんがないか?」

「俺らだけじゃなくて特務部隊の連中が主に動くから。ま、危なくなったら逃げるよ」

 特務部隊タクムが何を指すのか分からない。

「タクム――。けいさつの中のとくべちゅな場所にいる人たち?」

「んー警察とはまた別なんだけど。警察より特権……特別な、優遇されてる、あー権利があるやつら?」

「けーさつより上の、お、お店の人?」

 組織の単語が分からない。

「んまあそう。お店っつうか、サセコ、かな? この場合は」

「書いておくね。言葉はほんとうにむずかしい」

 大事に使っていた自作の辞書やメモがごっそり無くなってしまい、また一から辞書を作り直しているところだ。

 あんな大事なものなんで無くすかな? と自分の間抜けぶりにため息が出る。

 ブルクの葬儀などでごたごたしていた時に、間違えて捨ててしまったのだろうか? なんにせよ、くり返し音読して覚えていたところだったから、やってしまった感が強い。

 悠馬がメモし終えるのを待って、アダルはひとつ伸びをして、パン屋の青年に顔を向けにっと笑った。

「レンだけじゃなくてユーマも安心できただろう? 今晩あたり飲みいくか?」

 誘われて悠馬は「飲みにならね」と言い含めるように答える。

 アダルは肩をすくめて。

「なんで嫌がんのか理解できねえわ」

「生まれた国では行かない店だから」

 アダルが飲みに誘ってくる場所はヒガナ通りのそういう店が多い。

 生まれも育ちも観念自体が日本人の悠馬には、気軽に足を運べるところではないし。

(行きたいとか思ったこともねえっつーの)

『んなとこ行くよりテイクアウトできるかどうかのほうが楽しいしな』

「ん? なんだって?」

「いや『合コン』って言って、女の人たくさんと飲んで、なかよくなれるかとかする、あそぶ酒飲み場の話」

「なにそれ?」

 聞かれ、日本の一般的な合コンについて説明すると。そういう店に平気で誘ってくるアダルが眉を寄せた。

「ユーマの国、ただれてんのな……」

「ただれ? って、なんで?! 風呂屋どうどうといくのがただれしてない?!」


 ユーマとアダルはしばらく倫理観りんりかんの違いについて熱く語り合い。買い物から帰宅したハンナとレンに冷たい目を向けられた。






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