突然の訪問、そして
ぴんぽーん
『もしもし、千咲さん いますか?』
「ひゃ、ひょゆわあああ!?」
突然の出来事に、千咲はすっとんきょうな声をあげてしまう。義院のことを考えていたら本人が来たのだから、驚きも仕方ないといえば仕方ない。結果、たたんでいた服におもいきりダイブする形になり、千咲は一瞬で洋服の国のお姫様となった。
『千咲さん!?どうしましたか、何がおこったんですか!?』
「あ、いえ、大丈夫です…」
服を払いのけつつ、今開けますねといって玄関に向かう。そこに立っていたのは、Tシャツにジーンズというラフな格好の義院だった。ワックスで短い毛先を遊ばせている。義院の顔はもともと悪くない方なのだが、今日は何故かいつもよりかっこよく見えるなあ、などと千咲は思う。
「あ、義院さん。来てくれたのは嬉しいんですけど、その、今部屋が散らかってて…」
千咲の部屋は玄関から入ってすぐなので、玄関から部屋の様子が見えてしまう。ダイブ後の服の山を義院のいる場所からは見えないように体で必死に隠しつつ、千咲はそう言った。
「というより、美香さんがいるのにこうもしょっちゅうきたら、怒られるんじゃないですか?美香さんが彼女なんですから」
彼女。自分で発した言葉なのに、それは槍となって千咲の心をちくりと刺す。泣き出したい衝動に駆られた千咲だったが、その衝動は義院の一言によって止められた。
「…あぁ。美香とは、昨日別れたんです」
「へ?」
千咲の口から間抜けな声が漏れる。
次に出てきたのは「聞いてはいけないことを聞いてしまった」という感情だった。
「あ、すいません、無神経なこと聞いちゃって…」
「いいんですよ、気にしてないですから」
そう言って笑う義院は、本当に何も気にしていないようだった。
「そんなことより、今日は千咲さんにお願いがあって来たんです」
「お願い?」
「はい」
「なんでしょう?」
「あの…僕と二人で旅行にいってもらえませんか?」
義院は、あの日と同じ照れくさそうな顔でそう言い放った。