最終話
「志、志磨さん…」
二人の前に立っていたのは志磨だった。
「だめじゃないですか、僕の彼女がこんなところにいたら さあ、こっちに来てください、ね?千咲さん」
彼は、狂気の笑顔でそう千咲にいった。
「い、いや…」
「なぜですか?こっちにきてくれれば、あなたのお母さんにしたのと同じようにあなたを殺してあげますよ お母さんに会えるんです、嬉しいでしょう?」
さらりと母を殺したといった彼は笑顔のままだ。
「志磨さん… 今までのは全部嘘だったんですか・優しくしてくれたこととか、告白してくれたこととか…」
「嘘だよ」
冷徹に告げられる。
「千咲さんの警戒心を解くには十分だっただろう?僕が親父の敵を好きになるなんてことあるわけないじゃないか 千咲さんは僕にとって…」
「殺すべき人なんだから」
あの日途中で言い留まった言葉。その言葉を聞いたとき、千咲は理解してしまった。彼が首を絞めているときにいっていたことを。
『やっと復讐できた… 千咲は僕が殺さないといけないから…』と。
「……信じていたのに…」
泣き崩れながら千咲がそう言った、その時だった。
美香が後ろから千咲の両腕を拘束したのだ。
「美香さん…!?何を…」
「悪いな、千咲ちゃんに恨みはないんやけどな。うちやっぱ、志磨のことが好きやねん。たとえそれがいけないことでも志磨のためならできる。ここに連れてきたのも、絶対誰にも見つからんようにするためねん。まーつまり、全部芝居やったってことや」
美香の告白に、血の気がさーっとひいていく。
「もちろん、今まで話したことは全部本当やからな?そこは嘘ついてない。でも、どうせ殺すんやったら、助かったと思わせてから絶望させる方がおいしいやろ?」
その声は、まるで人を殺すことを楽しんでいるようだった。
「ありがとう、美香 やっぱり君のことが好きだよ」
彼はそういうと、ゆっくりと千咲の方に近づいてくる。
「こないで…!」
拘束を解こうと抵抗するが、美香の力は強く逃げられない。
千咲の細い首に彼の手がかけられ…絞められる。
「おやすみ、永遠に 僕は、千咲さんのことがずっと大嫌いだったよ」
その言葉を最後に聞いて、千咲は意識を手放した。
「よいせっと」
彼と美香は二人がかりで千咲であったものを軽トラに積み、ブルーシートをかける。
「鍵がなくなってたときは驚いたけど… まさか千咲さんが持ってたなんてね」
彼は手で鍵を弄びながら、冷たい目で「それ」を見やる。
「やっとのことでつかんだ俊也の家の合鍵、なくす訳にはいかないからね」
「流石志磨や、ようつかめたなあ」
「優子を殺しにいったときに、冷蔵庫の中に隠してあったのを見つけたんだ よく千咲さんに見つからなかったな…」
「あの子料理とかできなさそうだし、冷蔵庫なんか見んかったんとちゃう?」
「はは、そうかもね あ、あとで親父に終わったって連絡しなくちゃ」
二人は軽トラに乗り込んで、その場を後にした。
…その様子を影から見ていた男が一人。
「…千咲……」
ほわほわの赤みがかった髪。そこにいたのは俊也だった。
「すまない、守ってやれなくて… 軽トラに乗り込むのを見て尾行してきたのに…山にさえもっと早く登ることができたら…!助けられたかもしれないのに…」
俊也は涙を流し、その場に崩れおちる。
「でも、父さんきっと、優子と千咲の敵をとってみせるから…待っててくれよ、二人とも 頑張るからな」
すぐに立ちあがり、俊也はその場を後にした。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。ここまで来れたのは皆さんのおかげです。
このあとどうなるかは皆さんのご想像にお任せします。
次回作も近いうちに書きたいと思っていますので、そのときはどうかよろしくお願いします。