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*異世界のパン屋さん*  作者: 河野 晶
第六話 家族
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 悠馬は大急ぎでアップルパイ用に竈の仕度をして、昼食を作り始める。

 あまり重いものはレンはまだ食べないほうがいいだろうと、食材を確認しながら頭を捻る。

「レンは食べれないのある?」

 首を振るレンに悠馬は頷いて、献立を決めた。

 食パンのプティングと野菜の蒸し焼き、それから豆のスープ。

 豆は野菜と一緒に蒸してから薄皮を取って裏ごしにしてから、牛乳を足してじっくり煮ていく。プティングとアップルパイは焼き加減がまったく違うので自宅用の竈にプティングを、アップルパイは店用の大きい竈で焼いた。

 手際よく調理する悠馬をレンは、手伝う間を逃したまま眺める。

 悠馬はスープの塩加減を見ながら、落ち着かない様子のレンに声を掛けた。

「ごはん食べたら、髪ちょっと切ろうか? こんがらがりとれそうにないでしょ?」

「え? えっと、はさみ貸して貰えたら自分で切るから」

「じゃあ、むずかしいとこは言う、おれもてつだうから」

「うん。あの、わ、私も手伝う! ご飯作れないけど、片付けはできるから!」

 勢い込んだ言い方に、悠馬は一瞬あっ気に取られ、それから笑った。

「はい。では片付けはレンよろしく」

 


 アダルやハンナたちと食事をすることもあるというのに、目の前で真剣な表情でプティングを食べるレンを見て悠馬は、誰かとこうして食事をするのは久しぶりだと、そう感じた。


***


 食器の後片付けをレンに任せた悠馬は、作業場に行き午後から焼くパンの準備を始めた。

 板金屋に無理を言って作ってもらった食パンの焼き型に生地を詰めていく。

 竈の様子を確認して、発酵がいらないパンを先に焼いてとしていたら、台所から知った声が聞こえハンナが来たのだろうと、悠馬は作業場から顔を出した。

 


 覗いた先には半ば予想通りレンを見て目を丸くしているハンナと、ハンナを見て戸惑った顔付きのレンが居た。

「いらっしゃいハンナ。アップルパイも少し待って、まだすごく熱い」

「っちょ、ユーマ。あっぷるぱいは嬉しいけど、この子誰? お手伝い雇ったの?」

「この子供はレン。きのう拾って、きょうもって帰ってきた」

「はあ?!」

 と、物凄い顔でハンナに聞き返され、悠馬は単語を間違えたかと顎に手を当てた。が、すぐには思いつかず「おれと同じ」と短く付け足し。

「レンおしえる。この女性はハンナ、ざっかの店の人」

「……こんにちは」

「……こんにちは。えっと、レン? 私はハンナよ。で、いまいちよく分からないのだけど?」

 悠馬に聞いても埒が明かないだろうと、ハンナは直接当事者のレンに尋ねた。

 レンはどう答えれば良いのか分からずに、助けを求めるように悠馬を見上げた。

 悠馬は腕を組んで一つ唸ってから。

「雨ふってて、レンがいて、いくところがないので、つれてきた。おれと同じ」

 なんとなくだが悠馬がレンを保護したらしい状況がわかり、ハンナは返答につまった。

「―― 色々、問題あるんじゃないの?」

 それだけを口にしてハンナは悠馬を見た。

「たぶんだいじょうぶ。こっち戸籍、えっと、住民かんりよわいから、字書くのはこまるけど、てつづきはやる」

「役所関係はどうにかなっても、問題あるでしょう。女の子よ?」

「うん、コヒにも言われた。男の子供でも同じ。ブルクはおれを拾ってくれた」

 どうしてこう反対されるのか? と、悠馬は少し憮然となる。

 状況は自分の時と似ている。ブルクも本当は誰かに反対されていたのだろうか?

「ブルクの時はハンナ今みたいなだめって、ようすじゃなかった。おれ、そんなたよりない?」

 こちらの世界に来てから、それなりに成長はしている。言葉や習慣に不自由さは感じなくなったわけではないけれど、レン一人くらい何とかできる気持ちはあるし、金銭面もどうにかなる。

 実年齢でももう二十歳だ。大人に守られるだけの子供ではない。そう思って悠馬は納得いかなそうなハンナを見る。

 ハンナは首を振り。

「頼りになるならないじゃなくて、えっと、レンあなた幾つになるの?」

「え?あ、十三――」

「そう。ねえ? レンはここにいたいの? ああ、居ることを責めてるんじゃないわ。あたなを保護したユーマの気持ちは、わからないでもないから」

「出て行ったほうがいいなら出てく」

 レンのその答えに焦ったのは悠馬だ。

「まった。どうして出て行くいかないの話になる? ハンナ、レンは来たばかりなんだ、レンが自分でかんがえる時間もまだない」

「だから、責めてないわ。年頃の女の子を男に任せて良いのかってこと」

 ハンナに睨まれて、悠馬は脱力した。ため息交じりに日本語で、何の心配してんだと呟いてから。

「そういう子供好きは小麦一つぶもないっ」

 半眼になって言い返されて、ハンナは少したじろいだ。

「本気でそういう心配したわけじゃないけど――」ふうとハンナは息を吐き「レンが着てる服って、ブルクの奥さんの? そう、じゃあ夜にでも、私の子供の頃の服持って来るわ」

「ハンナ?」

「いいわよ。もう着れないし。それより竈大丈夫? 何も焼いてないの?」

 あっと悠馬は竈を振り返る。

 手袋をつけて鉄の扉を開けて焼き加減を確認していく。

 目線はパンから逸らさないまま悠馬は、レンとハンナに言う。

「レン、どうしたいのかすぐ決めなくていい。ハンナも、めいわくばかりでごめん、このことはだめでも聞けない」

「何言っても駄目って事ね。わかったわ、協力はする」

 ハンナはレンに目線を合わせて左の手の甲を向けた。

「改めてこんちはレン。また夜にくるけど、そのときはもう少しあなたの話聞かせてね?」

 レンは戸惑いながら手の甲を向け返し、顎を引いた。

 居ても良いのか、居ないほうが良いのか、レンは悩んだ。

 縮こまるレンにハンナは笑って。

「あれこれ言ってごめんね? ここは、そうね、安全だから。少し休みなさい」

 顔色悪いわよと、そっとレンの頭を撫でた。

「ねえユーマ、レンどこに寝かせればいいの?」

「あー。おれのへや。ブルクのへやふとんないから。しくものは引き出しに洗ったのあるから」

「わかった。じゃ、交換だけしておくわね?」

「ありがとう、たすかる」

 手が離せない悠馬は声だけで答えて「レンも何日かはむりしないで、明日の次の日はまたコヒのところ行くから」と言って午後から売る分のパンを焼いていった。


 

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