突然
「…へ?」
千咲は状況がよく飲み込めないでいた。
「私のことが…好き?」
「…はい」
志磨ははにかみながら続ける。
「最初は、隣人としての好意でした でも なんだかんだで一緒にいるうちに惹かれていって…美香と別れたのもこのためなんです 僕は、千咲さんを好きになってしまったから… もめましたけど、結局は了解してくれました」
肌寒い風がびゅうっと吹く。
千咲の頬に一筋の涙が伝った。
「ち、千咲さん!?嫌でしたか!?」
「…っち、違います…その…」
「嬉しく…て」
千咲が志磨に抱いていた感情。それは、恋心だったのだ。
(なんで今まで気づかなかったんだろう?)
気づいてしまえば簡単だった。千咲は志磨のことを好きだったのだ。それもわからなかった自分が少し腹立たしかった。
「私も、志磨さんのことが…好きです」
吹く風は勢いを増して砂埃を起こす。だが、二人ともそんなことは気にしなかった。
志磨はそれまでのはにかんだ表情から満面の笑顔になる。
「よかった!じゃあ、付き合うってことですね?」
「よ、よろしくお願いします…」
急に恥ずかしくなってきた千咲に、志磨が言葉をかける。
「付き合って早々なんですが、ひとつお願いを聞いてもらえませんか?」
「…はい、なんでしょう?」
千咲がそう答えると、志磨は今まで3mほどあった二人の距離を一気に縮めた。
そして、
千咲の首に手をかけ、ぎりぎりと締め出した。
(…!?)
咄嗟に志磨の手を掴むが、叶うはずもない。
「志磨、さ…何を…」
「お願いを聞いてください、って言ったでしょ?」
志磨は満面の笑みでこう答える。
「僕、いや僕たちのために死んでください、千咲さん」
風はぴたりと止み、代わりに強い雨が降りだした。